菜花黄名子を曇らせたい!   作:わらしべいべー

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【前回のあらすじ!】
・???「チカラガホシイカ…」
・オルカ「化身は◯ックで拾った」
・ざんねん!やじゅうに さっかーは つうようしないぞ!




さる

 

 

 

 

「おーにさんこっちよーだ!」

 

『ジャアッ』

 

 マスタードラゴンの放つ魔法が巨大な爆風と光を生む。それをフェイは軽やかに躱しながらケラケラと笑う。ふと、フェイは周りの風が強くなっていることに気づいた。

 ビルの屋上の外、そこから先を遮るようにまるで嵐の如き暴風が辺りを包んでいる。それはエルドラドの本部を丸ごと飲み込むほどに大きく、瓦礫を伴って旋回している。災害に等しいそれを生み出しているのは目の前にいる神秘そのものな存在。

 

「退路をなくしたんだね。よっぽど儂とお話がしたいらしい」

 

『あなたの逃げ足が速いのはよく知っていますので』

 

「それは雷門の皆んなが二兎を追うのがいけないんだよ。最初からワタシ1人だけを追ってれば痛い目見ずに済んでるのにサ」

 

『ならば私が貴方を逃す道理はありませんね』

 

「違いないや」

 

 魔法陣から放たれる無数の魔法、そして強烈なブレス。みるみるうちに綺麗に整備されていたエルドラド本部の屋上は荒れ果てていく。まるで今のマスタードラゴンの怒りを表現しているようだった。

 龍の怒りは止まらない。その怒りの原点はただ一つだった。

 

『フェイ・ルーン。何故黄名子を裏切ったのですか。彼女は貴方を愛しているのですよ』

 

「やけに黄名子ちゃんに肩入れするね。もしかしてファンになっちゃった?わかるわーその気持ち。マジエンジェルだよね黄名子ちゃん」

 

『あの試合の時、貴女を想っていない時など一時も無かった!』

 

「もしやマスドラさんも黄名子ちゃんの曇りに曇った御尊顔に惹かれちゃったタイプかにゃ?良い。良いよね、あの普段とのギャップが我の心を狂わせる!」

 

『貴方は理解しているはずです!彼女からの愛を!』

 

「でもごめんね。ワタクシ同担拒否タイプなんだ。ほらいるじゃん、映画とかは絶対1人で見に行くタイプの人。それそれ」

 

『……話になりませんね』

 

「でもマスドラさんと黄名子ちゃんの魅力を語り合えて嬉しいよ!俺感激!」

 

 さらに激しさを増す光の爆撃。光で前が見えなくなるほどの無数の魔力の弾、その全てをフェイは空中を蹴って躱す。

 間隙を縫うようにホーミング弾も混ざってきた。どこまでも追ってくる光の球。しかしそれもフェイは空に上がって全て蹴り落としてしまう。

 

(これも凌ぎますか…!)

 

「はいどっどーん!!」

 

『!?』

 

 途端、使われるフェイの念動力。マスタードラゴンは床に押し潰される。指一本すら動かすことができない。

 

「はいはい、終了。この状況でサッカーとあまり関係ないことしたく無いんだよね。大人しくしててね、すぐ終わるから」

 

 そう言ってフェイは悠々と近づいてくる。おそらく再び洗脳を施す気だろう。今度は逆らう気力さえなくなるような強烈なものを。

 

『…グッ』

 

「いくよー、マジカルマジカル〜………ん?」

 

『…舐めないでくださいッ』

 

「うわっ!?」

 

 瞬間、マスタードラゴンを中心として溢れ出す透き通った水。津波のようなそれは一瞬でフェイごと屋上を飲み込んでしまう。

 

「ゴボゴボ…」

 

 水は重力に準じて落下することはせず、不思議なことに水は世界の法則に反して浮き上がり、巨大な鉛球の水塊になったのだ。

 フェイはそんな水の中で五体でまま放り出される。目線の先では悠々とマスタードラゴンが身を翻しながら泳いでいる。しかしその目には当然満点の攻撃意志が宿っている。

 

『バァッ』

 

「!!」

 

 放たれる水圧のブレス。まとめにそれを受けたフェイは水の外まで吹き飛ばされてしまう。そして当然背後には触れればただでは済まない嵐がある。さらには正面からはマスタードラゴンの追撃水圧ブレスが迫っている。

