ドラキュラ?いいえ、ドラキュリアです   作:花の右人

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また2ヶ月だらだらしてる間に原作がもう終わってた件。
堀越先生、10年間お疲れ様でした。そしてありがとうごさいました。
映画見に行かなきゃ(使命感)。

大変長らくお待たせしました。18話目になります。
拙い駄文ですが、お楽しみいただければ幸いです。


18. 新たな眷属

 こんばんは。ドラキュリアです。

 現在、与一と揉めています。

 

 何故そうなったのかの前に。

 あの後、マジカルチケット*1で妊婦を連れてスケルトン・マウスたちと悪魔城に帰った。

 

 結論から言うと、妊婦と胎内の赤ん坊たちは何とか助かった。

 ヴィランをモルモットにしてヴァンパイア化の実験を何度かしてきたけど、死にかけの妊婦に血を与えるのは初めてだったからどうなることかと思ったが、うまくいった。妊婦に血を飲ませ、腹に刺さったナイフを抜いて傷口に血を流し込んだ。胎内の赤ん坊たちをヴァンパイア化させて傷を癒やし、血液を羊水に変換して生命維持に成功した。まあその前に、羊水を舐めて成分を分析したんだけどね。治療のためとはいえ、キメェことしてんな俺。

 そして、妊婦と胎児たちはヴァンパイアに、俺の眷属になったってわけ。

 

 妊婦を客室で寝かした後、このことを食堂で死神(デス)と令裡とアイリ、そして与一たちに知らせた。死神(デス)とアイリは感心し、令裡は後輩の眷属が3人もできてよろこんでいた。だけど、与一は思い切り顔をしかめた。

 

「何でそんなことをした?」

 

 急に席を立って──うわぁ顔怖っ。「あり得ない」、「信じられない」と言わんばかりの顔で見てら。

 

「君なら他にもやり方はあったんじゃない──ッ!!」

 

 その先を言おうとした瞬間、与一の首に冷たい刃が当てられた。

 

「は〜い、だまろうか」

 

 与一の後ろに笑顔で大鎌を持った死神(デス)がフッと姿を現した。その目は全く笑っていない。

 

「与一ッ!!」

 

 立ち上がる駆藤とブルース。しかし、駆藤は与一と同じくアイリに大鎌の刃を首に当てられ、ブルースは令裡に腕を背中に曲げられて頭をテーブルに押し付けられる。

 

「マイヒーロー!!ブルース!!」

 

 声を上げる与一の喉に刃が触れる。薄く皮を切ってつーっと血が流れ落ちる。

 

「なあ、お前さん。どうしてドラキュリア様がしたことにケチつけるんだい?ドラキュリア様はお前さんのために、わざわざ医者を連れてきてあげたんだよ?ここは「ありがとう」って言うのが筋ってもんだろう。ええ?」

 

 ニコニコ笑いながら死神(デス)は与一の耳元に語りかける。

 怖え。声音はいつも通りだけど淡々としていて、身に纏っている空気はビックリするくらい冷たい。大声で怒鳴られる方がよっぽどマシだ。

 

「同じだ……」

 

「はい?」

 

 与一がポツリと声を漏らした。

 

「やり方が兄さんと同じなんだよっ!!!」

 

 細い体から想像つかないほど大きな声だった。

 

「人に“異能”を与えて自分の手駒にするなんて、兄さんと変わらないやり方だ!!」

 

 殺される手前だと言うのに、与一は臆することなく俺を睨みつける。

 そう言えば、原作の過去の回想でオール・フォー・ワンは“異能”を求める人間に“異能”を与えて恩を売って手駒にしていたな。あいつと同じと言われるのは癪だけど、紛れもない事実だから否定できない。

 

「他に、他に彼女を救ける方法はあったはずだ!僕に飲ませたあの青い薬のように、君は人を癒す手段を持っているんだろう!?」

 

 俺のこと買ってくれるのはうれしいけど過大評価だ。ポーション以外の回復手段はヴァンパイア化だけ。俺はまだポーションより強力な回復アイテムは作れない。

 

