菜花黄名子を曇らせたい!   作:わらしべいべー

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【前回のあらすじ!】
・デュプリがフェイの子供…?じゃあつまり黄名子ちゃんはおb<<ヤキモチスクリュー
・俺はフェーダタウンのフェイ!こっちは相棒のワンダバ!今日も図鑑完成を目指して偉人ゲットだぜ!
・今ここに…オタクは完成した…





はくりゅう

 

 

 

 

 

 フランスから帰った天馬たちは、居残り組の者も含めて、今回襲ってきたラビットマンの所属するフェーダについての説明を一通り聞いていた。

 

「セカンドステージ・チルドレン。サッカー遺伝子が生み出した人類の進化形態…」

 

「じゃああのラビットマンとかいう奴もそのセカンドステージ・チルドレンなのか?」

 

「ああ、特に奴の洗脳の超能力は強烈だ。前に霧野たちが洗脳されたあのスフィア・デバイスとなんら遜色ない威力を発揮する。奴がその気になれば1人で戦争だって起こせるかもな…」

 

「と、とんでもない奴じゃないか!」

 

「そうだ、だからエルドラドも奴をS級危険人物に指定している。だがベータと同じルートエージェントが何人も奴の手で返り討ちにされた上で、政府の要人も巨大な建物ごと始末している。単純な危険度なら今回会ったザナークよりも上だろう。それくらいには警戒すべき存在だ」

 

 その言葉に天馬は息を呑む。奴はこちらのシュートを全て足で止めていた。まるで鉄の塊に打っているかのようなイメージが印象に残っている。

 

「…奴の目的は何なんだ。何故フランスを襲ってきた」

 

「あいつはジャンヌの歴史を破壊しにきたって言ってたけど……」

 

「……すまない、私にもそれはわからん。何せ奴はその二つ名の通り狂っている。一応フェーダという組織に与してはいるが、本当の目的は一切わからん。もしかすれば今回ジャンヌ・ダルクの歴史を襲ったのも只の気まぐれなのかもしれん」

 

 USAGIは破壊活動こそしているが、フェーダの新人類云々に関してはあまり精力的ではない様子なのだ。まるで子供のように自分の好きなことだけをしているようにも見える。

 今回もその例に漏れないだろうと、ワンダバは考えた。

 

「そんな理由でシャルル王子たちを…!絶対許さない!」

 

「…兎に角、奴の言い分が真実なら今後もジャンヌを狙って襲ってくるかもしれん。今後はさらに警戒を強める必要がある」

 

「そうだな。だが正直ジャンヌは俺たちの旅とこの雷門中、どちらにいても危険だ。神出鬼没に時代を飛んでくる以上、こちらが後手に回らざるを得ない」

 

 どこにいても襲われる可能性は高い。仮に今襲われてはきっと歯が立たないだろう。何かしらの対策を講じる必要がありそうだ。

 

「…ジャンヌ。ジャンヌはどうしたい…?」

 

「私は…蘭丸と一緒が良いです」

 

「それが良いだろう。霧野は時空最強イレブンの一員。今後必然的にチームは強くなっていくし、タイムジャンプもするから位置の撹乱にも使える。1番安全と言えるだろうな」

 

 どの道にしろ、暫くジャンヌは元の時代には戻れない。何せその時代がパラレルワールド化している。USAGIがまだいるいない以前に定義が曖昧な時代に送り込むのは存在が消滅しかねない危険な行為なのだ。

 

「それにしてもやつに関する情報が少ない。気の赴くままに行動する奴がこうまで厄介とはな…」

 

「ラビットマンの話をしてるのかい」

 

「フェイ!……と、ベータ!目が覚めたんだね!」

 

「……」

 

 ベータは何も言わずに目を逸らしている。ついこの間まで敵対していた相手と一緒にいるのは流石に気まずいのだろうか。

 そんな彼女の前に神童が出る。

 

「…ベータ、お前には聞きたいことが山程ある。素直に答えてもらおうか」

 

「……っ」

 

「し、神童センパイ。流石に敵だったとはいえそれは…」

 

