【完結】天に輝く二ツ星   作:アクアハーレム最後の刺客不知火フリル

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才能の光に焼かれる


22.発芽

 たっぷり10分間、打ち合わせというよりも質問責めと独り言というべきそれを経て、演技が始まった。そして、天才役者の天才役者たる所以を、アクアと今ガチメンバー、そしてスタッフまでもが見せつけられていた。

 

(なるほど、これは天才だ)

 

「アクア! どったのどったの?」

「ん……ああ、“あさひ”の方か。いや、少し眠くてな」

「えー、寝不足? お肌に悪いぞ~? なんか対策ないか“あかね”に聞いてみる?」

「頼む」

 

 楽しそうにスキップしながら近づき、さも親友ですと言わんばかりに腕を肩に回してくる“明るい少女”、かと思えば。

 

「あの、アクアさん……“あさひ”がすいません……」

「お前は気にするな、“あかね”」

「えっと、寝不足対策でしたよね。それなら……」

 

 やや内気ながらも、凛と知性の芯が通った“知的な女性”。これを眼鏡をかけるだけで、スイッチが切り替わったように演じ変えて見せるそれは、まさに漫画のような二重人格だ。こんな無茶苦茶な切り替えを必要とする演技は、非常に難しい。それをノーカットで演技して見せる彼女はなるほど、演劇の新たな星だ。

 

 有馬かなとは、真逆の才能……自主性と主体性が弱いからこそ、その“空白”とも言うべき部分を、アクアからすればどうやっているのか全くわからないが、何故か情報で埋める事が出来る。我を消して、誰かになりきる事が出来る。有馬かなが太陽ならば、さしずめ彼女は夕暮れに現れる蜃気楼か。

 だがその蜃気楼が空間を歪めている間、彼女は無敵だ。素の彼女との差があまりにも激しすぎる。まさしく、楼閣を見せている間、伝説に謳われる、気を吐く(みずち)を認識できないようだ。彼女が誰かを演じている間、誰も黒川あかねを見ることはできない。

 

「っと、こんな感じ、かな?」

「……流石、だな」

「えと、アクアくんもすごかったよ?」

 

 黒川あかねが()()()()()のを感じながら、アクアは脱帽という他ない、その圧倒的な才能を見上げていた。

 カミキヒカルが以前披露した、アイの物真似は化粧とコスプレ、演技技法、経験、深い知見、元々使えた“星の瞳”等々の幾つかのヒカルの強い才能を駆使して行われたものだ。それに対して黒川あかねはキャラ分析と憑依だけでそのレベルに匹敵する演技をして、アクアを魅せた。

 だからアクアはその変幻自在の蜃気楼を、まさに雲をつかむような感覚を味わいながらも、なんとか負けないように演技した。二重人格の少女に対して、性格の変動がほとんどないキャラクターでありながらも少女ふたりへの対応の違い、心優しさを演出する細かな気遣い、恋心への葛藤が見え隠れするややためらいがちな言葉。そういった己のキャラクターであかねのキャラをなんとか引き立てるように演じ、その光を利用してアクアも負けないように踏ん張っていた。そうしなければ、失礼だと思ったからだった。無論、そうやって食いしばって、その演技に食らいつけるアクアは、同年代の役者としても尋常ではない才覚がある。

 

「お前程の天才に誉められると、なんだか照れるな」

「そうかなぁ、アクアくんだって」

 

 アクアの、今ガチでは珍しく嘘偽りの全くない、心からの本音であった。アクアは、久々に出会った巨大な才能に尊敬の念を抱いていた。

 

 これを機に、アクアとあかねの距離は一気に縮まった。元々アクアはあかねに対してそこまで興味を持っていなかったのだが、この演技が発端となりアクアから一気に接近した形だ。

 アクアとしては、この憑依演技の技法をなんとか一部でも自分の力にしたいという打算からであったが。

 

「アクアくんと初めて演技出来ちゃった、えへへ……楽しかったな」

「……アクアくんと、もっとお話ししたいなぁ」

 

 あかねにとっては特別で、初めてだった。自分が合わせるのではなく、自分に合わせるということを同年代の役者にされたのは。初めて“同レベル”といえる役者に出会えたから。そして、あの憧れのアクかなの一人だから。

 ある意味、有馬かなと同じ理由でアクアに強い興味と信頼、そして小さな秘めた思いを抱き、やや赤くなりながら一人微笑んだ。

 

 この演技にネットでは「ギャップが凄い」「本当の俳優さん凄い!」といった称賛の声が上がる。オタクちゃんの印象は、完全に“専門家”のそれに変わっていった。そして、最後に見せた「素」の照れ顔とのギャップにより#アクあかが付けられた。まだトレンド入りするほどではなかったが、撮れ高としては最高のシーンであった。

