【完結】天に輝く二ツ星   作:アクアハーレム最後の刺客不知火フリル

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ルビーのターン


18.大問題

 星野アクアは前世の約30年分の知識が色褪せずに残っている。だが、肉体は10代。もはやアクアとゴローの境界線は皆無と言って良い。だからこそかなの誘惑にころっと落とされかけた面がある。もちろん、相手が彼女だからという部分も非常に大きいのだが。だからこそ翌日、アクアは頭を抱えていた。

 

「っ……マジでどうしよう……」

 

 あのときの自分は冷静ではなかった、キスごときであんなに夢中になれるなんて、空気に流された、いくらでも言い訳は思い付くが。あの普段の有馬かなでは見られないねばついたような視線と、強烈な女性としての存在感を忘れられずにいた。なんなら、夜に夢に見てしまったほどだ。未だに彼女の唇に吸い寄せられそうになる気がして……頭を振る。顔はほんのりと熱を残していた。

 アクアはこんな身を焦がすような激情を抱いたのはそれこそさりな以来、ましてや真っ当な恋愛感情ともなれば初めてと言ってよかった。今更ながら、あの頃のゴローは。アイは確かに推しだったがそれでもアイドルとしてしか見ていなかったのだと思い至った。今はきちんと大切な母だと思っている。

 控えめに言ってこの気持ちを持て余している。しかも。

 

「妹と親友どっちも()()()って思うのは終わってるだろ……」

 

 アクアの中に渦巻くのは、ある意味で幼稚な独占欲である。なまじ自己分析が出来るあまり、自分の気持ちを自分自身に誤魔化すことだけはできなかった。

 

「星野アイは欲張りなんだ、か。どうも母さんに似てしまったらしい」

 

 こういう時は先達に聞くのが一番早い。亀の甲より年の功だ。思い立ったが吉日、アクアは今日が休みということもあり早速父に色々伏せて相談することにした。こういう話を母にすると高確率で「愛してるなら大丈夫大丈夫!」というので。頼れるのはまさに偉大なる父(グレート・ファザー)である。

 

「アクアが恋愛相談とはまた……おおきくなったね。ふむふむ、女の子二人も好きになっちゃって二人とも魅力的で選べないかぁ……」

 

 ヒカルは片方はかなちゃんかな、と瞬時に当たりを付けた。流石にもう一人は分からなかった……というか分かるはずもなかったが。ファンタジーすぎて。

 

「真剣に悩んでるんだね?」

「ああ……どうすれば良いと思う?」

「僕はどう選んでもアクアを応援するけど……そういうのを聞きに来たんじゃないよね」

 

 うーん、そうだなぁなんて真剣に悩んでくれる父を本当にありがたいと思う。

 

「愛があれば大丈夫じゃない?」

「父さん!?」

 

 全然ありがたく(グレートじゃ)なかった。

 

「だって寝不足になりかけるほど悩んでるってことはさ、どっちも大切なんでしょ? でさぁ、僕が思うにアクアってたぶん恋多い感じになりそうなんだよねぇ~。増えそう。芸能人にも結構いるよ? そういう人。リアルハーレムやってる人もいた筈だよ」

 

 あの人とかこの人とか、みたいな具体例を出されて驚くやら何やらだ。というかもっと聞き捨てならない言葉を聞いた。

 

「あ、やべ隈出来てた。って、え? 増え……?」

「うん。まあアクアは初対面とかほぼ交流がない相手は流石にダメでも、距離が近い子とか意気投合した子とかにグイグイ迫られてコロッとやられそうだし」

「うっ」

 

 否定しきれない事実を突きつけられてうめく。ルビーは最近またキスをせがむようになってきたし、今は頭の中はかなりかなの唇のことでいっぱいだ。

 

「だからまぁ、アクアの甲斐性の範囲内で囲えば良いと思うよ。バレなきゃいいんじゃない?」

「そういう……ものなのか?」

「そういうものだと思うよ。芸能人って、そういうところ弛いから。特に俳優。だって演技とは言えキスとかするし、濡れ場とかもあるからね~。その場だけの燃え上がりとかもあるし、ドラマがきっかけで本気になっちゃうなんてこともあるよ」

 

 まあドラマきっかけの交際ってほとんど別れるか浮気の破局で終わるけどね~なんて酷い話を続けるヒカル。アクアはもうひとつ気になっていた質問をぶつけることにした。

 

