【完結】天に輝く二ツ星 作:アクアハーレム最後の刺客不知火フリル
不知火フリルは過去最高に追い詰められていた。
「本日はよろしくお願いします……」
「よろしくね、フリルちゃん☆ ルビーとアクアもよろしくね☆」
理由は簡単、初手のゲストが元B小町のアイだったからだった。何度も大物とドラマで共演したこともあった、自分が主演のドラマに大御所がゲストなんて話もあった、だが自分の冠番組で大物が来るのは映像経験の豊富なマルチタレント不知火フリルも流石に初体験だった。
「よろしくアイ」
「アイお姉ちゃんと初共演……!」
実際のところ、アイのお陰で双子は調子を取り戻していた。アクアは元より、ルビーは更にやる気を燃え上がらせている。同じ事務所だし幼少からの仲だから、確かにアクアとルビーにとっては与し易い相手だろう。フリルとて初対面ではない、無いが……。
(胃がキリキリしてきた……)
一応この番組に出る理由は聞いている。同局月9ドラマの主演をやるから番組の宣伝に来た、それはいい。なぜフリルキッチンなんだと
確かにアイは大御所ではないし、ここ最近アクアやルビーほど爆発的に売れているわけでもない。だが間違いなくフリルよりも格上の大物タレントである。“
だが決して顔には出さない。主役が不安な顔をしていたら番組が成り立たない。失敗したら自分の評価はガタ落ち。そうでなくても、あの生ける伝説のアイドルのアイに自分の手料理を? 緊張しかない。それでもやるしかないのだ。アイが挨拶もそこそこに控え室に帰っていくのを見ながら、自分も控え室に向かおうとする。自分の思った以上に足取りが重かった。
「フリル」
「……なに、アクア」
そんな時に、アクアが声をかけてきた。自分でも思った以上に返事に覇気がなかった。
「俺を信じろ。料理の腕なら俺の方が上だ」
「ふふっ……なにそれ」
「アイにびびってるみたいだからな。俺も不知火フリルなら出来ると信じてるぞ」
単なる事実。緊張ですっかり忘れていたが、確かにアクアの方がまだまだ腕前は上だ。テレビ経験は自分の方が上だから、なんとか二人を支えないとと考えていた。
今日、メインで料理をするのは自分ではない。そんな簡単な事実を忘れていた。
「重いよ、それ」
「そうか? そろそろ着替えるぞ」
「うん」
こちらが落ち込んでいたり窮地に陥っているのを目敏く見つけて、さっと助けて去っていく。アクアが去っていくのを見届けながら、ため息を思わずつく。
「これは効くなぁ……」
不知火フリルがアクアに興味を持った切っ掛けなんて、些細なものだ。顔が良かった。サイリウムベイビーの片割れ。単にそれだけのミーハーなもの。アクアの周りにいる子たちみたいに、特別な繋がりはない、単なる顔の良い同級生。だが接していく内に、いつの間にか自分で自分に驚くほどアクアに入れ込んでいた。特別な切っ掛けはない、小さな小さな積み重ねを一年間続けていたら、いつの間にかアクアへの好意が山のようにうず高く積もっていた。あの優しげな微笑みが、態度が、フリルをもいつの間にか虜にしていた。
不知火フリルは国民的美少女のレッテルを貼られている。もちろんそれを自負しているし、それにそぐわぬ事にならぬ様、努力も挑戦も続けている。美容、エゴサーチ、演技、ダンス、歌、なんでもやってきたし、成功させてきた。
だが不知火フリルはそれ以前に、自分が単なる少女であることをいつの間にか忘れてしまっていた。それをアクアが思い出させてくれたことに気づいたのは、アクア達が旅行で不在の時だった。居ないアクアのことを探している自分に気がついた時。その瞬間、少女はやっと恋を自覚したのだ。
だから、みなみに発破をかけて恋愛勝負なんて事を始めた。そういう切っ掛けがなければ自分は動けない……心が重たくなってしまった人間だから。
「よし」
衣装の中から、黄色のエプロンを選んで身に付ける。鏡には恋する“国民的美少女”が、自信ありげに微笑んでいた。
☆
不知火フリルが再びスタジオに戻ってきた時、舘山寺Dは“化けたな”と感じた。さっきまであった悪い緊張が抜けている。足取りも軽く、やる気に満ち溢れていた。
(また一つ上のステージにいったな、不知火フリル……)
舘山寺は嫌われ者である。そういう立場を上から押し付けられたのが始まりだ。要するに嫌われ役、嫌なことをするディレクターというポジションだ。必要悪といって良い。
そんなものは嫌だったが、仕方ないと飲み込んでいた。だが、彼の人生観を一変させてしまう出来事があった。それがアイドルのアイの登場だった。
弱小事務所に所属する底辺も底辺の孤児だったアイドルが、事務所を引っ張りあげて
舘山寺に求められている仕事は、若いタレントを崖から突き落として、本当にテレビの無茶振りにどこまで耐えられるのか……特に、激しい仕事に耐えられるのかを見るためのディレクターだった。
そこから、彼は自分で勝手にタレントを育てる方向に舵を取った。自分を嫌いながら自分の手元からタレントが巣立っていくのを見送るのが好きになっていた。自分にキャスティング権なんてものは手元にはない、全てプロデューサーのものだ。自分が携わると嫌だとタレントが逃げていくことも多々あった。でもそれでいい。自分から逃げられるほどの力をつけた証だ。
