【完結】天に輝く二ツ星 作:アクアハーレム最後の刺客不知火フリル
9/8 追記 一部不自然な描写(寮生活など)をご指摘いただいたため、修正しました。
有馬かなはこの日、人生で最低の瞬間を味わった。
一家離散したのである。
有馬かなはアクアとのセット売り……通称「アクかな」でかなりの仕事をこなしてきた。アクアとももう気の置けない仲といって良いだろう。アクアとの交流を経てかなは驚くべきことに我慢することを覚え、乱暴な口調がやや抑えられた。
わがままで自分勝手なのはちっとも変わっていないが、少なくともスタッフを顎で使ったり、横柄な態度をとったりといったような失礼な態度はアクアによってやんわりと矯正されていた。有馬かなの態度が理由で減っていた仕事は、態度の改善により戻った部分もあった。
だが、己が変わったところで周囲の環境が変わるかと言うと、そうではなかった。仕事に口出しして出番を増やせと迫る母、母の存在に辟易して関係を断る業界人たち、そんな母に愛想を尽かして、とうとう浮気をしてしまう父。かなにとって、もはやアクアだけが心の拠り所であり、唯一気を許せる相手になっていた。そんな状況だからか、一家離散して東京に自分一人が取り残される状況であるにも拘わらず、かなの心は錆び付いて動かないままだった。
父は浮気相手と共に消えた。中学生になったら、途端に母は故郷の田舎に引きこもった。有馬かなの手元に過去の栄光と金銭だけが残された。
子役としてはもう賞味期限切れと考えられたのか、事務所も有馬かなを「整理」する気満々で、最後に稼げるだけ稼がせようと、演技以外の仕事を入れ始めていた。演技の仕事もどんどん減っていった。
もう限界だった。何度も仕事をやめて、どこか別の場所に逃げたいとも思った。でも、仕事をやめたらアクアとの関係が切れてしまう気がして、なにより役者を諦められなくてしがみついていたかった。
「アクア……」
思わず、アクアとの初共演作品「それが始まり」の台本を撫でた。あのときの自分は今以上にとんでもない奴だったな、と今更ながらに思う。
有馬かなにとって、初めての異性の友達で、初めてのライバル。有馬かなにとってアクアは特別だった。でも、アクアにとってのかなは、もうすぐ特別じゃなくなる。
「アクア……!」
会いたい。彼に会いたい。でも、もう共演も難しいんじゃないだろうか。マネージャーが言うにはそろそろセット売りの関係を切るつもりだとか。アクアとの繋がりは、携帯電話に残されたアドレスとメッセージアプリの連絡先だけになってしまう。
そんな時だ、アクアから電話がかかってきたのは。
「……もしもし。有馬かなです」
自分でも思った以上に覇気の無い声が出た。両親の離婚は、心が麻痺していただけで相当に堪えていたのだ。
『有馬か、アクアだ』
アクアの声を聞いて、どこかほっとしている自分が嫌だった。だから心にも思わぬことが、口を突いて出てしまう。
「何よ、私を笑い者にしに来たの?」
『違う。……お前の両親、離婚していまはお前だけなんだってな。大丈夫か?』
今まで無視してきていた、爆発寸前の感情に火が着いたのはアクア相手だからだった。
「大丈夫に見える!? 大丈夫な……わけ……ない!!」
10秒で泣ける天才子役が聞いて呆れる、自分の感情もコントロールできないなんて。大粒の涙を溢しながら、アクアへ感情を垂れ流した。
「お父さんとお母さんは消えちゃった! 仕事もどんどん無くなってく! いいわよねあんたはどんどん上に行けて! 私、わたしはもう……あんたと共演も出来ないかもしれないの!! もう……もう……!! いや……! 助けて、アクア……!」
『
『俺に任せろ。何とかしてみせる』
アクアはそう言い切った。かなは、アクアを信じることにした。
「……なんとかならなかったら、責任とってよね」
『わかった』
「……ふん、おひとよし」
結論から言おう。なんとかなってしまった。斉藤社長とミヤコ夫人に掛け合ったアクアは、有馬かなの所属事務所と契約を結ぶことに成功した。そのおかげで、アクアとかなは久々に顔を会わせて、苺プロの社内で契約の確認をしていた。
