ドラキュラ?いいえ、ドラキュリアです   作:花の右人

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あけましておめでとうございます。花の佑人です。
クリスマスと正月にゴタゴタして投稿が遅れました。本当にすみませんでした。
 
今回は重要な回でもあるので、1万以上の文字数になります。
お待たせしました11話目になります。
拙い駄文ですが、お楽しみいただければ幸いです。


11. 片割れとの出会い

 こんばんは。ドラキュリアです。

 今日は死神(デス)と令裡の3人でピクニック。シートを広げてお弁当を食べているところです。

 

「このカツサンドイッチ、とてもおいしいですわ」

 

「そりゃあそうさ。何てったって、新鮮な「うまい肉」を贅沢に使ったもんだからねぇ」

 

 カツサンドイッチに舌鼓を打つ令裡と、褒められてうれしそうに笑う死神(デス)。ここだけ見れば、明るい美女と清楚な美少女のほのぼのとしたやり取りに見える。

 

「そなたら……よくこんな場所で食事を楽しめるな」

 

 俺は2人のようにサンドイッチを食べる気分になれない。腹が減ってないから?いいや、違う。

 

 俺らの周りに大量の死体がなければ、自然と食事を楽しめる最高のピクニック日和なのにな。

 

 遡ること30分ほど前。

 俺らはピクニックに出かける前に留守番として、巨大な鎧騎士・ファイナルガードを門前に2体召喚した。「悪意をもって悪魔城に近づく者は殺せ」と命令して悪魔城から飛び立った。

 ピクニックの場所は悪魔城から1番近いとこにある街が見渡せる山の頂上にある公園だ。ひとっ飛びで着いたのはよかったが、ここでトラブルは起きた。

 

「ゲヘヘヘッ!女だ!女が3人やって来たぞ!!」

 

「しかも上玉だ!」

 

「俺だ!俺から先だ!!」

 

 公園に焚き火の灯りと大勢の人間の姿が遠目で見えたところで地面に下り、歩いて近づいたらこれだ。

 舌舐めずりしたり、よだれを垂らしながらいかにも小物らしいセリフを発するキッショい顔の男たち──ヴィランのグループが30人ほど、山頂の公園でキャンプファイヤーを焚き、テントをいくつも建てて占領していたのである。

 

 ピンクがかった汚い赤黒色。

 魂を奪い、吸収する技「ソウルスチール」が使える特性上、死神(デス)のように魂の色が見える俺の目は、このヴィランたちの魂がそんな色に見えた。

 骨までしゃぶるように女を悪意と邪欲のまま凌辱する。そんな思考の魂は最高に汚いと死神(デス)から聞いたことがあるが、実際に目にすると想像以上だった。

 ちらりと後ろの2人を見ると、普段からヴィラン狩りをしてる死神(デス)はもう慣れているのか、スンとした真顔。そして令裡は道端に落ちてる犬のうんこを見たような不快感に満ちた顔だ。

 

「俺はJKがいい!!」

 

「なら俺は赤髪の女だ!!」

 

 ヴィラン共がジリジリと近づいてくる。中にはベルトを外そうとしてるやつもいる。

 …………うん。こいつら、殺そう。俺のカワイイ腹心と眷属を汚い目で見るだけじゃ飽き足らず、レイプしようだなんて万死に値する。

 どう殺そうか考えていると、ヴィラン共の中からちっこいのがヒョコヒョコと俺の前に出てきた。ツルッツルのハゲ頭で鼻が高く、身長は140cmあるかどうかのチビのおっさんだ。まるでゴブリンみたいだな。

 ゴブリンは俺の爪先から顔までじっくり見ると、にちゃあと顔を歪める。

 

「2m近いタッパの超上玉。ヒヒッ!今夜は最高についてるぜ!!」

 

 鳥肌が立った。吐き気がするほどの嫌悪感で腹が痛くなってきた。この凄まじい不快感はこのゴブリンを殺さないと取れないかも知れない。

 

 あ、ちなみに今の俺は姿を変えてる。オール・フォー・ワンの目と耳となる人間がどこに潜んでいるのかわからないから、念のため姿を変えてからピクニックに出たんだ。

 現在の俺の姿は身長を元の半分の195cmまで縮めて、服装は普段身に纏うマントとホルターネックのスリットドレスではなく、黒いスーツ姿だ。さらに白い髪と赤い瞳を黒にしている。「有角幻也」という偽名で動いたアルカードと同じスタイルだ。

