【完結】天に輝く二ツ星   作:アクアハーレム最後の刺客不知火フリル

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ああ、やっと言えた。


9.祝福の花束を君に

 ドームライブ当日、早朝。星野一家宅。

「髪のセットよし、双子の着替えよし、ペンラよし、それから……よし、うん。忘れ物はなさそうだ」

「父さんスマホは?」

「もう持ってる。ルビーも準備良い?」

「うん!」 

 自宅に社長が迎えに来るので、それまでに仕度を済ませていた。

「アイ、着替えは?」

「もう大丈夫! 向こうで衣装に着替えるし、帽子とサングラスは玄関だから……エプロンとったらもう行けるよ~?」

 むん、と力瘤を作ってみせるアイに苦笑するヒカル。

「元気いっぱいでなによりだよ。朝御飯食べる?」

「んー、ライブ中は大変だし、ゼリーだけで良いかな」

「じゃあ僕たちはパンだけ食べるね。あれ? しまった、食パン昨日までだこれ」

「えー? あーほんとだ。あちゃー失敗したぁ。まあ焼けば大丈夫でしょ! くんくん……うん、臭くないし、カビも生えてないし!」

「自分が食べないからって適当だなあ……」

 がっくりと肩を落とす父は、後でお腹壊さないといいなあとか思いながらトースターでパンを焼く。

「母さん、冷凍しとくと賞味期限以上に長持ちするから、今度から気を付けよう」

「え、そうなの? アクアは何でも知ってるねー?」

「いや、今スマホで調べた」

「なーんだ。スマホかぁ、便利な時代だね」

「おにいちゃん、ジャムとって~! いちごのやつ!」

「わかったって」

 幸せな家族の一幕。得がたい幸福だと、アイ自身がふとそう感じた。

 その幸せを引き裂くように、ピンポーン、とチャイム音が鳴る。

「あれ? もう社長来たのかな。予定より早いや」

「まあ、気が逸ってるのかも? せっかちだし」

「あーありうるかも。早く出ろ! とか言われそうだし出てくるね」

「僕もついてくよ」

 

 玄関への廊下を渡り、アイはドアの向こうを確認もせずに、不用心にも開けた。

 

 そこには、漆黒の殺意がいた。

 

「アイ、ドーム公演おめでとう。双子は元気?」

 

「っ!?」

 

 思わず固まった。なぜそれを? どこで? どうやって? 疑問で固まった。

 男はしめた、とどめだ。そう思った。全身を暗い歓喜が巡りながら、握りしめたナイフ(殺意)をその腹へ押し付けようとした。

 

「アイ!!!」

 

 だが、間一髪。側にいたヒカルがアイの腕を引いて、奥に引っ込めた。

 

「うっ!?」

「クソッ!」

 思わず呻くアイ、バランスを崩したアイを抱き抱えて、後ろに下がらせる。ヒカルは前に出て、アイをかばい、睨みつける。千載一遇のチャンスを失った男も呻いた。

「警察に連絡させてもらう!」

 男にとって状況は最悪だった。アイの殺害を失敗し、よりにもよってカミキヒカルに現場を見られた。しかも今警察を呼ぼうとしている。もう殺せない。すぐに理解した。

 だから捨て台詞か何か言おうとして……玄関に綺麗に飾られ、手入れされた“星の砂”があった。

「う、うう……うあああ!!」

「おい!?」

 端的に言えば、男は愚かだったが、頭は回る方だった。だから、それが自分が贈ったもので、ファンからの愛の証を大切にしていた……アイの愛が本当なことを理解したから。

 だから、たまらずに逃げた。もう、どうしようもないのに。

 

「アイ、大丈夫か? 怪我は?」

 ぺたぺたと身体を触りながら心配をしてくれるヒカルを()()()()思いながら、何が起きたのか、正確には理解していなかった。

 

「アクア、警察に連絡は?」

「もうした。五分くらいで来るって」

「よくやったよアクア。危なかった。アイツ、ナイフみたいなものを持ってた」

「な……母さんを殺そうとしたのか!?」

「は!? ママを!?」

 

 どうやら激怒する双子の反応を見るに、自分はどうやら刺し殺される寸前だったらしい、とようやくアイは理解した。

 

「あー、そっか。ドアチェーンってこういう時のためにあるんだ? 施設では教えてくれなかったなぁこういうの」

「……呑気だなあ」

「ヒカルが守ってくれたからね、実感があんまり無いんだ。突然話しかけられたと思ったら、突然引っ張られたって感じ」

「そっか……無事で良かったよ」

 

 遠くから、サイレンの音が聞こえてきた。

 

 ☆

 

 結論から言えば、事情聴取は想定外にも最低限で終わった。警察にとってはアイドルのストーカーが、彼らの供述通りならば殺人未遂疑惑をして、まあ監視カメラの映像を見るに不法侵入をしたらしい、とそれだけであり、痕跡と指紋を採取して、状況の説明を聞くと、後日詳しい話を聞くとしてさっさと帰っていった。犯人を追う方が先決だからかもしれない。アイもヒカルも、別に警察のことに詳しいわけではない。