「はぁ〜〜〜〜〜〜〜〜」

 

 突然、クソデカいため息が響いた。令裡だ。

 

「さっきから、ごちゃごちゃうるさいですわね」

 

 令裡はブルースを抑えつける手を緩めず、与一を睨みつける。

 

「ねえ、死柄木さん。ヴァンパイアにする以外に刺された妊婦とおなかの赤ちゃんたちを助ける方法ってあるのかしら?」

 

「それは……」

 

「思いつかないでしょう?あなたがドラキュリア様に飲ませていただいたポーションも万能薬じゃない。現場にいたドラキュリア様は天才的な外科医じゃない。だからヴァンパイアにする以外、親子を助ける方法はなかったのよ」

 

 うん。全くその通りだよ。というか、医者を探してる俺に真っ当な手段で人の命を救えって言うのが間違ってる。俺はブラック・ジャックじゃないし、どうしろって話だよ。

 何も言えずにうつむく与一に令裡はさらに追い討ちをかける。

 

「あなたはオール・フォー・ワンと同じやり方と非難したけど、そういうあなたは現場にいたら妊婦と赤ちゃんたちを助けられるのかしら?無理よね?そんなあなたにドラキュリア様を責める資格はないわ」

 

 令裡の容赦ない言葉責めはまだ終わらない。

 

「そもそも、救いを求めた妊婦と赤ちゃんたちの尊い命が救われたというのに何が気に入らないの?まさか、「人間の生き血を啜るバケモノに変えて救うくらいなら見殺しにしろ」とでも言いたいのかしら?」

 

「違う!そんなこと思ってない!!」

 

「本当かしら?あなたは自分が──「もういい」えっ?」

 

 遮った俺を令裡はキョトンとした顔で見た。思ったことや言いたいことを代わりに言ってくれたからもういいよ。

 

「3人を解放してやれ」

 

「……いいんですかい?」

 

「構わん。これ以上、手荒な真似はするな」

 

 死神(デス)の手から大鎌がフッと消えた。死神(デス)はアイリと令裡に「もういいよ」と声をかけると、アイリは主人のように大鎌を消し、令裡はブルースを乱暴に突き飛ばして解放した。

 与一の前に歩み寄り、膝をついて顔を合わせる。

 

「傷を見せろ」

 

 与一は嫌そうな顔をするが、頭に手を置いて「見せろ」と言うと渋々上を向いて首を見せる。紙や葉っぱで切ったような細い傷だ。痛そうだけど、ポーション使うほどの傷でもないな。

 与一の脇に手を入れて持ち上げ、首に顔を近づけて傷口をペロリ。わぁ、血の味薄っ。水で薄めすぎたカルピスみたいだ。

 

「「与一ッ!!」」

 

「大人しくしなさい!」

 

「動かないでください」

 

 ヴァンパイアらしく首からガブリと噛まれると思ったのか、また与一を助けようと動いた駆藤とブルース。しかし、令裡とアイリに捕まって動きを封じられた。

 

「案ずるな。ヴァンパイアの唾液には止血・鎮痛作用がある。令裡とアイリよ。2人を放してやれ」

 

 2度目になると令裡は倒れるくらい強くブルースを突き飛ばし、アイリも表情は変わらずとも内心ではイラついたのか、大鎌を消すと肩パンで駆藤を前に押した。

 

「うぅっ……」

 

 一方、床に下ろした与一は顔を引きつらせている。嫌がらずよろこべよ。美女に舐められるとかご褒美だぞ。

 

 前にダレン・シャンのようにヴァンパイアの唾液に止血の効能があるか、拷問を受けたヴィランの傷に塗って確かめてみた結果、血が止まるどころかあっという間に傷口が塞がった。下手すりゃポーションより回復力があるかも。

 その証拠に唾をマントで拭くと、もう傷は塞がってる。鏡を出して見せると、与一は目を見開いて驚いた。

 

