【完結】天に輝く二ツ星   作:アクアハーレム最後の刺客不知火フリル

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35.モチベーション

「はい! うんうん、かなり良くなってきたよー!」

 

 相変わらずけろりとしているアイをよそにヘトヘトになる新生B小町。だが、もう思わず座り込むほどではないし、パフォーマンス低下も最小限に抑えられている。確実にスキルアップを感じる一ヶ月であった。

 

「はぁ、はぁ……よしっ! 来週はついにJIFだよっ!」

「本番に向けて憂いなし! だねっ!」

 

 元気にJIFを喜ぶ二人とは裏腹に、かなは内心やや不安げだ。

 

「そうねー……はぁ、ついに私も来るところまで来たわね」

 

 別にアイドルをやること自体に不安はないし、文句もない。大舞台にこのお気楽なヒヨコ二人を連れていかなければならないことが不安であったし、役者なのに自分は何をやっているんだろうという漠然とした気持ちが大きくなっていたのも確かだ。だがそれ以上にこの二人の熱意についていけるか心配、というなんともかならしい迷いがあった。

 

「皆、お疲れさま」

 

 そこにアクアが水分と差し入れを持ってやってくる。

 

「やったー! アイスだー!」

「アクたんありがとねぇ」

 

 アクアが持ってきたのはアイスバーだ。かなも「ありがとね」と一言礼を告げて受けとる。

 

「どうだ、アイ。三人は」

「良い感じだよー。今からJIF出てもバッチリ!」

「バッチリか。なら大丈夫そうだな」

 

 ちらりとアクアは三人を見る。こういうとき、大体かなは胸を張って喜んでいるものだが、妙に大人しいのが気になった。

 

「……ちょっと外で風浴びてくる!」

 

 かなはそういうと、レッスン室を飛び出してしまう。アクアは何かあるな、と察して後を追いかけていった。

 

「アクたんってば、かなちゃん大好きだよねぇ」

「唯一の幼馴染だからねー」

「唯一かぁ、そりゃあ大事だ」

 

 ☆

 

「はぁ……なにやってんだか、私……」

 

 夜空を眺めながら、空を見る。こういう心が落ち込んでいる時こそ上を向かなければならないことを、人生経験として有馬かなは心得ている。下を向いていたら落ち込んでいくだけだから。ぱさ、と何かが肩にかけられた。いわゆるスポーツタオルだった。

 

「風邪引くぞ」

「ちゃんと汗は拭いたわよ」

「そうは見えなかったからな」

「別に汗だくの私でもいいでしょー?」

「いや風邪引くだろうが」

 

 声の主を確認するまでもなく、軽口を叩き合う。ほほにぴたりと冷たい缶が当てられて、思わずひゃっ、と小さく悲鳴を上げた。

 

「ほれ、飲むか?」

「コーヒー? まあ飲むけど」

 

 アクアから缶コーヒーを受けとり、プルタブを引く。コーヒーの豊かな香りが漂ってきて、少し心が落ち着く。

 

「……後悔してるか? アイドルやること」

「んー……別に、後悔はしてないかな。あんたが向いてるっていうから、そういうのも無いのかなって」

「かなは可愛いからな」

「やめなさいよ、誰彼構わずそういうのさらっと言うの。ただ、そうね。なんだかやる気がわいてこないっていうか……あの子達ほどの熱意はないなぁって思ってるっていうか、どうにもね」

 

 アクアがとなりに来て、同じように空を眺める。

 

「やる気になる何かが欲しいってことか?」

「端的に言えばそうなるわね。アイさんやアンタの眼が狂ってるとは思わないから、クオリティは大丈夫だと思うし。ネームバリューもあるし、ファンも……まあ、少なくとも私が大好きな物好きが隣にいるしぃ?」

「まあ子役の頃から推してるからな」

「ふふっ、なにそれ自慢? とにかくそういう面は別に気にしてないの」

 

 ぼんやりと二人で空を眺める。普段から騒がしいだけに、中々貴重な時間なのでは、と思う。

 