 

(うわぁ、完全に詰ませにきてるじゃん。賢獣怖)

 

 直撃する寸前に、フェイはテレポートでその場から姿を消す。しかしマスタードラゴンは冷静だ。瞬時にフェイの居場所を特定して狙いを定める。狙いは、上だ。

 

「!」

 

 不意打ちに近いタイミングで放たれた攻撃を足から展開したバリアで防ぐ。まさか移動した直後に攻撃されるとは思わなかったのか、少し驚いている様子だ。

 

(…あー、この水か)

 

 マスタードラゴンが生み出したこの水は、彼女が住まう聖なる湖と同じ彼女の魔力から作られたもの。彼女の体の一部と言っても良い。故にこの水で起きた異変は全て察知できる。マスタードラゴンはフェイが湖に降り立った気配を察知して即座に攻撃ができたのだ。

 

『…防ぎますか。やはり強い。不意打ちとはいえ一度は洗脳された身、手加減をしたつもりはなかったのですが…』

 

「ねぇもうやめなーい?俺ちゃんサッカーしたいんだけどー」

 

『しかし貴方を倒す策はすでに完成しています』

 

「シカトかコラ」

 

 突如周囲にある水が全て一点に圧縮され、手のひらサイズほどにまで縮んだ。本来必要な体積を無視した圧縮は水を透き通るような藍の透明から、輝く白へと変化させる。

 それが凄まじい威力を誇る爆弾であることはすぐに察しがついた。

 

「やべっ!」

 

『もう遅いですよ』

 

 爆ぜる水圧弾。人体が一瞬で肉塊に変えるほどの威力。当然そんな代物をまともに受けるわけにはいかない。

 

「こんのっ、おりゃあ!!」

 

 フェイは爆発寸前に念動力で爆発を抑え込み全力で真上に蹴り上げた。エネルギーの奔流と共に水圧弾は嵐の中へと消えていく。

 あんなものが爆発すればこのビルもタダでは済まない。それは困る。仕込んだタネが全て台無しになってしまう。なんとか窮地を凌ぐことができ、安堵のため息を漏らす。

 

 が、その瞬間に気がついた。自身の背後にもう一つその水圧爆弾があることに。

 

『言ったでしょう。既に貴方を倒す策は完成していると』

 

 その言葉と同時に辺り一面が真っ白な光に包まれた。

 

 

 

 

 

 ーーー

 ーー

 ー

 

 

 

 

 爆ぜた際に散った水蒸気が辺りを占めていた。嵐は止み、魔力の光で水蒸気は煌びやかな光を発している。何も知らぬ人がその光景を見れば幻想的と言葉をこぼすことだろう。

 

「きれーだね。こんな力あるならオーラ借りた黄名子ちゃんがキラキライリュージョン打てるのも納得だわ」

 

『……』

 

 ──爆発の寸前、フェイは化身を出して空間を叩き割り、爆発を次元の狭間へと飛ばしてしまっていた。ビルもフェイも何事もなかったかのようにそこにある。

 当のマスタードラゴンは化身によって全身を押さえ込まれてしまっていた。

 

「うーん、やっばりもう一個くらい黄名子ちゃんとのデートイベ挟んでおくべきだったか…?イナイレの伝統行事だし…、いやでも主人公を差し置いてそんな真似はリスペクトに欠けるか…」

 

『…貴方は』

 

「ん?」

 

『貴方はどうしてこのようなことをするのですか。こんな、誰も幸せになれないことを…』

 

「私が幸せだから、オッケーです!」

 

『……貴方の心には不思議なほどに闇が無かった。心を覆う暗雲が無かった。しかし代わりにあったのはあまりにも歪に歪んだ心…。菜花黄名子という存在一色に染まり、取り返しがつかないほどに歪んだ心の造形。邪悪、と言うよりかは純粋。赤子のそれに近い』

 

「おいおい赤ちゃん呼ばわりかよ!傷つくぜ!」

 

『…貴方は異常です。自分の母とも言える存在にいっそ押し潰すほどの愛を持っている。そしてその愛をもって黄名子たちの全てを壊そうとしている』

 

 明らかな矛盾。愛しているのに、大事に思っているのに、傷つけ壊そうとする。その心がマスタードラゴンには理解ができなかった。

 

