【完結】天に輝く二ツ星   作:アクアハーレム最後の刺客不知火フリル

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52.アクアだけの演技を

 第二幕に突入し、ついにクラスタ同士のぶつかり合いに次第と発展していく。キザミの救援に来たつるぎに対し冷静に撤退を選ぶ匁。ここまでの印象でかなは鴨志田にとって「演りやすい相手」であった。さながら月のように演技を受け止めてくれる。であればアクアとあかねはどうかというと。アクアはあかね以上に“受け”がうまいと感じる。あかねはやはり天才役者らしく、存在感が凄まじい。

 

「ならば刀を抜きましょう。合戦です」

 

(いくら、黒川あかねが舞台慣れしてるとはいえ……!)

 

 その身の内に悲しみを抑えている鞘姫だが、それでも決断すべき時に決断する女傑。その懐刀である刀鬼が静かであればあるほどそれが引き立っていく。一方でアクアを見ているかなとあかねは違和感を感じている。アクアが()()()()か? と。あえて受けに徹するタイプなのは理解しているが、それでももう少し……と思っていた。彼は舞台上でもスポットライトを抱えてあちこちに走り回っている。今回はそれが特に顕著だった。

 決戦を決意した鞘姫を、刀鬼が無表情ながらに、僅かに体を固くさせてじっと見ていた。この先の戦いで心優しい鞘姫がどうなるのか。それだけで心配の色を見て取れる……アクアの静かな感情演技。いうなればキザミのように演技の“落差”をつけるための前準備。アクアはアクアで、スポットライト片手に、きちんと自分を主役に据える準備をしていた。

 

 場面は移り、ついにクラスタ同士の決戦。かなもあかねも、存分にお互いをぶつけ合って主役となっている。天真爛漫な戦闘狂のつるぎが、鞘姫につっかかっていく。これだけの演者がいながら、舞台の中心は二人だ。観客達が息を呑むのと裏腹に、思わずアクアは内心あきれる。

 

(また高度なことを……)

 

 本来であれば、この場面においては鞘姫一人を中心に置くのが正解。やりやすい状態というのはそういうことだ。真正面からお互いの輝きをぶつけ合うことでお互いを高めるなんていう無茶苦茶なことは、本来必要ないし、演者にそこまでのことは求めていない。

 だが、あかねとかなはそうしてでも演技でぶつかり合いたかった。当の本人たちは楽しそうに好き勝手食い散らかしているが、他の役者からするとたまったものではない。特に、自分の見せ場がある主役級の役者からすれば、この後これに対抗しなければならないのだからたまったものではない。

 少なくとも、舞台袖にはけた姫川とアクアが、相談するほどには輝いていた。ここで負けぬように踏ん張れる二人も、確かに役者の一人だ。

 

「ノリノリだな……このままだとこっちまで喰われる」

「ったく、あいつら無茶苦茶やってんな……」

「星野。次の殺陣で少しアドリブ入れるぞ」

「任せろ、無茶振りは慣れてる。ところで……コンタクト使わないのか?」

「怖い」

「気持ちはわかる」 

 

 鞘姫とつるぎの次は、ブレイドと刀鬼のシーン。戦いを楽しもうとするブレイドに対して、あくまで冷徹に“勝とう”とする刀鬼の対決だ。

 

「おいおいもっと楽しもうぜ! つまんねぇな!」

「生憎、お前のように殺し合いを楽しむ余裕は無い」

「! 避けろつるぎ!」

 

 動きをある程度決めているとはいえ、アドリブがどうしても必要になる場面というものがある。例えば今回のように、主役に喰われないようにするためとか。しかも、そこをうまく捌いて元の台本に合流しなければならない。アクアはうまく受け止めるのがうまいので、急にアドリブを振られたかなは、どうもそういう場面でアクアに甘えてしまう節があった。ある意味信頼でもある。とはいえボディタッチされて半分セクハラじみたことまでされるとは思わなかったが。あかねは演技にこそ出さなかったが、その場面はちょっと羨ましかった。自分も二の腕とか揉まれたかった。

