【完結】天に輝く二ツ星   作:アクアハーレム最後の刺客不知火フリル

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59.再会

「はぁ……」

 

 妹とはいえ、女を呼びつけるようなことをする羽目になるとは随分と横柄になったな、と思いながらホテルの自室で天井を見上げる。メッセージアプリからの通知音が鳴り、『今から行く』と返事が来た。

 

 ルビーとするタイミングは、いくらでもあった。自宅で半日以上二人きりになることは何度もあったし、そういう空気になったこともあった。だが、なぜかしなかった。アクアとしても踏ん切りがつかなかったのか、それはわからない。無意識のうちに妹だからとブレーキをかけていたのかもしれない。

 窓の向こうには、既に満天の星が浮かんでいる。どの星々にも負けない輝きを放つ一番星。

 アクア(ゴロー)にとっての一番星は、ずっとさりな(ルビー)だった。確かにアイのことは推していた、ある意味狂っていたと言っても良い。だがアイとの繋がりをくれて、星になってしまったはずだった彼女が、特別なのは当たり前の話だった。あの子が推していたから、自分も推すようになったのだから。

 これはエゴだ。愛情というには醜すぎるが、執着というにはあまりに美しい思い出だから。

 

 不意にノックする音が響く。アクアは無言で立ち上がると、扉を開ける。そこにいた、顔を真っ赤にしたパジャマ姿のルビーを、部屋の中に招き入れた。

 

「おいで」

「うん……」

 

 ルビーをベッドの横に座らせると、アクアもその左隣に座る。アクアも柄にもなく緊張しているのか、無言の時間が僅かに続く。コチコチと時計の秒針だけが部屋を満たしている。

 ほどなくして、アクアから切り出した。

 

「さりなちゃん……いや、ルビー。好きだ。愛してる」

 

 そういってルビーに、やさしく触れるようにキスをする。ルビーも、うっとりとした表情でそれを受け入れる。余計な言葉の装飾は、二人には不要だった。

 

「ん……は……せんせ……おにいちゃん……好き……あいしてる……」

 

 赤い瞳がどろりと溶けたように、熱を帯びる。彼女の目尻が下がっていた。

 

「するの?」

「ああ。ルビーの初めてを貰うよ」

 

 期待に胸がぐんと膨らむ。どきどき。心臓が煩いくらいに鼓動を刻む。張り裂けそうで、でも身体が裂けることはない。

 せんせ。おにいちゃん。アクア。ゴローさん。どんな呼び方でも、彼は彼。世界で一番の好きな人であることに、変わりはない。初めての初恋の人。二度目も初恋の人。大切な兄で、家族。そこに矛盾はない。それらが同居した上で、ルビーは好きだというのだ。そして今、また恋に堕ちる。愛に溺れる。それで良いと思った。だって大切な初めての全ては、彼に捧げるつもりでとっておいたから。でも、自分ばっかりときめいてどきどきさせられているのは、不公平だ。

 

「わたし、アイドルなのに……B小町のリーダーなのに初恋の人に、せんせに全部あげちゃうの。キスも、ハグも、はじめても恋心も」

 

 蛇のように腕を絡ませて、彼の胸板を撫でる。厚くはないが、中身がぎっちりと筋肉が詰まって引き締まった胸。

 

「しかも、アクアの、おにいちゃんの妹だよ、わたし。いけないことなのに、どきどきしてる。いけないことだからかな」

 

 禁忌と知り得ても、なお止まらなかった。止まれるはずがなかった。だって奇跡のような出会いだから。雪のようにこんこんと、何年も何年も降り積もった想いが爆発するように。アクアの鼓動も、どんどん激しくなっていく。

 

「……お兄ちゃんを誘惑する悪い妹には、お仕置きしないとな」

「どうしちゃうの?」

「こうだ」

 

 今度は、男の人って感じの乱暴なキス。でも、決して乱暴なだけじゃない、荒々しいのに優しさも感じる。丁寧にアクアに食べられているような。これからお前を食べるぞという意思表示。にちにちにゅるにゅるして、きもちいい。頭がぼーっとして何も考えられなくなってくる。肉食獣のマーキング。これは自分の物だと示す強いオスがつける印。鼻腔に彼の匂いがいっぱいに広がっていって、余計にくらくらする。でも、甘くて美味しい気がして、もっと食べてって舌を出す。おいしくめしあがれ、あなただけのわたしだから。

 

 ああ、口を離してから、ぐっと押し倒されてしまう。これから本格的に食事が始まる。彼越しに見える天井は、まるで夜空のようで。(ひとみ)が瞬いている。真剣で必死で、それでいて余裕も感じる。

 

 ああ、星がわたしを見ている。

 

 ほしがきれい……。ほしがちかづいて、おちてくる。

 

 落ちてきた星に、もうひとつの星が重なった。

 

☆☆

 

 すやすやと寝息をたてるルビーを彼女に割り当てられた部屋に寝かせ、アクアはその部屋を後にする。

 

