【完結】天に輝く二ツ星 作:アクアハーレム最後の刺客不知火フリル
アクアは食事会の後、別日の収録中の撮影外スペースにて、あかねに話を聞いていた。理由は簡単、懸念があるからである。紙コップのコーヒーで口を湿らせて、アクアから切り出した。
「あかねは、どうしてこんな番組に出たんだ?」
「え? えっと、プロデューサーさんに出て欲しいって押されて……」
なんとも主体性の無いふわふわとした回答だったが、アクアはそれは予想内として話を続ける。
「そうか。じゃあ説明はちゃんと受けたんだよな?」
「説明?」
アクアの想定の中でも、最悪の事態だった。アクアがフォローして、事前に地雷撤去をしたから良かったものの。アクアは思わずため息を吐き、あかねはそれに反応して肩を跳ねさせた。やはりあかねの事務所は怪しい。端的に言って、あかねという巨大な才能を使い潰しそうで、アクアは信用が出来なくなった。空になった、くしゃくしゃに握り潰された紙コップをゴミ箱へ捨てた。
「あかね、恋愛リアリティーショーは誹謗中傷が原因で自殺者が出るようなリスクのある番組だって、知ってたか?」
「えっ、そうなの!?」
目を丸くして驚くあかねを見るに、どうやらその事実を今知ったらしい。これは完全にプロデューサー、ひいてはあかねの事務所の完全な落ち度だ。日本では確かに事案としては少ないが、米国では20件以上の事件が事実として発生している。だがそれでも、なお対策等をしながらも製作され続けているのは、低予算で作成でき、費用対効果が高いから……端的に言えば数字が取れるから、であった。ネット配信だからこその利点であり、事実恋愛リアリティ戦国時代とも言える時代らしかった。アクアはそのあたりはかなり疎かったので、完全に社長からの受け売りの知識だが。
「あかね、その事務所……大丈夫か? この番組に参加するには説明責任が事務所側にある。これは契約違反に当たるぞ。それに、あかねほどの役者が8:2なんてのもおかしい」
「そう、なのかな?」
相場というものを知らない、箱入り娘のような反応。アクアはますます彼女を放っておけないと思った。
「あんまり金の話はしたくないが、今のところ半分穀潰しみたいな妹ですら、仕事になれば7:3だ。本格的に活動するとなると6:4だ」
「そう、なんだ……」
「ああ。俺からしてみれば、かなり信用のおけない事務所に見えるな」
「でも、その……子役の頃からお世話になってて……」
「言い出し辛いか」
「うん」
芸能界は貸し借りと義理人情の世界だ。だからこそ、育てて貰った恩というものは存在する。だが、近年はそれを盾に問題行動に出る事務所を疑問視する声が世間から上がっており、離職や移籍が珍しい事態ではない。それでもなお、まだまだ芸能界とは閉じた世界なのだが。
今のあかねの状態は、事務所への信頼がかなり失われた状態だ。たとえヒューマン・エラーだとしても、契約違反ともなれば信頼や信用というものは一瞬で崩れてしまうものだ。だが、辞めるにしろ移籍するにしろお世話になった事務所に恩を仇で返す形になるのでは、と心配しているようだ。
不安げにアクアを見つめるあかね。アクアは、冷静にあかねに自分の答えを返した。
「こういう時、未成年の俺やあかねが出来ることは少ない」
「そっか……」
明らかにがっくりと肩を落とすあかねの手を握る。不安に揺れる彼女の瞳を、じっと見つめて、安心するように声をかけた。
「大丈夫。俺達は未成年だからこそ頼れるものがある。大人を頼るんだ。もしそれで事務所を追い出されるようなら、苺プロでフォローするように掛け合う」
「俺を信じてくれ、あかね」
アクアのその真っ直ぐな言葉に、あかねは無言ながらもしっかりと頷いて答えた。
アクアはその日の夜から、有言実行とばかりに己の持っているコネを総動員させた。
新設された苺プロ法務部、社長、歴戦の営業部、そしてカミキヒカルを通じて劇団ララライにアクアは働きかけた。
「共演者の黒川あかねが、事前説明を受けずに殆ど押しきられる形で、恋愛リアリティーショーに参加させられたらしい。給与体系もあかねの実力にたいして8:2とおかしかった。あかねの事務所のことが、俺は信用できない。社長。なんとか助けられないか。うまくやれば将来の大女優をうちで拾えるかも」
「それは……確かに問題だな。よし、やってみるか。うちの法務部も動かしてみよう」
「父さん、ララライの金田一さんにあかねが恋愛リアリティーショーに説明もなく出させられてるみたいって話を流して欲しい」
「アクア、よく知らせてくれたね。まかせて、うちのエースを貶されたようなものだから」
そしてついでに、アクアは番組Pの鏑木にもそれとなく話を流す。やや高い買い物だったが、背に腹はかえられない。
「あかねのやつ、どうも今ガチの危険性についての説明を受けてないらしいんですよ」
「え、そうなのかい?」
「はい。それにここだけの話どうやら報酬体系も怪しいらしくて、8:2だとか……」
