【完結】天に輝く二ツ星   作:アクアハーレム最後の刺客不知火フリル

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星に夢を その6

 

(男の居るアイドルを推せるのか、か)

 

 ゴローは一人、屋上で黄昏れていた。アイは産む、産まないはともかくとして、療養中ということになっているため宮崎に滞在するようだ。ヒカルはまだ仕事がみっちり詰まっているのだが、定期的にお忍びで来るらしい。その仕事が終わり次第、成長期を理由に活動休止をするという話をしていた。壱護はその準備のためにてんてこ舞いだろう。

 ちなみにこのゴタゴタの陰でひっそりと苺プロにヒカルは所属した。元々どこかの事務所に就けとは言われていたヒカルは一蓮托生と言わんばかりだ。幸い、今後苺プロはタレントたちがドラマや映画出演をすることは予測済みであるため、役者関連の部門立ち上げの良い切っ掛けになった。

 

 だがそんなあわただしいアイの周囲をよそに、一人星空を見上げている。偶然待合室で騒いでいた、患者達の台詞がゴローの心をかき乱していた。

 「男の居るアイドルを推せる?」。口ではなんとでも言えよう。いちファンとしては祝福したい。しかし、間違いなく彼女をメディアで見る頻度は減るだろう。なまじ実物として男が出来ている状態をみてしまったゴローだからこそ、子育てをはじめとした諸問題をより明確なビジョンとして簡単に想像できた。それはファンとしては勿体ないと思う。

 

「ファンってのは身勝手だよな……そう思うだろ、さりなちゃん」

 

 はあ、と待受画面に写る少女を眺めて息を吐く。山中にあるだけあり、九州と言えど夜風が少し冷たい。出産はおそらく来年上半期になるだろう。4月から6月あたりになる。その時期は間違いなくアイドルとしてのアイは見ることが出来ない、それは悲しい。ファン心理とはまさしく理性のない獣である。度し難しとわかっていても気持ちを止められない。そんなふうな事を考えていると、背後で扉が開く音と、二人分の声が聞こえた。

 

「アイ、ほらせめて上着着てって。外は寒いよ、身体に悪いから」

「着せて~」

「しょうがないな」

 

 振り返ったら、ちょっと吐き気がぶり返した。目の前で推しと男がイチャイチャするともなると、流石のゴローもちょっと、いやかなり辛かった。

 

「夜風が体に障りますよ……」

「あ、センセ」

「雨宮先生、こんばんは。お疲れさまです。改めて、神木輝です」

「これはどうもご丁寧に……」

 

 この年できちんと挨拶が出来る、それだけでヒカルくんは良い子だなんて思ってしまう。でもこの年で子供孕ませたんだよなと思うと良い子という印象は半減した。半減で済んでいるのは、状況的にたぶんアイが強行したらしいことだけではなく、ヒカルがゴローからしても可愛い系であることも影響している。男相手でも通じるイケメン無罪であった。

 

「わ、見てヒカル。まだ夕暮れなのにこんなに空が綺麗! 星がよく見えるね」

「本当だ。流石に東京じゃこうはいかないね」

「なんでだっけ? 空気が綺麗だからかな」

「それもあるけど、東京は深夜でも明るいだろ」

「なるほど」

 

 ばっと夜空に手を伸ばすようにするアイと、それを支えるヒカルに、ゴローはまるで美しい絵画か、ドラマの1シーンでも見たような気分になった。一挙手一投足が二人とも絵になるのだ。その空気に当てられのか、ゴローはここでファンの自分を納得させるべく行動した。

 

「やっぱり、君たちがここに来たのは東京だと人目につくから?」

 

 その台詞に、すっと目を細めるヒカルと、あれ? ときょとんとするアイ。二人が何を意識しているのかは一目瞭然であった。

 

「あれ? 私の仕事言ったっけ?」

「いや、昔……患者に君のファンが居たんだよ」

 

 ゴローの名札の裏には、いまも普段も見せていないアクリルキーホルダー「アイ無限恒久永遠推し!」と書かれたさりなの遺品がある。

 