 だが、ここからが問題である。

「社長。大変です。僕らが同居してるのがばれてしまいそうです」

「あー……クソッどうしようもねえ! これはバレるしかない」

 男二人で頭をかかえている。ライブまではまだ時間がある。

 そこで何かを閃いたのがルビーだ。

「ねぇ、なんとか二人が同居……最高で、パパの家にママがお泊まりで遊びに来てただけでした、でおわりそうな展開とかにならない!?」

 あまりに都合の良い夢のような展開を口にするルビー。アクアは無理だと思った。社長は無茶だと思った。

「……社長。アイに許可をとる必要がありますが」

 行けるかもしれません。ヒカルは一筋だけ、解決案を話した。

「僕、もしかしたらいつかばらしてもよくなったら、世間に僕たちの関係をばらそうと思ってたんです。その時のために暴露本みたいなものをこっそり書いてたんですよ。これを改稿すればなんとか……いけるかもしれません」

 だって日本人は、お涙頂戴と判官贔屓が大好物ですから。決意のこもった表情で、ヒカルはそうとぼけてみせた。

「だが良いのか? そうするとお前達の関係は……」

「まあ、一生……はちょっと大袈裟ですが、この先20年くらいは暴露は無理ですね」

 アイがアイドルやめたら話すつもりだったのになぁ、ととんでもないことを暴露するヒカル。斉藤社長は、とんでもねぇ不発弾がいやがった、と嫌そうな顔をした。

「でも大丈夫。アクアもルビーも、良い?」

「それで、大丈夫なら」

「ママと、パパの……家族のためになるなら全然平気!」

 アクアとルビーは悩んだが、最終的にはそれしかないと判断した。

 本人不在の中で、彼女を守るための家族計画が発動した。

 

 そして……ライブが始まった。

 

 ドームライブ、約55000人を集客可能だというのに60000人超のファンが集まり、B小町を応援していた。

 舞台に立つアイは、ドームが真っ赤に染まるのを見た。自分の推し色……これだけの人が自分のファンなのだと。

 

「みんなー! 今日はありがとー!!」

 

 でも、ああ。少し落胆の気持ちはあった。こんなに愛されてるのに、愛してるって心から言いきれない自分がいた。

 ……ちらりと、視線を向けた。関係者席に、家族がいた。みんな、赤い色のペンライトを握って、アイを応援している。双子は相変わらずオタ芸なんかしてるし、社長もミヤコさんも、ヒカルも叫んでいる。みんなそう。家族だけじゃなくて、このドーム中のみんなが……。

 

 星野アイは、自らが命の危機にさらされたことで、やっと心を守る鎧にヒビが入っていた。取り繕っていた嘘が剥がされた。そして、ファンの全力の応援で、漸く嘘の鎧が全力で叩き壊された。六万の赤いサイリウムたちが、心の奥底に眠る真実へと誘導してくれた。

 

 ああ、これが()()()()なんだ。

 あぁ。気持ちが溢れてくる。もう我慢しなくて良い! 言って良いんだ、本当の愛を! 

 

「今日のドームライブにこれたのは、スタッフと、社長と、そして、ファンのみんなのおかげです!」

 

 本当は家族って言いたいけど、言えないから。

 だから、みんなにありったけの想いを込めて。

 

「みんなー! 愛してるよーっ!」

 

 これは、絶対嘘じゃない、本当の愛してる! 

 

 ☆

 

 ドームライブは大成功に終わった。

 アイの本物の「愛してる」の後のパフォーマンスは、過去最高峰だった。古参ファンをして、物理的にアイが輝いていた、なんてとんでもない発言をしてしまうようなライブだった。

 その余韻にアイは控え室で一人、浸っていた。

 

「入るよ、アイ」

「ママぁー!!」「アイ!」

 

 扉を開けるや否や、飛び込んでくる二人の愛しい子。

 飛び込んできたふたりをぎゅっと抱き締める。汗をいっぱいかいて、本当は恥ずかしいけど、それを超えるくらい抱き締めたかったから。

 

「アクア、ルビー。愛してる……あぁ、やっと、やっと言えたよぉ……愛してるよ」

 

 ぼろぼろと涙をこぼしながら、泣き笑いをして双子を抱き締める。それにつられて、ふたりも泣いた。

 

「ママぁ、わたしもあ゛い゛し゛て゛る゛か゛ら゛ぁ゛!」

「るびー、おまえ。こえひどいぞ……かあさん、ぼくもあいしてる……!」

 

 わんわんと泣く三人を、あたたかい目で見つめる社長と、ミヤコ。そして。

 

「アイ。探し物は見つかった?」

「うん……ごめんね、我慢させちゃって」

「大丈夫。家族なら二人三脚だろ?」

「うん……愛してる、ヒカル」

「僕もだ、アイ。愛してる」

 

 この日、四人は本当の家族になった。

 

 

 

 

「ところでアイ。僕らの関係と子供の事がバレそうだからさ、誤魔化すために過去暴露本出して良い?」

「えー? 今言う? もー、ムード無いなぁ」

「残念ながら時間もないんだよ。今のうちに報道関連にバーター記事として差し込まないといけないんだよね。で、どう?」

「まあ、別に良いんじゃない? 子供の事さえばれなきゃ実質ノーダメだよー?」

「ということで、社長よろしくおねがいしますね」

「よろしくね()()社長!」

「お前らなぁ……クソッ、ドームライブに免じて許してやる! だからこれからも稼げよクソアイドルとクソ役者!」

「わぁ、お揃いだねアイ」

「ほんとだ、やったあ!」

「こいつら……ところでアイ、お前。今俺の名前……」

「ドームライブまで連れてきてくれたから、覚えてあげる!」

「はっ、そりゃどうも」




「ね? 大丈夫だったでしょ?」

ガチ濡れ場(R18)って需要ある?

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