「天馬、俺たちには一刻の猶予もない。何せ敵はエルドラドだけじゃないのかもしれないからな。…答えろベータ。どうしてお前はあそこで倒れていた。お前たちが消えた後、何があった」

 

「誰がテメェなんかに…!」

 

「答えろベータ!!」

 

「ひぅっ…」

 

 怒声を飛ばした神童に驚き、ベータはフェイの後ろに隠れてしまう。フェイは彼女を軽くなだめる。少し見ない間に彼女はフェイに随分懐いたらしい。

 

「あはは…、とりあえず落ち着いて神童くん。焦るのはわかるけど無理に聞き出そうとしても距離が遠ざかるだけだよ。説明は僕がするよ、大方の事情は聞いている」

 

「…わかった。聞かせてくれ」

 

 フェイはベータが消え去ってから経験したことを一通り話した。USAGI含めたフェーダがプロトコル・オメガを捕縛したこと、ベータはそこから命からがら逃げてきたこと、逃げた先で偶然雷門に出会ったこと。

 

「…フェーダがプロトコル・オメガの奴らを?」

 

「一体何のために?」

 

「それはわからない、ただエルドラドとフェーダは敵対している。もしかしたら捕虜にでもしようとしてるのかもね」

 

「…もしかすればサッカー抹消をさせないことで自分たちの身を守るためなのかもな」

 

「え、どういうことですか?」

 

「天馬、セカンドステージ・チルドレンは優秀なサッカー遺伝子から生まれたと言っていただろう。ならその大元のサッカーそのものを消せばタイムパラドックスでフェーダたちを消せるということなんじゃないのか」

 

「おお!さすが三国センパイ!」

 

「でもそうだとしたらベータたちはずっと未来のために戦ってたってことなのか…」

 

 それに対してベータが反応する。

 

「…会った時からそう言ってるじゃないですか。彼らを放置していたらセカンドステージ・チルドレン以外の人類は絶滅する。私たちはずっと未来の人間を救う為に活動してたんですよぉーだ」

 

「こらベータ」

 

「ふん」

 

 プロトコル・オメガは単にサッカーを消す組織なのではなく、未来を守るエージェントだったわけだ。それを聞いて天馬はあることを閃く。

 

「…じゃあさ、エルドラドと一緒にそのフェーダを倒せば万事解決なんじゃないかな!サッカー遺伝子から生まれたんだからきっとサッカー大好きなはずだし!」

 

「お前なぁ、本当にサッカー大好きならテロ活動なんてするわけないだろう。出会って即武力行使にでもあったらどうするんだ」

 

「ウッ…、で、でも俺たちが協力してその問題を解決できればエルドラドはサッカーを消す必要がなくなるんでしょ?なら絶対そっちの方が良いよ!」

 

「確かにそうかもね。…でも恐らくエルドラドはまだサッカー抹消を諦めてない。サッカー禁止令が未だに施行されてるのがその証拠。それに協力したとしても今のフェーダには天馬たちじゃ遠く及ばない。何せフェーダにはラビットマンレベルの実力者がゴロゴロいるんだから。弱いままエルドラドに掛け合っても捕縛されて洗脳が良いところさ」

 

「た、確かに…」

 

「ちょっと待つぜよ!じゃああのザナークは何なんだ?」

 

「彼は恐らくフェーダの手で脱獄させられた犯罪者。今のところエルドラドともフェーダとも関係ない完全な部外者さ」

 

 しかしあちらもあちらで自分勝手が極まったような奴だ。天馬たちのいく先々で喧嘩をふっかけてくることだろう。

 つまり今後天馬たちはプロトコル・オメガではなく、ザナークとUSAGIの両名を捌きながらオーラ集めをしなければならないわけなのだ。

 

「な、なんて迷惑な…」

 

「プロトコル・オメガなんかよりも何倍も厄介じゃないか…」

 

「なんかとは何ですか」

 

「にしても、随分話が変な方向に拗れちまったなぁ…」

 

「……けど、俺たちのすることは何も変わらないよ」

 

 そう、多少状況は変わったが、これから天馬たちがすることは特別変わりない。時空最強イレブンを集めてエルドラドのサッカー抹消を止める。それだけだ。

 

