お待たせしました10話目になります。
拙い駄文ですが、お楽しみいただければ幸いです。
こんばんは。じゃなかった、おはようごさいます。ドラキュリアです。
ただ今
上半身を給仕服で包んだ魔物──スケルトン・ボーイが持ってきた蓋付きのお皿が2枚ずつ、食卓に座る俺たちの前に出された。蓋を開けると中には香ばしいカレーライスと瑞々しい野菜サラダ。さらにはトッピングの漬物やスパイスやソースも並ぶ。サービス満点だ。
え?朝からカレーは重い?
まあ、普通はそうなんだけど、今の俺はヴァンパイア。昼夜逆転の生活だからこれが夜ごはんになるんだ。
ちなみにカレーはトマトがたっぷり入っていて酸味のある辛口。一口食べると専門店や高級レストランで出されるカレーのようにいろんなスパイスの味と香りがして、いかにもなこだわりと上質感があった。それでいて癖もなく、家で食べるカレーのようにパクパク食べれてとてもおいしかったです。
3人で黙々とカレーに舌鼓を打っていると、令裡が話を切り出した。
「ピクニックに行きましょう」
令裡は俺と
「私は修行がある」
「あたいもいろいろ仕事あるからいいや」
「1日くらい休みませんの?」
忙しいから無理と断る俺たちに、令裡は呆れてため息をついた。
「眷属になる前から思っていたことなのですが、ドラキュリア様は毎日修行ばかりで悪魔城から出るところは1回も見たことがありません。
ええ……。
小町は仕事サボって叱られるキャラじゃん。ワーカーホリックの小町とか原作とまるで逆じゃん。
「ドラキュリア様。他人事みたいに思ってませんの?」
俺の内心を察したのか、令裡の矛先が俺に向けられた。
「魔物たちとの実戦修行で致命傷を負うところを見る度に、私が何度寿命を縮めたかおわかりですか?ドラキュリア様がヴァンパイアの魔王で、簡単に命を落とされないのはわかっております。ですが、もっと自分を大切になさってくださいまし」
見苦しいところを見せて申し訳ないな。
俺は弱いから、ビッグスケルトンの拳で滅多打ちにされたり、ベビーモスの突進で胸を角でブッ刺されながら壁にサンドされたり、バロールのビームに直撃してズタボロにされたりしたよ。でも、オール・フォー・ワンとの戦いで刺されてバラバラにされて燃やされた時に比べたら、どれもその時以上の痛みや恐怖がないからマシなんだよ。
それに、修行が終わった後は
修行で戦い方を学びながら痛みで自身の負の感情を増幅させる。体を苛め抜いた末に、ヴィランたちの血肉を邪悪な魂ごとおいしくいただく。そして力を高める。ドラゴンボールで例えるなら、悟空が修行や戦いで消耗した後に、仙豆を食べて回復&パワーアップしてるのと同じ理屈だ。
「憎きオール・フォー・ワンを倒すべく、力を求めておられるのは重々承知。ですが、もっとご自愛なさってください」
令裡はフーとため息をついて俯いた。心底呆れられたようだ。
(…………心配かけて申し訳ないと思う。そして心配してくれていることに感謝もしてる。だけど、俺は修行して力をつけないといけな────ッ!)
顔を上げた令裡を見て思考が一瞬停止した。
「ドラキュリア様が傷つくお姿を見ると、胸が切り裂かれる思いでございます」
表情はあまり変わっていない。だけど令裡の声は震え、目に涙が浮かんでいた。
(俺は、何をやっているんだ?)
前世と同じことをした。こんな俺のことを大事に思ってくれた母ちゃんを泣かせたように、令裡を泣かせてしまった。
(まただ。また同じことをした)
失敗した。
この言葉が俺の頭の中でグルグル回る。反響して大きくなっていく。
「ドラキュリア様」
突然、耳に響いた声に頭の中の言葉はフッと消えた。そしてマントを引かれる。振り向くと、マントを掴んだ
「眷属が心配して泣いているってのに、何をボーッとしてるんですか。逆の立場になって考えてくださいな。こんな時、何をしてやればいいのかを」
(泣いている時に何をすればいいか?)
