【完結】天に輝く二ツ星 作:アクアハーレム最後の刺客不知火フリル
結局、実写版『今日は甘口で』の評価は星1.8が限界だった。最終回だけが評価されたのと、思った以上には『アクかな』の導線が伸びたからだ。アクかなからの導線は年齢層がそこそこ広い。10年ほど前になるので、当時小学生で憧れた少年少女たちの年代が今は中高生から20代になるくらい、当時の若年層と主婦層にも人気だったので今はそのひとつ上世代になるだろうか。だがネットドラマと言うこともあり、若年層からの導線はあったものの主婦層からはあまり期待できなかった。
その割に低評価なのは、往年の子役コンビが復活とあって見に来たはいいものの、最終回だけだし、それ以外はひどいものであったからだ。また、主人公とヒロインではなく、ストーカーとヒロインというのも影響した。総合して、星1.8は妥当な評価と言える。
「最終評価1.8……まあ、こんなもんじゃないか?」
「そうね。あんたの出演料を加味してもなんとかプラス収支ってとこじゃない?」
「まあな。最後、久々にお前の本気泣き演技が見れて良かったわ」
「何、誉めてんの? 殊勝なところあるじゃなーい」
うりうり、とアクアに肘でグリグリつつくかな。誉めているのは本当なので訂正はしなかったが「着崩れするからやめろ」とやんわり止めさせた。二人は、ドラマの打ち上げパーティーに参加していた。二人とも中々みない余所行きの服なので、お互いに「ふーん、馬子にも衣装ね」「じゃあそっちは鬼瓦にも化粧か?」と軽口を言い合っていた。素直に似合っているとは、なんとなく恥ずかしくて言えなかった。
「そういえばもう怪我は良いの?」
「ああ。打たれた瞬間に後ろに飛んで軽減したからな。たいした傷でもないし、幸い跡も残ってない。骨も無事」
「ならいいけど。そういやアンタ医学知識もやたらあるわね。いつ勉強したのよ」
どう説明したものか。転生の事など言えるはずもないし、アクアにとって過ぎた話でもある。適当にエピソードをつけて誤魔化すことにした。
「姉さん……アイがストーカーに襲われかけたのがあったろ、あれで少し思うところがあってな」
「それで勉強したって? はぁ~。それで演出の勉強と演技の訓練までやってるんでしょ? しかも学校も行ってるし。良く両立できてるわね。休んでる?」
「子役時代に比べれば暇も良いところだ」
「まあ、それはそうね」
腐るほど稼いだ、とは良く言ったものだ。子役はそれだけで単価が高い。演技やコミュニケーションが大人レベルともあればなおさらだ。アクアも自分の口座に、割りと引くほど金を溜め込んでいる。なので資産運用等でじわじわと持ち金を増やしている段階だ。役者は殆ど趣味といっても良かったが、だからこそアクアは初めて見つけたやりがいのある仕事だと思っている。
「お陰で将来も金に困る事はなさそうだから気楽で良いけどな」
「シルバープランってやつ~? 遊べば良いのに真面目ねぇ」
「まあ、かなは未だにピーマン体操の収入が結構あるだろうから気楽だろ?」
「そーんなにピーマンがお好きなら口にピーマン詰め込んでさしあげましょうかー? んー?」
かなにとって未だにピーマン体操は忘れたい過去である。だが過去とはバラバラにしても石の下からミミズのように這い出てくるものだ。中々馬鹿にならない金額が預金通帳に振り込まれる度にピーマンが脳裏をよぎるのである。堪忍袋の緒が切れるのは当たり前であった。
「悪かったよ……ほら、りんごジュース飲むか?」
「子供扱いか! いいわよ烏龍茶とかで。今は糖質制限してるし」
「糖質制限か。かなも姉さんもそうだが、女優は皆軽そうで不安になるな……」
「何よ、太い方が好みなの?」
「そうだな……健康的なのが好みだな」
「ふーん。じゃあ私は大丈夫じゃない? 栄養管理はバッチリよ。制限してるって言っても完全になくしてる訳じゃないの。間食とかを控えてるだけ」
