菜花黄名子を曇らせたい!   作:わらしべいべー

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【前回のあらすじ!】
・議員「アルテミット・シイングSARU…だと?」
・よくわかる未来都市の闇!マントちゃんとザナ太郎!
・夜の雷門女子(?)トーク!




らんまる

 

 

 

 

 

「うっ…ぐ…」

 

 そろそろ陽が降りてくるであろう時間帯に、ベータは目を覚ました。

 まだ意識がはっきりしないまま全身の鈍い痛みに悶えながらも身を起こす。見知らぬ部屋だった。どこかの個室だろうか。

 情況を整理しようと考えを巡らせるが、前後の記憶がはっきりしない。

 

(……ああ、そうだ。私は確かオルカに…)

 

 USAGIに洗脳された友人に蹴られ殴られ、最後に膝蹴りを受けたところで記憶が途切れている。…確か独房に放り込んでおけなどと言われていたが、ここがそうなのだろうか。それにしては随分と古臭いデザインの部屋だ。ぱっと見碌にセキュリティも無い様子。

 

 …今なら出られるか?

 そう思い部屋を出ようと身体を動かそうとするが、動かない。痛みのせいでは無い。自分の手を見ると小刻みに震えていた。

 

(……部屋を出て、どうするの)

 

 外にはフェーダの奴らがいることだろう。捕えられた他のエージェントも、オルカも……多分USAGIだって。

 

(………怖い)

 

 その瞬間、目の前の扉が開く。ベータは驚いてベッドの上を後退する。その顔に怯えの色を滲ませながら空いた扉の向こうを凝視する。

 入って来たのはフェーダの人間ではなく、ミントグリーンの髪の少年だった。

 

「ああ、目が覚めたんだね」

 

「……えっ、フェーダじゃ、ない…?」

 

「何を勘違いしてるのか知らないけど、ここは雷門中学だよ。君は尾張で倒れたところを天馬たちに保護されたんだ」

 

「………」

 

 だんだん思い出して来た。

 何の要因か、捕虜にされる寸前に突然戦国時代の尾張に飛ばされたのだった。それからは追手を恐れて必死に森の中を駆けて、開けた道に出たと思った時に誰かに話しかけられて、それで気絶したのだ。まさかそれが雷門だったとは。

 

「まぁ、一先ず無事で良かったよ。丸一日寝ていたからね」

 

「貴方は…」

 

「フェイだよ。フェイ・ルーン。自分で封印しかけた相手くらいしっかり覚えていて欲しいな」

 

 フェイは携帯でベータが目を覚ましたことを待機組に伝えると、目の前の彼女に向き直る。ベッドの上で小さく座ったベータが目に入る。

 

 フェイの率直な感想を言うなら「意外」だった。

 正直、ここが雷門と理解した時点でそれなりに反抗なりをされると予想していたが当の本人は反抗どころか怯えている様子すら見せている。

 あの蹴鞠戦で見せていた凶暴な一面は何処へやら。今のベータはすっかり牙を抜かれた猫だった。

 

(…うーん、流石にオルカの洗脳が雑すぎたかな。よっぽど酷い目にあったらしい)

 

「……私を、これからどうするんですか?」

 

 彼女はそう弱々しく聞いてくる。きっと彼女の中では自分は捕虜か何かと思っているのだろう。

 

「別にどうもしないよ。雷門は君を保護した。ほとぼりが覚めるまで自由にいてくれれば良い。…まぁ、君が暴れなかったらの話だけどね」

 

「……」

 

「…それで、一体どうしてあんなところにいたんだ?ガンマと消えた後君に何があった?」

 

 白々しいにも程がある質問だが、立場上聞いておかなくてはならない。今のフェイは雷門イレブンの協力者なのだから。

 

「……どうして、それを貴方に言わなくちゃいけないんですか?」

 

 そう言ってベータは俯いて何も言わなくなった。よく見ると小さく震えている。あまり思い出したくない事のようだ。よほどオルカにされたことが堪えたらしい。

 一先ずは今後のためにもベータのメンタルケアが優先だろう。そう思い、なんとか慰めの行為をしようと思ったが…

 

(…あー、メンタルケアってどうやるんだろ)

 

 フェイにはその手の知識はさっぱりだった。まぁとりあえず何もしないのも気まずいので、反撃覚悟で静かに抱きしめて背中をさすってやることにした。

 

(懐かしいなぁ。病院で看護婦さんがよく親が来てくれないって泣いてた拙者にしてくれたもんだわー)