「あちゃー」

「うーん、知名度からして地方の端なら知られてないと思っていたんだけど。こんな偶然あるもんだね」

「ねー、おじさんばっかで知らない人の方が多いと思ってたのに。やっぱり隠せてないのかな、この体を通して出る力が☆ こまったこまった」

「本当に困ってる? そこは芸能人オーラとかじゃない?」

 

 しょうがないなあみたいな顔をするヒカルをよそにどや顔をかますアイ。いちいち仕草が可愛い。……そうではない。ゴローは意を決して、肝心の質問をすることにした。

 

「君は、アイドルを辞めるのか?」

「なんで? 辞めないよ?」

 

 けろりとなんでもないようにそう答えるアイ。

 

「でもそれは……」

 

 それは、茨の道ではないか。そう言おうとするのを、遮るようにアイは答える。

 

「私達ね、家族って()()()から。そういうのに憧れがあるんだ~」

 

 私「達」。つまりそれはアイだけでなくヒカルもそうだという意味で。まだ、祖父母に育てられただけ自分は恵まれている方なのではないかと、目の前の顔の良い二人を見てつい思ってしまった。そんな思考を吹き飛ばすほどの、夜空の星にも負けない一番星の笑顔で彼女は笑った。

 

「お腹にいるの双子なんでしょ? だったらきっと、賑やかで楽しい家族になるよね!」

 

 子供は産む。アイドルは続ける。つまり。

 

「つまり、それは……」

「そうなりますね。公表しない」

 

 ヒカルの言葉に合わせてニヤッ、といかにも悪い笑みを浮かべるアイが可愛い。ヒカルは続ける。

 

「アイドルも役者も結局のところ同じ穴の狢、嘘つきなんです。嘘を纏って役を演じるのが役者で、嘘という魔法で輝くのがアイドル」

「つまり、嘘に嘘を上塗りして、子供くらい隠し通せて当然! だって……嘘は、とびきりの愛なんだよ?」

 

 嘘は、とびきりの愛。その言葉がゴローの中でリフレインする。アイはファンを嘘でも愛している。だからこそ、彼らに夢を見せるために子供は居ないと嘘をつく。

 

「しかも、アイはとんでもない欲張りさんでして。母としてもアイドルとしても幸せを掴むと言うんですよ」

「それは仕方なくない? だって星野アイは欲張りなんだから」

 

 ゴローは、この二人なら大丈夫だ、という確信を得た。きっとどんな困難も二人三脚で乗り越えていけるだろう。そこでようやく、ファンの自分(感情)医者の自分(理性)が。

 

「和解した」

 

 思わず呟く。アイは思っていたより強くて、図太くて、逞しかった。そんな彼女を支える、若いながらに冷静な彼の存在までいるのだから、こうなればアイは無敵だ。ああ、あの社長が間違いなく爆弾であるアイを切り捨てられなかった、その理由の一端もわかる。こんなの、狂わずには、ズレずにはいられない。あまりにも眩しい嘘吐き(アイドル)がそこにいた。だったら、どうしようもない程に彼女の奴隷(ファン)であるゴローがやることは、ひとつだ。

 

「二人とも、協力させてほしい。二人の子は、安全に確実に、僕が産ませる」

 

 ああ、きっと僕はこの時のために医者になったのだ。この時はそう考えていた。

 

 ★

 

「ということがあったんだ」

「え~!! ずる~い! そんな名シーンがあったなんて!」

「そこは長生きした特権だな」

 

 そんな昔話を、アクアはルビーにベッドの中で話していた。当然のようにお互いにパジャマ姿で同衾していたが、こんなのは双子達の間では挨拶にもならない普通の事であった。

 

「まあその後は知っての通り、偽名でアイを入院させて出産予定日までは持たせたんだが、俺は退勤して帰宅中にカラスにぶつかって崖の下というわけだな」

 

 まさかその後、自分がその冗談の通りになるとはおもわなかったが、と続ける。今思えばあのカラスは、アクアには見たことがある気がしてならなかった。もしかしたらあのカラスは、いつかルビーがさりなちゃんだった頃に助けたカラスだったのかも。そう思うと、自分にぶつかってゴローもろとも死んだであろうカラスの事を少し不憫に思った。