 

 当然、この展開を気に入らない者もいる。というかこの回が放映された瞬間、有馬かなは当然不機嫌になった。

 

「は? 何デレデレしてんのよこのメス、アクアは私達のなんですけど?」

「どうどう、ロリ先輩よ、何故そう荒ぶるのか。鎮まりたまえー」

「バカにしてンじゃないわよ、私は冷静よルビー! ビールでも寄越しなさいよ!!」

「全然冷静じゃないじゃん。はい、これでも飲んでて」

「んぐんぐんぐ……ぷはーっ! 麦茶ねこれ!!」

「当たり前でしょ未成年なんだから」

 

 端的に言って荒れに荒れていた。少々荒れていたルビーすらも正気に戻るくらい荒れていた。だが、一頻り吐き出すと冷静になれるものだ。飲み干して空になったコップを机にそっと置き、ひときわ大きな深呼吸をすると、かなの瞳に理性が戻ってきた。

 

「よーし落ち着いたわ。私は正気に戻った。大丈夫」

「それ戻ってない人の台詞だよね」

「私は落ち着けてるから大丈夫なのよ」

 

 ふう、と一息吐いて、改めて照れているような、熱っぽいような瞳をしている画面の中の黒川あかねを見るかな。

 

「黒川あかね、アクアの分析通りなら恋愛リアリティーショー(台本なし)で演技を出来るほどのタマじゃない……だったわね。ちっこい頃に会った時も確かに、クソ真面目っていう印象を持ったわ」

「まあ、確かに? 内気で真面目ちゃんってなんだか役者じゃないみたいだけど……あの演技だもんね。あんまり詳しくない私も圧倒されちゃった」

 

 ルビーは英才教育の一環として演技指導も受けており、その結果演技の凄さくらいはわかるようになっていた。だが、有馬かなはそこから一段上にいる。

 

「バカね、あの陰キャ控えめオタクちゃんだからあの演技が出来るもんなのよ」

「そうなの?」

「そうなの。あれは、自己を簡単に消せるくらい自分の意志が出にくい性格だから、出来るもんなのよ。いわゆる憑依型演技ってやつ? 残念ながら私には出来そうもないわね」

「かな先輩自我と自信の塊みたいな存在だもんね」

「そうそう、エゴとプライドの塊みたいな私には、あーんなみみっちい演技はできないのよ。いやー残念だわー」

 

 口ではそうはいいつつも、全く残念でなさそうに振る舞うかな。有馬かなの事を誰よりも見て、認めて、受け止めてくれる彼が居るからこそであった。少なくとも同年代にあれほど良い男は居ない。当然逃がす気もない。

 

「でもおにいちゃん、ここからどうするんだろう」

「アクアなら上手くやるでしょ、ムカつくけど。アンタや私はアクア一筋の人生を送って、初恋のままここまで来たからまだ良いけど、あかねはそうじゃなさそうでしょ」

「あー、つまり初めてときめいた同年代がおにいちゃんなんだ? うわー攻めたらころっと落ちそう。あ、でも」

 

 ルビーとしてはひとつ疑問が残る。自身が強火オタクをやっているからこその疑問だ。

 

「あかねちゃん、アクかな推しなんだよね? しっかりおにいちゃんと恋愛とか出来るかなぁ……?」

「いけるわよ。どうみてもチョロメスだもの。アクアに惚れたら最後よ最後。沼に落ちるしかないわよ」

「うっ、確かに……」

 

 ルビーにも自覚のあることだったし、そういうことにならないように中学時代は牽制してもなお、恋を拗らせてそうな女生徒が一定数いたのだ。

 

「やっぱ回避は無理かなぁ」

「無理。他称ホストに落ちそうな女が言うんだから間違いないわ」

「凄い説得力あるね!」

 

 かなは無言でルビーの頬を軽くぺちぺち叩いて抗議した。




あまりに変幻自在、一番星すら模倣して見せる蜃気楼。だが“太陽”にはなれない。それを真似するには我が弱すぎる。そして太陽を真似できるほどの自主性があるならば、太陽の真似などしない。だが自己の薄さすら誤魔化す深き幻霧を吐く本当の蜃になれたのであれば、あるいは。

あまりに眩く激しい光、誰もの目が眩む太陽。だが“蜃気楼”では誤魔化せない。どれほど取り繕おうと、太陽の光を封じることなどできない。だから太陽は、己の光を間接的に反射する月の光を手に入れた。己を消すことは出来ずとも、己を見せずに他者を魅せる技法を手に入れた。

ガチ濡れ場(R18)って需要ある?

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