どーよ、とドヤ顔を披露するかな。確かに彼女のプロポーションが崩れたところは見たことがなかった。
「まあ、そこは信用してるけどな」
「でしょ~?」
と、話していると眼鏡をかけた女性が話しかけてきた。吉祥寺頼子先生である。
「撮影お疲れさまでした」
「吉祥寺先生。こちらこそお世話になりました」
アクアがそういって頭を軽く下げるので、かなも追従して頭を下げた。吉祥寺は、慌てて彼らに感謝の言葉を告げた。
「いえいえこちらこそ! あの……有馬さんの演技に、この作品は支えられていたと思います。あと……最終回二人ともすごかったです。ありがとうございました」
そう感謝を告げる吉祥寺に、なんだか努力が結ばれた気がして、かなははにかんだ。アクアは、その自然な笑顔に少し見とれた。
「……こちらこそ、ありがとうございます」
「……よかったな、かな」
「うん」
そんな仲の良さげな美男美女を見て、吉祥寺は微笑ましげにみていた。アクアがふと彼女の顔をみて、何か思い出したように懐から一冊の本を取り出した。今日あまの1巻だった。
「そうだ。実は、著名人の方のサインを集めるのが趣味でして。ここにサインをもらえますか?」
「私でよければ。あ、あの……代わりにと言ってはなんですが、二人のサインも貰えますか?」
バッグから色紙を出す先生をみて、二人は快く応じ、『吉祥寺頼子先生へ 星野アクア』『吉祥寺先生へ、今日あまをありがとう! 有馬かな』とそれぞれ記した。
「ありがとうございます! それでは、私はこれで……」
吉祥寺は目的をすませると、他の集団へ挨拶をしに行った。アクアは、原作者からの反応が良くて安心したのか、あるいは疲れたのか軽くため息を吐いた。
「ふぅ……改めて人が多いな」
「まあ、それだけの人間が携わってるってことよね」
「まあね」
そうしていると、今度現れたのは鏑木Pだ。
「いやいや、アクアくん、かなちゃん。お疲れさま。最終回は反応良かったよ。緊急登板なのによくやってくれた」
「鏑木プロデューサー、お疲れ様です」
「鏑木プロデューサーお疲れ様です。そうですか、それはよかったです。収支はぼちぼちといったところですか?」
「結構キビしかったけどね、最終回でギリトントンってところかな。全く好き勝手やってくれちゃって」
がっくりと肩を落として苦労しましたとでも言わんばかりの彼だが、アクアはその程度で絆される男ではない。鏑木がそういう面でもやり手であることは理解していた。
「ソニックステージからの覚えは良くなったでしょうし、実質プラスでは?」
「他の事務所からチクチク言われたけどね、端から見てただけじゃ良く分かんなかったけど……あれどうやったの?」
「ああ、簡単ですよ。彼、俺にプレッシャーを感じてたみたいなんで、画面外で圧をかけてあいつの演技してるっていう意識を壊してやっただけです。当て書きでしたし、彼自身を出した方が断然良くなると思ったので」
「全然簡単じゃないけど?」
「ヒカルさんやアイならこのくらい出来ますよ」
かなはそれは比較対象がおかしいんじゃないかと思ったが黙った。それはそれとして、中々苦労させられたようで内心ガッツポーズである。
「まぁいいや。色々やらかしてくれたけど、緊急登板とそれで助かった面があるのも事実だし。感謝はしてるんだよ」
「それは受け取っておきます。ストーカー、珍しい役どころで楽しかったですよ」
(ストーカーといえば、あのストーカーは確か捕まったんだったな)
どういう判決になったのかは興味がなかったアクアだが、計画性の高く殺意の強い犯行、怪我人は出ず恐らく初犯だっただろうから、まあしばらくは出てこなさそうという感覚であった。
「そういうわけでさ、新しく仕事を持ってきたんだけど、どう? 美形の君ならバッチリ映える仕事だよ!」
