【完結】天に輝く二ツ星 作:アクアハーレム最後の刺客不知火フリル
ジャパンアイドルフェスから暫くして、嬉しい悲鳴を上げ続けている者の一人に、当然MEMちょもいた。流行り廃りはネット上だからこそ早い。それ故にJIFの熱が残っている内に手を打たなければならない状態……そう考えていた。
だがその見通しは通常であれば正しかったのだが、今回ばかりはそうでもなかった。既に半月も経過しているというのに、未だにJIFの熱が冷めていなかった。
理由はいくつかある。伝説のB小町のネームバリュー、B小町の公式動画チャンネルにて有料配信されたデビューライブ、そもそものメンバーの知名度、テレビでの特集などなど。後追いのファンたちがじわじわと増加している。SNS等では「なんで早く教えてくれなかったの!」*1という悲鳴のようなものまで出ているほどだ。爆発的に増加したチャンネルのコメント欄は現在、B小町メンバーの固定ファン、アイドルオタク、元々の視聴者に分かれ、混沌としていた。落ち着くまでには時間を要するだろう。
そのお陰でMEMちょのYouTubeチャンネルは登録者数がついに100万を突破、つい先日金の盾が送られてきた。開封する余裕もないため、今は段ボールの中に放置されたままだ。アイドルのレッスン、次のイベントホールでのライブのためのレッスン、TikTokとYouTubeの動画投稿……とにかくイベントが目白押しだ。生放送だけをしているならまだマシだが、MEMちょは編集した動画も投稿している。それらもコンスタントに再生数を稼げるものであり、投稿頻度を考えると、ギリギリに詰めてでも編集作業をしなければならない。
「んー……エンコードして……これであとはチェック作業だけか~。あと何本ストック残ってたっけ……? でもこれだけは今日中に仕上げないと……」
MEMちょとしても助かったのは、苺プロがいくつものネットタレントを抱えているために、サポートも手厚く優秀、という事実だ。億プレイヤーのぴえヨンを筆頭に、何人もの優秀なネットタレントを抱えている。そのためか、事務所にも高スペックな機材やPCが沢山置いてある。動画編集用として、MEMちょ専用機まで貸し出しをしてもらっている。編集作業もいくつかやって貰ってはいるが、やはり個人で活動してきた癖で、最後は自分が目を通して確認し、しっかりと微調整をしたものにしたかった。視聴者数の増えている現状、固定客とするためにもクオリティの低いものはMEMちょとしても投稿したくはないし、大事な時期なので少しのミスも見逃したくなかった。
えぐみの強いエナジードリンクを啜り、食事も惜しいとゼリー飲料。額に熱冷ましシートまで貼った状態で、隈も出来ている。どうしても一人で作業することが多くなるため、独り言も増えていた。ぐっと伸びをすると、固まった関節がポキポキと音を立てる。時計は夜の9時を指していた。疲労も強かったが、それ以上にやり応えを感じている。夢のステージに立ち、YouTuberとしても一段上になった。ここで安堵して立ち止まれるならば、彼女は自力で30万超えの視聴者を抱えることはなかっただろう。だが、無理をすれば身体が悲鳴を上げる。もう20代も後半であり、あかね達のような若さはないなぁ、と自覚していた。とはいえ、作業は一段落した。あとはチェックして投稿するだけだ。これさえ投稿してしまえば、動画の方はしばらく大丈夫だ。
「あ゛ー……疲れたなぁ……」
思わずそう漏らすと、ビニール袋が自分のとなりにがさりと音を立てて置かれる。
「あんまりそういうのばかり飲んで無理してると、身体をダメにするぞ」
「あぇ……?」
誰か来たのか、と萎びた声を漏らしながら振り向くと、深めのVネックの白いTシャツと、寒色系の短パン姿という、かなりラフな格好のアクアがいた。
「アクたん……? いつの間に……ていうか、こんな時間にどうしたの?」
「どうしたのはこっちだ。大方予想はつくけどな。さっきノックしたんだが、返事がなかったから勝手に入らせてもらった」