 サイズが合わない小さな服を着てるように窮屈で息苦しいし、軽い変装レベルのお粗末な姿だが、鍛えてばっかりで別人に化ける魔法の修行を疎かにしてきた俺にはこれが限界。4m近い体を縮めてカラチェンできただけでも良しとしよう。

 

「ヒヒヒッ!俺はなぁ、テメェみたいにタッパのいい女をヒィヒィ言わせるのが大好きなんだよ」

 

 何かゴブリンが自分語りし出した。心の闇を通して見聞きすると、自分より背が高い女をレイプすることでコンプレックスを埋めたいらしい。うん、キショい。生かす価値ないなコイツ。

 

「なあ、おいっ!このデカ女は俺が先に味見していいか!?」

 

 振り向いて仲間たちに確認を取るゴブリンの足元を指差して呟いた。

 

「マナフレア」

 

 ボゥンッ!!

 

 ゴブリンの足元が赤く光った瞬間、火柱が噴き出した。5〜6mほどの高さの火柱は一気にゴブリンを飲み込んだ。

 

「ギャアアアアアァァァッッッ!!!」

 

 火柱が消えると、ゴブリンは全身真っ黒焦げになって地面をのたうち回った。

 

 マナフレア

 

 ドラキュラとその糧になった真祖のヴァンパイア・ヴァルターが使っていた技である。

 

 スケルトンに本気でやったら黒焦げどころか灰すら残らない火力だったから、殺さず手加減できるか心配だったけどうまくいったみたいだ。火柱は派手だったけど、ゴブリンは全身の表皮が炭化しただけでまだ死んじゃいない。後でポーションかけて回復してやるからしばらく苦しんでろ。

 

「て、テメェッ!やりやがったなぁ!?」

 

 驚いたのも束の間、ヴィランたちはすぐに戦闘態勢に入った。さっきまで目尻を下げて鼻を伸ばしたキショい顔から一変して、目つきを鋭くして緊張感と闘争心を見せる。

 切り替えが早い。まるで軍隊みたいだ。こいつらはただのごろつきの集まりじゃなさそうだな。

 

死神(デス)。令裡」

 

 後ろの2人に声をかけると軽く息を吸った。

 

「皆殺しだッ!!1人もここから逃すなッ!!」

 

 全身から暗黒魔力を出しながら大声で命令を下す。

 

「「あいよっ!!/はいっ!!」」

 

 2人は元気よく返事をすると、放たれた矢のような勢いでヴィラン共に飛びかかった。

 

「あらよっとっ!」

 

 死神(デス)は瞬時に大鎌を生成して最前列にいたヴィラン共に一振り。ビュンッと鋭い風切音と共に7つの首が宙を舞った。

 

「ヒィッ!!」

 

 ヴィラン共は後ずさり。中には腰を抜かすやつまでいる。最初に俺が暗黒魔力を出した時に戦意が大きく揺らいで、追い討ちをかけるように仲間の首が刈り取られたらそうなるよな。

 

「さっきの威勢はどこに行ったのかしら?肝っ玉のない男達ですこと」

 

 ヴィラン共はその声に振り返ると、最後尾にいた2人の仲間たちの胸から赤く細い腕が生えていた。その手には躍動する丸い肉の塊が握られている。心臓だ。

 

 グチャリ

 

 人外の握力で瞬時に圧迫された心臓は指の隙間から弾け飛び、血肉を撒き散らした。

 腕が引っ込み、胸にポッカリと穴が空いた2人のヴィランは目を見開いたまま、糸が切れた操り人形のように力なく倒れる。その背後には肘まで腕を赤く染めた美少女が立っていた。

 

「人間相手に初めてやったけど、全くスマートじゃないわ。キルアのようにはいかないものね」

 

 少女は血に染まった手を舐めながらニヤリと笑った。妖艶な美しさと悪魔のような恐ろしさを兼ねた姿にヴィラン共の表情が引きつる。

 

「お前らあぁッ!!ビビってんじゃあねぇぞッッッ!!」

 

 怖気ついてきたヴィラン共の中から、タンクトップ姿の筋肉マッチョでガタイのいいヴィランがズシズシ足を踏み鳴らしながら令裡の前に出てきた。

 

「テメェ、さっき肝っ玉がない男達って言ったなぁ?ちょっとパワーがあるからって調子こいてんじゃねぇぞ。メスガキがぁッ!!」

 

 筋肉ヴィランは悪人面と太い腕に青筋を浮かべると、固く握った拳を地面に叩き込む。その瞬間、周囲がグラッと揺れた。あまりの衝撃にヴィランたちはタタラを踏んだり尻もちをついく。