 

 この一連のシーンを見ていて観客席のヒカルはアクアをじっと観察していた。

 

「アクア、面白いことをしてるね。演技をする演技をしている」

「どゆこと?」

「つまり、刀鬼の素の演技の上から、冷静な懐刀の刀鬼の演技を上塗りしているんだよ。あいかわらず器用だね」

 

 冷静な懐刀である刀鬼。鞘姫を守りたい激情家の刀鬼。それはいわば演技の上塗り。だがそれだけではないとヒカルは睨んでいた。

 

 問題なく舞台は進行し、ついにブレイドの刀から刀鬼を庇って倒れる鞘姫。課題となる、アクアの感情演技。

 

 この場面でついに、()()()()()()()()()()()()()()()()()。それがアクアの秘策であった。ぎろりとあかね(鞘姫)を殺した姫川(ブレイド)を見据える。守られて情けない、女に守られる自分が許せない。どうにかしてせめて仇を討たねば……死んでも死にきれるものか! 立て、刀を取れ。情けない己に怒れ、復讐しろ! 

 感情がそう暴れながら、思考と肉体は冷徹に演技を進めていく。台詞はよどみ無く口から吐き出されていながらも、剥き出しの感情を振り回す刀鬼。瞳に輝きが宿る。目を引かれ奪われる、目を離せない、引き込まれる。白と黒の輝きが両目に宿る。間違いなくこの場この瞬間、刀鬼は主役だ。刀を振るう、弾かれても睨み付けて食らいついていくその様は、まさに鬼だ。

 

(なにをどうやってやがるんだ……!)

 

 謙遜しやがって、お前が一番ヤベエじゃねぇかと姫川は内心笑う。演技をしながら演技をしていない。剥き出しの感情をそのまま振り回しているようで、しっかりと刀鬼から外れていない。矛盾して歪。だが目を引く美しい演技。アクアはこの瞬間に限り、間違いなく誰よりも主役だ。

 

 こんな簡単なことだったとはな、とアクアは内心で感心していた。

 演技をしない演技は、かつてアクアが身に付け……成長したゆえに一度捨ててしまった演技だ。確かに答えは過去にあったのだ。ガワと中身のギャップから産み出される不思議な演技とアクアは認識していた。しかし、この演技の本質はそこではなかった。

 肉体と精神の解離と思っていたそれは、実際はアクアとゴローという二種類の人生経験から生まれるもの。二重人格というほどはっきりと分かたれているわけではないが、演技をしながら演技をしないという、矛盾した二つの思考を許容する、二重思考ともいうべきものが答えだった。

 アクアは元々、無意識ながらゴローを隠してアクアという演技をしながら生きていたようなものだった。故に、それを身に付け、取り戻すのは労せず行えることだった。こればかりは、アクアにしか出来ない、アクアだけの演技だった。

 

(アクアの感情演技……すご、あの時よりも……!)

 

 かなは、かつての自分の上を行くアクアが、戻ってきた感覚を感じた。あのとき……かつて、映画「それが始まり」で己が感じた、負けたという感覚。負けてられないと思った。だが、この公演においてはつるぎの場面はもうない。ならば次だ。次こそは負けない。それはあかねも同じだったが、ひとまず抱きしめられる役得を噛み締めていた。

 

 最後のアクアの決め場、鞘姫の鞘の力を使ってブレイドたちに助けられ、鞘姫が奇跡的に一命を取り留め目覚めるシーン。刀鬼は鞘姫を抱きしめ、幼子のように号泣した。冷静な刀鬼の怒りと安堵の涙という二種類の落差のある感情演技は、間違いなく観客達を虜にして見せた。

 

 こうして、初公演は成功にて幕を閉じた。

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