まさかそんな自分が、あのアイと仕事をするとは人生とはわからないものである。今週も良い絵が撮れることを確信しながら、スタッフに指示を出す。だから万が一を考えて、アクアにどれだけのレベルが出来るのか聞いておいたのだ。舘山寺でもアイを制御することは出来ない。事前に何の料理が良いか一応ヒアリングをしたが「当日のお楽しみ☆」と言われてしまった。少し不安に思いながらも、楽しみでもある。
「本番まで五秒前! 3、2、
「フリルの、七色キッチン!」
本番が始まると、いつも通りにタイトルコール。そして、オープニングトークが始まる。
「こんにちは、不知火フリルと」
「どうもこんにちは、星野アクアと」
「みなさんこんにちは! B小町の星野ルビーです! えーということで始まりましたけどもね。今回はゲストが居るということで」
「いよいよ来たって感じだね。返り討ちにしてくれるわ」
シュッシュッ、とシャドーボクシングをして見せるフリルに、アクアがツッコミを入れる。
「何と戦うつもりなんだお前は。あとお前の料理はまだ素人から脱してないから今回はお手伝いな」
「う゛っ、強烈なボディブロー……」
毒舌にわざとらしくよろけるフリルを尻目に、ルビーが進行していく。
「えー、おにいちゃんが先走ってしまいましたが、今回はゲストの注文の料理を作るというわけでね! なんとまたしてもそれ以外の情報がありません!」
「まあ何もないよりは……」
「材料はこの巨大冷蔵庫に沢山あるからね! あ、食品ロスにならないように本番組では配慮しています、ご安心ください!」
「わお、あんしーん」
ばん、とスタジオに設置された巨大冷蔵庫をクローズアップする。この中には材料がみっちりとつまっている。無論必要な分しか入っておらず、長期保存に向いているものが殆どだ。唯一生鮮系のみは、その週で残ったものはスタッフが自由に持ち帰って良いことになっている。
「はい、ということでゲストをお呼びしますね。この方です!」
「みんなーこんにちはー! 元B小町のアイです☆」
彼女がゲストとしてカメラの前に現れた瞬間、一気に空気が持っていかれる。3対1の綱引きだというのに、気を抜けば完全にアイに呑まれてしまう。スタッフは既にその放つオーラとでもいうべきものに、呑まれかけている。
(これがアイ!)
たった一言発しただけなのに、その立ち振舞いで全てが持っていかれそうになる感覚をフリルは味わう。ルビーとアクアを見ると……それを受け流していた。さらりと流してなれたようにしている。
(受け止める必要はないんだ……)
アイへの対応力は間違いなく双子の方が上、ならばそれに倣うようにする。すると圧力が少し和らいだ気がした。ルビーが満面の笑みで司会を続けていく。
「はい、元B小町のアイお姉ちゃんがゲストです! そうそう、今日のエプロンは皆今のB小町の推し色です! 私が赤、自分色で、フリルちゃんが黄色のMEMちょカラー、おにいちゃんが白、かな先輩ですね」
ルビーがそういいながら自分のエプロンをアピールする。赤いエプロンが金髪によく映えていた。
「キャー! かわいいよールビー! ……ところでアクア、白エプロンはすごい汚れそうじゃない?」
「大丈夫、汚さない」
「アイさん、アクアからものすごい圧を感じます。これは本気ですね」
「おにいちゃんガチじゃん……」
アクアやルビーと気安い遣り取りをしながら、アイとのすりあわせをしていくフリル。なんとなくアイがどういうタレントなのか、実際に共演してみて理解していく。
(この人は感覚型かとおもったけど)
よくよく見ていれば分かる、偏見を抜いてみてしまえば、一挙手一投足に繊細な気遣いがわかる。まばたきから指先の動き、立ち姿、視線まで、カメラによく映るように独自の理論に基づいて動いている。言語化出来ていないし、天然を演じているから感覚派と思われているだけで、実際は彼女なりの経験と理論、計算に基づいて動いて魅せている。だから目が離せない。
だがその程度ならば星野アイはマルチタレントとして活躍も出来なかっただろう。そこには間違いなく天性の才能も含まれていた。それ故に、アイは息子達へ無邪気に無茶振りをする。
「じゃあ早速注文しちゃおっかな? オーダー! アクア特製のフルコース~」
「はい?」
「え?」
(母さん、やりやがったっ……!)
思わずアクアは舘山寺Dをチラ見する。彼も目を丸くしていた。顔に「マジで言うヤツがいるか……!?」と書いてある。どうやら舘山寺でもアイを制御など出来ないらしい。だが止めもしない、むしろ面白そうに笑みを深めた。
伝説を止められる者は誰もいない。本物の試練が始まる。
九州で伝わる話で、漁業のために使われる明かりの漁り火が大気の異常屈折現象によって“海”に写ったものを妖怪と解釈していたらしくて
千灯籠、竜灯という名があり、その現象が何なのか当時の日本人は理解して無かったんですね
そこでそれを知った天皇陛下が、誰も知らないこの現象を「不知火」(誰も知らない火)と名付けたのが由来とされているとか。
書いてて「また九州ってやっぱりそういうこと?」って思いました。
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