 

 また引っ掻く攻撃をされるかと思ったが、意外や意外。ベータは特に何も言わず動かず、それに身を委ねて来た。一先ずは成功ということで良いのだろうか。

 

 と、その時、突然部屋の外からどたどたと大人数の足音が聞こえてくる。ベータは驚いて肩を跳ね上がらせる。

 フェイは携帯を見ると、ため息を一つついて椅子から立ち上がる。

 

「ごめんね、少し席を外すよ。すぐ戻ってくるから」

 

「えっ…、うん…」

 

 そういってフェイは部屋を出る。外には雷門の面々が集まっていた。

 

「…取り敢えず怪我人がいるんだから廊下は静かに歩いて来て欲しいんだけど」

 

「す、すまん…、ベータが目を覚ましたと連絡があって急いでいて…」

 

「そんな慌てなくても大丈夫だよ。今の彼女は殆ど敵意はない。寧ろ弱ってすらいる様子だ」

 

「ほ、本当かよぉ…、あのおっかない女のことだ。そうやって騙して急に襲いかかってくるんじゃねぇの?」

 

「その為の僕だよ。ただ狩屋くんの心配も尤もだからね。責任を持って僕が見張っておくさ」

 

「…すまないな、任せきりの形になってしまって」

 

「良いよ、寧ろそのためにこうして雷門に残ったんだから」

 

「……なぁ、これからアイツどうするつもりだよ。このままずっと置いておくってのは、正直嫌だぜ俺」

 

 そう言ったのは雷門メンバーの倉間典人だ。彼だけではない。ここにいるメンバーの大半はベータたちのラフプレーで散々な目に遭い、その上監督まで奪われている。倉間の意見はもっともであった。

 

「…正直頃合いを見て未来に返したい…って言いたいところなんだけど、それだとまたエルドラドの手に戻ってしまう」

 

「そうなれば再び敵として襲いかかってくるかもしれない、か」

 

 雷門に置いたままも嫌だが、だからと言って敵軍に送り返すと言うのも憚られた。これといった良案も出ず、時間だけが過ぎる。

 

「…とりあえず僕はもう少しベータとコミュニケーションを取ってみるよ。彼女の意見も聞きたいしね」

 

「そうか、気をつけてな。何かあったらすぐに連絡してくれ」

 

「怖いけど、そうなったら助けに来るど!」

 

「わかった、ありがとう」

 

 そう言って雷門の面々はグラウンドへと戻って行った。

 

 

(…さて、何とかベータちゃんを雷門に馴染ませないとね。彼女には雷門の超戦力になってもらわないと。ここはワタクシのイナイレファンとしての腕の見せ所ですねぇ!わははは!)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ●●●

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 おーおー、雷門の方もだいぶ愉快な事になってるみたいで。

 しかしこっちはちょっと困ったことになっちゃってるんですよね!!

 

 オルレアン奪還の為の戦争。その開始直後に雷門の前にザナーク様御一行ご来店!!そこから流れるようにサッカーバトルとなり、そのまま試合開始のホイッスル!

 

 えー、開始3秒でザナーク様のシュートが雷門のゴールを奪いました。

 

 やべーよ…、ザナーク様マジパネェよ…。リトルギガントを彷彿とさせるイベント運びはやめちくりー。このままでは雷門相手で無双ゲームが展開されてしまう。…なんて思っていたんだけど思いの他雷門の喰いつきが凄くて、以前の親善試合みたいな大量得点みたいなことにはなってない。

 しかし既に2点差!そろそろ雷門も攻めないとヤベーいことになっちまうぜ!

 

 しかしオイラはまだ見守りますよ!なんたって雷門は戦いの中で成長できるチームだからね!負けるにしてもタダでは終わらんのだよ!

 それにザナーク様には例のアレを渡してますからね!あれで雷門たちのモチベーションを超アップだぜ!

 それにマントちゃんも初出陣してますからな。いざとなればあの子を使って何とかするさね。

 

 あ、でも黄名子ちゃんには過度なラフプレーは厳禁ですよ!!