 

「そうだね。でも自然分娩でママもわたしたちも無事でよかった~! とくにママ」

「骨格的にかなり不安があったのにな……まあ確かに、帝王切開ともなると手術痕でばれかねないってのもあるが……しかしよく考えるとアイはすごいな」

 

 安定のファン視点でのルビーの頭を撫でながらふとアクアは思ったことを言う。

 

「何が?」

「いや、双子を自然分娩で産んだのもすごいんだが……その後のお腹だ。妊娠線が綺麗さっぱり消えてた」

「まあママだし……」

「その一言で済ますのもどうかと思うが、まあ確かに母さんだしな……」

「パパもまだ全然老けないしね」

 

 星野アイ(34)、神木輝(33)。現在も10代に間違われるほどの美貌を維持しているちょっとした魔法使いのような二人が、双子にとって一番の神秘である。しかしそれは他人事ではなく。

 

「……俺とルビーもそうなるのかもな」

「嬉しいような悲しいような……」

 

 若々しさを保つのはいい。だが両親のように妖怪か何かのように扱われるのはちょっとモヤモヤする双子。そんな気持ちをごまかすように話題をそらした。

 

「そういえば『真実のアイ』の収録ってどこまで行ったっけ? 撮るシーンがバラバラしてるからよくわかんなくて……」

「確か……足りてないのは子役が必要なシーンだな。中々居ないだろ、俺らみたいな比較的手のかからない早熟の子供」

 

 子役に関しては、かなり問題となっていた。いくつかのシーンは実際の映像(例えばあのサイリウムベイビーの動画とかだ)を使えば良いのだが、それ以外の演出上必要なシーンとなるとそうもいかない。幼稚園児くらいの年で当時のアクアとルビーほどの理知的な行動に出られ、かつ芸能界にかかわっているともなると片手ほどいるのかどうかだ。候補としてパッと思いつくのはそれこそ具体的に言うと一人いたが、もう過去のものだ。

 

「あー……あの頃のかな先輩位?」

「やっぱ天才だよなアイツ」

「だよねー、私達みたいなズルもしてないのにだもんね」

 

 その具体例となる、当時の有馬かなはタイムマシンでもない限り彼女を呼び寄せることは出来ない。あったにしてもタイムパラドックスが起きそうで嫌だなあ、とアクアは思った。

 その上監督が監督なので拘ってオーディションをやるので停滞しており、とりあえず撮れるシーンは撮ってしまおう、というのが現場の状態であった。おもわずアクアに抱きつきながらも、ルビーは深い溜め息をついた。

 

「はぁ~、社長とミヤえもんの子とかなってくれないかな~?」

「無理だろ、真梨愛ちゃんはまだ産まれてもないんだぞ」

「分かってるけどー! 女の子だから私役、とか思ったのになぁ……」

 

 斉藤真梨愛(まりあ)*1が産まれるのは予定では一月以上は先だ。しかし、それでも役が中々決まらないのは気になるのか、そわそわと体を動かすルビー。理由は分かっていても、初の家族総出演映画となるのだ、どうしてももどかしいのだろう。しかしアクアからするとそのもぞもぞされる方が色々と当たって()()()()訳で。

 

「……おにいちゃあん、固いのが当たってるよ♡」

「なんだ、()か?」

「やじゃない♡ 今日も兄妹の禁断の恋しよっ♡」

 

 今夜も二人で仲良くした。

*1
双子の躍進とアイの瞳の色からあやかって、スキャポライトの一種(パープルスキャポライトとも呼ばれる石)で、産出量がとても少ない稀少な石である曹柱石ことマリアライトが名前の由来。石言葉は「自立」「癒し」「魂の向上」「問題解決」など。強い力を持つとされる一方で日光にも乾燥にも弱く、浄化も一手間必要。未来の子育ては苦労しそうである

ガチ濡れ場(R18)って需要ある?

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