『教えてください。なぜ貴方はそこまで黄名子に執着するのですか?そのような狂気に身を落としてしまった理由は一体』

 

「えー?推しを愛することに理由なんているー?それを聞くなんて無粋にも程があるよー!」

 

『…理由などないと?』

 

「じゃ逆に聞くけどさ、例えば黄名子ちゃんに私様に関わるのやめろって言ったとして、素直に言うこと聞くと思う?」

 

『………』

 

「家族っていうのはお互いを愛し合って初めて成立するんだよ。黄名子ちゃんが僕のことを愛してて、俺も黄名子ちゃんを愛してる。これほどに家族として健全な関係はないと思うけどなぁ!」

 

『歪んで、いますね…!』

 

「歪んでいようが想い合ってるなら、愛だ」

 

 そう言ってフェイは被っていたマスクをとった。にっこり笑顔を浮かべているフェイが現れる。不気味なほどに優しげなそれは、黄名子の息子としてのフェイ・ルーンとは似て非なるものだった。言い表しようの無い不気味さをマスタードラゴンは感じる。

 

 物語から生まれた存在とはいえ、マスタードラゴンもまた長い歴史を生きた存在。多様な人間を見てきた。しかしそれでも目の前の存在は異質の一言に尽きる。ここまで歪んだ心の持ち主は見たことがない。

 

『…貴方に、一体何があったというのですか。フェイ・ルーン』

 

「何もなかったからここにいるんだよー。…あ、話終わり?じゃあちゃちゃっとやっちゃいますねー」

 

 そう言い捨てフェイはマスタードラゴンを洗脳しようと近づく。が、その瞬間フェイは口元を手で押さえ咳き込み始めた。

 

「ゴホッゴホッ!」

 

 ドロリと溢れる液体。目に映るそれはひどく赤黒い。

 

『フェイ・ルーン貴方まさか…!!』

 

「はいはーい!お話は終わってるよー!じゃあ動かないでね。あ、大丈夫だよ、全部終わるまで大人しくしてもらうだけだから★」

 

 ぐわりとマスタードラゴンの視界が歪む。洗脳が行われる際に起こる独特の眩暈。

 

 …この勝負に勝機が無いことなど最初から理解していた。故にマスタードラゴンの狙いは、フェイにここまで近づいてもらうこと。自身に洗脳を施すその瞬間に、決定的な隙がある。

 

 バチッ

 

「あ?」

 

『グオォ…!』

 

 残った魔力と体力を全て使い、渾身の力を振り絞る。

 フェイを中心に赤い稲妻が発生する。フェイは異質な感覚を感じる。まるで自分の中身にあるものを引き剥がされるような感覚。

 ついに何かがフェイの中から弾け飛ぶ。

 

「きゃあッ!?」

 

「……あーあ、マジかよ」

 

『…上手く、行ったようですね』

 

 フェイの背後に倒れ伏している存在。彼が手ずからに作り出したデュプリ、その第一子であるマントがそこにいた。

 

「父さん…!?」

 

『お行きなさい、貴女は自由です』

 

 動揺するマントを有無も言わさず魔力の泡の中に閉じ込める。内側から手で叩いて何かを叫んでいるが何も聞こえない。

 

「父さ──!」

 

 一瞬で地平線の彼方へと消えていくマント。それをフェイは黙って見送った。

 

「…魔力で儂から引き剥がした上で一時的な実体を与えた…って感じかな。君も大概だね」

 

『………彼女は、意思を持っていた。貴方の傀儡でありながら、明確な意思と自我を…』

 

「最初からこれが狙いでここに来たってことね。うーん、してやられた!って感じだ」

 

『……最早彼女は貴方の傀儡ではありません。完全に貴方の制御下から離れた彼女は最早自由の身。本当ならば全員を引き剥がすつもりでしたのですが……流石に侮りが過ぎましたか…』

 

 彼らデュプリも曲がりなりにも親から生まれた子。

 自分の立場に思い悩み彼らをずっと見てきた身として一度完全に解放してあげたかった。それがどのような形に転ぼうとも、彼らの可能性に賭けたかったのだ。

 

『…彼女は必ず貴方に牙を向けます。その凶行を止めるために立ちはだかります。その時が、自分の罪を見つめ直す時です』

 

「ふーん。そう」

 

(全方位から憎悪の矢印向けられるのもラスボスっぽくて良いな。案外これはテコ入れする手間が省けたかも!)