「まずはサッカー抹消を止める!そしてザナークから円堂監督を取り返す!フェーダをどうするかとかもその後だ!」

 

 その天馬の言葉にその場のメンバーの意見は概ね一致した。

 

 

 

 

 

 

 ーーー

 

 

 

 

 

 はいはーい、そんなわけで無事元の時代に帰還したベータちゃんのお目付け役に任命されたラスボス予定の人だよーん。

 

 帰った後もいろいろあったけど、取り敢えず話は良い感じに進んでおられますね!ベータちゃんとも普通にお話しできるくらいには親睦が深まったので、このまま天馬きゅんあたりにぶつけてチームに馴染ませましょうね〜。

 …って思ってたんだけどこの子全然我から離れないんだよね。アヒルの子みたいにずっと後ろについてくるんですけど。試しに1人にしてみたら不安そうな顔でキョロキョロするし、え、本当に貴女ベータさんですか?木こりの泉から出てきた綺麗なベータちゃんとかじゃないよね?

 問いただしても首を傾げて毒吐いてくるので普通に無自覚というね。うーん、可愛いけど今後の活動に支障が…。

 

 ま、まぁここにきてまだ日も浅いし、ちょっとずつ慣れさせていけば良いだけだよね!いざとなれば分身デュプリもいる!なんとかなるさ!

 

 あ、録画機材とか片付けてたらいつの間にかみんなグラウンドで練習してるじゃないか!急げ急げ!

 

 …っと、グラウンドに来たら何だか人だかりができてますね。

 

「あ、フェイ!こっち来て!」

 

 はいはい、なんですかな。

 っと、あの真っ白なシルエットは!!

 

「紹介するよ、さっき俺たちの仲間になった白竜だよ!」

 

「……」

 

 あ、あれは!!映画漫画ゲーム共にカッコ良さでもギャグでもあまりに強烈すぎる印象を残した、Mr.究極!!白竜だぁーーーーーーーーーッ!!!!この世界はライメイの方だったー!!

 ていうか私服ダッッッサ!!全て高級ホワイトでコーディネートは流石に主張激しすぎますね。もっと腕にシルバーとか巻けよぉ。…っていうか白竜くんずっと無言でこっち睨んでるんですけど。

 

「お前がフェイ・ルーンか…」

 

 あ、はいそうですけど…

 

「……………」

 

 ???

 僕何かしたかなぁ?いや、良からぬことはいっぱいしてるけど。

 

「……白竜だ。よろしく頼む」

 

「フェイ・ルーンだよ。こちらこそよろしく」

 

 握手をしたら着替えるとか言ってそそくさとどっか行ってもうた。どうしたんだろ、流石にあの服装は痛すぎるって気づいたのかな?

 …まぁ良いか!白竜くんが味方になったのは実に良き良きの良きですよ!これで次の孔明の罠もバッチリだぜ!

 

 さて、向こうで1人三角座り決め込んでるベータちゃんを練習に誘おっと。

 ベータちゃんー!あっそびーましょー!そしてさっさと皆んなと絆あげなさーい!!

 

 

 

 

 

 ***

 

 

 

 

 

 

 フィフスセクターからの呪縛から解き放たれた白竜は何不足ない日常を送っていた。しかしサッカー禁止令などという法律が施行されて多少窮屈さを感じ始めた頃、それは唐突に目の前に現れた。

 白竜の目の前にいる黒髪褐色の民族風の衣服を着た少年。

 

「やぁ、久しぶりだね白竜」

 

「お前は…シュウか!」

 

「ああ、天馬たちと戦った時以来だね」

 

 かつて雷門とサッカーの自由をかけて共に戦った相棒。それがシュウだ。白竜の記憶では彼は島に残る選択をしたはずだが…

 

「お前…島に残っているんじゃなかったのか?」

 

「うん、だから長時間はここにいれない。手短に要件を話すよ」

 

 そうして白竜はシュウから今何が起きているのかを語られる。サッカー抹消、プロトコル・オメガ、そして時空最強イレブン。

 

「…正直頭の痛い話だな」

 

「けれど事実だ。彼らは今もサッカーの未来を賭けて戦っている」

 

「ふん、奴らにはサッカーの疫病神でもついてるのかもな」

 