「死柄木与一。私にそなたが思うような力はない。令裡の言う通りどんな傷も治す万能薬もなければ、医術の心得もない。たった今そなたの傷を癒した唾液でも、あの妊婦と胎児たちは救えぬ状況であった」

 

 唾に風前の灯のような命を救うほどの力はない。ていうか、傷口に唾を垂らすとか絵面が酷すぎる。

 

「……彼女とおなかの子供たちは元に戻せないのか?」

 

「戻せぬ。そなたの兄なら奪うことで戻せるかも知れぬが、悪用されてはかなわん」

 

 あいつがどうして俺から『魔王ドラキュラ』を奪わなかったのかまだわからない。あいつ以外の手段なら、先の未来で生まれてくる壊理の『巻き戻し』なら、元に戻せるかも知れないな。

 

「諦めよ。そなたにあの母子を元に戻せぬ。死柄木与一。そなたに1つ教えておこう」

 

 これだけは覚えておけ。

 

「力が唯一の正義だ」

 

 ドラキュラが作中で何度も語ったシンプルな思想だ。

 

「力なき者に己の矜持、信念、理想を貫くことは叶わぬ。“異能”という力が物を言うこの時代ならなおのことだ」

 

 指をパチンと鳴らすと、目の前に1本の長剣が現れる。刃渡りが1m以上ある真っ直ぐな刀身の西洋剣、バスタードソードだ。

 

「抜け」

 

 柄を与一に向けて差し出す。与一は恐る恐る柄を掴んで引き抜くと、その重さに前のめりによろめく。剣の重さは3kg近くある。

 

「振ってみろ」

 

 与一は剣を振り上げて上段に構える。剣の重さにフラフラ。非力な虚弱体質な上に武器に触れたことのない素人だから当然だ。

 

「やあっ!──って、うっ!」

 

 剣を振り下ろすと、剣の重さと勢いに引かれて前のめりにたたらを踏んだ。転びそうになった与一の体を支える。

 

「ドラキュリア……」

 

 肩をつかんだ俺を見上げる与一の顔は酷く歪んでいた。

 焦燥感からくる怒り。無力感からくる嘆き。魂を見なくてもハッキリ伝わる表情だ。

 

「死柄木与一よ、そなたは無力だ。“異能”を用いて戦うどころか、武器を満足に振るうことすら叶わぬ体たらくでは他者を救うことはおろか、己の命を守ることすらできぬ」

 

 与一の手から剣を取り上げて鞘に納める。

 ストレートにキツいこと言ってる自覚はある。だけど、与一を長生きさせるためにも今ハッキリ言った方がいい。

 

「忘れるな。混沌に満ちたこの世界は力が全て。力なき者は理不尽と不条理に為す術もなく蹂躙されるのみ」

 

 ソースは転生してすぐ殺されてる俺。

 どんなに信念があっても力なき正義は自分すら救えないんだよ、与一。

 

 落ち込んでうなだれた与一から駆藤とブルースたちの方を向くと、2人はわずかに体を強張らせた。

 

「我が血を受け入れて眷属になるかどうか、早く答えを出すことだ。明日の日没までに決めろ」

 

 お前らも焦った方がいいよ。本気であいつを殺したいならな。

 

「さて、死神(デス)、令裡、アイリ、私について参れ。新たな眷属たちの容体を見に行くぞ」

 

「「「はい、ドラキュリア様」」」

 

 3人は声を揃えて返事する。ここで話を終わらせて妊婦を見に行くのはちょっとした方便だ。早いとこ、こいつらをこの3人から離さないとマズい。3度目には駆藤の首とブルースの腕が床に転がることになる。

 

 ドアを潜りながらちらっと与一の魂を見ると、いい感じで黒くなっていくのが見えた。

 よしよし、効いてるな。とりあえず、ジャブはこんなものでいいか。後は様子を見ながらさらに打ち込んでいこう。

 

 何て思っている間に、俺たちと与一たちを遮るようにひとりでにドアがバタンと閉まった。

 

 

 ────────────────────────

 

 

 

「与一。大丈夫か?」

 