 

 制御下から離れたと言うのは懸念点だが、飛ばされたところと雷門の拠点は大分離れている。唐突なネタバラシという展開にはならないだろう。

 

(ま、なるようになるよね)

 

 そんな能天気なことを考えながら、マスタードラゴンを処理するためにフェイは再び歩みを進めた。

 

 

 

 

 

 

 

 ●●●

 

 

 

 

 

 

 

 エルドラドの本部前。日を跨いだその日の朝に天馬たちは既にフェーダによって制圧されたその場所に来ていた。今度こそ全ての決着をつけるために。

 相も変わらず空は暗雲に包まれている。不気味なほどに重苦しい。

 

「な、なんか空の色昨日よりも濃くなってない…?」

 

「奴らの作戦が上手く進行してる証拠かもしれない。アルノ博士から渡されたマシンがあるとは言え安心はできない。十分警戒していこう」

 

 ここに来ているのは雷門の最強イレブンたちお監督役の鬼道と豪炎寺、そしてトウドウ。ここにいないアルノ博士やサカマキはルートエージェントたちを元に戻すことができないかを探るため拠点で待機している。

 ここに来るまでの1日の間にやれることは全てやった。考えられることも全て対策してきた。それにあった作戦も考えてきた。あとは全力でフェーダを倒すのみだ。

 

「…作戦、上手くいくかな」

 

「やってくれるさ。アイツらなら」

 

 と、その時。正面にある階段上の扉が不自然に開く。中は不気味なほどに暗く、足を進めることを躊躇わせる。

 

「…入れってことか」

 

「行こう」

 

 中は真っ暗闇の一本道だった。玄関入り口から入れば広いホールがあるはずだったのだが、狭いただの一本道しかない。遠くを見ると小さな光が見える。おそらく出口だ。

 そこはスタジアムだった。眼前にはサッカーコートが広がっている。公式の試合で使うようなしっかりとした作りだ。周りもいれば席に座る観客たちもいる。見事に満席だ。

 

「…な、なんか異様に静かじゃないですか?こんなに人がいるのに…」

 

「…まさか彼らは」

 

 その時、真横から聞こえる人工芝を踏み締める音。

 

「やぁ、よく来たね。ライモンイレブン」

 

 恐ろしいほどによく響く声。そこにフェーダのリーダーSARUがいた。

 

「SARU…!」

 

「うん、約束通り来てくれたようで何よりだよ」

 

 皇帝SARU。フェーダのリーダーにして今回の時空異変の原因の大元。

 彼にはUSAGIとはまた違う不気味さがある。どちらも得体が知れないことには違いないが、SARUの場合は一言で言うなら壁。目の前に聳え立っている動かすことのできない何かがあるような、そんな圧力を感じる。

 

「今日の試合を見るために同志のみんなも足を運んでくれたよ。ふふ、負けられないねこれは」

 

「…攫った市民をどう使うのかと思えば、随分くだらんことに力を入れるのだな」

 

 そう言うトウドウの表情は険しい。彼なりにこの現状に思うところがあるのだろう。そんなトウドウをどうでも良さげに見て、SARUは言葉を続ける。

 

「僕の友人の提案だよ。決戦は観客がいないと盛り上がらないとか何とか。正直僕はイマイチ理解しかねるけど」

 

「…USAGIか」

 

「彼の考えることは時に僕の理解を超える。良い意味でも悪い意味でもね」

 

 言葉を切ると同時に響くフィンガースナップ。するとSARUの背後にユニフォームを着たフェーダの面々が現れた。ここまで培ってきた経験が、その誰もがこれまで出会った選手の誰よりも強大だということを理解する。

 

「ザ・ラグーン。フェーダが誇る最強のチームだよ」

 

「…!」

 

 感じられる圧倒的威圧感。これまで戦ってきたどんなチームよりも強大であることを否が応でも理解させられる。そうしてチーム全体を見て気付くある事実。

 

(…やっぱり、USAGIがいない)

 

 本気で彼らが自分達を潰す気ならば必ずUSAGIはチームにいるはずだ。ということはやはりニケの言っていた作戦は事実ということだろう。

 

