ドラキュラ?いいえ、ドラキュリアです   作:花の右人

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お待たせしました。1話目になります。
お楽しみ頂ければ幸いです。


1. 最初のエンカウントに魔王

 こんばんは。いや、今の時間はおはようだな。ドラキュリアです。

 

 ただ今、日光に当たって身体が燃えて死にかけています。

 

 今から遡ることどれくらい前か。悪魔城に戻ると、玉座の間の玉座にオール・フォーワンがちょこんと座っていたところからだ。

 

 オール・フォー・ワン。

 ヒロアカこと、僕のヒーローアカデミアのラスボスだ。「巨悪」や「悪の帝王」の異名を持ち、“個性”を奪ったり与えたりでき、自由に組み合わせて使うこともできるチートな“個性”の持ち主だ。

 人様の命を弄んで、尊厳を踏み躙ることに悦楽を見出す大悪党。それが今、俺の目の前にいる。

 

 窓を潜り抜けた瞬間、全身にズシッとのしかかってきたこのプレッシャー。大人の俺でも胸がムカムカして気分が悪くなるくらい重いのに、ヒロアカの主人公・緑谷出久とクラスメイトたちはまだ子供だと言うのによくに耐えたもんだ。

 

 とにかく、このままダンマリはよくない。

 真っ直ぐ相手を見据え、堂々と名乗る。

 

「我が名はドラキュリア。吸血鬼にして、混沌より生まれし魔王である」

 

 あれ?何か口調がおかしいぞ?「わたしはドラキュリアと言います」って、普通に自己紹介しようとしたのにな。オール・フォー・ワンを前にして自分でも気づかないうちに、ガチガチに緊張していたのかな?ドラキュラみたいな喋り方しちゃった。

 

 ちなみに、ドラキュリアというのは今世の俺の名前だ。ドラキュラと北欧神話の戦乙女・ヴァルキュリアを合体させたものだ。

 ヴァルキュリアは戦場で命を落とす戦士のお迎えもする性質から、死神の側面もある。ドラキュラと言えば死神。女性の死神と言えばヴァルキュリアと、ちょっとした連想ゲームから出てきたものだ。

 

 俺はドラキュラそっくりな外見で、ドラキュラの力を“個性”として持っているけど、ドラキュラ本人じゃない。中身も性別も違う別人だ。それなのに本人と同じ名前を名乗るのはなんか、おかしいと思っている。

 例えば、憧れのアイドルがいたとして、その人そっくりな顔や声や体型に整形するかと聞かれたらする?俺だったらしない。服装や髪型を真似することはあっても全く同じ存在になろうと思わない。それと同じ理屈だ。

 改めて言うが、俺は吸血鬼キャラが好きだ。だけど、何もかも同じになろうとは思わないし、なれるとも思っていない。俺は俺。キャラはキャラだ。

 

 閑話休題。

 

「……「魔王」か」

 

 オール・フォー・ワンは俺の自己紹介に、何か考え込むと笑みを深めた。

 

「生意気だね」

 

 やべっ。これは勘にさわったやつだ。

 オール・フォー・ワンは、子供の頃に読んだコミックの魔王のようになりたいという願望を持っている。そんな自分を差し置いて魔王と名乗る俺に腹を立てたんだ。「笑顔は攻撃的なもの」だっけ?よく言ったもんだ。さっきより口角が上がってて怖ぇ。

 

「だけど、おもしろい」

 

 あれ?許された?

 

「君が何者か僕にはわからない。だけど、君のその姿と立ち振る舞い。そしてこの豪勢な城。魔王を名乗りたくなる気持ちはわかる」

 

 オール・フォー・ワンはどこか感心したように頷いた。

 これは、シンパシーを持たれたのか?自分と同じ憧れを持つ人間と思われたのか?