 

 

 

 

 

 ー

 

 

 

 

 

「……つまらんな」

 

 息が絶え絶えになっている雷門の面々を見てザナークはそう言葉を溢す。

 試合が始まって十数分。態々あの妙なやつが名指しで暴れてこいなどと言うくらいなのだから、よほどの相手かと期待したのだが、これでは落胆どころの話ではない。

 

「グゥ…!」

 

「べ、ベータたちとは比べ物にならないほど強い…!」

 

「当然だ。なぜなら俺はザナーク・アバロニクだからな。寧ろお前たちが弱い、弱すぎる!はっきり言って期待外れだ!」

 

「好き勝手言いやがって…!絶対目にもの見せてやる…!」

 

 霧野のその言葉にザナークが反応する。

 

「ほう、ならその目にものを今見せてもらおうか!!」

 

 そう言うと同時にシュートをゴールめがけて放つ。試合開始早々に点を奪った時同様に恐ろしく鋭く速いシュートだ。信助が化身を発動させようとしたその時、黄名子がペナルティエリアの前に立つ。

 どこからか現れた巨大なきな粉餅をボールにぶち当てて、威力を減衰。餅と共に絡めとる彼女の代名詞的必殺技。

 

「モチモチ黄粉餅!」

 

 黄名子は見事にシュートをブロックしボールを確保する。

 

「ほいっと、ボールゲットやんね!」

 

「凄いよ黄名子!」

 

「でも何で餅なんだ…?」

 

 シュートを止められたのを見るとザナークは笑みを深める。

 

「ほう、少しはマシなやつがいるか。面白い!」

 

 ザナークは黄名子へと高速で迫り、無理くりボールを取ろうとする。パスを出す余裕もなく、黄名子はザナークと一対一で対峙する。

 ボールの競り合いが始まるかと思われたが、何とザナークはそのままシュートの体勢に入った。完全に虚を突かれた黄名子は慌ててシュートで打ち返す。

 

「きゃあっ」

 

「黄名子!」

 

 黄名子と共に弾かれたボールは信助がうまく弾き返し、ラインの外に出る。天馬は黄名子に駆け寄る。

 

「大丈夫黄名子!?」

 

「いたた…、うん、大丈夫やんね」

 

 ザナークはそんな彼らのやりとりを見ながらため息を落とす。

 骨のある奴がいるにはいるが、それでもやりごたえがないことに変わりはない。そんな時、ふとここに来るまでにマントに渡されたものを思い出す。

 

「ちょうど良い、試してみるか。──おい、雷門ども」

 

「…?」

 

「知っているぞ、お前たちは戦いの中で成長するそうだな。しかも急激に」

 

 自覚はあるかはともかく、事実だ。これまでの戦いもピンチの中で成長し続けることで彼らは勝利を収めてきた。戦いの中で無限に強くなれる可能性こそが、雷門のもっとも大きな強みだ。ザナークはそれに大きな興味を持っていた。

 しかし必ずしもそうなるとはザナークも思ってはいない。ならば無理矢理それを引き摺り出すまでだ。

 

「こいつを見ろ!」

 

「…!クロノストーン!?」

 

「確か、エンドウ…だったか。お前たちが探している者だろう」

 

「えっ、あれが円堂監督!?」

 

「返してほしくば勝つんだな。…前半も残り少ない、前半が終わるまでに俺がマシだと思うプレーをしなければ、俺はこの石ころを破壊する!!」

 

「!!!」

 

「なんだとっ!?」

 

 雷門全員に動揺が走る。あの石が壊されることは円堂守の死を意味することに他ならない。天馬は歯軋りをする。

 

「当然マシな基準を決めるのは俺だ。精々頑張ることだな」

 

 そう高らかに笑いを上げてポジションへ戻っていく。

 そしてコーナーキックから試合が再開。その瞬間、ザナークは変化に気づく。相手の動きにキレが現れ始めたのだ。特にあの化身使い3人は格段に良い。ザナークは歓喜に表情を染めて吠える。

 

「ようやくその気になったか!」

 

「俺たちはいつだってその気だ!!」

 

 化身を出した剣城とザナークがぶつかる。ザナークの豪快なパワーに押し切られそうになるが、剣城は咄嗟にボールを蹴り上げる。

 それを飛び上がった天馬がカットして、そのまま前へと上がっていく。当然ディフェンス陣たちが行手を阻む。

 

「神のタクト!──錦、1メートル右だ!」

 

「おうぜよ!」

 

「なにっ」

 

 天馬からのパスが綺麗にディフェンス陣をすり抜けて通る。

 はっきり言ってスペックでは相手の方が完全に上だ。化身ありきとは言え、真正面からの競り合いで勝つことは今の実力では厳しい。

 

「だがそれを踏まえた上でのプレイなら可能だ!──剣城、天馬前に出ろ!」

 

「「おう!!」」

 