「USAGIがいないのが気になるかい。あいにくだけど今日彼は来ないよ。今手が離せないらしいんだ」

 

「…ウチらはUSAGIに用があるやんね」

 

「ふふ、どうやら彼は随分と恨みを買ってるみたいだね。まぁ、君の息子を殺したなら当然か」

 

「ッ!」

 

「親の情ってやつかな。大方パラレルワールドを修正してフェイを生き返らせようとでもしているみたいだけど、はっきり言って無駄だよ」

 

「無駄かどうかは、やってみないとわからないやんね!」

 

「ふふ、まぁ楽しみにしてるよ。君たちの足掻きを」

 

 そう笑うSARUに天馬が痺れを切らして叫ぶ。

 

「お前らこそ、どうしてこんな人を傷を傷つける手段を選んだんだ!自分たちの存在を認めさせるにももっと他に方法があったはずだ!こんな他を排するやり方なんて間違ってる!」

 

「間違っているものか。武力で示さなければこの世界に僕らが殺されていた。特別な力を持つといえど僕らは子供だ。居場所を作るために最も単純な暴力に帰結するのは仕方ないことだろう?」

 

「それは…!でも、それでもこんなのはやりすぎだ!」

 

「仕方ないことだったんだよ。君たちが生まれる親を選べないように、たまたま石に躓いて転んでしまうように、この世界には仕方ないことばかりで溢れている」

 

「僕らは生まれつきのマイナスアドバンテージをこの手で戻しているだけ。そう、普通の暮らしっていう平穏をね」

 

「力を持った僕らが失った普通を取り戻すには、他を支配する。それは人として当然の権利であり、仕方のないことなんだよ」

 

「この…!屁理屈ばっかり言いやがって!」

 

「USAGIだってそうだよ」

 

「!」

 

「彼もまた旧人類から普通を奪われた存在。異常にならざるを得なかった人物と言えるかもね」

 

「…どういうことやんね」

 

「それを言う理由はないよ。少なくとも僕にはね。…ただ、そうだね。彼は両親のことをひどく恨んでいると言っていた」

 

「……それってどうして」

 

「おっと、僕が言えるのはここまでだよ。あとは本人に聞いてほしい。…まぁ、君たちが彼に会えることは絶対にないけれどね」

 

 USAGIに会うには目の前にいるSARUたちを倒して、引き摺り出すしかない。それにどの道SARUたちも倒さなければならない相手。何より彼らとの勝負に勝てばこちらが王手をかけたも当然。天馬たちは改めて覚悟を決める。

 

「SARU!お前たちを倒して、俺たちはサッカーを取り戻す!」

 

「ふふ、じゃあ覚悟すると良い。絶対に越えられない種の差ってやつを教えて…」

 

 その時、SARUの頭に声が響く。これはセカンドステージ・チルドレン独自のテレパシーだ。これが聞こえたと言うことは、何らかの非常事態が起きたと言うこと。

 

(SARU!多分アイツらの仲間がこの本部の屋上に向かってる!このままだとUSAGIのところに着いちまうぜ!)

 

(…やっぱり仕掛けてきたね)

 

(アイツらきっとニケの奴から作戦を聞いたんだ!このままだとマズいぜ!USAGIの邪魔をされたら…!)

 

(ふむ、そうだね…)

 

 

 

 

 

 ーーー

 

 

 

 

 

 

「天馬たち、大丈夫かな…」

 

「大丈夫さ、アイツらなら勝てる!」

 

 階段をかける三国たち。目指すはUSAGIのいるであろうエルドラド本部の屋上だ。

 彼らが考えた作戦は単純。二手に分かれて一方はSARUと試合を、一方はUSAGIを直接叩くというもの。試合で確実にリソースを割いた今だからこそ突ける隙。

 とは言ったものの、実際はUSAGIを殺したくてたまらないニケを御するためにお人よしな彼らが着いて行った結果この作戦ができただけである。

 

「…そんにしてもアイツらがあんなやべー事企んでたなんてな」

 

「話聞いた時は頭がどうにかなりそうでしたよ。ちょっと話が壮大すぎて…」

 

「だからこそ止めなければいけない。このままでは関係のない人たちまで巻き込まれることになる」

 

「そうだな。話を聞くに作業中はUSAGIは動けないみてぇだし、そこを一気に叩く!」

 