 上腕まで地面にめり込んだ腕を引き抜き、筋肉ヴィランは口角を釣り上げる。

 

「俺の“異能”は『剛体』!!コンクリートも粉砕する破壊力と銃弾も皮膚を通さず弾く頑強さを持った肉体だ!!」

 

 説明しながらボディビルダーのように力こぶを作るポーズを取り、血管が浮かび上がった両腕を見せつける。見事な筋肉だが、対する令裡は心底つまらなそうに湿気た顔で一言。

 

「見せ筋ね。大したことないわ」

 

 筋肉ヴィランの顔にビキビキと青筋が走った。

 

「舐めんなメスガキィッ!!手足をへし折ってブチ犯してやらァッ!!!」

 

 筋肉ヴィランは駆け出した。距離を詰めてパンチの射程圏に入った瞬間、体重とスピードを乗せたナックルアローを令裡の顔目がけて叩き──

 

 グオオォォッ!!!

 

 込まれなかった。

 突然吹き荒れた暴風に筋肉ヴィランは3〜4歩、後ろにタタラを踏んだ。周囲にいたヴィランたちも巻き込まれて、10m以上先まで吹き飛ばされてゴロゴロ転がった。あ、俺と死神(デス)は無事だ。体幹の鍛え方が違うからな。

 

「て、テメェッ!!」

 

 転ばず暴風を耐え切った筋肉ヴィランは目を見開く。信じられないものを見るように、腕を振り切った姿勢の令裡を見ていた。

 暴風の正体は令裡の「素振り」だ。

 

 眷属になる以前、大蝙蝠(ジャイアントバット)の時から令裡のパワーは凄まじいものだった。体幹が弱い人間なら、1回の羽ばたきで起きた風圧だけで吹き飛ばされる。2回目以降からは大嵐のような暴風に変わる羽ばたきは、人だけでは飽き足らず1トン以上の車両すら横転させる。

 そんな怪物をコンパクトにしつつ、さらにパワーを高めて生まれたのが「嘉村令裡」と言うヴァンパイアなのである。

 

「だれを犯すですって?」

 

 令裡は眉間にしわを寄せながら筋肉ヴィランを睨む。ギラリと光る赤い目に睨まれた筋肉ヴィランはビクッと体を震わせた。

 蛇に睨まれた蛙のように恐怖のあまり動けず、早足で歩み寄ってくる令裡に右手首を掴まれた。

 

「うっ、うおぉぉぉッ!!!」

 

 筋肉ヴィランは恐怖を振り払い、片足を1歩引いて左フックを繰り出した。腕だけでなく、腰の捻りも加えた拳が令裡の顔に向かって突き出される。咄嗟に動いたにしては的確な反撃だろう。

 

「遅い」

 

 令裡はそれを嘲笑い、首を横に傾けて最低限の動きでかわす。そして──

 

 ザシュッ

 

「……は?」

 

 筋肉ヴィランは視線を下げて音がした方を見る。右手がない。手首と肘の中間からなくなっていた。視線を上げると、令裡がこれ見よがしに血が滴る右手を持っているのが見えた。

 1秒にも満たない時間の中で思考がまとまると──

 

「ぐっ、ギャアアアァァァッッッ!!!!」

 

 遅れて押し寄せてきた鋭い痛みに悲鳴を上げた。

 全開まで捻った蛇口から水が出るように、切断された腕の断面から勢いよく鮮血が吹き出す。

 

 そんな筋肉ヴィランに目もくれず、令裡は手刀で切り落とした右手の手首を強く握り、ボタボタ垂れる血に口をつけると眉間にしわを寄せて微妙な表情になった。

 

「甘味より苦味が強くて私の口に合いませんわ」

 

 令裡はここでやっと、地面をのたうち回りながら「俺の腕が」と叫ぶ筋肉ヴィランに目を向ける。

 

「うるさいわね。そんなに返して欲しければ返しますわ」

 

 手首のスナップだけで投げられた右手は猛スピードで筋肉ヴィランの腹にめり込む。あまりの威力に筋肉ヴィランは内臓をやられたのか、血を吐き出した。丸めたティッシュをゴミ箱にポイッと捨てるような軽い動きでこれだ。

 

「ぶふっ。自分を殴った」

 

 それを近くで見ていた死神(デス)は正面のヴィランを大鎌で真っ二つにしながら顔を背けてる。

 

(いや、全然うまくねぇし笑えねぇよ)

 

 なんて口に出せないから内心でツッコむ。人の生き血を啜る鬼になって1年と半年が経ってるが、俺にもまだ人間らしい心が残っているみたいだ。

 

