【完結】天に輝く二ツ星   作:アクアハーレム最後の刺客不知火フリル

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47.見学

 

 顔合わせから数日も経過すれば、おおよそグループというものが固まってくる。渋谷クラスタと新宿クラスタ、あるいは大人組と若手組。ちょい役組に主演組。アクアは演技に前向きな姿勢が好感となり、特に年上に可愛がられていた。真面目で勤勉、それでいてユーモアが分からないわけでもない。何となく趣味嗜好が年上に近いので話を理解できる等と様々な要因が噛み合っていた。

 

 そんなアクアだが、現在悩み事があった。それは稽古を重ねる内に感じ始めたもの、“このままだとかなと姫川に食われかねない”という懸念である。

 アクアの演技が下手というわけではない。むしろこのメンバーの中でも上澄みに近い。だが極々単純に、二人の存在感が大きすぎるのが問題なのだ。特にかなはJIF以降から成長したのか、かなの相棒を自負するアクアでも危機感を感じるほどだ。

 ちょい役ならば気にすることもないだろうが、刀鬼はクラスタ内のナンバー2、舞台でも出番は多い。アクアの演技に観客が集中できるようにしなければならない場面は必ずある。演出も利用して演技した上で、呑み込んでくる天才達に対抗しなければならない。

 

(別に、あいつらの演技に『勝つ』だけならいくらでも方法はある。でもそれじゃ意味がない。これは勝負じゃないからな……)

 

 即ち、アクアに必要なのは成長だ。そして、どうすればいいのかも理解している。必要なのは感情演技……それも、普通の感情演技ではだめだ。普通の感情演技は既にしている。脚本のGOAも、演出の金田一も今の状態で十分オーケーを出しているが、アクアはそれで納得できなかった。

 

(必要なのはリアリティのある感情演技)

 

 今回の舞台において、刀鬼の最大の見せ場。死にかけた許嫁であり主の鞘姫が奇跡的に復活し、普段はクールな刀鬼が歓喜と安堵の入り交じったぐちゃぐちゃの感情のままに、涙を流すシーンだ。今のままではピッタリの演技とは言えない。今のままでは、あくまでそれっぽく泣いているだけ、とアクアは考えている。今日あまの時の有馬かなのような、100点満点の泣き演技こそがアクアの目標であり基準となっていた。

 

 だが目標と手段を理解したところで、結局どうやって『リアリティーのある感情演技』を引き出すのかという問題の解決の糸口が見つからない。感情演技はかなり感覚的な技術のため、そこからさらにリアリティーのある演技ともなるとかなり難しい。かなや姫川、金田一にも相談したものの、どの指導もいまいちしっくり来ていなかった。

 

 アクアが演技で行き詰まっていても、時間は経過していく。ある稽古日に、鮫島アビ子が見学にやってきた。……保護者の吉祥寺頼子と共に。

 

「吉祥寺先生! お久しぶりです!」

「お久しぶりです、先生」

「有馬かなさんに星野アクアさん……! そうだ、かなさん。ステージアラウンド見ましたよ! すごくよかったです!」

「ほんとですか? おすすめしてよかったです」

 

 きゃいきゃいと楽しそうに会話をする吉祥寺とかな。メルトも挨拶をしたのだが吉祥寺からは「あっ…………ども……」とだけ返され、かなとのステージアラウンドの会話にすぐ戻ってしまった。

 

「分かっちゃいたけどやや塩対応だな……」

「当たり前だろ。お前今日あまだと滅茶苦茶してたからな。原作者からすれば親の敵みたいなもんだろ」

「まあな……」

 

 メルトにそう返しながら、アクアは原作者の鮫島アビ子を診る。

 

(隈が酷い、肌もやや荒れ気味。たぶん慢性的な寝不足状態。歩様も少しぶれているというか、ふらつきが少しあるな……かなり肉体的な疲労が溜まっている。しきりに手を気にしているというか、握ったり開いたりしている。おそらく手のこりと肩こりがある……大丈夫か?)