「ああ!フェイの分もぶん殴ってやる!」

 

「そのー…、奮起立ってるところ悪いですけど、今の僕たち追われる身ですからね」

 

 そう後ろを見る影山たちの後ろにはフェーダの組員が全速力でこちらを追っている姿が。そう、二手に分かれた作戦はあっさりと見破られ、現在目的地を目指しながら絶賛逃亡中なわけだ。

 前から出てくる敵はニケとアルファが蹴散らしているが、あちらのフィジカルは自分たちよりも圧倒的に上。追いつかれるのは時間の問題だろう。

 何とか状況を打破しようと思考を巡らせながら階段を駆け上る。すると、階段入り口が二手に分かれている通りに出た。

 

「しめた!ここからは二手に分かれよう!」

 

「待て!旧人類共!!」

 

「げっ!?」

 

 雷門を捕捉したフェーダは超能力も駆使して全力で駆け上がってくる。

 

「サイドワインダー!!」

 

 が、その瞬間倉間が必殺技で階段の天井を撃ち抜いた。破壊された天井は瓦礫となって階段の通りを塞いだ。しばらくは時間を稼げるだろう。

 

「はぁ、自分の必殺技をこんな形で使うことになるなんてな…」

 

「だがこれで時間は稼げる。この二つの階段はどちらも屋上に繋がっている。三国太一の言う通り二手に分かれるべきだ」

 

 そうして二手に分かれて各々で屋上を目指す雷門たち。アルファを中心としたチームとニケを中心としたチームに分かれ、各々で敵を突破しながら階段を駆ける。

 そんな中、三国はニケに問う。

 

「…なぁ。今だから聞くが、お前とフェイはどういう関係だったんだ?」

 

「……」

 

「フェイのことを大切に想っているのは見ていてわかった。だがそれは…フェーダたちを裏切る程に大きなものだったのか?」

 

 気になった。目の前の彼女とフェイとの関係性が。彼女から見たフェイが。

 そしてその思いの丈の理由を。

 

「…数日程度の付き合いの貴方たちには分からないわよ。私がどれだけフェイを大事に思っていたかなんて」

 

「…」

 

「私たちは家族同然だった…!身寄りもなく、頼れる大人なんて存在しない、信用できるのは自分の力と仲間だけ。………そのはずだったのにッ」

 

 ニケの顔が憎悪に歪む。滲み出た念動力で辺りの壁にヒビが入る。

 

「USAGIは、アイツらはあっさりとフェイを見捨てたッ!!作戦が漏れるから?裏切ったから?関係ないわよ!!裏切ったのは自分たちじゃない!!家族だって言ったくせにあっさり殺して!!」

 

「だから私は許さない。フェーダを。何よりUSAGIをッ…!」

 

「ニケ…」

 

 その時、上に見える階段の非常口扉が勢いよく開き、そこから人がゾロゾロと出てきた。フェーダの統率された服装とは違い、私服を着ており、その手首にはルートエージェントたちが付けられていたものと同様の機械がある。

 

「あれは…!」

 

「…多分、攫われた一般人だろう。やはりフェーダの兵士にされていたか」

 

「ひぇ〜っ!」

 

 この一般人たちも例の如くUSAGIの洗脳によって支配されており、命令で彼らの撃退に駆り出されたのだろう。

 全員が無表情でこちらに向かってくる様は、さながら規律性のあるゾンビだ。

 

「ま、不味いよ、一般人は攻撃しにくい…」

 

「くっ…!」

 

 狭い階段通路のここでは逃げ場もない。万事休すかと思われたその時、襲いかかってきた人たちは全員重力を逆らって浮き上がり、壁や天井に磔にされた。

 

「邪魔」

 

 そう一言呟いてそのまま階段を駆け上がっていく。その光景にフリーズしていた雷門たちだが離れるニケの後ろ姿を見て直ぐに気を取り直す。

 

「待ってニケー!!」

 

「うおぉ!追いつけねー!!」

 

 

 

 

 ー

 

 

 

 

(放置で良いよ)

 

(え、良いのか?このままじゃアイツら雑兵を蹴散らしてUSAGIのところに着いちまうぞ。妙なマシンも持ってるみたいだし…)

 

