【完結】天に輝く二ツ星 作:アクアハーレム最後の刺客不知火フリル
本番当日、観客席にて。不知火フリルは国民的美少女からMEMちょ限界オタクにジョブチェンジしていた。
「あっ、えっ、あっと、えっと……はじめまして、不知火フリルです。MEMちょさんのファンです。握手してください。あとこのアルバムと色紙にできればサインも……わ、ぁ、ありがとうございます……!」
アクアのまわりにはこじらせた限界オタクばかり集まるなぁ、とルビーはその光景を達観した様子で見ていた。もちろん自分の事は棚にあげていた。
アクアとあかね、かなが今ガチメンバーや友人にチケットを配り、その結果として、苺プロ社長夫妻と星野一家、今ガチメンバー、フリル、みなみとなんというかアクアの交遊関係が透けて見えるようなメンバーの集まりとなってしまった。これには長年芸能界の荒波を泳いできた流石の壱護もあきれている。アイとヒカルは気合いと根性で空き日を作り出してきたのだが。
「うわー、私が居るのに無視して真っ先に他の人のところに行く人初めて見た」
「あ、アイさん!? えっと……うちはアイさんのファンですよ!」
「ほんと? ありがとー☆」
思わず驚いて本音がボロボロ出てくるアイに、みなみがフォローする。ユキやノブユキ、ケンゴからすると、アイやヒカルはかなり上の存在。不知火フリルやB小町もブレイク中の時の人だし、なんだか場違いに思えて、一歩引いた場所でそのやり取りを見ていた。
「いや……すげー顔ぶれだな。うお、みろよノブユキ。あれが噂の苺プロの美魔女社長夫人だ」
「どこどこ……いてて」
「あんまりキョロキョロしないでよ」
ケンゴに美人と言われ、つい見てしまうノブユキの二の腕をつねって咎めるゆき。ノブユキとゆきは匂わせでお揃いのブレスレットをしているが、それに他のメンバーが気づく頃にはフリルも落ち着いて普段のクールな雰囲気に戻っていた。
「あ、すみません。はじめまして、マルチタレントの不知火フリルです。星野兄妹とは仲良くさせてもらっています」
「へえ、あの不知火フリルが同学年だったんだ。よろしく、カミキヒカルです」
「アイです、こちらこそお世話になってます? ……あ、まって、不知火フリル、聞いたことある! なんだっけ……国民的美少女? だっけ? お姉さんがアイドルやってるんだよね」
「姉の事までご存じなんですか。ありがとうございます」
なんだか頬を緩ませて少しにやつきながらアイとヒカルに挨拶しに行っていたが、まあ許容範囲だろう。たぶん。ルビーからすると親に挨拶しに来た彼女のような雰囲気を感じて、不知火フリルがやっぱり兄に近づこうとしている気がしてならなかった。
一方のサインを書き終えたMEMは、承認欲求がぐんぐん自分の中で満たされていくのを感じながら、席に着きながらそのやり取りを見ていた。ほどなくしてルビー、フリル、みなみは今ガチ組の方に行ったようだ。チラリと聞こえた話を聞く限りそのあと原作者の鮫島アビ子のところにいくようだった。
(ふぅ、まさか不知火フリルが私のファンなんて……私すごくない? あ、ゆきユキ匂わせおそろっちだ。やってんねぇ……)
なんとなく、MEMはそれが羨ましく感じた。自分だってアクアとそういうことをやってみたい。だがアクアは彼女持ち。MEMちょは常識人である。相手から迫られて
あまり彼らを見ていると自分の気持ちがおかしくなりそうな気がして、視線を変える。
楽しそうにヒカルとパンフレットを見ながらアクアの出番がどこか話し合っているアイを見る。アイは何度見てもとても自分より歳上とは思えないのだが、事実として自分の子供の頃から存在していたので間違いなく歳上である。
幼少期からの付き合いゆえに、二人からすると双子はほとんど息子娘のようなものだとは、どこかで言っていた。だがアクアもルビーも頑なに彼らを父母と呼んでいるのを見たことがない。姉や兄、アイやヒカルと呼んでいる。
「ちゃんとしたアクアのお芝居を観客として見るのは初めてだから、ちょっと楽しみだな」
「チャンネルでやってるのは基本的に動画越しだしね。あ、これがあかねちゃんとかなちゃんかぁ。衣装気合い入ってるね☆」
(そこはちょっと不自然だよね。物心つく前にヒカルさんが引き取ったなら、そう呼んでてもおかしくなさそうだけど……そういう教育方針だったのかな……? こんどアクたんに聞けばいっか)
実際にはアイとヒカルの実子であるのだが、認知バイアスによって一般的な意見はヒカルの養子、苗字は単に親戚のもの、アイとも長年の面識がある、という認知が広まっている。故に三人で仲良くしていても、
☆
一方、アクアは楽屋に一人残り台本を読み返しながら集中している。
結局、アクアは稽古中に感情演技をひとつ上にレベルアップさせる方法はうまくつかめなかった。アクアの強みは様々な演技技法を組み合わせ、相手の演技、演出、偶然まで自分の力にする「なんでも使う演技」だ。姫川をはじめとする抜群の演技力の塊と切磋琢磨していった結果、地力は増したと感じている。だが劇的な成長とは言い難く、アクアの求める