内容を端的にまとめるとこうだ。
「確認するわね。私が契約満了……高校入学前までは籍だけは事務所に置く。マネジメントや稽古等もろもろの経費は苺プロ持ち。仕事は今請け負ってる仕事を最後までやってから、苺プロがマネジメントと同時に行う。その間に発生した利益は6対4で4が苺プロ。ただし発生した利権関係……例えば歌とかは苺プロ側。契約満了を機に私は完全に苺プロに移籍ね。よくこんなワガママ契約通ったわね」
「事務所が
呆れたように言うアクアに、かなは不服そうに返す。別に契約がどうとか、はもうよかった。気になるのはそこではない。
「違うわよ、
「だから
「……」
「どうした?」
きょとんとしているアクアに、分かってたけど本当に気づいてないのかと呆れるかな。
「名前よ名前。かなって呼びなさいよ」
「ああ……良いのか?」
「さっき呼んでたじゃない。いいわよ別に」
「わかったよ、
「っ~!」
そんな風に、はにかんでみせるのだから。たまったものではない。
電話口で初めて名前を呼んだくせに。自分ばっかり名前呼びで、アクアからはまた苗字呼びに逆戻りなのが気に入らなかったのだが。これはヤバイ。
(そりゃあ? 確かに顔は良いし、底抜けに優しくて? 演技も最近メキメキと伸びてきてるし、格好いいし? 頭も良いし身長もあるし……あれ?)
アクアの良いところが溢れるように湧き出てくる。思わず、私ってアクアのこと好きなのでは? と考え込んでしまう。崖っぷちのところに手をさしのべてくれた王子さまに惚れない道理などないのだが、有馬かなはアクアと過ごした時間が長いために勘違いかもしれない、と思い込んでいた。
「おい、どうした?」
「かかか顔が近い! 近すぎよ!?」
気がついたら自分の顔を心配そうに覗き込むイケメンがいた。心臓が高鳴った。
(あっ……♡ きゅんじゃない! 落ち着きなさい有馬かな! アンタは何!? 天才子役でしょ! 相手は誰!? 私の親友の星野アクア! よし!)
本人は落ち着いたつもりでいるが、実際は全然落ち着いていなかった。
「急に黙り込むから心配したんだよ」
「大丈夫よ! というか自分の顔面偏差値を自己認識しなさいよ! 私じゃなかったら女の子はその顔面だけでコロっといっちゃうのよ! 親友の私で助かったわね!?」
「何を口走ってるんだお前」
なんなら今落とされかけた自分が言うのだから間違いない。こんな優良物件に優しくされるとかどうにかなってしまいそうだった。
「はぁ……にしても、アクアも背伸びたわね。ちょっと前まで私と同じくらいだったのに」
はー首がいたいわー、ととぼけるかなに、座ってるから大したことないだろ、と返すアクア。
「別に良いことばかりじゃない。ここのところ成長痛がキツいし、身振り手振りにブレが出る。長期の仕事は出来そうもないな。だからゲスト出演ばっかりだ。そういう
「なんでよ! 去年より1cmも伸びたんですけど!?」
「そのうちルビーにも身長抜かされそうだな。ちゃんと食べてるか?」
「宅配だけど栄養バランスは考えてるわよ!」
なんだかいつも通りの応酬になってしまった。それがなんだか嬉しくて、おかしかった。
「アクア、ありがとね」
「友達を助けるのは当たり前だろ」
友達、の部分にずきりとくる。そこでようやく諦めがついた。
(あーあ、気にしないようにしてたのに。友達がイヤとか。私、アクアのことめっちゃ好きじゃん)
このスケコマシ三太夫はどーせ放っておけなくて人助けしては惚れられるようなヤツなんだな、とかなは理解していた。だから……。
「私が初めてで一番最初がいい」
「何か言ったか?」
「別に! まあ、そうね。これからよろしくね」
「ああ、よろしくな。……そういえば、次の仕事の話を聞いたぞ。歌系だってな。ピーマン体操の二匹目の泥鰌を向こうの事務所は狙ってるらしい」
あんまりにあんまりな情報提供に、かなは叫んだ。