「はは、案外そうかもね。でも最後には常に円満な最後を果たしてきた…」

 

 あの時の戦いでもそうだ。正に絶望的とも言える状況からフィフスセクターの考えに染まった観客たちをも変えて、最高のエンディングを迎えて見せた。災厄を幸福に変えられる力がきっと雷門にはあるのだろう。

 

「…けど今回は少しばかりそれが怪しい」

 

「どういうことだ?」

 

「彼らが今回時空を旅するにあたって、協力者がいる。名はフェイ・ルーン。一見ただの純粋なサッカー少年なんだけど…、いろいろと妙なんだよね」

 

 シュウ曰く、彼の行動には不審な点が多いようだ。シュウはどういう原理かこの世界の出来事を見通せる力がある。それで今まで天馬たちの行動を把握していたらしいのだが、どういう訳か今はそれをすることができないのだ。まるでノイズがかかったかのように、情報を得ることができない。なので天馬たちがフェイたちとゴッドエデンに来た時はかなり驚いた。

 因みに見れなくなった時期は、丁度天馬がフェイと会った時期と重なる。この時点でかなり怪しいのだが、フェイにはそれ以上に不審な点があった。

 

「彼からは本来人から匂わない気配がした。鼻をつんざくような、強い匂い。そうだね、例えるなら、死臭とでも言えば良いのかな」

 

「死臭だと…?」

 

「天馬たちは全く気が付いてなかったみたいだけどね。…あんなものがどうして人から出てるのかはわからない。けど一つ言えることは彼は天馬たちに何かを隠している。確実にね」

 

「…成程、お前が何を言いたいのかがわかってきたぞ」

 

「流石、話が早いね」

 

「ふん、奴らには借りがある。それに、ようやく手に入れたサッカーの楽しみをみすみす奪われるわけには行かんからな」

 

「君ならそういうと思ったよ。…気をつけてね。今回の敵はいろいろと得体が知れない。目の前にあるものだけを信じていると痛い目を見るかもしれないよ」

 

「……ああ、忠告感謝する」

 

 

 

 

 

 

 ***

 

 

 

 

 

 

 着替えの個室で白竜は1人考え込む。当然、あのフェイ・ルーンについてだ。

 

(…正直、俺は奴が悪事に関与しているとは到底思えん。奴の思いは純粋だった。少なくとも表面上は。しかし…)

 

 白竜はフェイと交わした手を見る。特別何の変化もないいつも通りの究極に鍛えられた手。

 

(死臭…か)

 

 白竜がそれらしいものを感じることはなかった。ただ、あの手からは妙な冷たさは感じた。気のせいかも知れない。あんな話を聞いたから、気の迷いが出たのかもしれない。

 

(剣城たちから奴のこれまでの行動を聞いたが特別不審なところはなかった。ならば何だ?この違和感は…)

 

 拭いきれないモヤのような違和感。フェイ・ルーンは一体何を隠している?

 

「……いや、今焦る時ではないか。これから見定めていけば良い」

 

 仮にフェイが敵であったその時は、一切の容赦なく潰せば良いだけのこと。

 

 そう己を鼓舞させるが、胸の中に感じる違和感はいつまで経っても取れることはなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 ●●●

 

 

 

 

 

 

 

 夜の雷門中。他のメンバーは各々が自宅に帰り就寝している中、黄名子は1人、キャラバンの上で落ち込んだ様子で座っていた。

 

「はぁ…、今日の練習全然集中できなかったな…」

 

 プレーも必殺技もいつもの調子が出ず、普段はしないようなミスを連発した。あのまま続けても仕方なかったので結局練習を途中で休んだのだ。

 

(こんな調子じゃいつまで経っても強くなれない…)

 

 不調の原因は目に見えていた。ラビットマン…もといUSAGIとのサッカーバトル。あの敗北が未だ彼女の足を引っ張っているのだ。

 フィジカル、プレー、そして必殺技。全ての面において自分より秀でた存在を前に彼女はかつてないスランプに陥っていた。

 

(早く強くなって人形を取り戻さなきゃいけないのに…)

 

「あれ、黄名子?」

 

「えっ?」

 