 

「そこでだ。僕と共に来るつもりはないかな?」

 

 オール・フォー・ワンは人差し指をピンと立てた。

 

「僕はこの荒れ狂う世の中の秩序となろうと思っている。そのためには1人でも多くの同士が必要だ。僕と共に来るのであれば君に力を授けよう。どうかな?」

 

 両手を軽く広げて芝居がかった動きでオール・フォー・ワンは俺に問いかけた。整った容姿と力強く渋い声にそのオーラが合わさって、絵になる立ち振る舞いだ。

 

 ……こいつ、まるで息をするようにウソをつくな。前世の俺だったらこいつの話術とカリスマにコロリと騙されるところだけど、今の俺はドラキュラの力を持ったドラキュリアだ。人間の負の感情や邪な欲望をエネルギーに変える性質上、ウソや誤魔化しは通用しない。

 こいつからは「どうやって遊ぼうか」とか、子供のような感性が入り混じった邪な欲望を感じる。

 

 こいつは自分以外だれも信用していない。同士?奴隷の間違いだろう。先の未来でおまえがレディ・ナガンにしたことは知ってるぞ。都合よく利用するだけ利用して最後は処分するのは目に見えている。

 

 そう考えたら何か、イライラしてきた。

 人の家に勝手に上がり込み、人様の椅子に勝手に座って寛ぎ、帰宅した家主を見下ろしながら「俺の奴隷になれ」とか、一体何様のつもりだ?

 

「断る。貴様の下に付く気などない」

 

 俺はオール・フォー・ワンに歩み寄る。階段を上がってその前に立った。

 

「話は終わりだ。今すぐ、この城から出ていけ」

 

 圧を込めて見下ろし、窓を指差す。

 こいつが大人しく引き下がるとは思えない。だけど、こいつの下に付けば未来はない。

 

「……もう1度聞くよ。僕の同士になるつもりはないかな?」

 

 俺の顔を見上げるその顔は、笑みを浮かべたままだ。こいつ、ナメているのか?イライラが増してきた。

 

「くどい。わたしは出ていけと言っている。力づくで出されたいか?」

 

 オール・フォー・ワンの腕を掴んだ。想像より丈夫だ。常人よりも遥かに太く逞ましいこいつの腕も俺の手の前だと幼い子供のように細く、このまま親指でグッと押したら簡単にへし折れそうだ。しかし、こいつは「悪の帝王」。お互いにハンデがある状態でも、オールマイトの最後のSMASHを顔面に受けても死なないどころか、歯が折れなかった男。この時から防御力も常識はずれのようだ。

 

 オール・フォー・ワンは腕を掴まれても玉座から立たず、笑みを崩さない。それどころか、やれやれと困ったような仕草を見せる。

 

「そうか。それなら仕方ない」

 

 ゆっくりと目を開けた。

 

「──残念だ」

 

 赤い瞳がギラリと光った。

 

 気づけば俺は、玉座の間の中心まで飛び退いていた。

 本能で感じる危機感なのかよくわからない。だけど、あのまま手を放さなかったらヤバかった。

 

「速いね。流石のスピードだ」

 

 オール・フォー・ワンは掴まれていた腕を摩りながら玉座から下りた。

 このウソつきめ。俺の動きを目で追いかけていたくせによく言うな。

 

「君が僕の同士にならないなら仕方ない。代わりに、君の“異能”を頂くとしよう」

 

 オール・フォー・ワンは先ほどまでとは比べ物にならないほどの威圧感を放った。

 

 俺はオール・フォー・ワンと戦った。結果はボロ負けだ。そしてわかったことが2つ。

 “異能”というワードから、現在は原作開始時より遥か昔の超常黎明期であることと、神野の戦いで使った“個性”を使って来なかったから、おそらくまだ全盛期じゃないこの時からオール・フォー・ワンは、「悪の帝王」を名乗るのに相応わしいほどのスーパーヴィランだったことがわかった。釣り合わねぇ。

 当然、対する俺に勝ち目はなかった。ドラキュラの力でも、使ってるのが俺だから宝の持ち腐れ。こちとら前世で喧嘩は1回しかしたことないし、運動なんてろくにできなかった貧弱白モヤシだ。腰が入ってない力任せの攻撃は服を破くだけで精いっぱいで、身体に傷1つ付けらなかった。

 

 え?オール・フォー・ワンを相手にどうやって瞬殺されなかったのかって?