「あかねくんが2? そりゃ変だね。君のことだからもう動いてるんだろ? 何か起きたらフォローくらいはしてあげるよ。あの顔のいい才能ガールが消えるのは惜しいし。あ、貸し1でいいよ」
「ぐっ……それでいいです」
それだけではない、かなとルビーにもその後のフォローをまかせた。
「と、こういうことらしい。移籍後のフォローを頼めるか、二人とも。同じ女性の方がいいだろう」
「えー? ミスにしてもちょっと嫌だねその事務所」
「わかった、こっちに移ってからのあかねのメンタルフォローとかはきっちりやるわ」
「任せてよ!」
「かな、ルビー。頼む」
「バッチリ任せなさい、幸せの沼にズブズブに沈めて全身泥パックにしてやるわ」
「おにいちゃんが頼ってくれるなんて久々だなー! もちろん!」
そうして、僅か三週間という短期間で、あかねの事務所とは決着が付いた。あかねの事務所側が早々に折れたからだ。ララライと苺プロの繋がりから、苺プロを通じて問題提起。鏑木Pもうまく立ち回ってくれたようで、示談という形に。表面上は、今ガチ終了後に、和解と同意の上での事務所移籍という形になった。あかねの事務所は、あかねの損失という手痛い授業料を支払うことになっただろう。
あかねの母は、この件が一応の決着を付いた後に斉藤社長経由で経緯を説明され、混乱と驚愕、そして怒りを覚えていた。そして、最終的にはあかねとの相談の末に、苺プロに事務所を変更することに同意した。この結末に斉藤社長は「まさに棚からぼた餅だな」と喜んでいた。
「なんとかなったな」
「うん……ありがとう、アクアくん」
「良い。別にお前のためだけじゃない。ただ放っておけなかっただけだ」
「それでもありがとう、だよ。アクアくん」
こうしてアクアは、あかねにとってヒーローになった。ピンチの自分を助けてくれたヒーローで、憧れの人で、はじめての対等な男の子。話も合うし、いつも真面目に自分の話を聞いてくれて、優しくてかっこいい男の子。暗い自室で、今ガチの彼を見ながら、頬を朱色に染めて愛おしそうに、熱いため息を吐く。
黒川あかねは、元々ひとつのものに入れ込むタイプの人間だった。演技然り、人形然り、有馬かな然り。そうした「特別」のひとつに、アクアも含まれた。元々アクアのことは好いていた。話していて楽しい、意気投合していたと言っていい。無自覚に恋心をいつの間にか抱いていたが、アクかなという大前提が彼女の中にあったために、その恋にまるで気づかぬまま、無意識にそれを育てていた。だが、今回の一件が切っ掛けとなり、恋心を隠す自身の強い想念を飛び越えるほどにその気持ちは育ちきった。
そして、純粋な乙女は恋を自覚し、恋によって真の才能が開花する。山茶花は美しく咲き乱れた。
「アクアくん。私のヒーロー、私を助けてくれた人……アクアくんの事を考えると、胸がきゅうって締め付けられるみたいになる。でも、苦しくなくて、むしろ心地いい……」
「そっか……これが恋なんだ、これが愛おしいって気持ちなんだ」
「あ、でも……私が恋人になったら、アクかなじゃなくてアクあかになっちゃうのかな。それは、イヤだなぁ……あ、じゃあアクアくんにかなちゃんのついでで私を受け取って貰えばいいんだ。今日の私は冴えてる。アクかなに挟まるんじゃなくて、私たちでアクアくんを囲んじゃえばいいんだ」
「アクアくんになんでもしてあげたい。アクアくんのためならなんでも出来る。どんなひどいことでも、えっちなことでもアクアくんのためなら私はなんでもできる……どんな私にもなれる。誰かを貶めても、アクアくんのためになるなら、きっと笑顔でやれるよ?」
「アクアくんのことをなんでも知りたい。好きな本はなにかな、難しい本とか読んでるよね。好きな食べ物はなにかな、確か、ピーマンは嫌いだったよね。『真実のアイ』でイヤそうな顔して食べてたの書いてあった。えへへ、かわいい」
「好きな女の子のタイプはどうかな、少なくとも目は肥えてるよね、かなちゃんやルビーちゃん、アイさんみたいな美形揃いがそばに居たんだもんね。色々調べて、参考にしなくちゃ。私は……セーフかな? どうだろう? でもアクアくんはお世辞でかわいいとか、言わないよね」
「アクアくんの好みの女の子になりたい。アクアくんのためなら誰にだってなれる。悪女でも都合のいい女でも……奴隷、でも。奴隷、奴隷……結構、いいかも……?」
「アクアくんに首輪を嵌めてもらって。アクアくんのいいなりの奴隷。アクアくんの命令ならなんでも従っちゃうんだぁ、きっと……」
「あは……こんな変態だったんだ、私って……でもいいかな、今の自分の方が好き……ちゃんと、新しくなった自分のことも、しっていかなきゃだよね」
「アクアくん、アクアくん……好き……好き……大好き……」
目覚めた乙女は、止まらない。
恋する乙女♡
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