【完結】天に輝く二ツ星 作:アクアハーレム最後の刺客不知火フリル
32.始動
「アクア、今ガチよかった。MEMちょの乙女面が。それをもう一度拝みたい。どうすれば良い?」
今ガチ最終回放送の翌週の月曜日、学校の昼休み。フリルから唐突にそんな話を振られた。美少女が真顔でそんなことを言うのだから天然ボケもいいところだ。少なくとも、清楚売りをしている女の発言ではない。
「今ガチでも見返せよ」
「もう何回も見直してる。乙女面まとめ動画とかも。でも感情には鮮度があるから。私は新鮮な照れMEMちょが見たい」
「だとしても俺に聞くな。あと距離が近い」
アクアの苦言に堪えもせずにずい、と更に顔を寄せるフリル。有馬かなのせいでパーソナルスペースのバグったアクアが近いと言うくらいなので、かなり近い位置まで近づいてきている。アクアとしては、この何を考えてるのかいまいちよくわからない国民的美少女は少し……いや結構苦手である。
「別にアクアの顔面なら寄せても私はなんとも思わない。むしろ目の保養」
「ルッキズムの権化め、俺と世間が気にするからやめろ」
「ツーショでも撮ろっか。美男美女でルッキズムしよう」
「ルッキズムを変な隠語にするな、あと自分から火種を作るのやめろ。俺も燃えるだろうが」
「残念」
だが、決して悪い気はしなかった。しなかったが、苦手なものは苦手だ。しかし助けを求めようにも、肝心のルビーはみなみと何やらガールズトークをしている様子。少し聞き耳を立ててみると、同じく今ガチの話題で盛り上がっているようだ。
「お兄さんのキスシーンって、妹からすると実際どうなん?」
「まあ複雑といえば複雑かなー。でも、それより陰キャのおにいちゃんにもついに恋人が! っていう驚きの方が強かったかな」
「お兄さん言う程そういう感じでもなさそうやけど。陰キャというより……寡黙でクールって感じ?」
「あー、顔面が良いからそう見えるかも」
「でもあのシーンは良かったと思う。ロマンチックやね~」
「色眼鏡抜きでいえばそうだね」
自分のキスシーンの話題で盛り上がる級友と妹。なんとも表現しがたい複雑な心境になるアクア。
「どうしたのアクア、妹の鑑賞でもしてる? 確かにルビーも顔面偏差値70超えしてるけどシスコンがすぎないかな」
「シスコンでなにが悪い、じゃなくて鑑賞はしていない。自分のキスシーンの話題は複雑ってだけだ」
「そんなの今後いくらでも増えるでしょ、気にするだけ無駄だよ」
「言葉に重みを感じる」
「事実だからね」
フリルは似たようなことを既に経験してきたのだろう。芸能人としても役者としても、何だかんだ一歩先を行ってるんだな、アクアは感心した。しかし距離が近い。いい加減に離れて欲しいと感じ始めた時、本当にダメなラインを弁えているのかいないのか、あるいは想定通りの反応を引き出せなかったからなのか、パッと顔を離すフリル。
「やっぱりこの距離感はエグい。私はドキドキしてしまった」
「人をおちょくってるのか貴様」
訂正、感心は撤回する。真顔で何を言ってるんだこの国民的美少女は、とアクアは呆れた。
☆
そんな学校での一幕は一度置いておき、ついに極秘プロジェクト「B小町復活計画」の第一段階「メンバー集め」をクリアし、第二段階である「メンバーの実力確認」となった。現状、完全な社外秘の超々極秘プロジェクトのため、比較的手の空いている副社長ミヤコが主導となっている。
「ようやくね。やらなきゃいけないことは山ほどあるけど……」
ミヤコは改めて、ここ一週間で実力を再確認したメンバーを見る。アイとヒカルの美貌を受け継ぎ、何をやっても楽しそうに輝く。弱点の歌も克服し、なによりも両親譲りの天性の瞳。二代目B小町センターとして申し分ない、目を奪われるルビー。ルックス、歌、踊り。アイドルとして単品としても完成度が高く、なによりも太陽のようと評される
伝説のB小町の後継を名乗るにあたって、申し分無さすぎるメンバーが揃った。そして全員がアクアが実質引っ張ってきたようなものだ。仮にアイドル育成ゲームにしたって、こう上手くは揃わないだろう。
「取り敢えずは、B小町復活の告知動画よ」
「告知動画……デビューの告知ってことですか?」
「いいえ、プロジェクトの告知動画よ。理由を説明するわね」
かなの疑問にそう答え、ホワイトボードに「B小町復活プロジェクト告知!」と書く。そこに箇条書きしながら、理由が解説されていく。
「いい? 現在、B小町……特に元センターのアイはアイドル業界において、もはや伝説的存在になっているわ。だからこそ新生B小町をハイ結成しました、じゃあ現役の既存ファンは納得しない。だからこそ苺プロも本腰を入れてやっています、っていうアピールをしなければならないの」
「アイさんが芸能人として現役なのも大きいですよね」
現役でバラエティ、ドラマにも出演して輝き続ける一番星の後釜のアイドル。もちろん他のB小町メンバーが決してレベルが低いわけではないのだが、B小町といえばアイというのが、世間での認識だ。