「あれ既に黒歴史なんですけど!?」
「売れたんだから仕方ないだろ。タイミング的に売り上げも下火になってたから、歌の利権を買い取れて社長喜んでたな」
「なんでよ……売りおわったらそれまでじゃない」
「カラオケでたくさん歌われて利益バカみたいに出るって予測してた」
かなは閉口した。あの歌をかなりの間擦られるとなると気分が落ちこむ。なお、直撃世代が懐メロとして延々と歌い、その子供世代が覚える、幼稚園や教育番組でダンス音源として使われる、カバー曲まで出る。という感じでもっと擦られるのは彼女の知らぬ未来である。
「……しかし、かなは歌が上手いな」
「何、皮肉?」
ジト目でアクアをにらむ。だがアクアはそれをさらりと流してこう返した。
「カラオケって平均何点くらいだ?」
「はぁ? まぁ……調子が良いと大体80点前後だけど。このくらいなら、歌手でもない人でも出る点数でしょ」
「うちの妹は50点台の絶望的音痴だがアイドルを目指している」
「……下には下がいるのね」
「もういっそかながアイドルやらないか? かわいいし」
「かわっ……って、なんでよ! 私は女優なんですけど!!」
後にこの戯れ言が本当になることなど、二人はまだ知らない。
「そういえば、一人暮らしになるが……大丈夫なのか?」
有馬かなは今、中学生である。アクアはてっきり有馬かなは親と棲んでいたと勘違いしていたから、一人暮らしと聞いてびっくりしたものだ。医師として、大人として、そして親友として心配だった。有馬かなは、アクアにとって数少ない、気負わずに気楽に話せる相手である。
「別に? 小学校高学年くらいからは、殆ど一人だったし……母さんも殆ど家に居なくて」
「すまん」
「謝らないで。今更、家を出る気にもならないし。でも、気になるんなら遊びに来なさいよ」
ふと、それってデートの誘いってことにならない? おうちデートなの? とちょっとピュアな有馬かなの心が気づいたが、アクアは特に気負った風もないので、努めて無視した。自分ばっかり照れるのは癪なので。
「わかった。ついでだ、今日どこかで昼メシでも食わないか?」
アクアとしては単に久々の再会にメシに友人を誘っただけなのだが、かなとしては久々の二人きりでデートに誘われたという認識である。だがアクアが変なところでニブチンなのは知っていたので、確認を取ることにした。
「いいけど、ルビーは来るの?」
「いや、ルビーは今日は……パーツモデルの撮影の日だから、二人きりだな」
「ふーん? そうなんだ? じゃあ折角だしエスコートして貰おうかしら~?」
ルビーが居ないなら実質ランチデート。ということで、今からもう鼻唄でも歌い出しそうなほど上機嫌になった。そんな有馬かなを見て、アクアは呟く。
「かなはやっぱり笑顔が似合うな……」
「何ブツブツ言ってんのよ」
「別に」
「もしかして照れてる~?」
なお、この後SNSにかなが「久々に親友と食事!」と書いてアクアとのランチ写真を投稿し、アクかな匂わせだ~! と一部界隈のこってりした邪推厄介強火オタクたちが異様に盛り上がった。
・有馬両親について
実際のところかなちゃんの両親ってたぶん、中学生の彼女をほっぽりだしてどこかに消えているんですよね。高校入学時にはもう完全にフリーだったみたいですし。
明確な時期はぼかされてますけど、これ最悪小学生の時に母親も田舎に消えてますよね。小学生が寮生活とはいえ一人暮らしって地獄か? というかこの世界、子供に厳しすぎない??
・ピーマン体操
本作においては、言ってしまえばはたらくくるまとか、だんご三兄弟とか、走れコウタローみたいな、あの辺の立ち位置にあたる曲です。つまりかなちゃんが歌えなくなっても、ことあるごとにカバー曲やらアレンジ曲をじわじわ出されて延々と擦られ続けるってことです。苺プロは買い取った利権でウハウハ。歴史に名を刻んだよ、やったねかなちゃん!
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