【完結】天に輝く二ツ星   作:アクアハーレム最後の刺客不知火フリル

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輝ハピエン増えろ増えろ……


星の夢を その2

 

 ワークショップ初日。ヒカルはさも真面目な中学生といった風に自分に教えを乞いに来た大人達へ一生懸命を装って、演技について教えていた。確かに、ヒカルにとって何かを教えるというのは、中々無い新しい経験だった。

 

 まず初めに思ったのが、ララライの役者達と比較して要領が悪い、と感じたことだ。レベルが低いのは分かる、教えて貰うために来ているような人達だから。しかしここでは、何度同じことを言ってもその通りに出来ずに首をかしげる人が少なくないのだ。これは中々ない経験と言って良い。なにせ演技も勉強も大して苦労した記憶がない。それよりも自分の存在意義について悩む方が多かったからだ。

 

(僕って……実は、結構上澄みの人なのか? ……いや、下を見れば、ってだけだ。素人の相手をして勘違いするなヒカル……)

 

 売れない役者として燻っている上原清十郎、現在は姫川愛梨の夫をやっている彼とも何度か共演したことがあるが、彼ですら言二言交わせば理解するし、やってみせる。姫川愛梨が都合の良い男として見ているのを察していたヒカルは、男としても役者としても無自覚に下に見ている相手だったが、普通に振られたことは出来るという認識はしていた。

 

 これはヒカルが人生を通して一般人とほとんど関わらない生活をしてきたから、というのもある。売れっ子子役として学校に居る時間も少ないし、そもそも芸能界に理解のある中学校のためか、突然昼休みから消えるクラスメイトも少なくないし、要領が良い同級生も多かった。ヒカルも例に漏れず要領の良い生徒で、非常に頭が回るし、勉強に困ったこともない。それ故に彼にとっての普通の基準はうんと上がっていた。

 

「ふう……」

 

 やっと自分の前に出来ていた行列がなくなったので、吹き出してきた汗を、タオルで拭う。そしてペットボトルに入っているスポーツドリンクを飲む。塩味と甘味が心地よい。

 

「おーいカミキ! この子はお前が教えてやれ」

 

 噂をすればワークショップに教導側として参加していた上原が、中学生くらいの少女をつれてやってきたと思えば、馴れ馴れしく自分のことを引っ張ってくる。ヒカルはとぼけながら驚いたふうな返事をくれてやった。そして、そこにいた少女と顔をあわせる。

 

「えっ、僕がですか!?」

 

(何か変なヤツが来たな……いやダサっ!?)

 

 これがカミキヒカルが星野アイに対して初めて抱いた、正直な感想であった。それも仕方ないだろう。

 当時のアイは、それはもうお洒落とはほど遠いような格好だった。ジャージのズボンに男物のTシャツ、それにシンプルなキャップ。端的に言って、ダサい。よく見れば靴下も右と左が違うし、スニーカーはボロボロだ。どれかひとつがワンポイントとしているのなら、あるいはコンセプトファッションであれば彼女の美貌もあってファッションとして成り立っていただろうに、どれもこれもがちぐはぐなせいで「お洒落に興味ありません」と全身で表現することになっていた。

 

 一方で、僕なんかで、良い経験だろ、とそういうやり取りを夫とヒカルがしているのを、冷めた目で姫川愛梨は見ていた。自分はもう彼に手を出して遊べるような立場ではなくなってしまったし、むしろなにもしなくてもそういう男の子を、仕事を得たいスポンサー側が差し出してくることもあった。なにより、大輝という育て甲斐も()()()()()ある子までヒカルから手に入れたのだ、もう十分だろう。

 

 ……当たり前の話だが、一夜程度で妊娠するなんてことは。ましてや、避妊具を装着した上で妊娠するとなると、天文学的な確率になってしまう。もちろん0%ではないが、まずあり得ない。そうでなければ、妊活等という言葉は存在しない。

 

 そう、姫川愛梨はあれが初夜であることを見抜いていた。だから、日時を指定してあえて危険日を狙い、愛梨が大人の責任だなんだと適当な事を言って、愛梨が用意した細工を施した穴空き避妊具を用いて事に及んだ。彼との「証」すら欲した彼女は、それだけ芸能界の闇に壊されていた。

 もちろん、ヒカルの認識としては避妊具を使ったという認識であるため、まさか今愛梨が抱いている子供が自分の血を引いているとは夢にも思っていない。

 

 しかも、話を聞くにあの少女はアイドルだという。ならばむしろくっつけてやれば、ヒカルを失った己の無聊の慰めにでもなるだろうし、ヒカルを完全に切り離すのにも持って来いだと考えた。ヒカルの美貌にあてられて子供でも出来たら、アイドルとしても、芸能人としても、人生もおしまい。こんな世界に背伸びして来ようとするからこうなるのだ。かつて自分がそうであったように、そうされてしまえばいい。

 

 

「まあ、良いんじゃない?」

「だろ?」

「ひ、姫川さんまで……」

 

 味方だと思ってたのに、といわんばかりの反応に愛梨の心は僅かばかりではあったが満たされる。そんな利己的で被害者思想から来る行動ではあったが、結果としてアイとヒカルはペアを組むこととなった。

 

 教え始めた頃、はっきり言ってアイは、ヒカルとしても変人としか形容できなかった。毎日ほとんど服は変わらないし、靴もボロボロのままだし、同じ靴下を平気で数日履き回しているし、髪の毛は伸ばし放題で適当、よく見れば枝毛もある。それに、中学生であることを加味してもメイクもちっともしていない。それでいてあれだけの美貌を持っていた。だが、教え始めて暫くの間は、ヒカルは綺麗だなとは思ったが、大してアイに興味を抱いていなかった。だからカリキュラム通りに教えていくのだが、数日後。