「死ねやデカ女ぁ!!」

 

 よそ見していると後ろから根性のあるヴィランが1人、俺に突進してきた。

 変形型の“異能”なのか、百鬼丸のように両腕の肘から先が日本刀になっている。

 

「死ねぇっ!!」

 

 刀ヴィランは大きく踏み込んで、胸を狙って2本の刀を突き出した。

 

「……へっ!?」

 

 刀ヴィランはポカンとした顔で間抜けな声を漏らした。そしてすぐ両腕を引っ込めて目を見開いた。

 

「そんなバカな!!」

 

 何に驚いてるのかって?俺が全くの無傷で驚いてる。ご自慢の“異能”で刺し殺したと思ったのに感触はゼロ。腕を引いて見たら全くの無傷。衣服にすら傷がない。

 

 俺は自分の体を霧に変えた。

 ヴァンパイアは蝙蝠、狼、そして霧に変身できる。俺はこの能力を戦闘で使えるように鍛え、ロギア系の悪魔の実の能力者のように物理攻撃を無効化できるようになった。まあ、長時間使うと疲れるからまだまだなんだけどな。

 

「クソッ!クソッ!どうなってやがる!?」

 

 刀ヴィランは何度も刺したり斬りつけるけど無駄。気が済むまでやらせてもいいけど、面倒だからとっとと終わらせよう。

 

「ぬがっ!?」

 

 首を鷲掴みにされて刀ヴィランはうめいた。

 

「ぐっううう!は、離せェェェッッッ!!」

 

 ここで持ち上げる。腕を刺そうとしても無駄だっての。

 

「ヘルファイア」

 

 手のひらが赤く光り、密着した状態から地獄の炎が放たれた。公園の上空に2つ目の火柱が上がった。膨大な火炎と熱量に刀ヴィランの頭と首は燃え尽きて、その下の体がドサリと地面に落ちた。

 

 おお、すげぇ火力だ。人間相手に使うとこうなるんだ。

 自分で思うのもなんだけど、エンデヴァーや荼毘に近いんじゃないかな?これも修行の賜物だ。

 

「て、テメェ!」

 

 また1人、根性のあるヴィランが突っ込んできた。仲間の仇打ちのつもりみたいだけど無駄だって。

 

「ヘルファイア」

 

 バスケットボールサイズの火の玉が胴体に直撃して弾け、本日3本目の火柱が上がった。

 

「ギャアアアアアッッッ!!!」

 

 炎に呑まれたヴィランは断末魔の叫びを上げた。燃え上がる炎の中、一瞬で全身が黒く焼け焦げ、足から削れていくように消えていく。全身の原型を留めなくなっていくにつれて叫び声は小さくなり、火柱が消えると同時に途絶えた。

 後に残ったのは黒く焼け焦げた地面と煙だけだった。

 

「ひ、ヒイイィィッッッ!!!」

 

 それを見ていたヴィランたちはやっと力の差を理解できたのか、腰を抜かしたり後ずさりする。顔を向けると一目散に走り出した。

 

「おっと、逃がさないよ!」

 

 そうは問屋が卸さないと、笑顔で行く手を阻む死神(デス)

 腰を捻って大鎌をヴィランたちに投げつける。大鎌は空中で回転スピードを上げ、円形の刃になってブーメランのような軌道を描き、軌道上にいたヴィランたちの首を、上半身を、手足を刎ね飛ばして死神(デス)の手に戻った。

 

「あらあら。これは私も負けてられませんわ!」

 

 赤い瞳をギラリと光らせ、令裡は近くにいるヴィランに飛びかかった。鋭い爪が伸びた貫手で、障子紙に穴を開けるように次々とヴィランの体を貫いていく。

 

「アハハハッ!脆いですわ!!」

 

 令裡は普段の清楚な雰囲気から豹変。狩猟本能のまま牙を剥く魔獣へと変わった。

 

 刈られ、貫かれ、焼かれる。

 10倍の人数差を嘲笑うような一方的な蹂躙が始まった。

 

 

 

 ──────────────────────

 

 

 

 殺戮が終わり、冒頭に戻るというわけだ。

 最後の1人を焼やして一息つき、グルリと辺りを見回す。黒焦げの地面、所々にいくつも血だまり、手足や生首や臓物。

 昼間は街を一望できる山頂の自然公園は、凄まじい地獄絵図になっていた。

 

(くっさ。汚ねぇな)

 

 まずそう感じた自分に驚いた。

 ついさっき、令裡が筋肉ヴィランの腕を切り落とし、それを腹にぶつけて吹いた死神(デス)にツッコミを入れて、自分に人間の心が残ってると思ったけど前言撤回だ。

 

(俺は人間の心がなくなったのか?)

