【完結】天に輝く二ツ星   作:アクアハーレム最後の刺客不知火フリル

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17.それでも、今日は甘口で

 打ち上げパーティーの帰り道。手配したハイヤーの後部座席で、アクアとかなは並んで、無言で座っていた。じっとお互いに見つめあって、ただ無言で焦れていた。

 

(アクアが恋愛……演技とはいえ、恋愛……)

 

 たとえ割りきったとはいえ、誰かに言い寄られるのと彼から恋愛をしにいくのでは、話が違う。嫉妬でどうにかなりそう、とはまた違う複雑さ。どうせ誰か一人くらいはひっかけて帰ってくるであろうという嫌な信頼もあった。あったが……避けられない問題でもある。とにかく複雑だった。

 

 一方、アクアもかなを見ている。ずっと友人、親友のつもりでいた。少なくとも自分はそうだと思っていた、さりなちゃんのように……ルビーのように、恋心のようなものはないと。だが、目の前に現れたいずれ訪れる未来を見て、鎌首をもたげてきたものがあった。

 

(僕は……かなやルビーが誰かにキスされるのを嫌だと思った。自分の事を棚に上げて)

 

 ここまで来てようやく、自分が彼女を手放したくないという醜い独占欲があることに気づいた。アクアにとってそれは初めての経験であった。今までは、後腐れの無い女性とばかり関係になったからなのかもしれない。

 かなが誰かとキスをすると考えただけで無性に腹が立った。このぬるま湯のような微妙な関係に甘んじていたと反省した。まるで潔癖症だと自嘲した。ルビーが誰かとそうなるのも嫌という自覚も、自己嫌悪を増した。

 

(最低だ……)

 

 この思いを……恋心というには醜すぎるこれを、かなだけではなくルビーにも抱いていると実感してしまったから。でも自覚した思いを止められるハズもない。恋心かといわれるとそうでは無いような気がしてなら無い。恋というものはこんなに醜いものではない、というアクアの先入観があった。

 

 そうして、自分が落ち込んでいる時……いつだって助け船を出してくれるのは、この親友だった。

 

「アクア」

「……何だよ」

 

 かなは決意を固めた表情をしていた。

 

「私はね、アクアが恋愛するの、すっごいイヤ。複雑とか自分もとか色々考えたけど、シンプルに考えることにしたわ。とにかくイヤだけど、止めもしない。大体、ごちゃごちゃと言い訳するのは柄じゃないし。アンタはどうなのよ」

「バレてたか」

「そりゃそんな神妙な顔をしてれば分かるわよ、何年幼馴染みやってると思ってんのよ」

「そうだな……」

 

 幼馴染み。親友。ライバル。すべてアクアにとって新鮮なものだった。かなにとっての初めてではあったが、アクアにとっても初めてのものであったから。だから、有馬かなは星野アクアにとって特別なものなのだ。ならば、本音には本音で返さなければ、不誠実だから。

 

「すごいわがままなことを言うが、いいか?」

「好きにしたら? 私は好きにしたわよ」

「わかった。……俺は、俺自身は良い。恋愛をするのも、キスもハグも別に仕事だと割りきれる。でも……かな()がそういうのをするのは……その……すごく嫌だと思った。仕事なら仕方ないかもしれないが……」

 

 アクアはそうかなに告げると、己の顔が赤くなることを自覚した。何を口走ってるんだ自分は。これではまるで告白ではないか。しかも、中学生でもしなさそうな。己の気持ちに言語化ができていない証左である。自分で語彙力が無さすぎてあきれる程だ。普段の知性の欠片もなかった。熱に浮かされたように彼女を見て。いつもよりもひどく魅力的に思えた。いつもは発揮してくれている冷静さと知性が、まるで役に立たなくなった。心が全く制御できない。

 

「ふーん? まあ大体同じってところね」

「だからさ……」

「何よ……んっ!?」

 

 だから、熱に浮かされた本能のままに、彼女の美しい唇を貪った。唇を重ねるなどという優しいものではない。飢えた獣のように、かなを貪った。縄張りを示すかのように。突然の暴挙に思わず固まるも、すぐにそれを受け入れて、かなの力が抜けた。そのまま身を差し出すように、アクアにされるがままに貪られた。舌まで入れられたが、気にせず受け入れた。

 

「……だから、先に俺がやっとこうと思って」

「……ん、ふ……強引ねアンタ」

 口を離すと、二人の間につう、と唾液の糸が引かれた。

「悪い、嫌だったか?」

「分かりきってそれ聞くの? いやじゃないわよ」

 

 好きだとか、そういうのを口にはしなかった。口に出したら、止まれないと思ったから。だというのに、かなは耳元で囁いてくる。そういうごまかしを許してくれない。

 