「シュートの陣形…!させるか!!」

 

「なにっ!?」

 

 何と抜かされたはずのディフェンスが2人の前まで戻ってきた。とんでもないフィジカルだ。ボールを受け取った天馬と剣城を囲うように行手を阻む。

 

「今だ天馬、後ろにパスだ!」

 

「!」

 

 反射的に天馬は後方高くボールを蹴り上げる。どこに打っていると鼻で笑うが、そのボールの先には既に神童の指示で飛び上がっていた黄名子がいた。そこから黄名子はシュートを放つ。

 巨大な餅と共にボールを蹴り、そこから発せられる爆ぜるような膨大な熱の渦と共に放たれる必殺技。

 

「やきもちスクリュー!!」

 

 上空から放たれた必殺シュートはそのまま一直線にゴールに向かう。しかしその延長線上には攻め上がっていた錦が。これはシュートチェインだった。錦はすかさず化身を出す。

 

「戦国武神ムサシ!」

 

 シュートをそのまま2度上へと蹴り上げ、エネルギーを収束させる。そしてそのまま化身の斬撃と共に放つ錦の化身技。

 

「武神連斬!!」

 

 さらに威力の増したシュートはどうしたことかコースを大きく逸れた。だがその先には何と先程ディフェンスに止められていた剣城と天馬が。何と2度目のシュートチェインだ。

 

 2人は同時に回転しながら上空へと舞い上がり、2人同時にファイアトルネードを放つ。互いの息が完璧に同調していなければ成功しない豪炎寺修也直伝の必殺技。

 

「ファイアトルネードDD!!」

 

 3度の必殺技を束ね果てしない威力へとパワーアップしたシュート。

 しかし当然相手キーパーもタダでは通さない。

 大地から砂鉄を抽出し切断機のように高速回転。円状のカッターとなったそれをシュートに放つキーパー技。

 

「サンドカッター!!」

 

 数秒ほど二つの必殺技は拮抗する。が、シュートの熱に砂が溶かされ、そのまま炎と共にゴールを撃ち抜く。

 雷門はザナーク・ドメインから一点をもぎ取った。

 

「よぉし!!」

 

「やったやんねー!」

 

 

 

 ー

 

 

 

(…すごいな、神童たちは)

 

 プロトコル・オメガなどとは比べ物にならないほどの力を持つザナーク・ドメイン。そんな彼らから神童は仲間の力を束ねてゴールを奪った。

 

(それに比べて俺は…)

 

 なにもできなかった。

 攻めには参加できずポジションのディフェンダーとしての役割もほぼこなせず、自分はチームとして何の役にも立てていない。その事実が霧野を追い詰めていく。

 

 するとふと、城壁で戦っているジャンヌが目に入る。ジャンヌは辿々しくも必死にオルレアン解放のために剣を振い戦っている。その目は弱々しくもしっかりと前を向いていた。

 そんな彼女の姿に僅かに霧野は心を鼓舞される。

 

(…そうだ、まだ試合は終わってない。まだ下を向く時じゃないんだ)

 

 

 

 

 

 ー

 

 

 

 

「悪ぃ、ザナーク…。次は絶対止める」

 

「ふん、別に良い。それより面白くなってきやがったな。…どうやらお前の言ったことは間違いではなかったらしい」

 

 そう目をやる方にはマントがいた。様子見の為に控えにいた彼女。小さく薄ら笑いを浮かべながら雷門を見ている。

 

「最初から間違いなんて言ってないわよ。…でも、ふふ、こういうところが良いのよね。イナズマイレブンは」

 

「どうでも良いが次からはお前も出ろ。いい加減お前が役に立つか知りたいからな」

 

「はいはい、ザナーク様の仰せのままに」

 

「……お前にザナーク様と言われるのは妙に気分が悪いな」

 

「あら、ちゃんと敬いの心の表れなのに酷いわ」

 

 

 

 

 

 ー

 

 

 

 

 

 交代してマントがMFに入って来た。彼女は柔軟運動をして適当に体を伸ばしている。

 

「…?なんだ」

 

「どうかしたんですか神童センパイ」

 

「いや、あの交代で入って来た選手。他の奴らと雰囲気が違うと思ってな」

 

「…確かに肌の色が違いますね!」

 

「………いやそれもあるが、こう…雰囲気が違うというか。…正直言葉にしにくい。何というか得体が知れない。妙に底が見えないんだ」

 

「…うーん、確かに言われてみればって感じですけど、俺にはちょっとわかんないです」

 