 背後から声をかけられる。振り返るとそこにはキャラバンから顔を出しているフェイがいた。

 

「フェイ、どうしてここにいるやんね…」

 

「僕はここで寝泊まりしてるからね。それに驚いたのはこっちだよ、こんな時間にここにいるなんて、何かあったの?」

 

「……いやー、ちょっとお星様見たいなーって思っただけやんね!ほらっ、今日は雲っ子1つ無い星見日和!」

 

「本当だね、満点星だ!確かにこれは黄昏たくもなるなぁ」

 

 フェイはキャラバンの上に登り、黄名子の隣に座る。

 

「それで、何悩んでたの?今日の練習の調子が悪かったのと何か関係ある?」

 

「うっ…、何でわかるやんね…」

 

「夜イナズマキャラバンの上にいれば、悩みが解決するってジンクスがあってだね…」

 

「えっ、初耳やんね!」

 

「嘘だからね」

 

「……」

 

 ぷくりとお餅のようにほおを膨らませ、不快を露わにする。それを見てフェイは思わず吹き出してしまう。

 

「あははっ、何その顔!」

 

「フェイのせいやんね!もうっ、イジワル!」

 

「はは、ごめんよ。それより悩んでるんでしょ。ラビットマンについて。あむっ…」

 

「…うん。ウチね、USAGIに大事なものを取られちゃったの。だから早くUSAGIに勝って取り返さなきゃって思って…」

 

「それで焦っちゃってたんだね。mgmg…」

 

「…うん」

 

 だがきっとそれだけではないだろう。

 フェイを守らないといけない。そんな強い決意が今回の敗北と託されたものの強奪で強い強迫観念に変わりかけているのだろう。彼女はフェイの母親。しかしそれは未来の話、今の彼女はただのサッカー好きな中学一年生だ。1人で背負うにはあまりに重いものだ。そして今その重圧に崩されそうになっている。

 

(こんな序盤で曇らせすぎで潰したら意味ないからね。頑張って調子戻してもらわないと…ん、美味しい!)

 

「…さっきから何食べてるやんね」

 

「わらび餅。食べる?」

 

「食べる!…ん、美味しい!」

 

「あはは、他のみんなには内緒だよ」

 

「わかってるやんねー」

 

 いくら嘆いても焦っても結果が変わるわけではない。今は思い詰めるよりも気を楽にして楽しいことをする。彼女にはそれを言葉で諭すより行動で示した方が早いのだ。

 

「はぁ、美味しかった!」

 

「…ねぇ、黄名子。お腹ごなしにちょっと運動しない?」

 

 そう言ってフェイは下に飛び降りて、サッカーボールを取り出す。

 

「え、でも…」

 

「大丈夫!練習じゃない。遊ぶだけだよ、遊ぶだけ。だから一緒にやろう?」

 

「…うん!」

 

 そこから2人は適当にボールを蹴って遊び始めた。

 時折フェイが変なボールの取り方をして、思わず吹き出してしまう。それに釣られて黄名子も足で挟んで返されたボールを取ろうとして失敗。こけて苦笑いをする。それを見てフェイが笑う。

 それは本当にただの遊びだった。今2人は年相応に笑って楽しんでいる。

 

(…すっごく簡単なのに忘れてた。強くなるのも大事、目的を果たすのも大事、でもそれ以前に楽しむことを忘れちゃいけなかったんだ)

 

「楽しい?黄名子」

 

「うん、すごく楽しいっ。…やんね!フェイは?」

 

「僕も楽しいよ。こんな風にただボールを蹴って遊ぶのは久しぶりだ」

 

「……ありがとうやんね。フェイ」

 

「ん?どういたしましてっと」

 

 疲れた2人は地面に寝転んで、一緒に夜空を見上げる。2人の目線には丁度綺麗な満月があった。

 

「わぁ、お月様がある!すごくおっきくてまんまるやんね!」

 

「本当だね。そういえば今日はスーパームーンだって神童くんが言ってたなぁ」

 

「スーパームーン?」

 

「お月様が1番おっきく見える日ってこと。あははっ、ラッキーだね。お月見日和だ」

 