 それはこのドラキュラボディのおかげだよ。

 吸血鬼が高い再生能力を持っているのはよくある話で、この身体にも備わっていた。でも、痛いものは痛い。身体を穴だらけにされたり切り刻まれたり、もう散々だ。

 前世で階段を転げ落ちた時、全身の骨がグシャグシャになって、息ができないほど内臓を傷つけ、目にサングラスの破片が刺さって潰れた。それとは比べ物にならないくらい、身体の一部を失う激痛と喪失感はひどかった。

 何度も何度も普通の人間なら即死するような攻撃を受け続け、最後はバラバラにされた。

 首だけの状態でも動くことができたけど無駄な抵抗に終わって、頭を掴まれて気を失った。そして気づけば悪魔城のどこかの屋根の上を転がっていて、空に日が昇るところだった。

 生首の状態じゃろくに逃げることもできず、そのまま身体が燃え出した。そして冒頭に至ると言うわけだ。

 

 チクショウ、転生してすぐに魔王とエンカウントなんておかしいだろ。せっかく吸血鬼に転生したのにもう終わりだなんて嫌だ。ああ、死にたくない。

 

「……リア」

 

 ん?今だれかの声が聞こえた?オール・フォー・ワンの渋い声じゃない。女か子供の高い声だ。

 幻聴か?それとも、前世と違ってお迎えの死神がやってきたのか?ドラキュラの腹心の死神のような骸骨だったら嫌だな。

 もう、目も見えない。だけど、2度目の最期なんだからせめて、可愛いツインテールの巨乳の女の子がお迎えだったらいいのにな。

 

 そんなバカなことを考えたのを最後に、俺の意識は暗闇に落ちた。

 

 

 

 ──────────────────────────

 

 

 

「生意気だね」

 

 混沌の魔王?僕を差し置いて魔王だと?

 顔には出さない。それでも、このドラキュリアと名乗る女に僕は腹が立った。でも、その怒りはすぐに鎮まった。

 ドラキュリアは笑みを深める僕を真っ直ぐ見つめている。僕を前にしても、その顔に恐怖や絶望はない。人形のように整った白い顔は能面のように無表情で、ガラス玉のような目は、僕より真っ赤な瞳には感情らしきものは見えない。

 この女はウソを付いていない。それだけはわかる。直感というやつなのか、何の確証もないことなのに何故かそんな気がしてならない。

 ドラキュリアには、自分を魔王と言い張るだけの力を秘めているのかも知れない。

 

 僕を差し置いて魔王を名乗るのは生意気だ。

 

「だけど、おもしろい」

 

 この女が欲しい。

 この女を手に入れれば、僕が「魔王」になる日はそう遠くない。そう思える気がしてならない。

 

「君が何者か僕にはわからない。だけど、君のその姿と立ち振る舞い。そしてこの大きな城。魔王を名乗りたくなる気持ちはわかる」

 

 ここでスカウトの提案を出す。

 

「僕はこの荒れ狂う世の中の秩序となろうと思っている。そのためには1人でも多くの同士が必要だ。僕と共に来るのであれば君に力を授けよう。どうかな?」

 

 ウソと本音を交えて語った。さあ。食いつくかな?

 

「断る。貴様の下に付く気などない」

 

 ……まあ、予想通りだ。そう簡単にいくなんて思っていない。

 ドラキュリアは僕の目の前に立った。この距離で見ると、とんでもない迫力だよ。

 窓を指差して出ていくように言ってくるが、言う通りにするつもりはないぜ。

 すると、右腕を掴んできた。顔は無表情だけど、内心では痺れを──ッ!!

 

(……なんて怪力だ)

 

 ほんの一瞬だ。腕からミシッと嫌な音が耳にした。

 

「硬皮」+「筋肉金属化」+「鋼鉄骨」

 

 とっさに、防御に特化した“異能”を使ってこれだ。一瞬遅れていたら握り潰されていただろう。

 僕はこれまで何度か怪力の“異能”を持った人間と戦ったことがある。10トンの大型車両を軽々と持ち上げたり、鉄骨を針金のように曲げたりするような連中だ。それも、この女の前だと赤子同然に思える。

 女でもこの巨体だから当然、それ相応のパワーがあると思っていたが想像以上だ。

 これは認識を改めなければいけない。スカウトは諦めよう。

 

「──残念だ」

 

 戦闘体制に入った瞬間、その巨体は弾かれたように飛び退いた。そしてマントを靡かせながらフワリと玉座の間の中心に下り立つ。

 

「速いね。流石のスピードだ」

 

 僕が殺気を出すや否や瞬時にバックステップを取った。まるで野生動物のような直感と反射神経だ。そのスピードと軽やかさは、目測だと軽くても600kgは下らない質量がありそうな巨体からは想像できないくらいだ。

 

「君が僕の同士にならないなら仕方ない。それなら、君の“異能”を頂くとしよう」

 