 マイヒーローは心配そうに声をかけてくれた。ブルースも心配そうに僕を見てる。ついさっきまで首を斬られて、腕を折られる寸前だったと言うのに自分たちのことより僕に気を遣ってくれる彼らの優しさにうれしく思った。だけどそれ以上に、申し訳ない気持ちで胸がいっぱいだった。

 

「ごめんよ、マイヒーロー。ブルース。僕が余計なことを言って彼女たちを怒らせたせいであんな目に遭わせてしまった。本当にごめん」

 

 頭を深く下げて2人に謝る。

 

「謝るなよ。お前の怒りと言い分は正しい」

 

 ブルースはそう言って僕の肩にポンと手を置いてくれた。ドラキュリアの冷たい手と違い、人間らしい温もりが伝わる。

 

「与一の言い分も正しいが、あの女の言い分も正しい」

 

 マイヒーローの言葉にブルースは何か言おうとしたが、口を噤む。

 

「そろそろ腹を括る必要がある」

 

「リーダー!あの女の手先になるのか!?」

 

「今の俺たちはドラキュリアの気まぐれか、あるいは何らかの思惑で生かされている。やつの答えに「NO」と返せば終わりだ」

 

 一拍置いて、マイヒーローは続ける。

 

「最悪の場合、俺たち3人だけじゃ腹の虫がおさまらず、京都に集まりつつある仲間たちまでやつの餌食になる。やつは人の心を覗き込めるからな」

 

「ドラキュリアは僕に人の記憶を読めるって教えてくれた……!」

 

 体を拭いてもらった時に、ドラキュリアはそう言っていた。

 マイヒーローはイスに腰を下ろすと、テーブルをドンと叩いた。

 

「もう仲間たちの居場所を知られていてもおかしくない。完全な「詰み」だ」

 

 マイヒーローは頭を抱えてうめいた。

 

「……一か八かでこの城から逃げ出すか?」

 

「無理に決まってるだろう。あれを見ろ」

 

 マイヒーローはブルースの提案をバッサリ切り捨てると、窓を指差した。

 窓の外に大きな目玉が浮いていた。大人の頭より2回り以上大きな目玉だ。長さは2m以上、人間の胴より太い蠍の尻尾をぶら下げた風船のようなシルエットの怪物がじっと僕たちを見つめていた。

 

「この城の監視者、ピーピングアイ。あいつが城の中と外にうじゃうじゃいて脱出は不可能だと、あのアイリというメイドが言っていた」

 

 吐き捨てるように説明すると、マイヒーローは窓に歩み寄ってカーテンを乱暴に閉めた。

 

「俺たちはやつの眷属に、バケモノになる以外に生きる道はない」

 

 マイヒーローは背中を向けたまま、肩を震わせてカーテンを強く握りしめている。ブルースもどう声をかけていいかわからず、うなだれてしまった。

 

 全部、僕のせいだ。

 あの時、差し伸べてくれた手を取るべきじゃなかったんだ。僕は兄さんを相手に戦おうとする勇気ある2人のヒーローたちの重荷になった挙句、ドラキュリアの話をしたからこんなピンチに追い込んでしまった。

 

 全部、僕が弱いせいだ。

 

「……おい!与一!!」

 

 後ろから僕を呼ぶ声が聞こえた。

 気がつくと、僕は部屋を飛び出して走っていた。

 

「ドラキュリアッ!!!」

 

 まだ遠く離れてなかったから、ドラキュリアたちはすぐに見つかった。いっしょの3人が振り返っていぶかしむように僕を見るけど、今はドラキュリアに用がある。

 

「……何の用だ?」

 

 ドラキュリアは背を向けたまま僕に問いかける。

 胸の痛みを堪えながら息を整えて、その背中を真っ直ぐ見つめながら声を上げた。

 

「マイヒーローとブルースをヴァンパイアにしないで欲しい」

 

 3人は「何を言ってるんだおまえは」と言いたそうな顔で僕を見ている。だけど、僕は至って真剣だ。

 

