【完結】天に輝く二ツ星 作:アクアハーレム最後の刺客不知火フリル
「いやー私は楽で良いね、今回の収録~」
そういいながら面白そうに笑うのは、今人気絶好調の元清純派にして現面白天然女優・不知火フリル(18)である。何故か控え室でニプレスにバスローブという意味不明な姿で寛いでいた。
「えっと、不知火さん……」
「フリルで良いよ、片寄ゆらさん」
そんな奇人と二人きりになってしまったのは、新進気鋭の才能溢れる女優、片寄ゆら(26)であった。鏑木から「若手オールスターみたいな映画やるんだけど、端役でもいいなら出ない?」と誘われ、それに食いついた。フタを開けてみると、自分の役は「ヒカルに双子を押し付ける親戚」の役という結構キツめの役だったが、やりがいはあった。あったのだが……。
(き、聞いていた以上にキャストに奇人変人が多い……!)
目の前のもう出番もないのに何故かほぼ全裸でいる不知火フリルを筆頭に、実の兄とのキスシーンでなぜかうっとりしている現役アイドルの星野ルビーに、それを全く気にしていない兄アクア。
憎まれ役ながらもバッチリ当時のニノ役を主役かと錯覚するほどの演技で演じきった直後だというのに、そのルビーとハイタッチしてたり情緒どうなってるのか聞きたい「天才」有馬かな、その有馬かなの秘書かなにかのように側で甲斐甲斐しく世話役をしているもう一人の天才、高峰役の黒川あかね。
言うまでもない最近アツアツのカップルになった、ところ構わずいちゃついているアイとヒカル。ララライを始めとするベテラン役者たちはそんな奇人たちに慣れてると言わんばかりにスルーしている。
まともそうなMEMちょも、演技が終わるとかならずあの謎の角付きカチューシャを付けるというルーティーンをしているし、あの姫川大輝は、自分の父親役というかなり重い役のはずなのに、本読みもそこそこに、練習が本格的に始まるまで、台本をアイマスク代わりにその辺のパイプ椅子でグースカ寝ていた。
全体的になにか様子がおかしい連中しかいなかった。割かしマトモで陽キャ気質で活発的な片寄ゆらは軽く引いた。
同じく端役ながら場面がきっちりある、似たような立場のメルトが癒しかと思うような面子だ。ちなみにメルトはアイの自宅に押し入ってくるストーカー役である。本来はソニックステージのイチオシモデルにやらせるような役どころではないが、本人が「役の幅はあった方がいい」という意欲的な姿勢により採用されたという背景を持つ。
双子の真実を世間にばらすには、まだまだアイは人気絶頂過ぎるので、残念ながら双子を取り上げ、そしてバードストライクで死んだ雨宮医師の出番はない。仮に出番があったにしてもカラスにぶつかって死ぬのはアレすぎて映像化しないだろう。
「片寄さんは濡れ場って経験した?」
「あ、えっと、まだです……」
何故か理由は不明だがやたら絡んでくるフリルにたじたじしているゆら。それもそうだろう。片寄ゆらはこれから売れていくぞという段階である。対して不知火フリルはもう自分の番組を二十歳前だというのに持っている。芸能人としてのレベルが違うのだ。しかも年下、扱いにくすぎる。
「私は今回がはじめてになるかな」
「それは……凄いですね。まだ18なのに」
「チャンスでもあったからね」
なんのチャンスなのだろうかと思うが、片寄ゆらと不知火フリルはほぼ初対面。片寄ゆらは人付き合いが上手い方なので、やんわりと踏み込まないように避けようとした。
「あはは……えっと、最近は厳しいですからね」
「それもあるけど、人前で脱げるチャンスも中々ないし」
しかし不知火フリルはそれを見切った上であえて正面衝突してきた。ゆらは絶句した。
(露出趣味なんだろうかこの子!?)
無表情というか、演技以外であまり表情が動いているところをみたことないので何とも言えないのだが。
「あ、誤解しないでほしい。私は露出趣味はない」
「あの……目の前で半裸なので説得力ないです」
「こんなに貞淑に隠しているのに!?」
そんな心外! といわんばかりに驚かなくても。
「よくみてほしい。ニプレスと前張りで大事なところは隠れている。その上で実は私の肌の色と同じ色の全身タイツを履いている。圧着感が癖になる。着心地がよい。その上でバスローブまで羽織っている。厚着ではないだろうか」
「あの……凄い失礼ですけど世間一般ではそれを変態というんですよ」
「知ってる。全部嘘だから。流石に恥ずかしいよ?」
「そういうプレイをしてらっしゃる?」
年下とか目上とかそういった遠慮や緊張が全部吹き飛んでしまった。
「そんなわけない。実は結構恥ずかしい。てれてれ」
「じゃあ何でそんな格好してるんですか!? 正直にいいますと目のやりどころが!」
「見ればいいよ。シミひとつないから」
「タイツですからそうでしょうね!」
どんどん遠慮が消えて声も大きくなっていくゆらをみて、無表情の裏でフリルはホッと一息吐いた。
(固さが取れていい顔になった。これなら本番良さそうかな)
もちろん、あの不知火フリルが意味もなく奇行をしていることはあまりない。もちろん意味もなく奇行をしていることもあるが、流石にほぼ全裸にはならない。
フリルの見立てになるが、アイほどではないにせよ演技力はあるのに、どこか遠慮がちな空気を片寄ゆらに感じていた。それが自分を筆頭とした年下だがキャリアが上の存在が原因だと察した。特にゆらの役は無遠慮に、たらい回しにされてきた双子を金を持っているからと当時中学生のヒカルに押し付けるという、恥知らずな役まわりだ。内心に遠慮があったら、良い演技は出ないだろう。そこでフリルは一芝居打ったというわけだ。