「そうか…」

 

(念のために警戒しておこう)

 

 前半戦もあと僅か。ザナークたちのキックで試合が再開する。パスが渡されたザナークは一気に攻め上がる。

 

「させない!」

 

「邪魔だ!」

 

「ぐぁっ!」

 

 無理矢理ディフェンスに回った霧野を突破するザナーク。そのパワーはベータの比ではなく、他の面々も吹き飛ばされていく。

 そしてゴール前まで来たザナーク。しかしどうしたことか彼はシュートを打たず、後方にいたマントにパスを回した。

 

「打て」

 

「あらお膳立てどうも」

 

 シュートを打とうとするマントだが、目の前に黄名子が遮る。どうやら神童の言伝でマークしていたようだ。

 

「やらせないやんね!」

 

「ッ!………菜花黄名子…」

 

 黄名子はマントが睨んできたことに一瞬驚くが、すぐにマントの動きに合わせてボールを取りに来る。仕方ないので無理矢理突破しようと考えていると、彼女の目にオルレアンの凱旋で1人孤闘しているジャンヌを見つけた。

 

「………」

 

 マントはわざと前に出る。突然黄名子は警戒を強め、ブロックの体勢に入るが、その隙を突いて踵でボールを上に蹴り上げた。

 

「あっ!」

 

 そしてそのままマントは赤黒い針のような結晶体を散らしながら回転する。そして上空にあるボールを蹴り飛ばす。蹴った瞬間、ボールが赤黒い結晶に覆われ、それを撒き散らしながら蹴り飛ばす必殺技。

 

「ジェノサイドスクリュー」

 

 あまりにも禍々しく、同時に凄まじい威力のそのシュートに全員が警戒する。

 

「えっ?」

 

 しかしどうしたことか。そのシュートはゴールではなく、城壁の方へと飛んでいく。スフィア・デバイスによって作られた空間隔離をも破壊して、その狂気の弾丸は標的へと進んでいく。そしてその先には───

 

「ジャンヌ!!!!」

 

「───え」

 

 ジャンヌにシュートが向かった時点で霧野は走り出していた。前半終了のホイッスルも無視して、コートの外に出る。幸運にも空間隔離が破壊されたことであっさりと外には出られた。

 

 城壁が派手な音を立てて破壊される。一瞬足を止めそうになるが、それでも走り続ける。

 煙の中からジャンヌが放り出される。このままでは城壁の下に落下死してしまう。

 

 だがこのコートと城壁ではあまりに距離がある。人間1人の足ではとてもではないが追いつけない。

 

(クソッ、間に合わない!!)

 

 あと数メートルで彼女の体が地面に叩きつけられる。必死に手を伸す。だがそれでも彼女の身体にその手が触れることは無かった。

 

 

 

 

 

 

 

 ***

 

 

 

 

 

 

「…あの、蘭丸…」

 

「…!ジャンヌ、どうしたんだ?もうすぐ開戦なんだろう」

 

 オルレアン奪還戦の直前、霧野の前に現れたのはジャンヌ・ダルクだった。彼女は不安げに顔を俯かせる。

 

「…はい、そうなんですが……」

 

「…不安なのか?」

 

「はい…、私なんかの力でが本当にこの戦いに勝てるのかなって…」

 

 神に選ばれ、戦場へと馳せ参じたジャンヌ・ダルク。しかし彼女は元はただの村娘だった。ただの村娘に戦いのイロハなどある訳もなく、むしろ足手纏いだろう。そんな彼女が出て戦いに勝利できる保証などどこにもなかった。

 

「私が、私が神に選ばれた意味とは何なのでしょう?どうして私が…」

 

「…選ばれたからにはきっと意味があるよ」

 

「…そうでしょうか」

 

「むしろ僕は君が凄いと思う。僕なら君みたいに戦場に出ることなんて、きっとできないから。…君は怖くないのか?戦場に出ることが」

 

「…私が、神に選ばれたから。それにこの国の皆さんが必死になって戦ってるんです。神の言伝とか関係なしに、黙って見たくないです…!」

 

「……本当に、強いんだな君は」

 

「そんなことありません…。むしろ私から見れば蘭丸の方が強く大きく見えます。何かを守る為にこうして時をも超えて行動できるんですから」

 

「それは仲間がいるからで…」

 

「私だって同じですよ。…それに本で読んだことがあります。“人は1人では絶対に強くなれない。隣にいる人とで互いを補うからこそ強くなれる"って。だからお互いに弱いって思ってるなら、私たちもお互いを補い合って強くなりましょう!そうすればきっと強くなれます!」

