【完結】天に輝く二ツ星 作:アクアハーレム最後の刺客不知火フリル
ドームライブ当日、早朝。星野一家宅。
「髪のセットよし、双子の着替えよし、ペンラよし、それから……よし、うん。忘れ物はなさそうだ」
「父さんスマホは?」
「もう持ってる。ルビーも準備良い?」
「うん!」
自宅に社長が迎えに来るので、それまでに仕度を済ませていた。
「アイ、着替えは?」
「もう大丈夫! 向こうで衣装に着替えるし、帽子とサングラスは玄関だから……エプロンとったらもう行けるよ~?」
むん、と力瘤を作ってみせるアイに苦笑するヒカル。
「元気いっぱいでなによりだよ。朝御飯食べる?」
「んー、ライブ中は大変だし、ゼリーだけで良いかな」
「じゃあ僕たちはパンだけ食べるね。あれ? しまった、食パン昨日までだこれ」
「えー? あーほんとだ。あちゃー失敗したぁ。まあ焼けば大丈夫でしょ! くんくん……うん、臭くないし、カビも生えてないし!」
「自分が食べないからって適当だなあ……」
がっくりと肩を落とす父は、後でお腹壊さないといいなあとか思いながらトースターでパンを焼く。
「母さん、冷凍しとくと賞味期限以上に長持ちするから、今度から気を付けよう」
「え、そうなの? アクアは何でも知ってるねー?」
「いや、今スマホで調べた」
「なーんだ。スマホかぁ、便利な時代だね」
「おにいちゃん、ジャムとって~! いちごのやつ!」
「わかったって」
幸せな家族の一幕。得がたい幸福だと、アイ自身がふとそう感じた。
その幸せを引き裂くように、ピンポーン、とチャイム音が鳴る。
「あれ? もう社長来たのかな。予定より早いや」
「まあ、気が逸ってるのかも? せっかちだし」
「あーありうるかも。早く出ろ! とか言われそうだし出てくるね」
「僕もついてくよ」
玄関への廊下を渡り、アイはドアの向こうを確認もせずに、不用心にも開けた。
そこには、漆黒の殺意がいた。
「アイ、ドーム公演おめでとう。双子は元気?」
「っ!?」
思わず固まった。なぜそれを? どこで? どうやって? 疑問で固まった。
男はしめた、とどめだ。そう思った。全身を暗い歓喜が巡りながら、握りしめた
「アイ!!!」
だが、間一髪。側にいたヒカルがアイの腕を引いて、奥に引っ込めた。
「うっ!?」
「クソッ!」
思わず呻くアイ、バランスを崩したアイを抱き抱えて、後ろに下がらせる。ヒカルは前に出て、アイをかばい、睨みつける。千載一遇のチャンスを失った男も呻いた。
「警察に連絡させてもらう!」
男にとって状況は最悪だった。アイの殺害を失敗し、よりにもよってカミキヒカルに現場を見られた。しかも今警察を呼ぼうとしている。もう殺せない。すぐに理解した。
だから捨て台詞か何か言おうとして……玄関に綺麗に飾られ、手入れされた“星の砂”があった。
「う、うう……うあああ!!」
「おい!?」
端的に言えば、男は愚かだったが、頭は回る方だった。だから、それが自分が贈ったもので、ファンからの愛の証を大切にしていた……アイの愛が本当なことを理解したから。
だから、たまらずに逃げた。もう、どうしようもないのに。
「アイ、大丈夫か? 怪我は?」
ぺたぺたと身体を触りながら心配をしてくれるヒカルを
「アクア、警察に連絡は?」
「もうした。五分くらいで来るって」
「よくやったよアクア。危なかった。アイツ、ナイフみたいなものを持ってた」
「な……母さんを殺そうとしたのか!?」
「は!? ママを!?」
どうやら激怒する双子の反応を見るに、自分はどうやら刺し殺される寸前だったらしい、とようやくアイは理解した。
「あー、そっか。ドアチェーンってこういう時のためにあるんだ? 施設では教えてくれなかったなぁこういうの」
「……呑気だなあ」
「ヒカルが守ってくれたからね、実感があんまり無いんだ。突然話しかけられたと思ったら、突然引っ張られたって感じ」
「そっか……無事で良かったよ」
遠くから、サイレンの音が聞こえてきた。
☆
結論から言えば、事情聴取は想定外にも最低限で終わった。警察にとってはアイドルのストーカーが、彼らの供述通りならば殺人未遂疑惑をして、まあ監視カメラの映像を見るに不法侵入をしたらしい、とそれだけであり、痕跡と指紋を採取して、状況の説明を聞くと、後日詳しい話を聞くとしてさっさと帰っていった。犯人を追う方が先決だからかもしれない。アイもヒカルも、別に警察のことに詳しいわけではない。
だが、ここからが問題である。
「社長。大変です。僕らが同居してるのがばれてしまいそうです」
「あー……クソッどうしようもねえ! これはバレるしかない」
男二人で頭をかかえている。ライブまではまだ時間がある。
そこで何かを閃いたのがルビーだ。
「ねぇ、なんとか二人が同居……最高で、パパの家にママがお泊まりで遊びに来てただけでした、でおわりそうな展開とかにならない!?」