 魔王を名乗るのに相応わしいか否か。さあ、君の力を見せてくれ。

 

 後の「悪の帝王」と「混沌の魔王」の戦いが始まった。

 先に動き出したのはドラキュリアからだ。先ほどのバックステップ以上の速さで距離を詰め、鋭い爪が伸びた貫手をオール・フォー・ワンの首目がけて突き出した。大人の頭を小さいボールを握るように包み込めるほど大きな手から繰り出される貫手だ。直撃すれば、オール・フォー・ワンの頭は宙に舞うだろう。

 

「障壁」+「拡大」+「棘」+「伸縮」

 

 オール・フォー・ワンの前面に半透明な壁が現れた。壁は瞬く間に大きくなり、壁と天井に届いて玉座の間を2分するように遮断した。さらに全体に棘を生やすように変形。放たれた矢のような速さで伸びた棘がドラキュリアの身体を貫いた。

 7本の棘が胸や腹に突き刺さって減速。貫手は障壁を軽く小突き、ドラキュリアの身体は止まった。

 

「知っているかな?ドラキュラのモデルになったヴラド・ツェペシュ公は歯向かう者を串刺しにしたとされる。皮肉なものだね。ドラキュラをモチーフにした君が串刺しになるなんてな」

 

 死ぬ前に頭に触れて奪おうと、“異能”を解除しようとした。

 

「それがどうした?」

 

 ドラキュリアは何もなかったかのように顔を上げ、抑揚のない声で問いかけた。致命傷であるにも関わらず、その顔は苦痛に歪んでいない。無表情だった。

 

「……君には痛覚がないのかな?」

 

 全身を貫かれて致命傷を負い、口から血を流していても平然としているその姿に、流石のオール・フォー・ワンも苦笑した。

 返事をせず、ドラキュリアの身体は蝙蝠の大群へ変わり、赤く光りながら天井へ向かって飛ぶと空気に溶けるように消えていった。

 

「ッ!!」

 

 背後から赤い光と大きな黒い影が差した。

 “異能”の壁を解除して振り返ると、視界を覆い尽くすほどの蝙蝠の大群が津波のように押し寄せてきた。

 

「硬皮」+「筋肉金属化」+「鋼鉄骨」+「剛脚」+「重量倍増」!!

 

「障壁」は間に合わない。肉体を硬化させる“異能”を使い、腕を上げて顔をガードして衝撃に備える。

 蝙蝠の群れに呑み込まれた。無数の蝙蝠が豪雨のようにオール・フォー・ワンの身体を打ちつける。ガンガンと金属を叩くような凄まじい轟音が響き渡る。

 

「なんて、威力だよ……!」

 

 まるで全身を人の手でバシバシ叩かれるような感触だ。ダメージはないが、痛いものは痛い。

 ガードの隙間を覗くと、蝙蝠の大群が通り過ぎて視界が晴れた。追撃に備えてすぐさま振り返る。

 背後にあったのは見るも無惨な大理石の列柱。樹齢数百年の大木のように太く、高くそびえ立っていた巨大な円柱は蝗害が過ぎた後の木々のようにボロボロに削られていた。

 

 突然、すぐ手前の柱が大きく揺れて後ろに傾いたと思ったら横にスライドした。根本から2本の白い足がはみ出ているのが見える。削れても何10トンあるのかわからない巨大な柱が、恐ろしい速さでオール・フォー・ワンの頭に振り下ろされた。

 

「硬皮」+「筋肉金属化」+「鋼鉄骨」+「大腕」!!

 

 全身を隠せるほど巨大化した腕を頭上でクロスさせる。それでも巨大な一撃は凄まじく、防御に上げた腕が頭を打つほどだった。

 

「……つぅっ」

 

 砕けた大理石の破片が降り注ぐ中、オール・フォー・ワンは僅かに声を漏らした。

 数十トンの重量に数百kmのスイングスピードが乗った一撃は防御を固めたオール・フォー・ワンの腕を痺れさせ、目に火花を散らせるには十分な破壊力であった。

 今度は半ば砕けて短くなった柱が飛んできた。巨大化した左腕で弾き上げると、その後ろから弓を引くように貫手を引いたドラキュリアの姿が迫っていた。

 

「甘いよ」

 

 貫手を頭を横に僅かに傾けて躱す。

 投げた柱に追従し、柱で視界を封じた隙に防御・回避された時の追撃を加える。しかし、オール・フォー・ワンは感知系の“異能”でその作戦を読んでいた。

 