 

「…はは、さっきまでの弱気が嘘みたいだな」

 

「…えへへ、私もびっくりです。きっと蘭丸がいるからですよ。隣に誰かがいるから勇気だって湧いてくる。…蘭丸は戦場は初めてなんですよね?」

 

「ああ、戦場どころか殺し合いを見るのすら初めてだ」

 

「な、なら私が先輩ってことですね!先輩として私がしっかり蘭丸のことを守ってみせますので!」

 

「…なら俺もジャンヌが危なくなったら助けるよ。それが補い合うって意味なら」

 

「えへへ…、はい!」

 

 

 

 

 

 

 ***

 

 

 

 

 

 

「はぁ、はぁ…!」

 

「…えっ」

 

 ジャンヌは無事だった。なぜ自分が生きているかに驚きながらも周りを確認する。すると目の前には巨大な人の顔があった。

 

「きゃっ!?……え」

 

「間に…合った…」

 

 戦旗士ブリュンヒルデ。

 霧野はこの土壇場で化身に覚醒し、化身の手でジャンヌを受け止めたのだ。

 

「無事かジャンヌ!」

 

「は、はい…」

 

「はぁ…、良かった…!」

 

 霧野は安堵しながらジャンヌを抱きしめる。ジャンヌも緊張の糸が解けたからか、ボロボロと瞳から涙をこぼし始めた。

 

「蘭丸、私…!」

 

「もう大丈夫だ…」

 

 霧野がいなければ死んでいた。その事実がジャンヌの心を貫く。

 

「…私、やっぱりダメでした…!戦場では剣を振るえない…!敵を、倒せないの…!!私は、なにもできない…」

 

「……それは俺も同じだ。ジャンヌ」

 

「…え?」

 

「俺はチームに支えたい奴がいる。でも俺は、そいつを支えるはおろか、決められた役目すらまともに果たせない」

 

「……」

 

「でも、それでもって自分のできることを探して足掻いているんだ。きっと剣を振るえないのはきっと君の役目は敵を倒すことじゃないからだ」

 

「……役目」

 

「城壁で戦ってる君を見て気づいたんだ。ジャンヌ、君は敵を倒すよりも味方を鼓舞することが本当にできることだって」

 

「味方を鼓舞すること…」

 

 不思議なほどにストンとその言葉が胸に落ちた。再び蘭丸の化身を見る。戦旗を持った女性騎士。この姿が己の本当に有るべき姿なのだと思えば…

 ジャンヌは一緒に落下して来た軍の旗を手に取る。

 

「…蘭丸、一つお願いがあります」

 

「…ああ」

 

 蘭丸はジャンヌの言わんとすることを察し、彼女を化身に乗せて、城壁の上まで連れていく。化身に驚いている兵士たちを見やりながら、ジャンヌは声を張り上げる。

 

「聞け!!同志たちよ!!我らの勝利を信じるのだ!!例えどれだけ目の前が暗雲に覆われていようとも!傷が痛んで立ち上がれずとも!!進み続ける限り必ず道は開ける!!その先に!神が約束した勝利は必ずや訪れるだろう!!戦い続けるのだ!!汝らには、このジャンヌ・ダルクがついている!!」

 

 その鼓舞は化身の姿と相まって、絶大な効果を発揮した。みるみるうちに軍は勢いを取り戻し、一気に戦況はフランス側に傾いていく。

 

「…やったなジャンヌ」

 

「…はいっ、蘭丸のおかげです」

 

「……俺たちは、補い合えたのかな」

 

「はいっ!私が前に進めたんです!きっと補い合えてます!」

 

「…そうか、よかった……」

 

「…ですが、まだ戦いは終わっていません」

 

「ああ、俺も自分の戦場に戻るよ」

 

「はい。……けどその前に私からの精一杯のエールを」

 

 そう言ってジャンヌは霧野を抱きしめた。鎧越しの抱擁。決して体感的に心地よさが有るものではなかったが、とても温かかった。

 

 するとどうしたことか、みるみるうちに霧野の容姿が変化していく。

 ミキシマックスだ。2人が本当の意味でお互いを理解できたからこそ、溶け合うようにジャンヌのオーラが霧野に染み渡ったのだ。

 

 ──ミキシマックス、コンプリート

 

 

「…行ってくるよ、ジャンヌ」

 

「はいっ、行ってらっしゃい。蘭丸」

 

 

 

 

 

 

 

 ーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 素晴らしいものを見せてもらいました(尊死)。

 

 霧ジャンがあまりにも尊い!!あれもう完全に夫婦でしょ!まさか仲良くなりすぎてミキシマックスしちゃうなんて、強制ミキシマックスと言い案外ミキシマックスのルールってガバガバだよね。だが良い!尊いから許す!!