「…………ダメだ。あの2人は我が眷属に加える」

 

 少し間を置いて背を向けたままドラキュリアは答える。やっぱり、最初から僕たちをヴァンパイアに変えるつもりだったのか。

 

「なら、僕が2人の代わりにヴァンパイアになる!!」

 

 自分でも驚くほど大きな声が出た。少し喉が痛いくらいだ。

 

「兄さんと戦うのに必要な戦力が欲しいなら、僕がヴァンパイアになる!2人の分も────」

 

「いい加減になさい」

 

 令裡の声に遮られたと思った次の瞬間、彼女は僕の目の前に現れた。

 

「どこまで人をバカにすれば気が済むの?そんな虫のいい話を受け入れると本気で思っているのかしら?」

 

 令裡は目を赤く光らせながら、鋭い牙を剥き出しにして僕の胸に人差し指をトンと突き立てた。

 

「ぐぅ……っ!」

 

 強く殴られたような衝撃に思わず声を漏らして後ずさる。1本の細い指から想像つかない力だ。さらに追い討ちをかけようと彼女は手を伸ばしてきた。

 

 

「令裡。そこまでにしろ」

 

 

 それは低い声だった。その声に令裡は一瞬体を震わせて止まった。たった一言でその場の温度がぐんと下がった。決して気のせいじゃない。

 冷たいのに嫌な汗が流れる。息ができない。得体の知れない「何か」が体に纏わりついてくるような悍ましい気配だ。兄さんとは違うプレッシャーに僕は動けなかった。

 そんな空気の中で令裡は忌々しそうに僕を睨みつけて、渋々とドラキュリアたちの下へと戻っていった。すると、悍ましい気配はスーッと消えていく。体に纏わりつくような気配が消えて体が軽くなると、耐えきれなくなってその場に膝をついて咳き込みながら息を吸った。

 

「死柄木与一。そなたから微かに希望の匂いがする」

 

 上からドラキュリアの声が降ってきた。目を開けると、僕の何倍もある大きな黒いブーツが見える。ドラキュリアがいつの間にか僕の前に立って見下ろしていた。

 

「その様子だと、「考えるより先に体が動いていた」と言ったところか」

 

 ドラキュリアは僕の脇の下に手を入れて持ち上げ、視線を合わせる。小さな子供みたいな扱いに文句を言いたいけど、今はそんなこと言ってる場合じゃない。

 

「己が犠牲になれば2人は救けられると考えているようだが、そなたはヴァンパイアになる覚悟があるのか?」

 

 ドラキュリアは底が見えない真っ赤な瞳で僕をじっと見つめながら、どこか真剣な声音で問いかけた。

 

 ドラキュリアは僕を下ろすと、グラスを1つ音もなく出した。普通サイズのグラスだけど彼女の大きな手と比べると、ペットボトルの蓋くらい小さく見える。すると、いきなり自分の指先を爪で切り、流れ出す血をグラスに注いだ。

 

「飲め」

 

 僕にグラスを差し出してきた。

 グラスに注がれた血は黒かった。ドラキュリアの白い肌と正反対な、墨汁よりも黒い血に思わず唾を飲み込んだ。

 

「なぜ希望を求めてここへ来たのだ?」

 

 ドラキュリアがまた問いかけた。その声はまるで木霊のように反響して聞こえてくるようだ。

 

「兄を止めたかったのであろう?」

 

 そうだ。僕はずっと、兄さんを止めたかった。でも、僕は無力で何もできなかった。声を上げても兄さんは止まらない。兄さんの下へ行こうとする人たちも止まらなかった。

 

「力なき者の言葉にだれも耳を貸さぬ。そう思わぬか?」

 

 僕は言葉だけでもどうにか人を救けたかった。だけど、だれも僕の声に耳を貸してくれなかった。それは僕が何もできないくらい弱かったからだ。

 

「善悪問わず、成し遂げられる力があって初めてその者の言葉に他者は耳を傾ける。そなたにそれほどの力はなかろう?」

 

