【完結】天に輝く二ツ星 作:アクアハーレム最後の刺客不知火フリル
鮫島アビ子は、師匠のお出掛けの誘いを最終的には受け入れ外に出ることにしたものの。
(日差しが眩しい、だるい……)
正直に言えば寝ていたかった。当の師匠である吉祥寺が“週刊誌は脳が週刊用にチューンナップされた兵士の仕事”と自分がアシスタント時代にぼやいていたが、その通りで見るものすべてがネタに見え、遊びに行くにしてもネタ探しをしているような人種。それが今の鮫島アビ子である。しかも今は実写化舞台の面倒まで見なければならない。だが、確かに、今の展開が納得いっていない部分はある。特に鞘姫の事については完全にファンの意見に流されてしまった部分も大きい。
「ほら、しゃきっとしないと。腰痛めるよ」
「はーい……」
まるでものぐさな娘をおだてて外に連れ出す親のような感じだ。やる気もまるで感じられない。事実、ステージアラウンドと言っても所詮舞台、大差ないでしょ? という気持ちがアビ子の中に無かったかというと、そうではない。本当は大事な自分の東京ブレイドを誰かに任せること自体があまり気乗りしなかった。そもそも自分の作り出したモノ以外は実際に信じれたものではないと思っている。だから、あくまでも舞台の先行調査をして好き放題“口出し”してやろうという魂胆でいた。
だが、実際にステージアラウンドを見てそれは覆された。ステージアラウンドが始まってから、アビ子は作品をガン見しながら手元のメモ帳にペンを走らせ、凄まじい速度で書き出していく。作品内容をメモしているわけではない、その「演出」についてのメモをしていたのだ。吉祥寺も似たようなもので、何か刺激されるものがあったようだ。そして、二人が腱鞘炎になりかけるほどメモにぎっしりと文字が埋め尽くされた頃に、ようやく幕が下りた。もちろんその後は近場の飲食店で昼食も兼ねた感想の共有だ。
「あの……すっっっごくよかったです! 正直、ステージの事ナメてました。この脚本のGOAさん? って人、凄い人なんですね」
いざとなれば東京ブレイドの脚本は自分が書けば良いや、とでも思っていたアビ子からすれば、ステージアラウンドというのは想像以上にすごいものだったようだ。この世の九割は駄作と断じるほど付け上がっていたアビ子が、だ。
「でしょ? まあ正直私も舞台を舐めてたけど……あのかなちゃんに推薦されたからね~」
「え? かなちゃん……もしかしてあの有馬かな!? 有馬かなと直接連絡を取り合う仲なんですか! 先生ずるいーっ!」
「いいでしょー、今日あまの件で仲良くなったのよ」
有馬かなと言えばアビ子の子供の頃にはもう天才子役として活躍、現在も活躍している二次元畑に近いアビ子にしては珍しく認知している俳優の一人であった。名前だけだったが。しかも誘われた時に電話口でその話題を話していたことはすっかり忘れている。アビ子にとっての有馬かなは、すごい役者とは思っていてもそれ以上の認識はないようだった。
「そうですか、それで……。まあでも、わざわざ連れ出してまで見せてもらった甲斐がありました。脚本家って必要なんですね。あんな風な舞台の動きも計算するのは……私も流石に無理ですね」
「そりゃ、その道のプロだからね。もちろん必要よ。でも口出しに恐れると、私の今日あまみたいになっちゃうわよ~」
「そうですね。あっ、今日あまは、一応実写化見ました。最終回は良かったですけど、他はその……」
「まあ控えめに言ってゴミだったわね」
ああ、そういえばこの人はそういう人だったなと。結構腰が低い割に、作品に対する評価はストレートに表現するタイプだ。
「でもその有馬かなちゃんと、ヘルプで緊急参戦してくれた星野アクアくんのおかげでなんとか最終話だけ見られるものになったってわけ」
「なるほど……」
今日あまは時間が経過し、そこそこ多くの人物に見られ分析されたことで「最終回のクオリティはアクかなのおかげじゃね?」という見解が視聴者達の概ねの意見となっている。アクアとかなの演技がYouTubeでいつでも見ることが出来たのも拍車を掛けることとなった。
「星野アクアに、有馬かな……苺プロかぁ。すごいですね、役者さんって」
アビ子の中で、役者への期待値がぐんぐん上がっていく。もちろんダメ役者もいる、それを踏まえた上で“すごい役者は本当にすごい”という認識を持つこととなった。
一方、東京ブレイドにおけるダメ役者筆頭の鳴嶋メルトはというと。
「っし、走り込み終わり! 発声練習と演技稽古もしたし……あとは動画の見稽古だな」
あれからというもの、ほぼ毎日のように役者として成長すべく訓練を重ねていた。今日あまの評価は、それほど彼にショックを与えたのだ。せめて主演の自分が頑張っていれば、もう少し見れたものになったかもしれないのに。そういう悔しさがあった。だがメルトは失敗と悔しさをバネにして努力できる男であった。自宅に戻ると、パソコンを起動して動画を見始める。
「カミキミッション……こんな身近に演技の最高峰の教材があるなんて思いもよらなかったわ」
カミキミッションにはソロシチュエーションもいくつかある。それを見て、真似て、比べて、どこが悪かったのかを自分で比較する。それは苦行だ。やってみればわかることだが、録音した自分の声を聞いて修正するだけでもかなり精神的にキツいものがある。それを身体の動きを含めて、演技込みでやらなければならない。しかも、最高峰の見本と比べて。相当な苦痛だろう。だが、その痛みと苦しみがメルトに成長を促していた。
「もっと大振りに……結構大胆に、自信満々にやると良いのか……あ、この指先の表現は結構良い感じじゃね? あ、うーん、まだ声が震えてる、緊張してるなあ……恥ずかしさを捨てられてない感ある」
こんな研究染みたことだって、メルトは初めてだった。人生はテキトーに生きてきた、特別勉強も運動も人間関係も苦労したことがなかった。童貞だってソッコー食われた。
だが努力をしなくても何とかできるほどの才能の持ち主が、半年以上、優秀な手本を得てたゆまぬ努力を重ねていったらどうなるのか。
「よし……今日あまの台詞やってみるか……『お前さ、そんな顔してて楽しいの?』……うん、これは良い感じじゃね? 少なくとも今日あまの時よりはレベルアップしてるっしょ!」
覚醒の時は未だ来ず、未熟な蛹は力を蓄える。
2025/03/28 矛盾が発生していたため、解消(電話口ですでに有馬かなを知っていた筈なのにまた驚いているアビ子先生)
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