お待たせしました。16話目になります。
拙い駄文ですが、お楽しみいただければ幸いです。
こんばんは。ドラキュリアです。
あの後、駆藤とブルースの返事は保留にし、とりあえず軽めの食事を与えて休ませることにした。疲れがピークの状態じゃ、落ち着いて答えを出せないしな。
「……やはり、嫌な予感が当たったのですね」
会議が始まってすぐに与一たちがこの城に来ていたことを伝えると、令裡は深くため息をついた。令裡もある程度察していたようで驚くことはなかった。
「そして
令裡はちらりと、
「あたいもドラキュリア様に倣って、強く美しい眷属を創ってみたのさ」
「まあ、小町様!褒めても何も出ませんよ」
美しいと褒められて照れるアイリの頭を
アイリは
「改めて自己紹介させていただきます。イノセントデビル、
スカートの端をつまんで優雅にお辞儀を見せるアイリ。生まれてまだ1時間足らずの赤ちゃんと思えないほど上品で、絵になるような立ち振る舞いだ。
「アイリが加わって、悪魔城で知恵ある魔の者が私を含め4人となった。ここにいる全員があの男との決戦に挑めるであろう」
アイリの自己紹介もほどほどに、部屋の空気が引き締まった。
「
話を振ると、
「……悪魔城から東に、中部に向けて大量に放った使い魔たちが得た情報によると、オール・フォー・ワンは拠点がある東京を出て、現在は長野に入ったのがわかりました」
「速いな。もう中部に入ってきたか」
「血眼になって飛び回っているのが目に浮かびますわ」
令裡はフンと鼻を鳴らして頬杖をつく。
「3日前に死柄木与一を誘拐された後、配下を総動員させて捜査線を展開。自らも各地をしらみ潰しに探し回っているようです」
具体的な総数はわからないが、たった3日で京都にまで30人ものヴィランを派遣するあたり、異能解放軍のように数万人規模の大組織を率いているのだろう。それほどの規模になると過半数が民間人、厄介極まりない。
やりたくないけど最悪、まとめて灰にしないといけなくなるだろう。
「魔物の召喚を急がなければ……」
数には数でぶつければどうにかなる。1番の問題はオール・フォー・ワンだ。
「まだあたいらを特定できていないようですが、オール・フォー・ワンがこのまま西に、ここ悪魔城がある京都府まで来るのは時間の問題かと」
俺たちが始末したあのヴィランたちは偵察も兼ねた捜査隊。連絡が途絶えて不審に思い、他の地域にいる隊を派遣される。最悪の場合、あいつが自らやってくるだろう。
「監視の目を増やせるか?」
「もう増やしてまさぁ」
「スケルトン・マウスとスケルトン・クロウ。こいつらを悪魔城を中心に半径20km圏内、及び近畿東部と中部地方に放ちました。こいつらは人口密集地と県境を中心に活動し、強い負の感情と邪な欲望に反応します。発生源となる人間を盗撮・盗聴し、さらに「オール・フォー・ワン」という単語とやつの姿と声を探知した場合には、リアルタイムであたいに情報を送るよう術式を刻んでまさぁ」
めっっっちゃ優秀だな!!
スケルトンだから不眠不休で動き回れるし、小さいから気づかれにくい。これ以上なく優秀なスパイだ。
「今現在、マウスとクロウから集めた情報によると、オール・フォー・ワンの軍団は中部に74。近畿に21。合計95の部隊が侵入・捜索していること。さらに、1部隊につき30〜150人ほどの規模のようです」
「多いな……」
最大1万人を超える捜索隊か。オール・フォー・ワンの本気っぷりがよくわかる。
「令裡よ。城門前に集めた魔物たちの数はどれほどだ?」
「給仕のスケルトン・ボーイと城内の監視役のビーピングアイを除いて、ざっと5000体ほどかと。その内の過半数はアンデッド、リビングアーマー、魔獣になります」
こっちは質も量も劣ってる。悪魔城の魔物たちは一般人なら余裕で殺せるが、動物のように本能のまま暴れたり、機械のようにワンパターンで融通が利かないやつがほとんどだ。冷静に戦える、戦闘向けの“個性”を持った相手だと厳しい。
「京都にやつの手先はどれほどいるか?」
「4組が入ってますねぇ。あたいらが始末した連中からの連絡が途絶えた今、勘づかれるのは時間の問題かと」
ホント、最悪だな。間が悪いにもほどがあるだろ。
「明日、死柄木与一たちからさらに詳しく話を聞き出す。皆の者、今日は早々に休息を取るように。特に
「……やっぱバレてたか」
アイリを創り出した消耗もあって、
「そなたが私のために身を粉にしているのはわかっているつもりだ。だからこそ休め。有事に備えるのだ」
「仰せのままに」
「休めよ?」
「…………はい」
おい。今の間はなんだよ。
こいつはワーカーホリック気味だし、今も頭を中心に魔力の流れが激しく安定していない。文字通り頭を回転させてる状態だ。
「では、各自解散」