 

「どう?」

「……指摘した部分が全部良くなってる」

 

 まずここで、初めてアイの異常性に気がついた。ここが良くない、ここはこうした方がいいと指摘すると、数日すれば見事に修正されているのだ、それもミリ単位で。ひとつ年上なのに下手すればその辺の子役よりもアホなんじゃなかろうかと感じる学の無さだが、彼女はそれを知識として知らないだけであって知能指数はむしろ高いとヒカルは考えている。勉強が苦手なのも、勉強する習慣がなかったのだろうことは手に取るようにわかる。

 こういう相手は教える甲斐がないと金田一ならば嘆くのだろうが、ヒカルは逆に楽しさを見いだしていた。なにせ、教えれば教えるほど良くなっていくし、勝手に自己研鑽して応用もしてくるのだ。教導者として素人であるヒカルからしてみれば、面白くてしかたがない。教えれば教えるほどスポンジのように吸収していくので、それが面白くてしかたがない。だが、彼女に欠けている部分も見えてきた。

 

(変人で、嘘つきだ)

 

 感性が独特といえばいいのだろうか。ヒカル自身も見覚えのある話だ。普通というものが全くわからないし、周囲にあわせるのも一苦労。ヒカルはまだアイに比べれば誤魔化せているだけ軽症な方だ、と自己認識している。その上、人の名前はちっとも覚えられないし覚える努力もしない。

 そして。自分と同じ、常に嘘をついているタイプの人間……いや、語弊になるから正確に現そう。自分と同じく、心を取り繕って、見て見ぬふりをするために嘘をついている。どうしてそんな彼女が芸能界という魔境に居るのか。ヒカルは興味が湧きはじめていた。

 

 ☆

 

「カット! ……いや、すげぇわ」

 

 五反田は驚愕と感嘆をしていた。実際にそのシーンの演技をみてみない事には……という考えはあった。本人(ヒカル(中二))役の本人(ヒカル(30代))という、冷静に考えれば違和感があるはずの演技なのだが……全く違和感がない。学生服を着こなしているし、メイクの効果もあるのだろうがいかにも純朴そうな瞳をキラキラさせた学生としての顔がそこにある。

 元々アクアやルビーを当時の役として当てはめる予定だったのだが、そこはカミキヒカル本人がやる気だった。一応オーディションをして、やはりずば抜けているので採用したわけだが。

 

 当時のキラキラな感じの演技をしてた彼を表現するならば、彼以外出来ないと思えるほどの演技だった。実際問題として、本性を完璧に見抜いたのはアイだけだそうだが。

 

「じゃあ、このカットはアクアが。できそう?」

「任せろ、父さん」

「うん、やっぱ()()()()()()はアクアの方が得意だからね」

「誉められてる気がしない……!」

 

 それを技法として再現するために、監督が考え抜いたのが二人一役。「アイからみたヒカル」であり、都合の良いベッドシーン役としてアクアを採用した。同じ手法として「みんなから見えるアイ」を本人が、「ヒカルから見たアイ」をルビーが演じる手筈になっている。兄とのキスシーンもあるので、色んな意味で大丈夫なのか五反田は心配していたが、そもそもルビーが結構なブラコンなのはファンにも周知の事実。むしろアクアを差し置いて「ブラコンアイドル、彼女の居る兄とのキスを合法的に成功させる」と言われ、呆れられる程度だろうと苺プロは予測していた。

 こうなった最大の原因は、主にアイの「流石に息子の友達と夫がベッドシーンやるのはちょっと生理的に無理」という要望に答えた形だが。

 

 なにせ、姫川愛梨役に採用したのは不知火フリル。姫川愛梨は出番回数としては端役だが、インパクトのある出番が多い。ヒカルとの冒頭のベッドシーン、夫に似ていない息子を抱いて現れ、ヒカルに意味深な視線を向けながら、息子を撫で回して去っていくのだ。

 更に、上原清十郎役の姫川大輝に至っては端役も良いところだ。賞持ちの役者や国民的美少女を主役に据えずにいるこの作品は、スポンサー云々を抜きにして、莫大な金額がかけられているのが分かる。それだけ「真実のアイ」は売れた。

 さらに、アイとヒカルの記憶が不明瞭な部分や、エンタメとして弱い部分を誇張・改編するためのスペシャルアドバイザーとして、アクアの伝手から「今日あま」「東ブレ」の漫画家師弟コンビも脚本に手をいれる形でサポートした。特に「おしゃれに全く気を遣ってないアイ」の表現として、靴と靴下をボロボロにするアイデアは五反田では出なかった、女性ならではの容赦のない発想だ。「私こんなにダメダメだったっけ!?」「細かくは覚えてないけど大体こんなんだったわね、確か」というアイと斎藤ミヤコ社長夫人の会話が、監督にとってはとても印象的だった。




「え、私その……なんだっけ、名前忘れちゃった。大輝くんの死んじゃった書類両親だよね。会ったことあったんだ」
「戸籍上ね、あと片方は本当に血縁のある親だから。まあ当時のアイは、今よりも人を覚えるの苦手だったからね。結局顔を会わせたのもあれっきりだし……でも僕のことは直ぐ覚えたよね?」
「一番かわいくてきれいだったってのもあるけど、やっぱり運命だからじゃない?」
「確かに」

ガチ濡れ場(R18)って需要ある?

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