 

 燃え盛る炎と血の海と死体が散乱した殺人現場。普通の人間がそんなものを見たら、恐怖で逃げるか動けなくなるか、現実感がない光景に呆然とするか、その場で吐き散らすかのどっちかだ。

 なのに、俺は「くっさ。汚ねぇな」で済ませた。

 今さら思い返すと俺は、ヴィランを燃やすのにも抵抗感がなかった。反吐が出る悪党でも殺すのに躊躇うはずなのに、その時腹の奥から湧き上がってくるものを感じた。

 それはマイナスな感情ではない。プラスな感情だった。

 

「悪魔城伝説」でドラキュラは殺戮を喜ぶとされるが、それも『ドラキュラ』に反映されて俺の精神に現れているのか?

 リ・デストロこと四ツ橋力也は言った。「“個性”は人格に直結するものだ!」と。この説が正しければ、俺の心はドラキュラのものへ近づいているのかも知れない。

 

 だとしたら嫌だな。

 今世の俺はドラキュラのように人類滅亡を目指す気はサラサラない。血が飲めなくなったら死活問題だ。

 俺はヴァンパイアらしく永い夜を生きたい。可愛い腹心と眷属たちイチャイチャしたい。両手に花と言わずハーレムを作りたい。前世は年齢=童貞で短命だったんだ。それくらい許されるだろ。

 そんな感じで思考を働かせている時だった。

 

「う、ああ、あぁぉ」

 

 俺のヴァンパイアイヤーが掠れたうめき声を捉えた。起きたみたいだな。

 立ち上がってシートを包むドーム状の結界から出ると、焼け焦げた臭いと死臭と死体から漏れた糞尿の悪臭が鼻についた。少し離れたところで木に縛り付けられた小男の顔を覗き込む。黒焦げてブッサイクな顔はよりキショくなっている。最初に俺が焼いたゴブリンだ。

 こいつはいろいろ情報を聞き出すためにあえて生かしておいた。でも、この状態じゃ聞き出せない。

 そこでこれ。ポーション。悪魔城ドラキュラに出てくる回復アイテム。見た目は青い液体だ。

 

 ドラキュラは強大な暗黒魔力で自分の精神世界を、悪魔城を現実世界に具現化・展開できる。想像したものを現実に創り出す、八百万の上位互換とも言える力だ。作中だと城内でアイテムが落ちてることもあり、想像すれば創れるのではないかと考えて試してみると、ポンと出てきたのがこのポーションだ。

 地下牢で拷問を受けているヴィランに試してみるとあら不思議。剥がされた皮膚がジワジワと再生した。とんでもない回復アイテムだよ。

 

「さあ、起きろ」

 

 5本ほど生成してゴブリンの頭から爪先にバシャバシャ振りかけると、焼け焦げた皮膚がボロボロ剥がれ落ち、その下から新しい皮膚が顔を出した。

 

「あ?お?」

 

 ゴブリンは顔を上げて火傷が引いた体を見て困惑してる。だけど、俺の顔を見た途端に「ヒッ」と悲鳴を上げて身体を震わせた。

 

「傷は治ったな。では問おう。貴様らは何故、この公園を陣取っていたのだ?」

 

 テントとキャンプファイヤーを指さしながら質問すると、ゴブリンは俺を睨みつけた。

 

「だ、誰が言うか!このクソお、ンギャアァッ!!」

 

 ここで足首を踏んでへし折る。

 

「何故ここにいた?」

 

 今度は脛を踏む。脛、膝、腿と上がっていき、逃げられる確率を下げてジワジワと絶望感を与える。死神(デス)から教わった尋問の仕方だ。

 

「ヒィィッ!足が!俺の、足が!!」

 

「何故、ここにいた?」

 

「いぎぃっ!そ、それは」

 

 グッと体重をかけると、ゴブリンはうめきながら口ごもる。2本目。

 

 ゴシャリ

 

「ギャアアアアアッッッ!!!」

 

 硬い物が潰れる音と悲鳴が響いた。次に膝を踏んで体重をかける。

 

「何故、ここにいた?」

 

「オール・フォー・ワンだ!オール・フォー・ワンに命令されたんだよ!」

 

 思考が止まった。

 

 オール・フォー・ワン

 

 巨悪の帝王。

 最強の超悪党(スーパー・ヴィラン)