「ドラマといえば、父さんもキスとかするけど。あれってどんな気持ちでやってるんだ?」

「え? うーん、お芝居だし別に、って感じかな。特に気にしてないし、慣れちゃった」

「……慣れかあ」

「そう、慣れです。そういえば恋愛リアリティショー出るんだって? アクアなら大丈夫だと思うけど、自殺者も出るような番組だから気を付けてね」

「わかった」

「ああでも、そうだなぁ」

 

 ふと何かに気づいたように、ヒカルはにやりと笑ってみせる。

 

「そういうラブシーンの撮影があった日ってすっごいアイが嫉妬してきて」

「わかった、ありがとう父さん」

「えー、まあいいかぁ……じゃあ僕は仕事行ってくるね~」

 

 アクアは逃げた。純粋に父親の惚気話を聞きたくなかったので。だが、その言葉は脳裏に酷く強く刻まれてしまった。だからだろう。リビングで妹と二人きりになったときにふと聞いてしまったのは。

 

「なあルビー」

「なぁに? おにいちゃん」

「いや……今ガチについて少し悩んでてな」

 

 お気に入りのTシャツを着ているルビーが、隣に座ってきょとんとした顔で聞いてくる。ソファーのバネがぎしりと音を立てた。

 

「前世は女遊び激しそうだったのに、今さらそんなの悩んでるの?」

「バレてたのか」

「たまにせんせがやってないタバコとか香水のにおいとかさせてたらわかるよ」

「そうか……演技と遊びはまた違うってのもあるけど、リアリティショーでもしキスとかするのかと思うと、漠然と不安になってな……」

「ふーん……」

 

 アクアは正直に言えば油断していた。あの不意打ちキスからしばらくの間、ルビーからのキスは頬とか額に求められるばかりだったからだ。兄妹としてもかなり変な距離感だが、アクアは感覚を麻痺させられていた。

 

「ルビーはどう思う、俺がそういうのをするのは」

「正直に言うなら……アクアがそういうことするの、腹立つ……かな。前から言ってるけど私はアクアと結婚したいんだよ? あとかな先輩とそういうことやるのも。自慢されたんですけど?」

「……すまん」

 

 思わず謝ってしまう。現状悪いのは自分であるからだ。脳裏に父の「すっごい嫉妬してきて」という言葉がリフレインした。

 アクアは、ルビーに複雑な気持ちを抱いている。大事な妹であり、あの病室から飛び出した夢見たさりなでもある。だが、16年もずっと好き好き言われてきて、何も気持ちに変化がないわけではなかった。キスも別に嫌ではなかった。だから、闇鍋のように彼女への気持ちはぐちゃぐちゃだと、そう思っていた。ゴローとしての気持ちと、アクアとしての気持ちが入り交じっている筈だった。

 

「もう、謝る位ならおにいちゃんからキスして欲しいんだけど?」

「わかった」

 

 だからだろう。もうひとつのぐちゃぐちゃな心と向き合ったから、するりと言葉が出た。あるいは今まで麻痺されてきた感覚のままに答えてしまった。

 だが、有馬かなの時に好きをこらえたように。言葉にしてしまえばそうなってしまう。何のことはない、アクアもゴローも、結論は同じだった、あるいはそうなってしまった。ゴローもアクアも、彼女を愛してるのだと確信してしまった。思いはもう止まらない。

 隣に座っていたルビーの肩をぐっと引き寄せた。

 

「え? ひゃっ! お、おにいちゃ……」

「嫌なら止めろよ」

「ぅー……」

 

 いやなわけなかった。素っ気なかった兄が突然迫ってくる……妄想した絵に描いた餅のようなシチュエーションが、目の前に迫ってきていることに、混乱しただけで。どんどんと好きな人の顔が迫ってくる。自然と嬉しさと愛おしさで目尻が下がる。そのまま、触れるようなキスをしてくる。大切に思われているのが伝わってきて、嬉しさのあまり涙が流れた。当然のように、双子の唇は重なった。いつかの、触れるようなバードキスだったが。アクアからしてくれたというのは大きな意味をもっていた。アクアは、そんな美しい涙を、ティッシュで拭った。

 

「えへへ……これってそういうことだよね。結婚してくれるの?」

「16になったら真面目に考えるって、言ったからな。でも……少なくともアイドル卒業するまでは……結婚とかそういうのはダメだ」

「えー? ママは16で私たち産んでアイドル続けて隠し通したよ?」

 

 痛いところを突く。だがアクアにも考えがあった。

 