 まぁミキシマックスの成功率を上げるクロノストーンが二つもあるのだ。なにが起きてもおかしく無い訳である!

 

 はぁー写真を撮る手が止まらねぇーーッ!!録画の機材足りねぇーーーッ!!!

 あ、黄名子ちゃん撮りすぎてもうメモリが無い!畜生三台目だコノヤローー!甘く見るなよぉ!本編開始までに俺様が何台カメラを買い溜めたと思っているぅ!!ヒャア!未来のカメラ様様だぜぇ!!

 

 それにしても良いよねぇ、霧ジャン。時代が合ってればこのままハッピーエンドだったよ本当。いっそこの世界パラレルワールドにしてお持ち帰りすれば良いのに。

 

「おいお前!!何のつもりだッ!!」

 

「ふふ、何のつもりだなんて。私は誤ってシュートを外しちゃっただけよ」

 

「なんだと!!」

 

 おっと、マントちゃんと剣城くんがドンパチやってますね。どうやらジャンヌにシュートを打ったことにご立腹な様子。

 ぶっちゃけ言うとこれ儂様も予想外なんだよね。って言うのも、うちのデュプリ変に超能力でドーピングしながら作ったからかたまーにバグるのよ。命令もしてないのに完全にわっちの予想の外の行動をする。分身デュプリじゃそんなことないんだけどねー…。

 自我がある…って訳じゃ無いんだけど、それに近いと思う。まぁ自我が出たら出たで面白そうなので放置してるけどね!それにいちいちラジコンみたいに操作しなくて楽だし。

 あ、そんなこと話してたら夫になった霧野くんが戻って来ましたよ!

 

「…待て、剣城」

 

「霧野、お前…!」

 

「え、ミキシマックスしてる!?いつの間に!」

 

「文句を言うのは試合の後だ。今はこいつらに勝つぞ」

 

 そんなクソイケメソな台詞で後半戦開始!!開始と同時に剣城くんからボールをカット!一気にゴールに突き進むー!

 が、ここで立ち向かうは我らが覚醒霧野くんー!その手に炎を纏い、地面に舞い飛ばすことで敵を弾き飛ばす蘭ヌの新必殺技ァ!!

 

「ラ・フラム!」

 

 霧野くん見事ザナーク様からボールをカットォ!それにしてもジャンヌ・ダルクの必殺技で火刑モチーフはあまりにも人の心が無いぞ制作人!

 そのまま神童きゅんにパス!

 

「ミキシトランス、信長!」

 

 ここで神童きゅんミキシトランスで一気に攻め上がるぅ!!神のタクトでパスが川流れのように繋がって剣城くんにボールが渡るぅ!!

 ザナーク・ドメインは元は荒くれ者の集まりなだけあってチームワークはそれ程だぁ!そこを突いたプレーに敵陣翻弄されるぅ!!

 そしてゴール前に来る剣城、神童、天馬ぁ!

 

「もう点はやらん…!!巨神ギガンテス!!──アームド!!」

 

 な、ななななんと相手キーパーのシュテンくんも化身アームドだぁ!!どいつもこいつもゲーム版だなオイ!!未来は魔境か!?魔境だったわ!!

 しかし3人は一切物怖じしない!!これを突破する秘策があるのかぁ!?

 

「行くぞ!奏者マエストロ!」

 

「剣聖ランスロット!」

 

「魔神ペガサスアーク!」

 

「「「アームド!!」」」

 

 3人同時に化身を出してそれをアームドだぁ!!これはまさか、アレをするのかぁ!?

 

 神童と剣城が上に飛び、2人の蹴りでボールを蹴り落とす!!この時点でもエネルギー十分!しかしここでは終わらない!!そのボールを天馬きゅんが更に真正面にシュート!!

 そう!!あれが!!あれこそがあの3人でこそ打てる最強シュート技!!

 

「「「エボリューション!!!」」」

 

 エボリューションだぁーーーーッ!!!

 凄すぎる!!生エボだぞ生エボ!!しかも化身アームドで!!あまりにカッコいい〜!