押されながら俺は令裡に歩み寄り、屈んで目線を近づけると令裡の涙を指先でそっと拭う。
「すまぬ。令裡」
令裡の目を真っ直ぐ見つめながら、その頬に手を添える。令裡は少し驚いたが、静かに受け入れた。
「許せ。私は己のことばかり考えて、今までそなたの思いに気付かなかった」
「……ドラキュリア様」
こんなイケメンムーブは前世じゃ絶対にできなかったことだが、今の俺はドラキュリア。イケメンなドラキュラとアルカードに似た顔立ちのクールビューティーだ。 効き目があるようで令裡も白い顔を少し赤くしてる。
「…………私はずっと、ドラキュリア様が傷ついて苦しんでいるお姿を見るのがつらかったのです」
令裡はぽつりぽつりと語り出した。
「私は、ドラキュリア様は表情が変わらずとも、内心では苦しんでいると感じ取れました。それでも力を求めて自身を追い込むように、命を削るように戦うお姿が痛々しくて、何もできず見ているだけで苦しかったのです」
語るのも苦しそうな告白だ。
(俺はバカだ)
今を思い返すと、まだ小さな蝙蝠だった頃から令裡は俺を見ていた。最初は「見学か?」なんて考えて、そのうち気にも止めなくなった。我ながら度し難い。
「そなたはもう魔物ではなく、言葉を発して己の思いを伝えられる1人のヴァンパイアであるというのに。私はそなたの主であるというのにな」
「ドラキュリア様……!」
令裡の目から涙が溢れ、頬を伝って顎の先からポタポタ落ちる。
(ヤべぇ。死にてぇ)
俺のことを様を付けて呼んでくれる美少女を泣かせた。罪悪感で胸が痛い。胸に杭を打ち込まれるようだ。
「だが、修行をやめることはできぬ」
令裡は目からハイライトを消して俯いた。
本当に悪いとは思ってる。だけどこれは譲れない。今この瞬間にも、オール・フォー・ワンは全てを支配しようと他人から個性を奪い、強くなりつつある。生半可な鍛え方だとやつに敵わない。
「修行をやめることはできぬが、休みも入れよう」
令裡はゆっくりと顔を上げた。目にうっすら光が灯ったのが見える。
「そなたの言う通り、私は命を削りながら修行してきた。全てはオール・フォー・ワンに復讐するために、安寧を得るためにな。だが、視野が狭くなっていたようだ」
令裡の体を抱き上げると頬から後頭部に、そして背中に手を回して胸に抱き寄せた。一定のリズムで優しく背中をポンポンと叩きながら頭を撫でる。
前世で俺が子供の頃、悲しくて泣いている時に母ちゃんはこうやって抱きしめてくれた。優しくて温かくて安心できたあの感触は、ヴァンパイアになった今世でもよく覚えている。
「そなたの思いに気づかず蔑ろにしてすまなかった。これからは無理は控えよう」
「……ドラキュリア様」
「どうした?」
令裡は俺の胸の中で少しくぐもった声で呼ぶと、見上げる形で俺と目を合わせる。
「ドラキュリア様はオール・フォー・ワンを倒すために修行をしているのですよね?」
「……?ああ、そうだ」
「でしたら、その時が来たら私も共に戦わせてください」
「何だと……?」
「ドラキュリア様が茨の道をお進みになるのでしたら、この私もお供させていただきたいのです」
令裡は俺の手から離れ、フワリと浮かんで後ろに下がって床に下り立つ。
「ドラキュリア様の負担を少しでも減らすため、今後は私もこの身を鍛えてお役に立ちます!!」
自分の胸に手を当て、堂々と宣言する令裡。
あれ?令裡ってこんな熱いキャラだっけか?俺の記憶が正しければ、原作だと飄々としていて不利な状況ならすぐ逃げるようなキャラなんだけどな。こいつはあくまでガワがそっくりなだけであって、性格は「嘉村令裡」そのものじゃないのか?
俺が「
とりあえず、令裡の腋の下に手を入れて高い高い。顎が肩に乗るように優しく抱き抱える。体格差がすごいから、赤ちゃんを抱っこしてるような気分だ。
「令裡よ。明日は修行内容について語り合おう。そして明後日は3人でピクニックに出かけようではないか」
「……はい♡ドラキュリア様♡」
背中を撫でながら耳元で囁くと、令裡は甘い声で返した。よし、泣き止んで機嫌もよくなったな。オート・イケメンムーブ便利だな〜。
「
振り返って
「そなたがこれほど私を思ってくれたこと、心よりうれしく思うぞ」
もう一度、耳元で囁きながら後頭部を指先で優しく撫でる。すると、それに応えるように令裡は俺の体を抱きしめた。
(うわっ、髪の毛すっげぇサラッサラだ。それにフワッと果物のように甘酸っぱくていい匂いもする。やっぱ美少女は最高だぜ!)