 未来を阻む者。

 そして、俺をバラバラにして日光で焼き殺した男。

 

 渋い声で高笑いする顔が俺の頭の中でグルグル回る。

 

「ドラキュリア様」

 

 聞き慣れた声に現実へ引き戻された。

 振り返ると、大鎌を肩に担いだ死神(デス)がそこにいた。その右となりには令裡もいる。

 

「今、聞き捨てならない名前が出ましたねぇ」

 

「右に同じく」

 

 ついさっきまでのほほんとサンドイッチを食べていたとは思えないほど、2人は目が据わった凄まじい表情で魔力を出している。

 

「オール・フォー・ワンだ。このゴブリンはあの男の部下のようだ」

 

 2人が放つ殺気とも言える魔力に当てられ、恐怖のあまり歯をガチガチ鳴らしながら震えるゴブリンを指さす。

 

「オール・フォー・ワンの部下ねぇ。こうやって自分の目で直接見るのは初めてだよ」

 

 死神(デス)はゴブリンを見下ろす。その目はゾッとするほど冷たい。

 死神(デス)は俺が復活する前から、放った使い魔たちの目と耳を通してオール・フォー・ワンに関する情報を集め、このゴブリンと同じ部下となったヴィランたちを何度か見てきた。やつの名の下に悪徳の限りを尽くすヴィランたちを。

 

「あたいもあんたたちのことをとやかく言えないけどねぇ、許せないんだよねぇ」

 

 死神(デス)はゴブリンに向かって大鎌を振り上げる。ゴブリンは「ヒィィ」と情けない声を上げると、恐怖が限界に達したのかジョロロロと漏らした。汚ねぇな。

 

「殺すな」

 

「ええ。わかってまさぁ。さあ、言いな。あんたたちは何でここにいた?やつに何て命令されたんだい?」

 

 今の死神(デス)に普段のあっけらかんな雰囲気はなく、全身から凄まじい暗黒魔力を放っている。俺でもヤバいと感じる魔力で周囲の空気が重くなっていく。

 

「さ、最近、つい3日前に、ヒッ、襲われ、たんだ」

 

 ゴブリンは泣きながら語り出した。

 

「オール・フォー・ワンが留守の時に、本拠地が、襲われたんだ」

 

「だれにだい?」

 

自警団(ヴィジランテ)、オール・フォー・ワンに抵抗する、ば、バカな連中だ」

 

 自警団(ヴィジランテ)

 

 秩序が崩壊した超常黎明期において、『異能』を用いてヴィランと戦ったヒーローの前身。オール・フォー・ワンが支配するこの時代、自警団(ヴィジランテ)の抵抗組織は存在した。

 

「攫われた。それで、探せと、命令されたんだ」

 

「……だれを?」

 

 死神(デス)は問う。

 

「やつら、攫いやがったんだよ。オール・フォー・ワンの、大事な──」

 

 オール・フォー・ワン。自警団(ヴィジランテ)の襲撃。大事にしているもの。

 

 3つのワードが1人の男に導き出した。

 

「やつらが、ここの近くの山に入ったのを見たって、情報が入ったんだ。だから、俺たちはここに──」

 

「テントを建てて探索拠点にしたと」

 

 その先を令裡が答えた。

 

「オール・フォー・ワンにこのことを伝えたのか?」

 

「い、いや。まだ。俺たちがここに来たのは、ついさっきまで」

 

「それでやつはどこにいる?」

 

「バラバラになった自警団(ヴィジランテ)たちを、追ってる。どこかは、知らない」

 

「陽動ね。哀れなこと」

 

 令裡は淡々とした声音で吐き捨てた。あの男に目を付けられたんだ。おそらくもう、生きていないだろう。

 

「知ってることは、これで全部かい?」

 

 死神(デス)は目を釣り上げて問いかける。

 

「全部!全部話した!だから解放してくれ!もう悪さはしねぇからっ!!」

 

 魂の色を見るとウソはついていないみたいだ。後の方はウソだけどな。

 

「ドラキュリア様。こいつは……」

 

「ああ。もう用はない」

 

 ゴブリンに手のひらを向け、炎を浮かべる。ゴブリンは悲鳴を上げた。

 

「貴様、私をヒィヒィ言わせると言っていたな?」

 

 今世の俺は女だけど中身は男のまま。性の対象は前世と変わりなく女だ。野郎なんぞに股を開かせられるなんて、考えただけで吐き気がする。

 

「ヘルファイア」

 

 ゴブリンが何か命乞いしてるけど知らん。もう黙れ。顔も見たくない。

 