 

 アクアの観察通り、アビ子は慢性的な疲労と寝不足の状態だ。舞台上演中に原作者が過労で倒れるなんて事があったら、折角の舞台が台無しになってしまう。だが恐らく本人に直接それを言っても聞かないだろう。有馬かなもそうだが、芸術や創作に関わる人間というものは大抵がこだわりとプライドが高い。ましてや売れっ子漫画家、自分と同格か上の存在からでなければ諫言を受け入れられないだろうとアクアは睨んでいた。

 

 そうしてアクアの心配をよそに始まった通し練習は、アビ子をして満足させる出来映えであった。元々GOAとの悪ノリを重ねて作り上げた脚本故に、文句はない。ただ、GOAが言うには役者の演技力で“説得力”を持たせる難しい脚本だと教えられてもいたため、心配していたが。

 

「すごい……皆演技上手。これなら良い舞台になると思います」

「そりゃもちろん! ララライには一流の役者しかいませんから!」

 

 アビ子の称賛を当然だと言う雷田をよそに、吉祥寺は意外な目でメルトを見ていた。

 

(変わった……あのワガママ放題のやる気ゼロの人が、あそこまで)

 

 男子三日会わざれば刮目して見よとはいうが。間違いなくメルトは成長していた。特に原作再現のための刀を投げてキャッチするシーン。文字通り血の滲む程練習した形跡が、彼の木刀に染み込んでいた。吉祥寺としては、どうしてこれが出来るなら最初からやってくれなかったんだ、と思う。だが同時に、このメルトならば東京ブレイドを壊すこともないと安堵していて、複雑で歯痒い心境だった。

 

「アビ子先生」

 

 すると、いつの間にかアビ子の側まで来ていたアクアが、台本とペンを片手にしてアビ子へ話しかけていた。

 

「う、はい。なんですか? えっと……刀鬼の」

「はい。刀鬼役、苺プロの星野アクアです。少し台本について原作者としての意見を聞きたいところがありまして」

「いいですよ!」

 

 自分の原作について聞きたい、となると目を輝かせるアビ子。どうやらアクアの名前を知らない様子だったが、アクかなの頃から既に絵を描くことにのめり込んでいて、現在はネットドラマをわざわざ見る程時間が無いアビ子からすると、アクアは単なる演技の上手な役者というイメージしかない。

 吉祥寺はアクアがあっという間にコミュニケーション能力に難のあるアビ子の口を軽くしてしまうのを見て驚愕する。

 

(うっわコミュ能力強……私には出来ないわ)

 

 アビ子は、自分が陰キャ変人という自覚のある吉祥寺をして極端に変人だと思っている。歯磨きの時間を待たせるのも悪いからと両手に歯ブラシを持って歯磨きをするような漫画家だ。

 

「この刀鬼の号泣シーンなんですけど、普段はクールなキャラですよね。こんなに感情を露にすることはあまりしないキャラのように思いますが……」

「それは刀鬼は自分が激情家なのを自覚しているから、普段はクールに振る舞って感情に動かされないようにしているんです。でも、婚約者の死と復活は、クールな演技を貫くほど彼にとって重い出来事なので」

「なるほど……参考になります」

 

 いつの間にかアクアの質問に生き生きと答えていくアビ子。それをきっかけにかなやあかねたちもアビ子に質問していく。アクアはそれが不快にならないようにフォローをしたり補足をしたりしていき、アビ子はどんどん饒舌になっていく。

 

「刀鬼は鞘姫を大事に思ってるなら、つるぎに対してはどういう思いなんですか?」

「あ……そこはまだ考えてなくて……何か解釈とかあります?」

「私の意見で良いかしら?」

「有馬かなさん……ですよね。どうぞ」

「たぶんだけど、刀鬼的につるぎは気楽に接する事が出来る相手じゃないかと思うのよ。常に気を張ってる刀鬼は鞘姫の前ではかっこつけたいし、クラスタのナンバー2だから隙も見せたくないけど、つるぎは幼馴染でしょ? 余計に恋愛相手として見れないというか、大きなきっかけがないと意識出来なさそうよね」

「なるほどそういう解釈が……!」

 

 気がつけばアビ子を中心に役者達が取り囲んでお互いに質問したり答えたりしている状況になり、アビ子はネタ帳に文字をびっしりしきつめて、大満足していた。

 

「これなら舞台も安心できそうです!」

「そうね」

 

 帰り道、タクシーの車内で見学の話に花を咲かせるアビ子。師匠として、一旦ここで釘を刺しておく。

 

「でも隈が酷いってアクア君が言ってたわよ。またアシスタント切ったって聞いたし……このままだと身体が持たないわよ」

「う……で、でも大丈夫です今度は!」

 

 胡乱な視線を向ける師匠に、あわあわしながら言い訳をするアビ子。

 

「さっき四週に一度は休載しても良いって編集から許可とりましたし、それにGOAさんが新人育成の相談に乗ってくれるって話で……やっぱり自分以外の視点も大事ですよね」

「それならいいけど」

 

 東京ブレイド開演まで、残り数週間。時間は決して待ってはくれない。

 




本作のアビ子先生、有馬かなは認知してても何故かアクアは認知していない、あまりにも芸能界に興味がない

ガチ濡れ場(R18)って需要ある?

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