その目論見がうまくいったのか、はたまた片寄ゆらの演技の才能が緊張を越えて優れていたのか。見事に無遠慮でイヤミな親戚役を演じて見せたのだった。
それはそれとして、遠慮をなくすためにほぼ全裸を選んだのはせっかくだからという理由だけなので、やはりどこかネジが外れていた。
☆
映画の中では、親戚に押し付けられたということになっているが、もちろん真実は違う。
アイと交流を重ねるうちに自然とそういうことをする関係になり、身体を何度も重ねていたのは確かだ。当時のヒカルは実に強かかつ狡猾に言葉を操り、アイという新たな依存先に言葉巧みに股を開かせた。あとはもう、一度抱いてしまえばずるずるとその関係を続けることになり、ヒカルは自分に嫌悪感を覚えながらもアイに依存し、精神的な安定を得ていた。
しかし、ある日。
「子供、出来ちゃった」
あっけらかんとそう言い放つアイに、ヒカルは目の前がぐにゃりと歪むようだった。真っ青になりながら、なんとか持ちこたえる。
(子供!? 避妊してたはずなのに何故!? よ、養育費はどうすれば!? というか届け出は! 現役アイドルだぞ相手は! スキャンダルになったらどう責任を取れば……堕胎……くそ……いや……)
中学生になったヒカルは、流石に性行為がどういうものかしっかりと認識していたし、渡された避妊具がどういう効果を持つのかも理解している。もちろんアイもアイドルであるため、子供は流石にまだ……という考えをヒカルに話してはいた。
しかし、出来てしまったものは仕方ない。
ここで、ヒカルはまず結婚しよう、とか責任を持とう、とか言う前に。奇跡的に、あるいは運命のいたずらか。もしくは、心に僅かでも余裕があったからか。ヒカルの口から、漏れ出るように、言葉が出ていた。
「産むのか……?」
もし、順序が違えば、きっとアイは自分に依存して潰れかけているヒカルを、まず拒絶していただろう。しかし真っ先にお腹の子をどうするか聞いたことで、アイはこう判断した。
(……うん。いまのヒカル君なら大丈夫かな?)
アイは、ヒカルが自分に依存しすぎているから、まず初めに結婚とか一緒に過ごそうとか言い出すと思っていた。だが、ヒカルは子供を産むのかどうかをまず聞いてきた。
自分よりも、
「もちろん」
「そうか……」
アイがもう大丈夫と判断したのは、間違いなかった。産むのを肯定すると。先ほどまで動揺で泳いでいた瞳が、ぴたりと治まった。迷子のような顔は消え、きりりと男前に引き締まっていく。その顔にどきりとアイの心臓が跳ねる。不思議な感覚だった。顔が熱くなるのを自覚する。
「わかった、責任を取る」
きゅんきゅんと胸が高鳴る。ああ、なんだろう? この気持ちは? おそらく、愛ではないと思う。ではないのに。ヒカルのことで頭と胸が一杯になってくる。
(あ……そっか……これが)
ヒカルの事は好きだ。だがその好きは、子供っぽいキレイなモノだから好きというのが始まりだ。
子供だって「なんとなく」作ってみただけ。ヒカルが潰れそうだったし、別れるきっかけになるかもなんて。
ヒカルは好きだし、彼との間の子ならまあいいかなー、なんて軽い気持ちでプスプスゴムにまち針で穴を空けて、子供が駄菓子を買うような気軽さで実行した。それで見事命中して、ヒカルは覚悟を決めた。
普通に考えれば、異常だろう。
それでようやく、本当に恋に落ちたなんて。
一方のヒカルも、ドクドクと心臓が跳ね回っているのを感じている。だがイヤではない。むしろ、全身に力が漲ってくるかのように感じる。
(僕とアイの子供……血の繋がった子供)
ヒカルは空っぽだった自分の中身が、急速に満たされていくのを感じた。まるで、乾いたスポンジが水を良く吸うように。
決して目に見えるわけではない。妊娠検査キットを見せられて、妊娠した印を見ただけだ。それでヒカルは良かった。自分が生きていても良いと思える証を、ようやく見つけられた。
(これから、凄く大変だ)
頭では理解している。苺プロの社長には怒られるなんてものじゃすまないだろう。それ以降だって大変だ。世間一般では認められない、未成年で子作りをしてしまった男女など、立場が危ういのは当然。
そうなれば子供だって未来が暗くなり、末路は
それなのに、ヒカルは満たされていた。それは命の重みを感じていたから。自分だけではない、アイと、その子供。少なくとも二人分の命を自分が背負うことが出来る。それが自分の産まれてきた意味なのだと。
もう、アイドルに依存していた少年はそこには居ない。顔には赤みが差し、血色が良くなっていく。うつ向きがちだった背筋がピンと伸びていき、瞳には力が宿るかのような輝きがあった。さわやかな空気を全身に取り込んで、よくないものを吐き出せるようになった。
これからは自分が命を支えていかねばならないという自負が、僅かな時間で少年を男に成長させたのだ。
「責任って、結婚とか?」
「いずれだね。僕たちまだ未成年だし。まずは親代わりの社長さんとこに頭下げに行くよ。殴られるかも……」
「……アイドル妊娠させたら、そりゃそうなるよね!? ごめん! 私、ゴムに穴空けました!」
「……まあうん、そんな気はしてた」
アイの疑問にも明朗に答えられる。アイのとんでもないカミングアウトだって、もう気にならない。ヒカルには明るい一筋の光が見えていた。
この時はじめて、嘘つきたちは恋人になった。
ようこそ……「男」の世界へ
アクアおまえ母親そっくりだな!()ということでタグの追記をしました
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