「へぇー、そうなんだ…。黄色くてさっき食べたきな粉をかけたわらび餅みたいやんね!」

 

「そうかな、僕は黄名子みたいだって思ったけど。ほら、黄名子のほっぺみたいにまんまるでもちもちじゃん」

 

「えーっ、どこがー?それ言うんだったらそこにあるサッカーボールの方がよっぽど似てるやんね!」

 

「あははっ、そうかもねー」

 

 軽快に笑うフェイ。黄名子はまた頬を膨らます。それをみてまた笑うフェイを見て黄名子は頰の力が抜けていく。

 

(お母さんなのに、ウチの方が助けられちゃってる…)

 

 しっかりしている子だ。こうして小さな悩みでも真正面から向き合ってくれて、彼の誠実さと優しさを感じる。

 

 …そう、だからこそ何故フェイが父の前から姿を消してフェーダに入ったのかがわからなかった。今彼はどんな気持ちでここにいるのだろうか。

 アスレイはフェイが感情が抜け落ちたかのようになったと語っていた。実際見せられた映像のフェイは、まるで機械のようだった。受け答えも最低限、態度もドライ、言われたことだけを忠実にこなすアンドロイド。

 こうして接しているフェイもきっとみんなを欺く為に演じているんじゃ、そんな疑念が心にべっとりと張り付いている。

 

「……ねぇ、どうしてフェイは天馬キャプテンとサッカーを守ろうとしたやんね。もしかしたら死んじゃうかも知れないのに」

 

「えっ、あー…、そうだね……僕が、イナズマイレブンが大好きだから、かな」

 

「…イナズマイレブンって、キャプテンたちのこと?」

 

「うん、でも天馬たちだけじゃない。円堂大介から始まり、受け継いだイナズマ魂をでっかく輝かせる熱くてかっこいい歴史が僕は大好きなんだ。それを無くすなんて許せないじゃん」

 

 そう語るフェイの瞳はまっすぐで、嘘をついているとは到底思えなかった。黄名子は思わず言葉を詰まらせる。

 

「そして、そのイナズマイレブンには勿論黄名子も含まれてる」

 

「えっ」

 

「何驚いてるのさ、そのユニフォームは何のためにあるの?紛れも無い雷門の証だろう?だったら君も僕の守るべきものだよ。そう言う意味なら僕は君のためにも戦ってるってこと」

 

「………」

 

「その為なら僕いっぱい頑張るんだからね!」

 

 そう笑うフェイの表情はどう見ても年相応のものにしか見えなくて、演技などとは思えなくて…。黄名子の心は揺らされる。

 

「…そっか、ならウチも頑張らないとやんね!」

 

「うん!……ん、あれ?もしかしてあそこに歩いてるの信助くんじゃない?」

 

 暗がりの中、分かりにくいがあの小さなシルエットと特徴的な髪は確かに我らが雷門のゴールキーパー西園信助だった。

 

「…気になるから見に行ってみようよ。ほら、手を貸して」

 

 そう言ってフェイは手を差し伸ばしてくる。

 

「……ウチはちょっとお水飲んでから行くやんね。だから先行ってて」

 

「そう?なら先行ってるね!」

 

「いってらっしゃいやんねー」

 

 そう言ってフェイはサッカー棟の方へと走って行った。黄名子はフェイが見えなくなるまで優しく手を振る。

 フェイの姿が見えなくなって数十秒。黄名子は笑顔を消して、その場に項垂れる。

 

「…………」

 

 わからない。

 どちらだ?どちらなんだ?どちらが本物のフェイなんだ?

 フェーダの機械のようなフェイが本当なのか、あの子供のように純粋なフェイが本当なのか。黄名子はわからなくなっていた。

 

(アスレイさんは、あの映像のフェイが本当なんだって言ってた…)

 

 アスレイは少なくとも4年はフェーダでフェイを見続けてきた。その彼がそう断言するのならば必然としてあちらのフェイが真実に近いのだろう。…だが、

 

(ウチは、今見せた純粋な一面が本当のフェイだって信じたい…!)

