【完結】天に輝く二ツ星 作:アクアハーレム最後の刺客不知火フリル
「は? ストーカー役がゴネて降りた?」
「そうなの。ひどい現場だったけど、コイツのせいでリスケ、現場は更にピンチよ」
苺プロ事務所で、
「他の連中に当てはありそうか?」
「あたってるとは言ってたけど、ダメそうね」
「それは……マズいな」
有馬かなの久々の主演。もちろん好き放題かき回してやった自覚はあるが、ストーカー役が降りるとはアクアも想定外である。ストーカー役もほぼ確実に顔の良いモデルなのだろうが……恐らく直前まで自分がなんの役か把握もしてなかったのだろう。それをいやがって出ないというのは、目撃しないわけではなかった。大手の若手で、アイドルやモデルがこういうドラマに来るときにまれにあることだ。アクアとしての感想は勿体ない、だ。たとえ悪役でもチャンスならば藁でも掴むべきだろう。チャンスさえ掴めば、その次は良い役がまわってくる可能性もあるだろうが、そのゴネた奴は暫く……少なくとも鏑木組にはお呼ばれしなくなるだろう。
「……アクア、かなり難しい役だし、スケジュールは死んでるけど。お願いしても良い?」
「任せろ。ちょうど空いてるし、社長も判断を任せてくれてる。こういう難しい役ほどやりがいもある」
アクアはにやりと唇を歪める。こういう何か企んでるアクアの顔は、かなは結構好きだった。
「ついでだ、ヴィランとヒロインでも“アクかな”は健在だって示してやるか。今日あまをこんなのにした仕返しだ、滅茶苦茶に引っ掻き回して帰るぞ、親友」
「いいわね親友。それ最高にスカッとするわ」
こつん、と拳と拳を合わせた。アクアとしても勉強の一環として読んだものではあるのだが、今日あまは結構好きな作品だ。思うところがひとつもない訳ではなかった。
そして、アクアにはもうひとつ思っていることがあった。それはある意味での自信であり、執着である。
(かなの全力の演技を受け止められるのは、同年代の男なら俺しか居ないだろうからな。折角のかなの主演だ、最後の一発くらい気持ち良く演技させてやらないとな)
黒く焼かれた、蒼い星が煌めく。
「じゃ、鏑木Pに連絡しとくわ。撮影日は三日後、来週オンエアだから撮影後即編集即納品! 本読みすっ飛ばして即リハ即撮影だからよろ!」
「リスケの影響とはいえ終わってんなぁ……ネットドラマだとたまにあるけど」
「あんたの最悪のスケジュールってなんだった?」
「放送の三日前に落雷で撮影したデータ全部吹き飛んで、急遽一話まるまる取り直し、一日で」
「地獄ね……」
「俺よりも編集の方が吐きそうな顔してたけどな。撮影したカットをその場で編集してたし。しっかり完成させてたから優秀なんだろうけどな、一周まわって面白かったわ」
「良い性格してるわねほんと」
「だって俺のシーン、序盤の5カットだけだったし」
「なにそれ最高!」
☆
「というわけで、急遽参加することになった星野アクアです。よろしくお願いします」
「ああ、アクア君よろしくね。……色々言いたいけど、助かったのは事実だよ」
「まあ、そういうことにしておきます。ああ、それから。俺も役者の端くれですから」
「……勘弁してくれよ」
「
「分かった分かった、
鏑木はがっくりと思わず肩を落とした。だが、まあ収益は厳しそうだったのが彼のお陰でプラスになりそうだから良いか、と開き直った。
「分かりました。改めて本日はよろしくお願いします、鏑木プロデューサー」
アクアのプロデューサーやスタッフへの挨拶がおわり、台本片手にかなの下へやってきた。
「中々似合ってるじゃなーい、そのフード。あら~モデルさん?」
「馬鹿、似合ってたら問題だろうが。台詞は少ないから、もう覚えた。動作も大体想定してる。あとはアドリブと……鳴嶋メルトだっけ? アイツ次第だな。最悪マイクに乗らない程度に煽るかも」
「うわ、あんたのそういうところ尊敬するわ」
「真似はするなよ」
「出来ないわよ」
そんな軽妙な会話をしている二人をよそに、鳴嶋メルトは二人に圧倒されていた。明らかに今までの二人じゃない。オーラとでも言うべきか……そういったものを二人が纏っているように見えた。
鳴嶋メルトは演技に関しては殆ど素人である。別にやったことがないかと言えば、そういうわけでもない。普段から友人用の顔とモデル仕事用の顔というのは使い分けている。だが、本格的な演技はこれが初めてであった。何度やっても棒読みは直せないし、やる気もちっとも起きなかったし、別にそれで良いと思った。だが……あのどうみても臨戦態勢にしか見えない二人を見て、冷水を引っかけられるような気分だった。
(やべぇ、かなちゃんもアクアさんも本気だよ)
演技に関して素人ではあるが、素人なりにかなの演技が上手いことは分かっていた。自分のように台詞を噛んだり間違えたり、棒読みになったり。そういったことをしないから慣れているんだろうなとは思っていた。
だが、あくまで今の段階では二人とも真剣に本気で取り組もうとしているので、自分にも活が入った……そのくらいの感覚だった。
アクアが近寄ってきて、いくつか質問をされるまでは。
「鳴嶋メルトさんでいい? ちょっとここ聞きたいんだけど……」
「お前の考えそうなことだ!」
「でも……」
「一人にさせねぇよ!」
不思議と、前よりもスルリと台詞が出てくる自分に驚いた。自分はこんな演技が出来たのか、と。アクアに聞かれたのはなんて事はない、役者なら確かに聞いてきそうな質問であった。
『ここの台詞さ、本気で一人にさせたくないって気持ちがあるよな。この台詞の奴はヒロインを本気で心配してる。ストーカーに追われてるんだから当然だよな』
『実は原作ではコイツ病気でさ、命をこの子のために使おうとしてるんだよ』
『メルト君はどう思う?』
おおよそ、自分の台詞のいくつかのものへの質問へ、自分の所感で答えただけだった。それだけだったのに、いざ演技するとなるとそれが鍵になって……台本の台詞の意図がなんとなく読めた。
演技なんて適当で良い、自分は顔が良いのだから……そうずっと思っていた。
だがアクアはメルトをして、自分に匹敵する、もしかしたら超えてるかもと思うほどの整った容姿だった。それでいて、あんなフードをためらいもせずに被って、半分は顔なんか見えない。演技のために全力だ。その半分しか見えない顔で、こちらの演技をじっと見ている。その真剣な眼差しがちょっと怖かったので、声が震えた。だが、そのわずかな声の震えがメルトの演技から、感情を少しずつ引き出していた。
ついにストーカーが登場するシーン。わざと水溜まりの音を立てて、不安定に揺れるように現れる彼を見た。おどろおどろしい雰囲気を纏っていた。小道具用のナイフが、鈍い光を反射してゆらゆらと揺れている。
(……殺される!?)