「とうとうやってしまった……」

 

 とうとう妹とも関係を持ってしまったことに、それでいてまだまだ活力を持て余している自分に呆れ果てる。彼女は結局、撮影の疲れもあってそう長持ちせず、疲れ果てて寝てしまった……というよりは、アクアが寝るように快感で意識を飛ばした、というような形になった。なんとか翌日に疲れが極力残らないよう、丁寧に丁寧に磨き上げてから事を致したため、なんとかルビーの消耗は最小限である……と思う。あくまでもアクアの経験から来る見立てであるため、アクアとしてはあまり自信はない。

 しかしもう深夜だ。草木も眠る……とまではいかないが、0時を回り既に日付が変わっている。どうやらようやくMEMも仕事が終わったらしく、デフォルメされたパンダがとろけて疲れた~という文字がつけられたスタンプをメッセージアプリで飛ばしてきた。アクアはそれにお疲れさま、と入れた。

 

「……折角だ、迎えにいってやるか」

 

 そう思い、アクアは自室に戻ると、ラフな格好に着替え、簡単な手荷物と鍵、それから例の刀のアクセサリをポケットにねじ込む。ロビーに歩を進める。ロビーに到着すると、そこには見知った顔がいた。

 

「……みなみ?」

「え……アクア君?」

 

 偶然の出会いだった。みなみも驚きで目が点になっている様子。

 

「なんというか、奇遇だな。どうしたこんな時間に」

「あはは……なんというか、目が冴えてしもて。そういうアクア君は?」

「いや、俺もなんか寝付けなくてな。まだMEMがスタジオに居てな。ついでに迎えに行こうかとでも」

 

 本当に偶然、目が冴えてロビーにある自販機で何か飲み物でも、そう考えて降りてきたのだ。望外の幸運だった。であれば、このチャンスを見逃すのは良くない。みなみにしては珍しく、即断即決した。

 

「そうなんだ……あ、じゃあご同伴に与って、お散歩につきおうてもらってええかな?」

「別に良いぞ」

 

 みなみは小さくガッツポーズした。このみなみの積極的な行動には、少しだけ理由がある。撮影の時に好きな人への視線とか、好きな彼を思ってポーズをしろとか、明らかにマネージャーが煽ってきたせいで、みなみの頭の中はすっかりアクアの事を常に考えるようになってしまった。そのせいで寝付けなかったともいう。

 

(っていうか、冬場なのにラフすぎひん!? えぐいて……ドスケベの化身やん……)

 

 ラフなTシャツから、筋肉が薄く浮き出ている。冬場ゆえにそこそこ着込んでいるが、軽く上着を羽織っているだけなので胸元がバッチリ見えている。

 

「寒うないの?」

「これ発熱するタイプのシャツでさ。ちょっと暑いくらい」

「あー、ヒートなんとか……そろそろ行こか?」

「そうだな」

 

 一方のアクアもアクアで、みなみが歩くたびに揺れるそれに目を引かれてしまう。ルビーとのそれがアクアとしては中途半端なせいだろう、余計に気になってしまうのだが、努めて無視した。アクアは節操が無さすぎる自分の下半身にあきれていた。

 もちろん、みなみはそんな視線に気づいている。元々大きな胸を見られることは慣れている、顔よりも先に胸を見る人だって男女問わず多い。だからこそ、アクアが自分の胸を気にしているのが嬉しかった。自分の身体は、少なくともあんな美人に囲まれてるアクアにとっても魅力であると。それは彼女の恋の自信となる。だが、一歩が踏み出せているならば、アクアと良い仲になっているはずであり、そうではないということはそういうことだった。

 

「アクア君は確か、B小町の撮影ついでの慰安旅行なんよね」

「ああ。みなみは?」

「うちは撮影。流石にこの季節の水着はきついから、スタジオの中やけどね。今度、写真集がでるんよ。そのための撮影」

「都内のスタジオでやらないのか?」

「うちもそう思ったけど、地方で撮ったっていうシチュエーションがええんやって。たぶん、建前でうちのキャノンファイアも半分慰安旅行みたいなものやと思う」

「ああ、たまにあるヤツだ。聞いたことある。昔はスタジオでしか撮らないのにわざわざ海外にまで行ったとかそういう話も聞くしな」

 

 他愛もない会話をしながら、夜道を歩く。眩しいほどに月が綺麗だ。雲ひとつないとはいかないが、美しい冬空が広がっている。都心よりも美しく見える夜空で二人きりで歩く。その僅かな時間は確かにみなみの心を満たしていた。

 

 だが得てして幸せの時間とは長く続かないものである。(つんざ)くような、あるいは絹を裂くような悲鳴が、二人の平穏をうち壊した。

 

 それは間違いなく、MEMの声だった。二人は顔を見合わせると、声のした方へ駆け出した。アクアは無意識のうちに、ポケットの中に忍ばせていた金メッキの刀のアクセサリを握りしめた。いつのまにか時計は深夜一時を指していた。




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