「どうする……どうすれば太刀打ちできる」
悩むアクアに、背後から幼さを感じさせる少女の声がした。
「お悩みを聞いてあげようか?」
思わず振り返ると、そこにいたのは、黒を主体としたかわいらしい服を着た少女だった。いや、少女というよりは、子供というべきほどに幼い。
だがアクアはすぐに違和感に気づく。そもそもここは関係者以外は立ち入り禁止であるし、なによりも不気味……そう、かつてのアクアのような『気味の悪い子供』のようだった。だが子供である。アクアは努めて冷静に対処しようとした。
「お嬢さん、ここは関係者以外は……」
「関係者だよ、キミの。ね、ゴローせんせ?」
アクアの背中に冷たいものが走る。いつ、どこで知った? なぜそれを? 何者だ? この黒い子供はいったいいつ入ってきた? 多数の疑問が脳裏を過り、混乱する。
「おや、混乱しているね。まあ無理もないか……そうだね、私は神……みたいなものだよ。君を転生させた存在の部下……といえば良いのかな。だいたいそう。ツクヨミとでも呼んでくれ」
「転生……なんの話だ」
「惚けても無駄だよ。雨宮吾朗。享年三十代で独身。職業は産婦人科医。いまいち人生に情熱を持つことができなかったが、天童寺さりなとの出会いをきっかけにB小町の星野アイに夢中になる。だがさりなは難病で若くしてこの世を去り今はキミの妹、星野ルビー。キミ自身はカラスが偶然脳天にぶつかってバランスを崩して崖下に転落、即死。星野アイの出産に間に合わないことを悔いていたが、無事に出産して安堵する……どうだい?」
膨大な情報量にアクアは混乱しそうだったが、だが確かに雨宮吾郎が
仮にアクアが……例えば、幼少の頃に父親が遠因となり母親を目の前で失い、父への復讐に走り、罪悪感とトラウマが原因で精神のバランスが崩れていた……そんな地獄でボロボロの状態ならば、そんなことを気にすることもできなかっただろうが、このアクアはそうではない。
前世にもさりなにも折り合いをつけ、両親に彼らなりのたっぷりの愛情を与えられて16年も大事に育てられたアクアは、きちんと非現実的な現実を冷静に捉えていた。
「……
「おや、意外と詳しい? まあ、それに連なる存在ってことだよ。名前なんていくらでも偽れるんだから、本質を見なよ。ソーシャルゲームだとツクヨミ大体が女の子だしね。どう? 信じる気になった?」
こてんとわざとらしく首をかしげるツクヨミをみて、これまでの言動からして認めざるを得ないだろう。
「……まあ、一応は。じゃあ、なんでツクヨミちゃんは俺のカウンセリングなんかに来たんだよ」
「ツクヨミちゃん……まあいいか。んー……まあ、星野愛久愛海のファンってところで。どう?」
「フルネームやめろ。あと、今決めただろ」
「本番まであと少しでしょ? ほらほら、芸能関連は門外漢だけど、導きに関しては自信あるよ」
「ツクヨミだからか……」
「そうそう。ほら、知り合いや友達、未来のお嫁さん達よりも、なんにも知らない他人の私の方が言いやすいかもよ?」
どこから仕入れたのか、アクアの恋愛事情まで把握しているようだ。観念してアクアはツクヨミへ言ってみることにした。元々行き詰まっていたのは確かだ。ならばこの子供の言うことが本当だと信じて、神頼みでもしてみよう、そういう風に考えた。ダメで元々だし、時間がないのも確かだ。僅かな時間でヒントが得られるなら儲けものだ。
「そうだな……感情演技に詰まっている。出来ない訳じゃないが、臨場感というかリアリティというか、共感性に欠けるというか……」
ふんふん、とわかっているのかいないのか頷いて、じっとこちらを見つめてくる。まるで全てを見透かされているようで気味が悪い。
「じゃあ、あなたがそこから脱却して好転するには……『演技をしない』をすることだね。いつだって手掛かりは過去にある。ありがたい神託だよ?」
「は?」
「わかんない? でもこれ以上の干渉は神々の理によって無理だから。じゃあね」
アクアが言葉の意図を理解できずに固まっていると、ツクヨミは無表情のままふりふりと手を振ると、室内だというのに突風が吹き、思わずアクアは目をかばうように両腕で防ぐ。風が治まると、まるで誰もはじめから居なかったかのようにツクヨミは忽然と消えていた。まるで狐に化かされたような気分になった。
「消えた……? あの子供は、なんだったんだ……?」
幻覚というには、現実感がありすぎる。確かにツクヨミがそこにいた証しとして、子供特有のほんのりと甘い匂いがした。
確かに演技をせずに演技に出た事は一度あった。だがあの時とは状況が違う、それに舞台である以上失敗は一度たりとも許されない。アクアは舞台へと向かいながら、彼女の与えたヒントを考える。
「あれは、実年齢と精神年齢のギャップから来るものだぞ……? 精神年齢に肉体が追い付いたのに、どうやれって言うんだ……いや」
答えはすぐそばにあった。
ガチ濡れ場(R18)って需要ある?
-
みたい
-
いらない
-
結果だけ見る