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食事が終わり、ドラキュリアが「先に寝る」と先に食堂を出た後も、
スケルトン・ボーイがテキパキと食器を片付けていくのを横目に、
「さっきまで泣いていたとは思えないねぇ」
「あら?どういう意味ですか?」
どこか呆れた声に令裡は首を傾げる。
「あんた、あの時の涙は嘘泣きかい?」
「半分は本当で半分は嘘泣きです」
令裡のキッパリとした返答に
「ドラキュリア様は前世において、お母様を泣かせまいと誓ったそうですね」
令裡はサラリととんでもないことを呟いた。
「……!あんたも、ドラキュリア様の前世の記憶を知っているのかい!?」
目を見開いて驚く
「ドラキュリア様に血を与えられた際に、私の頭のに様々な情報が流れ込んできました。「嘉村令裡」というヴァンパイアについて。そして、ドラキュリア様の前世。その中には、涙を流しながら謝る女性の姿もありました」
「あんた、ドラキュリア様は前世でおっかさんを泣かせた経験があるのを知った上で、泣き落としをしたってのかい?」
席を立ち、令裡に詰め寄った。主の心を利用するなど、腹心として許しておけない。
「ええ。その通りです。ですが、そうしなければドラキュリア様は無理な修行をずっと続けていたでしょう」
令裡はキッパリと答えて
「あの時も言いましたが、ドラキュリア様はオール・フォー・ワンに敗れて命を落としたのをキッカケに、力を求めて無理な修行をなさっています。ですが、このままだとドラキュリア様は再戦する前に心が壊れてしまいます」
令裡の目は憂いを帯びている。
「
「……ああ。知ってるよ」
戦ったのはビッグ・スケルトン。ベヒーモス。そしてバロール。原作だとステージボスに当たる魔物たちだ。令裡の言う通り、ドラキュリアはそれらを1度に3体も出して戦いを挑んでいた。
前者の2体ならともかく、ドラキュリアは40m近い巨人であるバロールを1度に3体同時に戦ったことがあった。大型トラック並に大きな手足に潰され、レギオンとは比べ物にならないほどの破壊光線で焼かれたり、生きたまま食われたりと、散々な目に遭っている。
ドラキュリアはそれでも勝ちをもぎ取っていた。手足を爪で燃やしては切り裂いて最後に喉笛を引き裂いたり、光線に焼かれながら目に向かって突っ込んで頭を貫いたり、食われても胃袋の中で再生して体内から焼き殺したりと、凄まじい戦いぶりだ。
「ドラキュリア様にも言いましたが、それを見てきた私がどんな思いだったかわかりますか?」
悲痛な目で問いかける令裡の魂が深い悲しみの色に染まっている。
「私はドラキュリア様が無理をなさって傷つき、心をすり減らしていくのを見たくなかった。これままだといつか、緑谷出久のように1人で全てを背負って戦うのではないかと思ったのです」
原作だと緑谷出久は、レディ・ナガンとの戦いの後にオール・フォー・ワンが自分に興味を向けてるのを知り、「みんなを巻き込みたくない」と食事や睡眠もろくに取らず、各地で暴れる「ダツゴク」と戦い、救いを求める者達を救い続けた。師であるオールマイトとA組の学友たちの手を振り解いてまで、1人でオール・フォー・ワンと戦おうとしていた。
「これは
ピッと指を差されて、
「……悪かったよ。あたいもドラキュリア様と同じで視野が狭くなっていたよ」
リハビリか終わった後に、オール・フォー・ワンを殺すと宣言する主を見て、「ドラキュリア様はもう大丈夫だ」と思ってしまった。
修行も「簡単に死なないし平気だ」と、致命傷を何度も何度も負う主を見ても「血を飲ませればいい」と、楽観的に考えていた。
「ははは……これじゃあ、原作でヒーローに依存して堕落した一般民衆と大して変わらないじゃないか」
原作の全面戦争後、ヒーローに罵声を浴びせて石を投げつける民衆を思い浮かべながら
「あまり気を落とさないでくださいまし。事が起きる前に、指摘されて気づけたことを良しとしましょう」
励ましの言葉をかけながら令裡はティーカップにおかわりを注ぐと、
「とりあえず、お茶でも飲んで気分転換してはいかがです?反省はそれからにしましょう」
「回し飲みですけど」と呟く令裡からティーカップを受け取った
「あんたがドラキュリア様とあたいをよく見て心配してくれたことに感謝してる。だけど、1つ解せないことがあるよ」
「何かこざいまして?」
「あんた、泣いたのは半分は嘘で半分は本当って言ったよね?ドラキュリア様への思いは本物なら、泣かなくてもよかったんじゃないのかい?」
感謝はしている。だが、
「ドラキュリア様は前世では恋愛経験がない男。美少女の涙でイチコロですわ」
悪びれる様子もなく、令裡は小悪魔のように微笑んでウインクした。
「…………そうかい。あんた、なかなかずる賢いねぇ」
ドラキュリアから生まれた手前、男の価値観もある
「女って怖い」
顔を引き攣らせながら飲んだ紅茶は少し酸っぱく感じた。
いい加減、原作キャラを登場させたい。
最後まで読んでいただきありがとうございました。
感想を書いていただければ幸いです。
それではまたお会いしましょう。