 

 彼の中にはまだ人としての輝きが残っている。少なくともここに来た理由を語ったフェイの表情は本物だと感じた。

 

 しかし彼はフェーダのボスの命令でここに来た。ならばやはり演技なのか?確かフェーダの中には記憶にまつわる超能力を使える存在もいた。彼らに記憶を改竄されている可能性だって十分あり得る。

 

 そういえばあのUSAGIは強力な洗脳が使えると言っていた。もしかすればフェイは最初から彼らに洗脳されてフェーダに…

 

 天馬は確かエルドラドの洗脳をサッカーが好きと言う一心で弾いたと聞いた。ならあれだけの愛を持つフェイでもそれは可能なのでは無いか。

 

 だとするならあのフェーダにいたフェイは全部洗脳で操られていた可能性だって十分高い。自分から勝手に家を出たよりも能力目的で誘拐された方が説得力もある。

 

 そうだ、きっとそうだ。フェイは自力で洗脳を乗り切ったんだ。それでこうやって自分の前で本心を言ってくれたんだ。

 

 だからあのフェイはフェイじゃない。こっちのフェイが私の子供。

 

 

 

 

 だから今のフェイの方がほんも───

 

 

 

 

 そこまで考えて黄名子はハッと我に返る。

 

「…えっ…あれ…?」

 

 今自分がどれだけ罪深いことを考えていたかを自覚して、どっと冷や汗が流れる。

 

(なに…考えてるの、ウチ…)

 

 仮にどちらのフェイであっても受け入れることには変わりないはずだ。どのような形であれ、受け止めてあげる。それが黄名子の想像する母親なのだから。

 

 しかし今自分は、サッカーへの愛を語ったフェイの方が良いと、あの機械のようなフェイは嫌だと、そう思ってしまった。

 そうであって欲しいと言う醜い願望を、フェイに押し付けかけたのだ。

 

 それは即ち、己の都合によるフェイの選別に他ならなかった。

 

 

「……ウチ、最低だ」

 

 

 そんな失意に濡れた声が誰もいない野原に響いた。

 

 

 

 

 

 

 ー

 

 

 

 

 

 

「ふんふふーん」

 

 いやぁ、実に空気が美味しい!曇らせることも良いけど、それをするまでの下積みも実に良い快感である!

 持論だが、曇らせとはジェンガである。

 一つ一つのピースを抜いて上に重ねていって、すこーしずつ足場を不安定にさせる。並行してジェンガ以外のピースも一緒に上に積み重ねていく。これを足場から取るものがなくなるまで何度も何度も繰り返して、それで最終的にその高く積み上がったジェンガを1番美味しい場面で大事な1ピースを抜き取ることで盛大に全部崩す!!はぁ〜、何で素晴らしいんだ!!

 

 それにしても黄名子ちゃん意外とロビンくんのこと引きずってたなぁ。嬉しい誤算ではあるけど、まぁ無理もないかな。

 

 黄名子ちゃんが背負っているものは1人で持つにはあまりにも重いものである。まだ中学入って間もない子が一児の母親としての責務を果たせなど、土台無理な話なんだよね!

 だから黄名子ちゃんの問いには全部本心で答えた。まぁ本心なだけで真実じゃないんですけどね!

 つまり今大切なのは知らないふりをしてでも一緒に重荷を背負ってあげようと寄り添うこと!そうして人と人で繋がった支えは滅茶苦茶強靭なものになる!その力はイナイレ2のザ・ジェネシス戦が証明してるのだ!

 

(そして、それがぜーんぶ幻想に過ぎなかったと知った時、その表情はさぞかし芸術的になるだろうなぁ…)

 

 そう考えると、内心の嗤いが止まらないんだよねぇ!あはははははっ!!

 

 

 

 







【今日の格言!】
・曇らせとはジェンガである

【フェイのコメント】
・どんなものでも高く大きく積み上がったものを一気に壊すのは快感である。人の心なら尚更ね!曇らせだって溜まりに溜まった好感度が全て精神破壊への振れ幅ならば、突き落とさずにはいられないんだよね!!しかも特に良いのがこの倒れそうに揺れている場面で、「〜になりそうだけど、やっぱり気のせいだよね」とか「そんなわけないよね」とか言って気丈に振る舞ったりする崩壊前の不安定さが良い。良いのだ!


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