【完結】天に輝く二ツ星 作:アクアハーレム最後の刺客不知火フリル
舞台が始まる直前、廊下でかなとあかねが鉢合わせする。
「バッチリ似合ってるわね」
「かなちゃんだって」
お互いに鞘姫とつるぎの姿で対峙する二人。普段はそれなりに仲の良い二人だが、この場ではアクアの恋人達ではなく一人の役者として二人とも立っている。役者にとって舞台とは戦場。であれば、舞台衣裳とは即ち戦装束そのものだ。
「ここでアンタと演技でやりあうの、結構楽しみにしてたのよ」
「わたしだって……ずーっとずーっと、待ってたんだよ?」
じっと二人で視線を絡める。お互いに同年代で、同じ人が好きで、同じように演技が好き。それでいてまるで真逆の演技スタイル。役者としてのあかねとかなはライバルという関係性が一番しっくりくるだろう。
「ふうん。でも油断してると、あんたも食い散らかしてやるわよ」
「今回はこっちの台詞……かな。ちゃんとわたしの演技に負けないように輝いてね?」
「あら? 言うじゃない」
お互いの実力を認めあっているが故の軽口。全く相手を心配してはいない。ただ、本気でやらないならば場面を乗っ取られても文句言いっこなしだ、という確認。どちらともなく笑う。その笑みは、さながら狩りにて獲物を前にした肉食動物だ。お互いにコンディションは万全であった。
「……うん! 行こっか、“つるぎ”!」
「ええ、良い公演にしましょ“鞘姫”。観客みーんなおしっこ漏れちゃうくらい感動させてあげましょ」
「席を離れるのは許さないって? 言うなぁ」
そしてついに開幕した、2.5次元舞台東京ブレイド渋谷抗争編。
渋谷抗争編は東京ブレイドにおいて一番最初のシナリオであり、鞘姫率いる渋谷クラスタとブレイド率いる新宿クラスタの二つのグループの対抗戦となる。21振りあるという、所持者に特殊能力を与える『盟刀』を巡った争いであり、盟刀全てに力を認められた者は、國盗りの力が与えられる……即ち、天下統一を果たす力が与えられるという。そんな渋谷抗争編は、ブレイドに襲いかかってきた、つるぎの戦闘から始まる。
「やめてけれ! おらまだ死にたくねぇだ!!」
みっともなくびしょびしょ涙を流しながら、迫る死に怯えるつるぎ。10秒で泣ける天才子役と呼ばれていたのは伊達ではない。天真爛漫で純粋無垢故に、感情が素直。良い意味で素直なキャラクターを見事に演じている。だがまだ序盤も序盤、本気で真剣に演じてはいるが、全力にはほど遠い。
「いいじゃん。王様になってみたかったんだよね、俺」
姫川演じるブレイドがつるぎの言葉をうけてリーダーとして立ち上がることを決めたシーンは、身振り手振りからも彼の自信と野心が伝わってくる。さすがの情報量と言えよう。
渋谷抗争編の第一幕は姫川演じるブレイドがつるぎ、キザミを始めとする盟刀所持者との決闘を通じて、仲間を集めるフェーズだ。観客席に座る吉祥寺は、キザミ役であるメルトを厳しい視線でじっと見つめている。
(腕は上げたみたいだけど……でもやっぱり、周囲よりは一段落ちる)
あの見学の時よりも間違いなく上達している。だがそれでもなんとか、まわりのレベルについていけているという感じだ。ブレイド、つるぎの演技に吹き飛ばされない程度には踏ん張っている。それ故に何となく影が薄い。ブレイドの仲間その一、以上になりえていない。
これは決して、メルトの演技が下手くそだからというわけではない。メルトの演技力は間違いなく上がっているが、下手の領域から脱してしまったが故に、周囲に溶け込んでしまっている。もちろん、下手くそが露見して悪目立ちするよりは良いが、相対的に見れば目立ってはいなかった。それをもっとも認識しているのは他でもないメルト自身であった。
「くそ……」
「おい、そろそろ俺とのシーンだぞ? しゃんとしろよ」
「はい!」
鴨志田に肩を叩かれる。気合いをいれろ、お前の見せ場だと。鴨志田はフードを被りなおしながら、メルトへ告げる。次のシーン、第二幕の初戦は、新宿クラスタの一人であるキザミが、初めて渋谷クラスタとぶつかるというシーン。
「確かにお前は今ナメられてる。だからって深く考えんな。そこから落ちることはないだろ。出来ることをやれよ」
それだけ告げると、次のシーンのために移動していく鴨志田。メルトはそれを激励と受け取った。
「……やれる。やってみせろよ、キザミ……このままじゃあ悔しいだろ……!」
悔しさ、後悔という感情はメルトの演技への原動力と言って良い。諦めきれないから練習を積み重ねてきたし、舞台の現場にも必死でついていった。だからこそ、同じ失敗は重ねたくないのだ。メルトの闘志に火がつく。舞台に立ち、鴨志田演じる匁と対峙する。
(ここの一分間は、俺の見せ場だ! 誰にも負けねぇぞ!)
このシーンは調子に乗っていたキザミが、初めて敗北するシーン。調子に乗っていた自分……かつて苦労もせずにいたあの時の自分のようになんの根拠もない自信満々さで、実力も量れずに匁へ挑むキザミ。技もなにもない、ただ才能だけで剣を振り回すだけなのに対して、匁は流麗とした剣技。次第に乱雑な剣は捌かれていき、押されていく。次第に自信のあった言葉すらも消えていき、表情も暗くなる。
ここしかない、というタイミングでメルトはチャンスをものにした。刀を空中に投げ、落ちてきたそれをキャッチする。
「おぅれは、誰にも負けねぇ!!」
半ベソかいて、みっともなく足掻いて、それでも負ける。キザミというキャラにおいて、この一場面こそが一番の見せ場。このほんの一瞬の演技と、曲芸染みた原作再現だけで、メルトは観客の視線を一身に集めた。負けてるのはわかっている、それでも負けたくないと意地を張って立ち上がるキザミに会場が沸く。そこからの圧倒的な演技は、負け役ながらに確かに主役となって演じきった。この一分間で、観客からの印象は劇的に変化した。
思わず涙を流す吉祥寺。厳しい視線でみていたということは、それだけ注視していたということで。感情移入もしやすかった。横で原作再現すごい! と喜ぶ弟子を尻目に、メルトの成長をまるで我が事のように喜んだ。
評価を一新したのはもちろん、観客だけではない。
「化けたな」
「アンタの入れ知恵?」
「いや、あいつが自分で思い付いたことだ。俺は後押ししてやっただけ」
なにかやったんでしょ、といわんばかりの視線をむけるかなに、特別なことはしていない、というアクア。事実アクアは役者としての当たり前である“見せ場はきっちり決めないとな”位のアドバイスしかしていない。刀を投げる原作再現をすることに決めたのはメルトだった。
「次は俺が見せる番だな」
「なに、秘策ありってこと?」
「まあな。ようやくってところだ」
珍しく自信ありげなアクアに、かなはこれはこっちも化けそうだ、と気合いをいれた。
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