(彼ならそっちを選択するよ。敢えてここは誘い込もうじゃないか。その先で一気に囲む。下手に手札を浪費するよりよっぽど良い)

 

(…わかった、皆んなにはそう言っておく)

 

(頼むよ)

 

 直に試合が始まる。この試合はエルドラド中に中継されている。事前の告知も十分だ。ここで目の前の雷門を倒し、旧人類の敗北を決定づけさせ、そして確実な支配の基盤を作り上げる。

 そうなれば後はフェイが上手くやってくれるだけだ。自分たちセカンドステージ・チルドレンの地位は確固たるものとなる。

 

「…ああ、そうだ。…菜花黄名子」

 

「…何?」

 

「君はフェイの母親だったね。よく彼から君のことを聞いていた」

 

「!」

 

 昔フェイはSARUによく母親のことを話していた。基本的に気が触れた行動を繰り返す彼だが、彼女の話をするときだけはどこか遠い目をしていたのをよく覚えている。きっと亡き母親に向けているその愛情は本物だったのだろう。

 

「“いつか母さんに会う"……フェイが日頃から口癖みたいに言ってたことだった。愛されていたんだね。僕たちを裏切るほどに」

 

「フェイ…」

 

 そしてそれがひどく歪んでいるものだと言うことも、言葉に出されてないが、サリューには理解できた。

 愛情。それがフェイの本質だ。フェイはこの目の前の未来の母親をこの上なく愛しているのだろう。そう、壊したくなるほどに。

 愛ゆえに破壊を撒き散らす。まさに狂気と言って良い。

 

 だが狂っているのはフェイだけではない。SARUもメイアもギリスも、フェーダにいる全員が自分たちが生き残る社会を作るために自ら狂う道を選んだ。だからこそ、そのきっかけとなった親をフェーダたちは許さない。その感情が根底にあるのはSARUもまた同じ。

 

「まぁそんな彼が愛を騙る口すら無くなったのは皮肉という他ないね。残念だよ、彼は僕らの大切な家族だったのに」

 

 フェイは頭を吹き飛ばされて死んだ。もう喋ることなどできやしない。

 

「君がいなければ、こんなことにはならなかったのに」

 

「それは…ッ」

 

「違うなんて言わないよね?君が出しゃばってフェイを追いかけなかったらこんなことにはならなかった」

 

「……」

 

「フェイは君が殺したんだよ」

 

「お前ッ…!!」

 

「待って!!」

 

 我慢ならないと天馬たちが前に出ようとするが、他ならぬ黄名子によって止められる。

 

「…確かに、フェイはウチが来たせいで死んじゃったかもしれない。ウチがいなかったらこんなことにはならなかったかもしれない。これはウチが一生背負う罪」

 

 そんなことないと天馬は叫ぼうとするが、神童に制止される。黄名子の意図を汲み取ったのだろう。ここで彼女の心を爆発させる意図を。

 

「でも、だからこそ!」

 

「ウチはフェイを助けたい。あの子に、未来をあげたい!」

 

「チームメイトとして、あの子のお母さんとして!!」

 

「フェーダ!貴方たちを倒して、未来を掴み取る!!」

 

 そう宣言する黄名子の目は真っ直ぐで、希望に満ち溢れていて、本気でこの状況をどうにかしてフェイに未来を与えようと決意していて…、

 

「クッ、ククッ」

 

 …きっと笑いが止まらないとはこのことなのだろう。

 あまりに滑稽、あまりに哀れ。真実を知っている身からすれば、そう思わざるを得ない。彼は親を愛していると同時に、この上なく憎んでいることを知っているのだから。いやもしかすれば親として見ていすらいないのかもしれない。

 

「ああ、そうだね。なら決着をつけよう」

 

 しかしどれだけ滑稽でも、その真っ直ぐさ故に彼らは強い。それはこれまで彼らが行ってみせた試合で十分に証明されている。油断は禁物だ。

 

 そうだからこそ、潰した時の爽快感は素晴らしいものなのだろう。

 彼らという過去からの試練を乗り越えてこそ、自分たちの存在は改めてこの歴史に証明されるのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ●●●

 

 

 

 

 

 

 

 

 屋上につながる自動ドアが派手に吹っ飛んだ。無惨にひしゃげた鉄の塊が床に落ちる。

 ニケは一歩二歩と踏み出し、それを見つけると声を張り上げた。

 