あまりに都合の良い夢のような展開を口にするルビー。アクアは無理だと思った。社長は無茶だと思った。
「……社長。アイに許可をとる必要がありますが」
行けるかもしれません。ヒカルは一筋だけ、解決案を話した。
「僕、もしかしたらいつかばらしてもよくなったら、世間に僕たちの関係をばらそうと思ってたんです。その時のために暴露本みたいなものをこっそり書いてたんですよ。これを改稿すればなんとか……いけるかもしれません」
だって日本人は、お涙頂戴と判官贔屓が大好物ですから。決意のこもった表情で、ヒカルはそうとぼけてみせた。
「だが良いのか? そうするとお前達の関係は……」
「まあ、一生……はちょっと大袈裟ですが、この先20年くらいは暴露は無理ですね」
アイがアイドルやめたら話すつもりだったのになぁ、ととんでもないことを暴露するヒカル。斉藤社長は、とんでもねぇ不発弾がいやがった、と嫌そうな顔をした。
「でも大丈夫。アクアもルビーも、良い?」
「それで、大丈夫なら」
「ママと、パパの……家族のためになるなら全然平気!」
アクアとルビーは悩んだが、最終的にはそれしかないと判断した。
本人不在の中で、彼女を守るための家族計画が発動した。
そして……ライブが始まった。
ドームライブ、約55000人を集客可能だというのに60000人超のファンが集まり、B小町を応援していた。
舞台に立つアイは、ドームが真っ赤に染まるのを見た。自分の推し色……これだけの人が自分のファンなのだと。
「みんなー! 今日はありがとー!!」
でも、ああ。少し落胆の気持ちはあった。こんなに愛されてるのに、愛してるって心から言いきれない自分がいた。
……ちらりと、視線を向けた。関係者席に、家族がいた。みんな、赤い色のペンライトを握って、アイを応援している。双子は相変わらずオタ芸なんかしてるし、社長もミヤコさんも、ヒカルも叫んでいる。みんなそう。家族だけじゃなくて、このドーム中のみんなが……。
星野アイは、自らが命の危機にさらされたことで、やっと心を守る鎧にヒビが入っていた。取り繕っていた嘘が剥がされた。そして、ファンの全力の応援で、漸く嘘の鎧が全力で叩き壊された。六万の赤いサイリウムたちが、心の奥底に眠る真実へと誘導してくれた。
ああ、これが
あぁ。気持ちが溢れてくる。もう我慢しなくて良い! 言って良いんだ、本当の愛を!
「今日のドームライブにこれたのは、スタッフと、社長と、そして、ファンのみんなのおかげです!」
本当は家族って言いたいけど、言えないから。
だから、みんなにありったけの想いを込めて。
「みんなー! 愛してるよーっ!」
これは、絶対嘘じゃない、本当の愛してる!
☆
ドームライブは大成功に終わった。
アイの本物の「愛してる」の後のパフォーマンスは、過去最高峰だった。古参ファンをして、物理的にアイが輝いていた、なんてとんでもない発言をしてしまうようなライブだった。
その余韻にアイは控え室で一人、浸っていた。
「入るよ、アイ」
「ママぁー!!」「アイ!」
扉を開けるや否や、飛び込んでくる二人の愛しい子。
飛び込んできたふたりをぎゅっと抱き締める。汗をいっぱいかいて、本当は恥ずかしいけど、それを超えるくらい抱き締めたかったから。
「アクア、ルビー。愛してる……あぁ、やっと、やっと言えたよぉ……愛してるよ」
ぼろぼろと涙をこぼしながら、泣き笑いをして双子を抱き締める。それにつられて、ふたりも泣いた。
「ママぁ、わたしもあ゛い゛し゛て゛る゛か゛ら゛ぁ゛!」
「るびー、おまえ。こえひどいぞ……かあさん、ぼくもあいしてる……!」
わんわんと泣く三人を、あたたかい目で見つめる社長と、ミヤコ。そして。
「アイ。探し物は見つかった?」
「うん……ごめんね、我慢させちゃって」
「大丈夫。家族なら二人三脚だろ?」
「うん……愛してる、ヒカル」
「僕もだ、アイ。愛してる」
この日、四人は本当の家族になった。
「ところでアイ。僕らの関係と子供の事がバレそうだからさ、誤魔化すために過去暴露本出して良い?」
「えー? 今言う? もー、ムード無いなぁ」
「残念ながら時間もないんだよ。今のうちに報道関連にバーター記事として差し込まないといけないんだよね。で、どう?」
「まあ、別に良いんじゃない? 子供の事さえばれなきゃ実質ノーダメだよー?」
「ということで、社長よろしくおねがいしますね」
「よろしくね
「お前らなぁ……クソッ、ドームライブに免じて許してやる! だからこれからも稼げよクソアイドルとクソ役者!」
「わぁ、お揃いだねアイ」
「ほんとだ、やったあ!」
「こいつら……ところでアイ、お前。今俺の名前……」
「ドームライブまで連れてきてくれたから、覚えてあげる!」
「はっ、そりゃどうも」
「ね? 大丈夫だったでしょ?」
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