 本日4度目、大きな火柱と悲鳴が上がった。ゴブリンは縛り付けた木ごとこの世から消えた。

 

「ん?」

 

 煙の中からフワフワと人魂が出てきた。ゴブリンの魂のようだ。すると、死神(デス)が徐に前に出ると、人魂を鷲掴みにした。

 

「ギャアアァァァッッッ!!!」

 

 強く掴まれ、瓢箪のように変形する人魂の断末魔の叫びを無視して、死神(デス)はもがく人魂を口に放り込む。

 

「ごちそうさん」

 

 咀嚼する度に悲鳴が途切れ途切れになる。そして飲み込むと小さくなっていき、何も聞こえなくなった。

 

「死は救いであるが終わりではない。あんたはここで苦しめ。永遠に、な」

 

 死神(デス)は腹をポンポンと叩きながら言った。

 可愛いから忘れていたけど、死神(デス)は本当にヤバいやつなことを忘れていた。でも──

 

死神(デス)よ。礼を言うぞ。私は今のヴィランを不快に思っていた。そなたのおかげで溜飲が下りた。褒めて遣わそう」

 

 不快感と腹痛の元が消えて少し楽になった。死神(デス)に感謝だ。

 

「へへっ、どういたしまして。さてさて、デザートもまだあるし、仕上げたら後片付けして悪魔城に戻りましょうや」

 

 死神(デス)は死体の山とその上に浮かぶ人魂の群れを指差しながら言った。

 

「ああ。そうだな。これをだれかに見られたらマズい」

 

 幸い、ここには俺たちしかいない。遠くから見られてる気配もない。死神(デス)がデザートにありついてる間、テントに何か重要なものがないか確かめよう。

 

 

 

 ──────────────────────

 

 

 

 調べ物と死神(デス)の食事が終わると、自然公園で死体の山とテントやキャンプファイヤーを全て灰にして、俺たちは悪魔城に向かって飛んでいた。

 

「急ぎましょう、ドラキュリア様。やつらの話だと、他にも仲間がいて山に入っててもおかしくないよ」

 

 俺の横で満足そうに腹をさすりながら飛ぶ死神(デス)が言った。

 

 あの後テントを調べてみると、中には水と食料、ロープ、懐中電灯、寝袋と、最低限のものしかなかった。悪魔城がある山々はそこそこ傾斜もあり、ちゃんとした装備を持たずに登ると危険だ。

 山登りを知らない素人だからか、それとも捜索に大急ぎで駆り出されたからか。後者なら死神(デス)の言う通り、他にも探索隊がいる可能性がある。やつらが情報を共有していたら最悪、オール・フォー・ワンが悪魔城にやってくるだろう。

 

「……悪魔城に戻り次第、令裡は城内にいる全ての魔物たちを城門前に集めよ。死神(デス)は地下牢獄のヴィラン共を全て屠殺し、血を搾り取れ。私はできる限り強力な魔物たちを召喚し、戦力を増強する」

 

「承知致しました。今夜は長い夜になりそうですね」

 

「……ドラキュリア様の御心のままに」

 

 返事をする令裡の表情は固い。死神(デス)も普段の明るさはなく、神妙な表情だ。

 

「それと、もしもの時の「保険」も考えた。私の言う通りに動くのだ」

 

 最悪の事態を防ぐため、予感が当たった時の「保険」について2人に説明する。2人は最初驚いたり「やっぱりか」と納得した顔を見せたけど、最後まで真剣に聞き入り了承した。

 そうこうしてるうちに悪魔城が見えてきた。2人に目を向けると2人は無言で頷き、死神(デス)はその場で縦にクルンと回転してフッと姿を消し、令裡は無数の蝙蝠に変身して悪魔城へ飛んで行った。

 2人と分かれて城門前に降り立つ。城門前にいるファイナルガードたちは召喚時の位置から動いていない。

 

「これは……」

 

 城門前に下り立つと、嗅ぎ慣れない匂いが鼻をついた。あるはずもない匂い。人間の汗の匂いがした。数は3人。全員が男。匂いからして、悪魔城に来たのはざっと15分ほど前だろう。

 嫌な予感が的中したようだ。

 

「はぁ……命令が悪かったか」

 

 城門前の左右に立つファイナルガードたちを交互に見上げた。

 こいつらに「悪意をもって悪魔城に近づく者は殺せ」と命令した。こいつらに俺らのように人間の心の闇を感知する能力も与えたが、反応するのは文字通り「悪意」だけ。悪意がなければ素通りさせる。