「お前の体が心配なんだよ。10代の出産は非常に危険だ、産婦人科医としても止めなくてはならない。だから、卒業するまでは待ってくれ」

「おにいちゃんがそういうなら、わかった。でもその間にかな先輩に先越されそう……あ、でも同じユニットだし大丈夫かな?」

「ああ、かなも同じくアイド……まて、なんか……なんかおかしくないか?」

「え? 何処が?」

 

 先程からよく考えてみれば「キスを自慢された」とか「先を越されそう」とか、明らかにやばい話題を出している妹。死滅して役に立たなかった脳細胞が、ようやく仕事を始めた。頭が回り始めればすぐだった。思い返せばきりがない。混乱していたとは言え、あの時かな“達”なんて口走っていたのにスルーしたかな、明らかにかなとかなり深いやり取りをして……少なくとも昨日のキスを自慢するような関係性になっているルビー。

 

「まて、まさか……まさか、お前らグルか?」

「ありゃ、バレちゃった。でも、惚れさせたおにいちゃんが悪いんだから、私達の責任とってね♡」

 

 アクアは目の前が真っ暗になった。

 

 ☆

 

 そして、現在に至る。これこそが今アクアの抱える大問題、妹と幼馴染にアプローチをかけられている状態、しかもそれに靡いている状態で今ガチが控えているというところだ。

 とはいえ、流石に数ヵ月も時間がたてば、アクアとて冷静になろうと言うもの。二人からのアプローチがないわけではないが、だからと言って女性経験自体は豊富である。慣れてしまえばどうということはないのだ。耐えられるようになっただけだが。流石に腕を組まれる程度ではなんともないものだ。普段からされていたことではあるのだし。

 自分の浮気性めいた心は……一旦目をそらすと同時に、責任は必ずとるということだけは決めた。もし好きな男が別に出来たら……考えるだけでも嫌だが、それで彼女達が幸せになるなら手を引くつもりでもあった。

 尤もアクアがそういう相手を第一に考える男だからこそ、二人は惹かれていくし、共有してでも……という気持ちになってしまったのだが。

 

 それはそれとして、ここの所やられっぱなしというのも何となく気に入らない。アクアは男としてのプライドというものが刺激されてしまっていた。なんとかやり返したいという気持ちがあった。そのために恋愛リアリティショーを使うことにした。端的に言えば、アクアは女性関係に対してスランプのようなものを感じていた。今までの経験がまるで役に立たないので自信を喪失しているのだ。それに、今ガチのメンバーの事前告知を確認したが、結局かなは居なかった。どうやら断ったようだ。であれば、ある意味気楽だ。かなが出るのならばかなと番組で恋仲になってでも守らなければならないと気負っていたからだ。

 

(折角のチャンスだ。ここで恋愛の技法をものにしてやるさ。俺を誘惑するなら、やってみろ二人とも……!)

 

 なんとも微笑ましくも業の深い考えを抱えながら、談笑する女子達を見つめていた。





微笑ましい(当社比)。気の多い自分が本当に彼女達を幸せに出来るのかとか、そもそもそれは良いのかとか、なんでかな達は徒党を組んでるんだとか疑問が沢山ありますね。目指せ令和のリアルハーレム王。
業の深い悩みですが、原作本編よりマシだってそれいち

・補足
ゴローは女遊びをしていたと言われていましたが、恋愛沙汰をやっていたようには思えないんですよね。さらに本編でも“肉体に心が引っ張られてアクアとゴローの境界線がなくなる”と言っていました。復讐に取り憑かれている状態の彼ですらそうなので、後ろめたいことがほぼ無く、悩みも健全な状態のアクアならこうなりそうだな、ということです。健全な男子高校生の肉体と女性経験から来る無意識の行動が合わさって、攻められると照れるくせに追い詰めると無意識に反撃してしまうという。しかもいざというときに頼れる。もうルビーとかなの男性観はめちゃめちゃです。

あと純粋に恋愛面で両親の悪いところを引き継いだのが本作品のアクアです。逆サラブレッド。
当人は浮気性と嘆いていますが、実際には浮気性や移り気という表現とは厳密には違い、大切な人枠をどんどん拡張していってしまうという悪癖です。女運を父から、愛の広さを母から受け継いだんですね。そこにゴロー由来の心根の優しさと両親から受け継いだ顔面を加えると。わあ、ナチュラルボーンハーレム王。重みを感じる

ガチ濡れ場(R18)って需要ある?

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