「やる気か……難しいな、それは」

「でしょー。何か無いかしらね」

 

 そうぼやきながら、二人で空を見ていると、ふとかなの脳裏に邪なアイデアが浮かんだ。

 

「んー……じゃあ、アクアの何か“初めて”をひとつちょうだい」

「何かってなんだよ」

「何でも良いわよ~? キスとかハグとか」

「それはもう初めてでは無いな」

「そうよねー。じゃあ……」

 

 アクアの指に、指を絡めて、耳朶に触れるほど唇を寄せる。ふぅ、と息を吹き掛けると面白いように彼の顔が赤くなる。そして、そのまま自分の願望を素直に吐き出してみる。こういう時は、素直になった方が上手く行く。

 

「じゃあ、JIFが成功したらデートしましょ、デート。いつもみたいに四人じゃなくて、私とだけの二人きりのデート。どう?」

「それでいいのか?」

「それがいいのよ」

 

 耳許で囁くように呟かれるのは、流石のアクアでも来るものがある。だがグッとこらえて我慢した。確かに二人きりのデートはここ最近出来ていない。

 

「場所はどうする。かなの好きな場所で良いぞ」

「ほんと? じゃあ……うん、やっぱり私の家かな。下手に外に出ると色々煩わしいし」

「まあ、それはそうだな」

 

 いわゆるおうちデート。アクアとかなの組み合わせは、どこかに二人で出掛けること自体がリスキーだ。一番安心できる選択肢ではある。

 

「わかった、かなの家にしよう」

「ありがと。皆と一緒も悪くないのよ。でも……たまには二人きりのデートをしたいじゃない?」

「……悪い」

「良いわよ別に。この道を選んだのは自分だし。それとも不満?」

「不満なんかない。ありがたいと思ってる。……ルビーとあかねともやらないとな」

「私だけするのは不公平だものね」

 

 三人には感謝している。なんとも浮気性な自分のことをなんとか受け入れることが出来たのは、三人が率先して動いてくれたお陰だからだ。だからアクアに出来ることは、なるべく平等になるように気を遣うことぐらいだ。

 

「ところで、アクアはいつになったら私たちに手を出してくれるの?」

 

 かなの突然の猛攻に、アクアは盛大にむせた。

 

「あら、ダメ?」

「だめじゃ……だめじゃないが……せめてアイドル業務が少しでも落ち着いてからでいいか……?」

「その答えで十分よ」

 

 にっ、と恥ずかしいのか顔を赤くさせたまま、太陽のように明るく笑うかな。その笑顔を見ていると、自分の葛藤がなんだかバカらしく思えてきた。だが、それでもアクアは基本的にドルヲタであった。だから、アイドルと付き合うというのは結構精神的ハードルが高いのだ。もう手遅れかもしれないが、理由はやはり“それでもアイドルはしない方が好ましいハズ”という他なかった。

 

「そうか……まあ、夢を見させるとはいえ事実が違うっていうのは心に来るから、あまり大っぴらに話すなよ」

「なに、アイドルの処女性の話~? あんなのあかねみたいな見る人が見れば分かるらしいわよ? 骨格がどうとかで」

「ああ……10代などの成長期にそういうことをすると、骨格が歪むからな。肉体的には耐えられても、骨までは……ということだろう」

「詳しいわね」

「まあ、一応知識としてな」

 

 自分はそういうのに詳しい産婦人科医だったから知っていたが、あかねも知っていたのか、というか見ればわかるのか、という驚きはあった。

 

「で、どうだ。やる気は出そうか」

「んー……バッチリね。メラメラ燃えてきたわ。会場を白一色に変えてやるんだから」

「大きく出たな。あの二人はアイドルとして強敵だぞ」 

「そのくらいの気持ちで頑張る……ってことよ!」

 

 んー、と伸びをする。かなの顔に、もう不安はなかった。

 

「それじゃあ、そろそろ戻るぞ」

「分かってるわよ。……ありがと」

 

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