「詳しく聞かせてください」
この時点でかなは嫌な予感がしたのでアクアの腕を組んだ。
「うん、まぁこの先君は売れていくと思ってる。でもそうなると恋愛の演技も必要になってくる……キスとかはまだだろ?」
「はぁ、まぁそうですね」
アクアとしては確かに経験していないが、ゴローとしての経験値があるアクアとしては別にキスやハグ位でどうこうなるような神経はしていない筈だった。ファーストキスが妹な気もするが、家族なのでノーカンということにしてある。今のところ、女遊びよりも役者の勉強の方が楽しいというのもある。だからといって性欲がないわけではない。性欲を別方向で発散できる方法というものをアクアは身に付けているだけだ。とはいえそれは前世というなんともファンタジーな経歴のある自分だけの話。単に役者・アクアとしては確かに経験していない事象でもあるのだ。
「そこで、恋愛リアリティショーだ。そこで練習でもすれば、役者として一躍飛躍出来るだろう、と思ってね」
この男、恩返しのようでいて恩を売る気満々である。いかにも親切心、というような体をしているが。
「ああ、『今からガチ恋始めます』でしたか」
「ちょうど一枠空いていてね。どうだい?」
「流石に舐めないで下さいよ、あれ埋まってないだけですよね?」
「ははは、そういう君も『今日あま』でのストーカー演技のマイナス要素は消しておきたいんじゃないかい?」
「演技の幅が広いのは良いことでは? まあ、一旦事務所に持ち帰りますよ。社長たちと相談の結果になりますね。契約書類は作っておいてくださいよ」
ぎょっとした顔でアクアを見ているかなを確認し、鏑木は「そうだ!」とさもいま思い付いたかのように言う。
「なんならかなちゃんも出るかい? 一人二人くらいなら余裕があるよ?」
「……すみません、一度持ち帰って考えてから、でもいいですか?」
「お、結構前向きに考えてくれる感じ?」
「まあ、はい。どのみちやらなければならないことなので」
こんどはアクアが険しい顔をする番だった。鏑木は想定通りとにやりと笑うと「じゃあよろしく~」とだけ告げて帰っていった。
「……出るの? 恋愛リアリティショー」
不安げに見つめてくるかなの頭を軽く撫でるアクア。
「まあ、出ることになるだろうな。出れば星野アクアは恋愛もきちんと演技出来る、という指標にはなる。今日あまで波に乗っている今、押し出すには良いチャンスではある」
「そう……まあ、理屈は分かるわ」
「複雑か?」
「うーん。アクアが恋愛か……」
かなは考える。恋愛リアリティショーではキスまで行くことは無いわけではない。それに他人事ではない。いつまでもアクかなにおんぶにだっこではどうしようもない。自分もキスのひとつくらい、これからは特に求められるようになるだろう。濡れ場だってあるかもしれない。
「そうね。とっっっっても複雑。自分もそういうのをそのうちやるようになるかもってのが余計に複雑」
「……そうだな」
嘆息するかな。それをみて、自分も複雑な思いを抱いていた。
「そういうかなも、出るつもりか?」
「考え中ってところかしら。
そう、彼女はこれからはアイドルを兼業する。アイドルをしている内はいい、ある意味守られている。だが……アイドルは賞味期限が短い。5~6年も持てば良い方だろう。アイドルは下手をすると二十歳を過ぎると老いているとされるような現場なのだ。若すぎるアイドルが問題視された今、アイの時代よりもさらに短くなっている。28までやってたアイが伝説的すぎるだけだ。周りのほぼ同い年のメンバーから泣きが入らなければ今でもやってただろう。
それだからか、今後のキャリアのために出るか真剣に彼女は考えているようだった。
かなが誰か知らない
親友、決断の時
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