パンパンと手を叩くと、令裡は俺に一礼し、その場で蝙蝠に変身して部屋を飛び出した。
「どうかなさいましたか?」
首を傾げるアイリ。うん。可愛いな。
「
「もちろん、そのつもりでごさいます」
アイリは食い気味に答えた。
「そなたからも休むように言え。後で部屋に茶菓子を送る。2人で食べるといい」
「ありがたき幸せ。それでは失礼いたします」
スカートの端をつまんで優雅にお辞儀して、アイリは足早に出て行った。
こうして、食堂に俺1人が残された。
「さて、どうしたものか」
端から言うと、原作の流れに巻き込まれた。
与一は駆藤たちにオール・フォー・ワンの下から連れ出されて2ヶ月後に殺される。俺の原作知識が確かならそうなる運命だ。世界の修正力が動いているのか、「俺たち」というイレギュラーを巻き込んで全てが原作通りの流れに動いているのかも知れない。
だけど────
「原作など知ったことか」
『ワン・フォー・オール』なんてどうなってもいい。俺はもう、緑谷出久やオールマイトを見たいというミーハーな気分になれない。今はどうやって死なないようにするかで頭がいっぱいだ。
「マップ・オープン」
悪魔城のマップを開く。地下牢獄の入り口をタッチしてそこに転移。目の前の景色が薄暗い石造りの牢獄に変わった瞬間、濃厚な血の匂いが鼻についた。
「ああ。うまそうな匂いだ」
甘い匂いに誘われて、鉄格子の通路を歩いていくと拷問室の前に来た。扉を開けると、そこにはドラム缶がズラリと並んでいた。匂いの発生源はこれだ。
蓋を開けると大量の血で満たされている。ただの血じゃない。その中には何十人もの人間の魂が込められている。拷問にかけらた末に殺されて、魂ごと搾り取られたヴィランたちの恐怖、苦痛、絶望の気配に満ち溢れていて何とも禍々しい。
「いい香りだ」
常人なら咽せ返るような悪臭だが、俺には甘く美味しそうな匂いに感じた。
ドラム缶に触れると血の温度を感じた。まるで搾り取った直後のように温かい。ドラム缶に魔力が込められている。
「では、いただこう」
俺のために数百人殺して血を搾り取る大変な作業をした上に、こんな心配りまでしてくれた腹心に頭が上がらない。
感謝を込めて、ドラム缶の縁に唇をつけた。
────────────────────────
よう!あたいは
ドラキュリア様とアイリがコソコソ話すのを盗み聞きしてるよ。2人に気を遣わせちまうとは、我ながら情けないねぇ。
前に令裡から「働きすぎ」と言われて、ドラキュリア様からも「ワーカーホリックだ」と言われたんだけど、あんまり実感がなかったんだよ。でも、言われた後でドラキュリア様と令裡があたいのことをすごく心配してるのが魂の色を見てわかって、本当のことなんだと気づけた。2人には申し訳ないことをしたと思ってる。
それに、アイリもあたいのことを心底心配してるのがわかった。
アイリは分割したあたいの魂で創った分身であり、娘のようなもの。魂の色を見なくても、あたいのことを心配してるのわかる。生まれてまだ1時間しか経ってない赤ん坊に気を遣わせるとか、親として失格もいいところだよ。
人の為と書いて偽りと読む。
自分を蔑ろにするやつは人も蔑ろにする。気づけなかったら、いつか大変なことになっていたかも知れない。あたいは主人公の緑谷出久やオールマイトたちヒーローのような自己犠牲をするつもりなんてなかったけど、無意識の内に「ドラキュリア様たちの為に」とやってたんだな。これからは自分を客観的に見るよう気をつけないといけない。
でも、考えれば考えるほど、「やらなくちゃ」ってなるんだよね。
たまに、悪夢に魘されるんだ。毎回決まって同じ内容で、ドラキュリア様がバラバラにされて燃やされる。あたいは鳥籠のような牢屋に閉じ込められて、それを見ることしかできない。そしてあの男の、オール・フォー・ワンの高笑いが聞こえて目が覚める。
この「小野塚小町」の肉体を顕現してからずーっとこの調子さ。夢が正夢になるんじゃないか不安で不安で、何かしていないと落ち着かなかった。 会議中も話す傍らで、使い魔たちから送られてくる情報をこっそり処理していた。すぐバレたけどね。
部屋に到着。テーブル、椅子2つ、ベットしか置いていないサッパリとした部屋だ。
「座りな」
後ろから付いてきたアイリに促し、あたいも椅子に腰を下ろした。
アイリの可愛いらしい顔を見ながら熱った頭で考える。明日はこの子に仕事や戦う術を教えないといけない。この子は一見10代半ばの少女に見えるが、まだ生まれて間もない赤ん坊。来る日に備えて教えられることは教えないと。
何て考えていると、ドアをノックする音が聞こえた。アイリが「どうぞ」と声をかけると、スケルトン・ボーイがワゴンを押して部屋に入ってきた。ボーイは慣れた手つきでテーブルクロスを広げ、その上にティーセットと2人前のナプキンとスプーンと蓋付きのカップをあたいらの前に並べた。
