【完結】天に輝く二ツ星 作:アクアハーレム最後の刺客不知火フリル
(うわ、めっちゃ美人な人がいる……)
青年……高校生である彼が偶然街のコーヒーショップで見かけた年上と思われる茶髪の女性。珈琲を嗜みながらゆったりとスマートフォンを弄っている姿に、思わず見惚れていた。一目惚れと言っていいだろう。青年は自分に自信があるわけではなかったが、コミュニケーション能力に自信があった。故に、勇気をもってその女性に話しかけていった。
「あの……! えっと、一人ですか? よかったら僕とお話でもしませんか!」
「『すみません。彼女を待っているので』」
「あ……えっと、すみません……」
「『いえ、こちらこそ無下にしてごめんなさい』」
大きなぱっちりとした瞳だが、きりっとしたかっこよさも滲み出ている気がする。そして丁寧に断られてしまったが、仕方ないと青年は割りきって、珈琲を注文すると彼女の近くの席に座った。
(……ん? 彼女……?)
なにかおかしくなかっただろうか。もう一度女性を、さりげなく観察してみる。長袖とセミロングスカートのセットアップ、黒ストッキング。胸はないが、どうみても女性にしか見えない。青年は同性交際という発想がこの瞬間思い浮かばなかった。なので余計に混乱してしまう。
「まり、ごめん遅れて。待った?」
「『いいよ、私が早く来すぎたから。じゃ、いこっか』」
「うん」
これまた現れた美少女は、黒髪のロングヘアーをポニーテールにして束ねたかなりラフな格好の女性だ。幾度か茶髪の女性と言葉を交わすと、二人は連れだって歩いていった。
(えっ……つまり、あの人は……男……? あ、ああああああああぁ……)
青年の脳と性癖は粉砕され、その後紆余曲折を経てガールズラブというジャンルに初めて触れることになる。
そんな一人のいたいけな青年の性癖を粉砕したとも知らずに、
「『次はどこに行こうか?』」
「迷うね」
フリルはアクアとのデートを自分の想定以上に楽しんでいた。ウインドウショッピングに、軽食。ただ街をぶらりと歩くだけ。それだけなのにとても楽しい。
(女装デート……やばいね。クセになりそう)
この最高に顔のいい美女とデートしながら、アクアともデートしている。二重体験と言ってもいい。メイクをしているためどうみても女の子なのに、その表情や仕草の奥にアクアを感じる。それを理解してるのが自分だけ……そう考えると、ハマりそうだった。
「『じゃあ、近場の水族館はどう?』」
「いいね、ゆこう」
「『ゆこう』」
そういうことになった。
到着した都内の水族館に入園すると、静かな雰囲気をしていてどこか幻想的だ。
「よくここに来てたりする?」
「『ときどき、一人で。一人の時間がほしいときってあるでしょ?』」
「ふーん」
ぼーっと何をするでもなく、椅子に腰かけて水槽を眺めているアクアとフリル。ほどなくして、アクアが口を開いた。
「なあ、なんで僕なんだ? お前なら……もっといい男捕まえられただろ」
「あなたより上は中々いないと思うけど?」
お互いに顔を見ているわけでもなく、ただぼんやりと水槽を眺めている。悠然と泳いでいる魚のおかげか、時間がゆっくりと過ぎていくような感覚を味わう。
流石のアクアも、フリルがデートに誘うというのはどういう意味か理解していた。そもそもガードが固く、男の影も見えないような国民的美少女だから。ただ、フリルは既に理解しているであろう、アクアが五股男ということに。だから、何故? という疑問があった。
「そうだね……私と似てたからかな」
不知火フリルは国民的美少女と呼ばれており、マルチタレントでもある。歌や踊りをすることもあれば、ドラマや雑誌モデルもやったことがある。最近はフリルの天然ボケを期待してバラエティに呼ばれることだってある。
星野アクアも最近は似たような感じでマルチタレントのように活躍している。カラオケで高得点を出したり、ノーミスでクリアさせるような番組からもオファーが来ているほどだ。
「何処が似てるんだ?」
「そうだね。……色々手広く出来るってことはさ。唯一の誇れる武器がないのと同じだよ。だって、自信をもって長所と言えるのは、顔だけじゃない? 私の看板だって“美少女”だよ」
「……言われてみると、そうかもな」
フリルもアクアも顔面偏差値が高い。そして、様々なことが出来る。裏を返せば、例えば有馬かなのような、ルビーのような。唯一無二の武器と言えるものがあるとは、自信をもって言えなかった。だからこそ、唯一無二の個性と言えるものをもって、たった一人でアイドルの夢まで叶えたMEMちょに、フリルは惹かれるのだろう。
「演技にお呼ばれする時もそう、アドリブでごまかしちゃうことある」
「そうか? アドリブで外連味を効かせてやれば印象深く……ああ、そういうことか」
「そう。ついアドリブに頼っちゃうんだよね。アドリブしなくても演技が出来る人のするアドリブとはまた違うと思う。つまりそういうところが似てるというか、共感できるから。あなたがよく自信なさげにしてる理由も」
芸能界は魔窟だ。上を見ればキリがなく、下を見れば深淵のよう。国民的美少女とまで呼ばれる不知火フリルですら、伝説のアイドルであるアイの前では霞んでしまう。この二人だって十分な上澄みも上澄みなのだが、だからこそ上を見続けてしまう。
「後はもう、なんというか……いつのまにか、って感じ。初めは目の保養になるイケメンくらいだったんだけどな……」
「そんなもんなのか?」
「恋に切っ掛けも理由も要らないと思うよ? 恋は落ちるものだからさ」
「そうかもな」
ふとお互いの顔を見る。水族館特有の暗い照明に照らされているフリル。彼女は小さくはにかんでいる。アクアはそれを美しいと思った。
「私は私の速度で、あなたとの愛を育んでいくよ。ちょっと、他のみんなみたいに駆け抜けて覚悟を決められるとは思えないからね。あ、もちろん受け入れてはいるんだけど」
「まあ、そうだよな」
フリルは立ち上がる。アクアもそれに合わせて立ち上がる。
「『それじゃあもう少しゆっくり見て回ろ? 時間はあるんだしさ』」
「ふふっ……そうだね、
お互いに手を絡ませて、ゆっくりと繋ぐ。そして、アクアはそっと彼女の耳元で、低い声で囁く。
「でもさ、俺は俺の速度でお前を愛したいと思う。好きだぞ」
フリルはぞわりと全身を震えさせる。女の子の格好なのに、突然“男”を出してくるアクアに、どうにかなってしまいそうで。
「……あー、やばい」
心臓の鼓動が、
「……私も好きだよ。安心して?」
「悪いな、せっかちで」
「いいよ。お互いの速度で頑張ろう」
それでも、フリルはゆっくりと歩く速度でアクアと付き合っていきたいと思った。
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