「あーあ、これから恋愛禁止なアイドルなのに。もうアクアのお手付きにされちゃった」

「っ……」

「こんな刺激的なの、一生忘れられないわよ? 舞台でみんなに愛してるって嘯きながら、頭のなかはあんたのことでいーっぱい……」

 しなだれかかるようにアクアの胸元に顔を寄せる。なんだか甘い匂いがした。頬はチークよりも赤く染まっている。

「チェキを撮ったり握手したりしてても、ファンじゃなくてアクアのことばっかり考えてるようにされちゃった。なのに今度はアクアはお仕事で恋愛……あーあ、でも嫌いになれるわけがなくって、不機嫌になったらこうやって口を塞がれて誤魔化されちゃうんだ?」

 煽ってくる。こんなに蠱惑的な少女だったろうか? そして己はこんなに誘惑に弱かっただろうか。たまらずに抱き締めようとして──

 

「あら、ついたわね。じゃ、アクア。また明日ね。今ガチは……そうね、出るのは見送ろうかしら……?」

 

 気がつけばかなの自宅付近に到着していた。どっと汗が出る。年上だけど年下の少女に、良いように遊ばれていたのだ。

 

「あ、ああ……また、明日」

「ね、アクア」

 

 もう一度耳朶に触れるほど唇を寄せてきて、小さく囁いた。

 

「今日は、甘口だったわよ」

 

 それだけ告げると、さらりとハイヤーから降りて彼女の自宅へと消えていった。

 

「何が複雑だよ、とんでもない小悪魔だよお前……」

 

 何がどうしようもないって、そうやって振り回されていることが全く嫌ではない自分が一番どうしようもなかった。がっくりと項垂れ、頭を抱える。ルビーの事とか、これからどういう顔で会えばとか……この状態で恋愛リアリティショーに出れるのかとか。

 

「何をやってるんだ僕は……ええ、これどうしよう……」

 

 つつがなくハイヤーは自宅に自分を届け、アクアは泥に沈むように床についた。

 

 

 ☆

 

「作戦は?」

「大成功よ!」

 

 イエーイ、とものすごい軽い声で少女が画面の向こうの少女と騒ぎあっていた。

 

「いやー私が考えた作戦とはいえ、本当におにいちゃんから食べに行くとは。うんうん、私の見込み通りだ。ロリ先輩Mっぽいもんね!」

「もう獣みたいだったわよ。ギラギラの眼光でね、ものすごいエグいキスされてもうメロメロにされちゃう。もうあと一歩間違ったら本当にお持ち帰りして食べられてたかも。アンタのことも悪く思ってないみたいだし、グッと行けばガッといけそうよ」

「キャー! えー、おにいちゃんってばケダモノ~! やっぱおにいちゃんもちゃんとオスなんだね」

 

 会話画面の向こうは、ルビーであった。きゃいきゃいと甲高い声で言い合いながら、この世の終わりのような会話をしている。少なくともアイドル候補生の会話ではない。

 

「まあでも、恋愛リアリティーショーの番組への勧誘があったから強く意識させられたところはあったわよ」

「え? じゃあ鏑木Pサマサマじゃん!」

「ナイスアシストだったわ。そうね……今ガチ、一話二話くらいのサプライズゲストとしてなら考えてやろうかしら」

「そんな事出来るの?」

「さあ? でも途中から参加した方が面白そうだし?」

「うわーワルだぁ」

 

 聞く人が聞けば卒倒しそうな会話である。そう……あの小悪魔誘い受けかなちゃんは彼女の演技であったのだ。かながアクアとそういう仲になりたいのは事実ではあるのだが、素のかなだともっとこう真っ赤になってヘロヘロになった挙げ句にアクアにぺろりと平らげられていただろう。

 

 ルビーの作戦立案の経緯はこうだ。鏑木Pの今ガチへの出演依頼を受けたことをルビーに相談。二人でチャットツールで即興の作戦会議。今までの言動でルビーをかなり意識しているのは確かだと結論付けたかなは、自分を親友からランクアップさせておこう、ということになった。そしてハイヤー等のほぼ二人きりになれる環境でキスなりなんなりしてアクアを誘惑して、言外にアクアに恋心も伝えておく、ということであった。そうして弱ったアクアに、ルビーが追撃を仕掛けるという作戦だ。

 

 そうして完成したのが有馬かなの全力の誘惑演技である。恋する乙女は強かである。そうして意識させてから、次はルビーの襲いかかる番である。

 

「そういえば先輩。ファーストキスの味ってどうだった?」

「んー? 烏龍茶味」

「あー、やっぱ食べたものに影響するんだ……歯磨きとかしとこうかな」

「ああでも、甘ったるい空気だったから気にならなかったわね。ある意味ずっとあまくちだったわ」

「今日あまだけに?」

「今日あまだけに」

 

 それでも、今日は甘口で。




アクアは恋愛初心者なのにテクと経験だけはやたら豊富というよくわからない存在に。原作ゴローも恐らくまともに本気の恋愛はしたこと無いのでは……? という考察から来ています。

ガチ濡れ場(R18)って需要ある?

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