 

「サンドカッター!!!」

 

 キーパー止める努力をするがぁ、砂如きでは3人の進化は止まらなぃ!!!

 ゴーール!!3人の必殺シュートが敵陣ゴールをぶち抜いたぁーー!!!これで雷門2-2の同点だぁーーーッ!!

 

「よし!!」

 

「やった!!」

 

 負け越しからの一気に同点で敵チームもそろそろ危機感を持ち始めましたな!ですがザナーク様1人は痛快そうに笑っておられる!

 

「ハッハッハッ!面白い、ちと後半に入ったが、特別に石は壊さないでおいてやるよ」

 

「…お前たちに勝って、監督は返してもらうぞ」

 

「フン、なら俺も次からは全力で行くぞ。この俺の強さに打ち震えるが良い!」

 

 おっとザナーク様、試合再開と同時に化身を発動したぁ!!しかし様子がおかしいぞぉ!?

 

「むっ、なんだ…!?」

 

 その瞬間ザナーク様から溢れる眩い光ぃ!逃げろ!ザナーク様が爆発するぞぉ!!

 

 はい、と言うわけでここで試合はお開きですね。これ以上戦ったら本当に雷門ボコボコにされちゃうからね、仕方ないね。吹き飛ばされたみんなはとりあえず無事みたい。いやー、本当おっかねーなアレ。

 

 因みになにが起きたかを端的に説明すると、ザナーク様の邪悪な心と円堂ストーンのサッカーやろうぜ的な心が化身発動をきっかけにぶつかり合って爆発!と言う感じである。

 ザナーク様にクロノストーン貸したのも雷門を挑発させる他、爆発させて試合をうやむやにするためでもあるのだ。いやぁ、先に渡しといてよかった。だってザナーク様、素の状態で今の天馬くんの化身アームドとタメ張れるレベルだよ?無理無理、親善試合の再来だわ。

 

 そんなわけでザナーク様御一行は撤退。試合は引き分けって事になったぞ!

 よくわからん感じで引き分けになった雷門は、ひとまずザナーク様を追い払えたことを喜んでいますな。

 

 お、オルレアンの戦争の方も終わったみたい。まぁ当然フランス軍の勝利で決着。全体バフかかった軍隊が負けるわけないんだよね!

 

「蘭丸!」

 

「ジャンヌ!」

 

 あ、戻ってきたジャンヌちゃんが霧野くんに抱きついた。はぁー、霧ジャンやってんね!

 

 ………あっ!黄名子ちゃんや霧ジャンに見とれて完全にラスボスムーブのこと忘れてた!うっげぇ、しまったなぁ…、試合中に乱入とかして好き勝手やろうと思ってたのに。このフェイ・ルーン一生の不覚だ!おのれ霧ジャン!だが絶対に許す!

 

「大丈夫か?怪我とか無かったか?」

 

「はい、兵の皆さんのおかげで無事に勝利できました!蘭丸さんこそ、少しだけ横目で見てましたけど、すごくカッコよかったです!」

 

「そ、そうか…?」

 

「はい!」

 

 あ、そんなことを考えてたら霧ジャンがイチャイチャし始めたよ。かわいいね。後ろで見てる天馬くんたち顔真っ赤じゃん。ウブだなー。

 いやぁ、本当この章でお別れするのが惜しいカップリングだわぁ。一生目に入れても痛く無いカップルですよこれ。実際に見ると尚更ね!本編通してこの2人のやりとり見ていたいよね。

 

 

 

 ……あ、いや、あるじゃん!ラスボスムーヴと霧ジャンを見続けるその両方を叶える方法!

 これなら上手いこと雷門側のヘイトも貯められるはず!流石私天才!!これぞまさに一石二鳥!

 

 そうと決まれば早速良からぬ時間の始まりだ!

 ハッハァ!覚悟しろよ雷門イレブン!ここからはこのフェーダのヒーローラビットマンの時間だぜ!!

 

 

 







ジェノサイドスクリュー:ラスボスムーヴをするためにフェイが考えた悪役っぽい必殺技。イメージ爆熱スクリューの炎がそのまま赤黒いトゲトゲの結晶体に置き換わった感じ。触るとめっちゃ痛い。


【今日の格言】人は1人では絶対に強くなれない。隣にいる人とで互いを補うからこそ強くなれる


確かにワイも黄名子様が隣にいたら補われるどころか限界突破しそうな勢いになりますからね!どんな形であれ人には人が必要なのだ!いじょー!


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