 

「「我ら以外だれも通すな」と命令すればよかったのか」

 

 言われた命令以外動かない。まるで融通が利かないロボットだ。

 

「是非もなし」

 

 匂いを辿って悪魔城に入る。真っ直ぐ進んで城の扉を開くと、一面艶やかな大理石の床と入り口から階段まで伸びた赤い絨毯が出迎えた。見上げると天井には巨大シャンデリアが明るく光っている。いつ見ても豪華絢爛なエントランスだ。

 

「マップ・オープン」

 

 声に出すと、フッと目の前に大きな地図が現れた。

 悪魔城がドラキュラの精神世界なら、ドラキュラは内部がどうなっいるのか、侵入者はいるのかわかるんじゃないかと考えて作った魔法だ。自分を含む城内にいる者の位置がわかる上に、好きなところへワープもできる優れ物。奥行きもある分、悪魔城はゲームとは比べ物にならないくらい広大だから便利だ。これで匂いを辿らなくても「客人たち」の居場所がわかる。

 

「ここか」

 

 黒く点滅する部屋、そこは1階の応接間。エントランスから近い場所だ。部屋をタッチすると、部屋の間取りや家具の配置などの詳細が表示された。

 部屋の中には点滅する黒い矢印が3つ動いていた。1つはソファー。残る2つはその向かいにあるテーブルで向かい合って座っている。「客人たち」だ。

 2つの矢印の横をタッチする。

 

「ワープ」

 

 呟いた瞬間、目の前の大きな地図が消えて、エントランスから豪華絢爛な応接間にワープした。そして目の前のテーブルにオレンジレッドのツンツン頭の男と、黒いヘアバンドを付けた薄い水色のちょんまげヘアの男が目を見開き、席を立って後ずさりした。

 

「だれだっ!?」

 

 ツンツン頭が飛び退きながら、SFに出てきそうなデザインの銃をこっちに向けた。なかなか反応が早い。すぐ距離を詰め、銃身を横から叩いて狙いを逸らしデコピン。

 

 バチンッ!!

 

 破裂するような音が応接間に響いた。

 ツンツン頭は勢いよく吹き飛び、ゴロゴロ転がって壁にぶつかった。体をギュウギュウに締めて縮めた上に、力を抑えた優しいデコピンでこれだ。オールマイトや緑谷出久の『ワン・フォー・オール』に及ばずともなかなかの威力だ。

 

「リーダーッ!!」

 

 ちょんまげ頭はテーブルを踏み台にしてジャンプしながら殴りかかってきた。だけど、俺の目にはスローモーションのように遅く見える。

 カウンターにパンチをかわし、腕を伸ばして首を鷲掴みにして床に背中を叩きつけた。

 

「ブルースッ!!」

 

 ツンツン頭が立ち上がって銃をこっちに向けた。吹っ飛ばされて額から血が出てるのに大したやつだ。

 ちょんまげ頭を持ち上げて盾にすると、ほんのわずかにツンツン頭の動きが硬直した。その隙に距離を詰めて首を鷲掴みにして壁に叩きつける。勢いがあまって壁に亀裂が走った。

 

「ぐふッ!!」

 

 ツンツン頭が苦悶の声を漏らした。

 よし。無力化できたぞ。後は……

 

 ガシャン!!

 

 何かが俺の左腕に当たって割れた。足元を見ると、部屋に飾ってあった壺だったものが落ちていた。

 

「2人を、離せ……!」

 

 ソファーに目を向けると、白い髪の男が俺を睨んでいた。

 

「……ああ。やはりそなただったか」

 

 不健康な白い肌と痩せ細った体にそぐわない、力強い光を放つ緑色の瞳の優男。

 始まりの片割れにして、悪の帝王の弟。

 ワン・フォー・オール初代継承者・死柄木与一その人が俺の前にいた。

 




・ドラキュリア
突然現れた謎の敵ムーブをしてるけど内心ドッキドキ。
主人公の力のルーツであり、物語の根幹となる重要キャラたちと会って、「どうしよう」で頭がいっぱい。

死神(デス)
一時的に別行動中。
「保険」について理解し了承したけど、内心では感情的に納得し切れず不満に感じている。

・令裡
一時的に別行動中。
「保険」については死神(デス)と違い不満はないが、うまくいくかどうか内心ドキドキしている。

やっとAFO以外の原作キャラを出せた!
 
最後まで読んでいただきありがとうございました。
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2024年もよろしくお願いします。皆さんよいお年を。
それではまたお会いしましょう。
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