そうしれっと告げるアクア。MEMちょにぐっと顔を近づけ、じっと顔を見つめてくる。MEMの中にある、寝惚けていた乙女回路が慌てたように起動して顔を赤く染めあげる。
「うぇ!? な、なにを……!?」
「じっとしてろ」
「ひ、ひゃい……」
ドスの利いた太くて低い、しかし甘さもあるアクアのオトコの声に気圧され、ドキドキと心臓をならしながら黙るしかなくなってしまう。8つも年下の男の子相手なのに、まるで年上の男性……それも、30代後半の酸いも甘いも噛み締めた、女性経験豊富な悪い男を相手にしているような錯覚に陥る。
「……やっぱりか」
はあ、と深いため息をつくアクア。その瞳には心配の色が浮かんでいる。どうやってか、無理をしているのが見抜かれたらしい。MEMの与り知らぬ話ではあるが、
「あはは……」
「無理するな、とは言わないけど、飯は食えよ。今はエンコード中なんだろ。今のうちにこれでも腹にいれとけ」
そういって、ビニール袋を指すアクア。いわれるがままにビニール袋の中を確認すると、ラップに包まれた手作りらしきおにぎりが二個と、あたたかいペットボトルのお茶が入っていた。
「おにぎり……?」
「梅と昆布だ。嫌いじゃなかったよな」
「うん……」
おにぎりはほんのりとあたたかくなっている。誰かにつくって貰った手作りのおにぎりなんて、いつぶりだろうかとMEMは思い返す。ごはんそのものの水分で少し湿気ていて、海苔もふやけている。そういう、なんだかあったかいおにぎり。なんだか涙が出そうだったが、ぐっとこらえた。
一口食べると、やわらかい優しい味がする。梅の酸味が疲れた身体に染み渡るようで。わざわざ種無しを選んだのか抜いたのか、種は入っていなかった。
「おいしい……」
「そりゃよかった」
ふっと、優しい顔で食べるこちらを見ているアクア。そんな彼を見ていると、なんだか子供になったような、あるいは。あるいは……。そこまで考えて、食べることに集中することにした。思いの外お腹が減っていたらしく、男の手で作ったためかそれなりに大きかったおにぎりが二つもあったのに、ぺろりと平らげてしまった。ペットボトルの温くなったお茶が、エアコンで冷え込んだ体温をほんのりとあたためてくれて、ほっとため息をついた。
「これ……アクたんが作ってくれたの?」
「ん? まあ、大した手間でもないからな」
嘘だ。弟ふたりを自分の手で大学にまで送り出した経験のある自分がいうのだから間違いない。おにぎりは熱々のうちに握る必要があって、しかもわざわざ具をいれるとなると更に手間だ。冷凍のお総菜とご飯をつめるだけの弁当を作るよりも面倒なのだ、手作りのおにぎりというのは。
「ありがと……うし! 元気出てきたぞ~!」
「10時までには上がれよ」
「うん、そんなにかからないと思う」
頑張れよ、とだけ告げると、ゴミを回収して退室してしまうアクア。
「大した手間じゃない、か。わざわざ作ってきてくれたくせに……素直じゃないなぁ」
画面に映るエンコードが完了された動画を一通りチェック。問題はないので、念のためもう一度細かく確認した後に、さっさと予約投稿して完了だ。
だが、緩んだ頬が戻らないのだ。今自分は、かなりにまにまとだらしない笑顔を浮かべていることを自覚している。
(……でも、しょうがないじゃん。わざわざ手作りのおにぎりもって、心配しに来てくれるなんてさぁ……)
さっきは飲み込んだ筈の想いが、溢れそうに出てくる。なんだか最近はアクアもより一層男らしさが増した気がしていて。あんな風に顔を近づけて心配してきて。
(あーあー、もうどうしようかなぁ、これ……)
MEMとて、恋愛を一切したことがないわけではない。だが、それはそれこそホストに熱を上げるような……熱中するような一時的なもの。恋は病とだれかが言ったように、はしかのような一時的なものだった。
(ヤバイなぁこれ……好きとか、彼女にしてほしいとかは思ったことあったけど……)
「うう……あかねちゃんに顔向け出来ないよぉ……! どうすればいいのさこれ!?」
まさか……まさか。
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