 グラスを見ると光の反射で僕の顔が映る。 コミックで見たヒーローのような覇気がまるでない。こんな顔の僕が「君を救ける」と言っても説得力がない。

 

 

「力なき正義は己すら救えぬ。それとも、弱い今のままでいいのか?」

 

 いいわけない。なんのためにマイヒーローとブルースにドラキュリアのことを話したんだ。僅かでも可能性があるならそれに懸けたいと思ったからじゃないか。

 

「力が欲しいか?」

 

 欲しい。だけど、これを飲んだら後戻りできない。人間の生き血を啜る怪物に成り果てる。

 

 

 

「そなたはヒーローになれる」

 

 

 

 黒い水面が揺れる。もう息がかかるほど目の前だ。

 

 

 

 ────────────────────────

 

 

 

「与一ッ!!どこに行った!?」

 

 ブルースと廊下を走る。視界の端、窓の外で大きな目玉がこっちを見ながら追いかけてくるが今はどうでもいい。

 

 部屋を飛び出す前、与一は深く思いつめた顔をしていた。ドラキュリアにこれでもかと自分の弱さを指摘されたからだ。

 

「ろくでもない、最悪な女だ!!」

 

 俺の考えが顔に出ていたのか、ブルースが代弁して吐き捨てる。全くその通りだ。だが、悪いのは俺もだ。

 そもそもあの時、ドラキュリアの言い分も正しいと口にしてしまったのが間違いだった。正論をぶつけられていい気になれないのは俺とて同じだ。与一は自分の弱さを内心で自覚していたのに無神経がすぎた。

 

 与一はこの城に来て体調が良くなった時から、俺たちに負い目を感じているのは顔を見ればわかった。 「こんなことになるなら、ドラキュリアのことを言わなければよかった」と。

 

「「口は災の元」とはよく言ったものだ」

 

 つくづく自分に嫌気を感じた時だ、廊下の気温が一気に下がった。

 

「リーダー、これは……」

 

「ああ。ドラキュリアと与一は近い」

 

 ドラキュリアと対面した時に感じた気配だ。より重くなって息苦しいくらいだ。

 

「与一……!!」

 

 纏わりつくような空気を振り払うように走り出す。猛烈に嫌な予感がする。足を止まらな。走れ。

 

 

 

「そなたはヒーローになれる」

 

 

 

 角を曲がろうとしたその時、人間とは思えない悍ましい声が聞こえた。鼓膜ではなく頭に直接響くような声だった。思わず足が止まりそうになったが、角を曲がるとそこにはドラキュリアたちがいた。

 

 そして、ドラキュリアたちが見つめる先には、黒い液体が入ったグラスを口につけて傾ける与一の姿があった。

 

*1
悪魔城ドラキュラに登場する、セーブ地点やショップにワープできるアイテム。ドラキュリア製のチケットは、どこにいても悪魔城の行きたい場所をイメージしながら切り取り線をちぎればそこにワープできる。さらに、盗難・悪用防止で悪魔城の住人以外は使えないようになってる優れもの。




・ドラキュリア

一時はどうなるかと思ったけど、医者で親子3人の眷属をゲットして内心ウハウハ。出産まで働かせるつもりはなく、ストレスフリーで過ごさせる予定のホワイト魔王。
いい気分だったのに与一に非難され、テンションが下がってもういろいろと面倒くさくなって、「力が欲しいか?」作戦に移った。オール・フォー・ワンのように無理矢理は嫌なので、自分の意思で求めてくるよう語りかける。
傍から見たら悪魔の誘惑にしか見えないけど、「ヒーローになりたい?それならTSダークヒーローにしてやんよ」な親切心もある。

・与一

力への渇望心を刺激され、狂気的な正義感と自己犠牲精神につけ込まれて、ヴァンパイアになったらどうなるかまで「考えるより先に体が動いた」本物のヒーロー。
ちなみに、ヴァンパイアになると完全に自由は失われて、「ドラキュリアの物」になる。

最後まで読んでいただきありがとうございました。
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それではまたお会いしましょう。
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