「だからこそのプロジェクト告知。プロジェクト告知で人の目を集めて、そこから一週間ごとにメンバー紹介動画って流れね」
「あの~……
MEMの当然の疑問に、ミヤコはさも当然のようにこう返した。
「悪いけど、そんな時間はないわよ。新生B小町のデビュー戦はジャパンアイドルフェス! 今から約一ヶ月後になるわ」
「「JIF!?」」
アイドルオタク二人の声がハモる。いまいちアイドル関連についての知識がないかなは、ジャパンアイドルフェスが何なのかは分からなかったが、少なくとも二人の反応からしてデビューしたてのアイドルが出るような小さなステージではない事は理解した。
「当たり前よ、今更B小町が地下ライブから再スタートなんて出来ないもの。むしろ、JIFでようやく釣り合うわ。だからこそ、敢えてMVはまだよ。旧B小町の知名度を存分に利用する」
つまり、苺プロの態度としては“新生B小町の実力、知りたければJIFに来い”という自信に満ち溢れた……悪くいうならば傲慢な態度で挑む形になる。しかしB小町という名前は、その位しなければならない破壊力があるのだ。地下ライブからスタートしたら、地下ステージを焼き尽くしてしまう。例えるなら子供の喧嘩に鎧武者が参戦するようなものだ。
「それって大丈夫なの?」
「大丈夫よ。あなたたちにはそれだけの実力がある」
ルビーは元より、かなも合間合間を縫ってダンスと歌の練習を重ねてきたし、MEMも実力はこの一週間できっちり確認できている。体力不足ということもなく、オンチということもない。即ち、本来必要となるはずの基礎練習が、三人は必要ないのだ。後は実際のステージ上での動きを確認する形となる。
やっかみ等はあるだろう。だがそんなものすら吹き飛ばすという確信があった。だが、ルビーの心配も理解する。
「もちろん、私の言葉だけじゃ不安なのは分かるし、いくら練習しても自信にならないのも理解するわ。そこで特別講師を呼んであるわ。入ってきて良いわよ~」
ミヤコの呼び掛けに扉を開けて入ってきたのは、アイであった。
「イエイっ☆ 特別講師のアイでーす、よろしくね?」
「よろしくおねがいします、アイさん」
「わーい、アイお姉ちゃんだ!」
ルビーやかなからすれば、アイの存在はもはや慣れたものだ。MEMからすれば憧れの人だ。分かってはいた、B小町を名乗る以上、アイとの関わりは避けられないと。だが、アイドル業務委託という形になってからここ一週間は出会いもしなかったのだ。緊張した面持ちになってしまうのも無理はなかった。そしてなるほど、かなの言っていた通りだとも思った。生アイをみれば年齢など言い訳にもならない。今からアイドル復帰してアイ復活ライブとかやったとしても、ドームを埋め尽くせるだろう。説得力のあるオーラを纏っていた。
「あの、えっと……YouTuberのMEMです! よ、よろしくお願いします!」
しどろもどろになりながら挨拶をするMEMを、んー、とじっと観察するアイ。何かを確認したのか、うん、と納得して彼女に挨拶を返す。
「
ミヤコは内心ガッツポーズをした。時間のあまりない筈のアイを特別講師にした、最大の目的を達成したからだ。
アイは、ようやく名前を覚えられるようになったとはいえ、初対面だとやはり、流石に間違えてしまう事が多い。そのアイが一発で名前を覚えたということは、アイが無意識ながらに彼女の才能を認めた証でもあった。
MEMは、アイに自己紹介したことで仕事の相談をしなければならないことを思い出した。自分の本業であるYouTuberのことだ。
「あ! そういえば配信ではどれだけの情報を絞れば良いんですか? あと、アイドルになれた理由とか……」
「取り敢えず、配信内容で公開して良いのはメンバー紹介動画であなたの分が公開されてから、情報も表に出てるものだけね。出来れば導線として動いてくれるとこちらも助かるわ。ああでも、アクアがあなたを勧誘したのは言って良いわよ」
アクアの今のネット上でのイメージは「生まれついてのアイドルオタク」「サイリウムベイビーズの片割れ」「あかねのオタク趣味に振り回される恋人」等々あるが、一部でやはり二股男という声が無いわけではない。ないが、あかねの有馬かな厄介オタクというギャグのような
「そういえばお兄ちゃん、アイドルになったらMEMちょも推せる~みたいなこと放送でも言ってたもんね」
「じゃあそのまんま勧誘された時の言葉にしちゃおうかな……あ、ルビーちゃんのことも引き合いに出して良い?」
「おっけー」
「ミヤコさん、これなら大丈夫そうです……!」
MEMの瞳に光が宿った。そこにはアイドルになることに一抹の不安を抱いていた少女ではなく、ネットの海を渡り歩いてきた歴戦の戦士がいた。
ルッキズムする(代名詞)
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