「USAGI!!」

 

「──やっ、早いね到着。嬉しいぜ」

 

 兎頭を左右にぶらぶらと揺らしながらUSAGIはそこにいた。まるで薄く笑うかのような所作はニケの怒りを煽っていく。

 ふと空を見る。ビルの外からは暗雲にかかって見えなかったが、雲を突き抜けたこの場所からは極彩色の巨大な渦がよく見える。その規模はこのセントエルダに留まらず、空の向こうまで広がっている。そう、これは正しく、

 

「綺麗でしょ?この時空嵐。原色絵の具をぶちまけたキャンパスって感じでステキ!」

 

「…本当にあんな作戦をする気なのね。イカれてるわ」

 

「んーまぁ、イカれてないと世界征服なんてしないよ。生きるのに必死なんだってみんな」

 

 そう言ってUSAGIは手すりから飛び降りて、ニケの視線の直線上まで歩く。

 

「で、一応聞くけど何の用?」

 

「貴方を殺しに来た」

 

「キャーコワーイ!ストーカーに刺されちゃうわー!タスケテー」

 

「…貴方のことは前から信用してなかった。この手でぶち殺せると思うと清々するわ」

 

「ふっはははは!本気で我を殺せると思っておるのかね!?我気分はさながら魔王ぞ!」

 

「殺せるわよ」

 

「辛辣!酷いぜよ。…そんなにフェイくんを助けたいのー?」

 

「当たり前よ。フェイは私の家族、いえ世界そのものよ」

 

「…じゃあその世界様に拒絶されたらどうするつもりなのさ」

 

「理解させるまで私の側に打ち付ける。ええ、優しいフェイならきっと理解してくれるから」

 

「なんとも自己中心的だねぇ。ま、でもそれで良いと思うよ。考え自体はきっと天国のフェイくんも首を縦に振ることだろう。個人としては受け入れてはくれないだろうけどねー。だってフェイくんにはすでに心に決めた人がいたんだから!」

 

「……は?そんなこと聞いたことも…いえそもそもなんでそんなこと貴方が知って…」

 

「そりゃワタクシとフェイくんはズッ友だったからね!彼のことならなんでも知ってるよ!…君のことを内心どう思ってたとかね」

 

「…ッ」

 

 確かにUSAGIはフェイと一緒にいることが多かった気がする。まさか本当に仲が良かったのだろうか。だとすればこればかりは理解に苦しむと言わざるを得ない。

 

「…どうだって良いわ。私は貴方を殺す。例えその結果フェイに拒絶されたとしても私は彼を掴み続ける。だって力なら私の方が強いもの」

 

「うわ、手垢がつきまくって飽きが来るレベルの典型的なヤンデレじゃん。本当に拒絶されても知らないゾー…って、もう超拒絶されてるかぁ!あっははははははははははっ!!」

 

 USAGIが笑い出した瞬間に、ニケは憎悪満点でUSAGI目掛けて駆け出した。人智を超越したセカンドステージ・チルドレンの走力は並では測れない。一秒と経たない内にニケはUSAGIに肉薄する。

 しかし当然黙って見ているUSAGIではない。すかさず念動力でニケを押さえ込もうとする。

 

「おろ?」

 

 しかしなんの手応えもUSAGIは感じなかった。空振ったと言うよりかは、そもそも発動していないような感覚。

 ふとニケの手元を見るとそこには超能力を停止させるマシンが握られていた。

 

「死ね」

 

 ニケがUSAGIの頭をオーラガンで吹き飛ばしたのは、三国たちが屋上にたどり着いたのと同時に起きたことだった。

 

 

 

 

 

 

 






【今日の格言】
・理解させるまで私の側に打ち付ける。ええ、優しいフェイならきっと理解してくれるから

【フェイのコメント】
・ヤンデレは怖い。はっきりわかるんだよね。正直ワタクシ的にはああ言う系はNGかなー。付き合うみたいな話になるとしたらもうっとこう、母性が欲しいね。あとほっぺがもちもちだったら尚良い!え?黄名子ちゃんで良いじゃんって?ざけんなコラ、黄名子ちゃんにはなぁ、アスなんとかさんがいるんですよぉ!原作カプを無視してのうのうと関係を持つなど言語道断!!NTR滅ぶべし!!

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