端的に言ってメルトはその雰囲気に完全に呑まれた。彼の脳裏に今残っているのは、練習した台詞と、殺されるかもしれないという恐怖、そして震えている女の子。思わず前に出た。恐怖に怯えているし、震えているのに、それでも真っ青な顔で前に出る。
「っ、させねぇ! この子は、俺の大事な友達だ!」
「そんな女、守る価値なんかねぇよ」
ぎょろりと迫ってきた、黒い輝きを宿す瞳がこちらを見る。卑下た視線に、腹がたってくる。手を払いのけて、
「何をしたって、無駄だ!」
メルトはその黒い輝きの瞳を見た瞬間から、演技していることを忘れていた。
(そうだ、それでいい)
それは全てアクアの思惑の上だった。やや博打染みていたが、少しずつメルトにプレッシャーをかけて感情を引き出させて、ストーカーの存在が後に控えていることを意識させる。そこに最悪の演出と共にストーカーが現れれば……こうだ。あの時、ヒカルのやった「引きずり込まれるような演技」を、アクアは技術と演出、事前準備と偶然を駆使して『演出』してみせたのだ。
(まだまだ父さんには及ばないな……だがこれでメルトのタガは外したぞ、かな)
(すごく原作っぽい……流石ねアクア。任せなさい、完璧な演技をしてやるわ。だから任せたわよ)
(任された)
ナイフを振るい、かなを襲うアクア。メルト、ここしかないぞ。
「諦めて流されろよ!!」
「っ!!」
思わず殴ってきたメルトの攻撃を大袈裟に受けて、わざとらしく吹っ飛ばされる。漫画原作だから、より派手なほうが
それでもメルトを無視したように嘲笑い、気持ち悪く笑う。
「お前なんて誰にも必要とされてない……身の程わきまえて生きろよ!」
ストーカーらしく、叫ぶように、狂ったように。
「夢見てんじゃねぇよ! この先もろくな事はない……お前の人生は真っ暗闇だっ!」
10秒きっかり数えて、有馬かなは完璧な演技をした。
「それでも、光はあるから」
震えて怯えたような、それでも希望を見たような声色と表情で、涙を流す。
流石、10秒で泣ける天才子役だ。自分の事前準備を泣き演技ひとつで塗り替える彼女の才能を、眩しそうな目でアクアは見ていた。
「カット!」
その声で、メルトは現実に帰ってきた。呼吸が荒い、どうやら思わず息を止めていたようだった。思わず座り込んだ。
「これが……アクかな……」
テレビ越しに見るのと、実際に演技の場にいるのでは全然違う。有馬かなが天才子役と呼ばれた理由、それとコンビを組めるだけの技量を持ったアクアのあの、リハとは全く違う印象を受ける演技。ぞっとした、というのが素直な感想だった。
「おい、大丈夫か? 雨漏りで濡れてるから衣装汚れるぞ。ほら捌けるぞ」
そういいながら、殴られた頬から軽く血をにじませながらそんなことを言うアクア。
「あ、悪い……拳あたっちまったよな」
「別に謝らなくて良い。わざと殴られるように仕向けたからな。すいません、絆創膏と……あと氷嚢とかあります?」
「アクア! 無茶苦茶やりすぎ! もー、血が出てるし!」
「衣装に血がつくから張り付くのやめろ、スタッフに世話してもらうから」
さっきまでの雰囲気はなんだったのか。さっきまで泣いていたのにもうアクアを心配して元気に怒っている。そんな彼女を片手で制して「次のラストシーンで最後だろ、涙の跡処理してとっとと撮れ」と急かしていた。
(役者って……こんなすげぇのか)
アクアもかなも、演技に関して天才の部類であることは知識としては知っていたが。実際に見て圧倒された。これが“役者”なのだと。
ラストシーン、少女が恋に落ちるような表情を浮かべるだけのシーン。その出来など、言うまでもないだろう。目線の先には、アクアが居た。
シトリンに関しては調べていたら驚くほど一致する特徴を持つ宝石をみつけてしまったのです。シンデレラフィットとでも言うべきでしょうか
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