「こいつは……」
蓋を開けると、中にはバニラ、チョコ、ストロベリーのアイスクリームが3つ。ウエハースのおまけつきだ。
「ドラキュリア様は2つの意味で「頭を冷やせ」と仰りたいのでしょう」
アイリがニコリとあたいに微笑んだ。可愛い。
それにしても、ドラキュリア様は粋な計らいをしてくれるねぇ。
バニラアイスを一口。バニラの香りとミルクの甘味が口の中に広がり、口の中で溶ける前に軽く咀嚼して飲み込むと、知恵熱で熱った頭と体が冷えていくのを感じた。
────────────────────────
「甘〜い」
小町様は美味しそうにアイスクリームを頬張り、笑顔を見せました。なんて素敵な笑顔かしら。
皆様ご機嫌よう。アイリでございます。
食堂を出た後に、ドラキュリア様のご命令通り小町様の見張りに着き、休むよう言うと渋々と聞き入れてくださいました。そして今はスケルトン・ボーイが持ってきてくれたアイスクリームを食べてご満悦。疲れた時には甘い物とはよく言ったものです。
「あー、おいしかった!久しぶりにアイスを食べたけど最高だねぇ」
あっという間にアイスクリームを完食した小町様は、アイスティーが入ったカップを片手にニコニコです。知恵熱も下がり、赤かった顔色も少しずつ普段通りの血色に戻っていくのがわかります。
「ドラキュリア様と令裡様が心配なさってましたよ。無理のしすぎはお体に毒ですよ」
小町様は「あー」と、バツが悪そうに声を出してカップに視線を落としました。
「わかってるさ。ドラキュリア様と令裡が、そしてあんたが心配してくれてるってね。だけどね、思い出すんだよ。あの時のことを」
「……ドラキュリア様がオール・フォー・ワンに殺された時ですか?」
小町様はカップを見下ろしたまま「ああ」と力なく答えられました。
「あの時、あたいは全部、そのまま感じたんだ。ドラキュリア様が感じた苦痛、恐怖、絶望をね。それが今でも忘れられないのさ」
ティーカップをソーサーに置いた小町様の手は微かに震えていました。
お労しや、小町様。感情と理性の板ばさみとなってどうすればいいのかわからず、苦悩しておられるのですね。
小町様が打倒オール・フォー・ワンに身を粉にしておられるのは周知の事実。それだけオール・フォー・ワンへの憎悪が強いのです。それと同時に、ドラキュリア様が命を奪われた時のことがトラウマとなっており、それを払拭したいのでしょう。
けれど、ドラキュリア様と令裡様に心配をかけるような真似はしたくない。不幸から守りたいという思いもある。ままならないものです。
「小町様。このアイリは小町様の分身。その痛み、悲しみはアイリ自身のものでもあるのです」
席を立って震える小町様の手を取り、優しく包む。
「どうか、1人で抱え込まないでくださいまし。アイリはどんな時でも小町様の味方でございます」
すると、小町様は席をお立ちになり、アイリをギュッと抱きしめてくださいました。
「ありがとよ、アイリ」
小町様はアイリをお胸に抱き寄せて、優しく頭を撫でてくださいました。
温かくていい匂い。布越しでもわかる柔らかさと弾力。私の頭よりも大きなお胸は柔らかいだけでなく、私の顔を押し返すほどの弾力もあり、それを抑える腕と挟むように頭を包み込まれて言葉にできないほど幸せでございます。食堂では張りのある肉つきのいい太ももの上に座らせてもらい、このお胸の感触を後頭部から感じましたが、顔からだと感じる安心感と幸福度は段違いです。
顔から感じる心地よい体温と感触。鼻腔をくすぐる汗と石鹸と果物が混ざったような甘酸っぱい匂い。鼓膜に響くトクン、トクンと鳴る心臓の音。このままずっとこうしていたい。このまま眠ってしまいたいくらいです。
「アイリ。あんたは温かくて優しいね。あたい、少し気が楽になったよ」
幸せな時間はあっという間に過ぎるもの。小町様は私を離されました。
「ありがたきお言葉です。けれど、まだ疲れは取れていないでしょう。お体を休めるために、今度はお風呂に入りましょう。アイリがお背中を流します」
「本当かい?あたい、汗もかいちゃったし、お願いしようかねぇ」
ヨシ!言質も取れました。
このアイリ、まだまだ堪能し足りません。触覚、嗅覚、聴覚で小町様を感じました。今度は視覚で小町様を感じましょう。そして最後には「味覚」。目指せ、五感のコンプリート。
「では、浴場に参りましょう」
うれしさのあまりスキップしたくなるのを堪えながら、私は小町様と浴場へ向かうのでした。
令裡「この城でまともなのは私だけかしら?」
夏はあともうすぐで来ます。皆さんもしっかり水分補給をしてお体に気をつけてください。
最後まで読んでいただきありがとうございました。
誤字報告や感想をいただけると励みになります。
それではまたお会いしましょう。