【完結】天に輝く二ツ星 作:アクアハーレム最後の刺客不知火フリル
男子三日会わざれば刮目してみよ、という慣用句がある。人間はほんの僅かな短期間で劇的に変わってしまうものだから、しっかりと見定めなければならない、というような意味だ。別に男女どちらにも使ってよい慣用句である。
黒川あかねは、事務所移籍決定を契機に、劇的に進化した。表面上はまるで変わっていないが、態度や言葉、行動の端々から、重みや厚み、あるいははっきりとした輪郭というべきか……そういった説得力のようなものが示されるようになった。
「アクア君っ、お話いいかな?」
「良いぞ」
「えへへ……この間の稽古でね」
カルガモの子のよう、というよりは仔犬のよう、という表現に変化していく。ただついて回るだけの少女が、控えめながらも自分の意思を出すようになった。その証拠に、アクアとの距離が明らかに近くなっている。自分から話題を出せるようになっている。確かな前進に視聴者たちは盛り上がった。
アクアとしては、番組の演出的にも彼女が積極的になるのは良いことだと思っている。アクアを練習台にして、他のメンバーとの交流もカメラのあるなしに関わらず自分から関係を深めようとしている努力を感じられ、移籍により後顧の憂いも無くなったため、ほっと一息といったところだった。
もちろんあかねの策略である。あかねはいきなりパーソナルスペースを詰めるとアクアはドン引きするタイプと分析したので、最短最速かつアクアに引かれない程度の速度で自然に距離を詰めていくことにした。目覚める前のあかねが、くっついて付いていっただけなのが、功を奏した。また、どれだけ距離が近くなっても、彼の近くの女性ほど近い距離にはなりにくいことも分析していた。特にアイやルビーは距離感がバグってそうなので。ばっちりアクアを蛇のように狙っているのである。
しかし、当のアクアはあかねの問題が解決してひと安心したために、この場が“恋愛”リアリティーショーの当事者であること、そしてあかねに狙われていること。その自覚をすっかり忘れていた。そういうのはゆきがやってくれているから、という意識があった。だからだろう、余計に恋愛をする気のないMEMと話す機会が増え、その職業や仕事に興味が湧いていた。
「アクたん、あかねちゃんと二人して何見てるの?」
「お前のダンス動画」
「本当に何見てるの!?」
やめろぉ目の前で見るのは堪忍~とわたわたしている彼女を尻目に、アクアとあかねがみているのは“サインはB踊ってみた”という動画である。あかねはアクアの顔にかなり接近した状態で動画を見ている。ほんのりと頬が染まっているので、恥ずかしさも少しはあるようだが、それ以上に嬉しさもあるのだろう、離れる気配はない。
「いや、お前も知ってるだろ。俺は文字通り生まれついてのB小町ファンだぞ。お前がこの動画を出してるって知ったら確認したくもなるさ」
「あ~、サイリウムベイビーズの片割れだもんね~。で、どう?」
アクアは彼女の動画をもう一度確認する。ターンやステップ、振り付けはしっかりと基礎ができているのを感じる。かなりしっかりとしたダンスの指導を受けた経験があるのだろう、見ていて彼女の踊っているときの楽しさが画面越しに伝わって来るようだ。あかねもじっとMEMのダンス動画を真剣に見ている。端からみれば初々しいカップルのようにも見え、MEMはこの二人もしっかりやることやってんねぇ、という風に思っていた。
「そうだな……体幹がしっかりしているな。ダンスにキレがあるし、止まるところはしっかり止まっているしふらつきも少ない。素人には思えない動きだ」
「私からしても、良くできてると思うよ? えっと……アイドルとかダンスはあんまり詳しくないんだけど、体幹がしっかりしてるのは良いことなんだよね? こんなくるくる回ってるのに目も回ってなさそう」
「ああ、平衡感覚も強いんだろう」
「そうだね……なにかダンスの経験……ううん、これは指導を受けた経験かな。実際に人目に見せるのはこういう動画が基本でなにか大会とかにでたわけじゃなさそう」
ぐっと更に顔や体も近づけて真剣にスマホを覗き込むあかね。あかねからほんのりと花蜜のような甘い香りがただよってきて、アクアとしては少しどぎまぎさせられる。あれ、距離近くね……? と。だがアクアも基本的には友達をすぐに作れない陰キャタイプ。今の子の友達くらいならこんなものなのかも、という風に思い直した。なにせ唯一の親友との距離感はもっとやばかった、一時期は膝の上に乗っていたくらいだから。顔が近いくらいなんてことはないのだと自分に言い聞かせた。もちろん普通の距離感ではない。
一方のほめ殺しされながら分析されているMEMちょは恥ずかしそうに顔を赤くしていた。
「何かダンスの習い事でもしてたのか?」
「あー、うーんと……まあ、昔に少しだけ? 昔はアイドル目指そうなんて夢見てた事もあったんだけどね~、色々あってYouTuber! あ、でもYouTuberも楽しくやってるよ!」
いかにも人生楽しんでますといった風に笑って誤魔化す彼女は、それでもYouTuberの仮面が剥がれない。しかし、少しだけ表出した陰に、アクアは仮面の裏側を見た気がした。
「そうか……そうだな、MEMちょがアイドルか……」
MEMがアイドル。どうだろう。公称18歳だが、現役JKというには人生経験に重みのある話を焼肉屋でしていたし、もう少しサバは読んでいそうだ、3……4歳くらいだろうか? 22だとしても、幼い骨格と顔立ちからして女子高生とならんでも違和感はないだろう。
今ガチでは明るいムードメーカーで、ややコメディチックだが笑顔に魅力がある。顔は悪くない、むしろ良い。ネットに強く発信力があり、配信動画からのファンの導線も僅かではあるが見込める。チャンネル登録者からの動員可能人数は一般的に1%未満といわれるが、それでも30万いれば3000人だ、馬鹿にはできない。そこらの中堅アイドルグループならセンターを張れる実力があるだろう。
肝心の歌は未知数だが、妹ほどということは無いと思いたい。声質からして、仮に下手でもヘタウマの部類になると判断できる。そのくらいならそれこそアイドルにはごまんと居る。
余談だが、有馬かなは更に歌唱力を上げ、B小町楽曲を含む持ち曲は全てカラオケで90点オーバー、持ち歌メインとなるfull moonに至っては99点を記録していた。本人は「カラオケで上手くても人に聞かせたときに心を掴めないなら意味ないでしょ」と不満そうだったが。
総じて判断するなら……今からアイドルになってもMEMは“推せる”。ドルヲタの魂がそう判断した。そして、思わずポロっとその意見をこぼした。
「アリだな」
「へ?」
「もし仮に、MEMちょがアイドルを今からはじめても推せる」
アイドルを目指す、あるいは目指していた女の子に向かって、顔の良い男が“推せる”だなんて言うのは、その女の子に対して殆ど口説いているようなものと言っても過言ではない。少なくとも“アイドル級にかわいいよ”と言ってるのと同義だ。
MEMちょは数回、ぱちぱちと瞬きして何を言われたのか理解しきれていなかったが、段々と脳が理解した。流石に美辞麗句だと判断したのか、茶化すように言葉を繋げる。
「ア、アクたんってば~、もーそういう冗談はやめてよっ」
動揺してややどもったが。だがアクアとしては本心であるし、彼女にそういう言葉を伝える意味をいまいち理解していなかった。心の機微をよく見ている割に、息を吐くようにこういった褒め言葉を並べるのがアクアだから。
「いや、別に冗談じゃないが……?」
「……っ!! あーっあっちの方に猫が居るーバズの予感だぁーっ」
MEMは恥ずかしさと嬉しさのあまり、赤面してものすごい雑な捨てぜりふと共に逃げた。
「……俺、なんかまずいこと言ったか?」
「あのね、アクア君。女の子にアイドルになったら推せる、なんていうのはね。“君、アイドルレベルでかわいいね。惚れちゃうかも”って言ってるのと同じだよ?」
「……なるほど。次からは気を付ける。でも……アイドルになったら推せるって言う気持ちは、本当だ。これは恋心とかそういうのじゃなくて1アイドルファンとしての視点での話でだな……」
ずいぶんと見苦しい言い訳に聞こえるが、アクアとしては本心からの言葉だ。今ガチにおいて、アクアはそう大きな嘘を吐いてはいない。アクアを演じるアクアはもう必要ないのでやめている。嘘を付く必要性も感じていないので、プライベート関連以外は、誇張はしても嘘は吐かないようにしていた。
「うん、私とか、かなちゃんとかなら分かってると思うけど、他の人はそう捉えちゃうってことだよ。……ち、ちなみに私はどう?」
「あかねがアイドルに? ……未知数だな。もっとあかねのことを知らないと分からないかな。かわいいとは思う」
「も、もう! アクア君はさらっとそういうこと言いすぎ!」
「事実を告げただけだ」
視聴者からは、このやりとりが“自然と口説くアクアに嫉妬するあかね、そして番組で隙を見せなかったMEMちょが初めて照れのあまりに赤くなって逃げる”という構図に見える。演出もそのように演出した。結果、視聴者はより一層“アクあか”の結末に注目していった。
あかねはアクアに
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