「フンッ!」

 

 貫手を躱すと同時にドラキュリアのこめかみに右フックを叩き込む。クロスカウンターだ。グシャリと頭蓋骨が砕ける音がして、ドラキュリアの巨体はグラリと揺れ、その場に膝をついた。

 

「槍骨」+「棘」+「鋼鉄骨」+「伸縮」

 

 その隙に今度は左腕を槍状に変形させ、体勢が低くなったドラキュリアの腹に突き刺した。

 

「まだだよ」

 

 ゾブリ、ゾブリと、肉を突き破ってドラキュリアの胸から、腹から、背中から枝分かれした棘が四方八方に飛び出した。

 内臓を掻き回され、ドラキュリアは勢いよく血を吐いた。大量の血を頭から被り、オール・フォー・ワンの白い髪を赤く濡らす。

 

「……それで終わりか?」

 

 ドラキュリアは冷たい声で問いかける。オール・フォー・ワンは笑顔で返した。

 

「まさか」

 

「回転」+「刃」

 

 体内で枝分かれした枝に鋭い刃が生え、チェーンソーのように回り出す。刃は体内を切り刻み、掻き回し、ドラキュリアの巨体が小刻みに揺れた。

 

「吸血鬼を退治する方法はバラバラにする。だったかな?」

 

 オール・フォー・ワンはドラキュリアの身体から腕を引き抜いた。血飛沫が上がり、ぶつ切りになったドラキュリアの身体が床に崩れ落ち、体内でミンチやペーストになった肉片が床一面に広がった。

 軽く息をつくと、足元にゴロゴロと転がってきたドラキュリアの頭を見下ろす。

 

「今度は死んだフリかい?」

 

 ドラキュリアの首はカッと目を見開き、大きく口を開けて牙を剥き出し、オール・フォー・ワンの首目がけて勢いよく飛び上がる。しかし、オール・フォー・ワンは難なく受け止める。

 

「なかなかの再生力と生命力だ。吸血鬼で魔王を名乗るだけのことはある」

 

 歯をガチガチ鳴らすドラキュリアにそう語りかける。

 

「だが、これで終わりだ」

 

 渾身の力を込めて床に叩きつけると、頭に手を置いた。

 

「君の“異能”。ありがたく頂こう」

 

『オール・フォー・ワン』を発動させた。

 

 

 

痛い。苦しい。つらい。悲しい。助けて。死にたくない。死ね。殺してやる。何故自分が。妬ましい。許さない。消えろ。もう嫌だ。痛い。苦しい。つらい。悲しい。助けて。死にたくない。死ね。殺してやる。何故自分が。妬ましい。許さない。消えろ。もう嫌だ。痛い。苦しい。つらい。悲しい。助けて。死にたくない。死ね。殺してやる。何故自分が。妬ましい。許さない。消えろ。もう嫌だ。痛い。苦しい。つらい。悲しい。助けて。死にたくない。死ね。殺してやる。何故自分が。妬ましい。許さない。消えろ。もう嫌だ。痛い。苦しい。つらい。悲しい。助けて。死にたくない。死ね。殺してやる。何故自分が。妬ましい。許さない。消えろ。もう嫌だ。痛い。苦しい。つらい。悲しい。助けて。死にたくない。死ね。殺してやる。何故自分が。妬ましい。許さない。消えろ。もう嫌だ。痛い。苦しい。つらい。悲しい。助けて。死にたくない。死ね。殺してやる。何故自分が。妬ましい。許さない。消えろ。もう嫌だ。痛い。苦しい。つらい。悲しい。助けて。死にたくない。死ね。殺してやる。何故自分が。妬ましい。許さない。消えろ。もう嫌だ。痛い。苦しい。つらい。悲しい。助けて。死にたくない。死ね。殺してやる。何故自分が。妬ましい。許さない。消えろ。もう嫌だ。痛い。苦しい。つらい。悲しい。助けて。死にたくない。死ね。殺してやる。何故自分が。妬ましい。許さない。消えろ。もう嫌だ。痛い。苦しい。つらい。悲しい。助けて。死にたくない。死ね。殺してやる。何故自分が。妬ましい。許さない。消えろ。もう嫌だ。痛い。苦しい。つらい。悲しい。助けて。死にたくない。死ね。殺してやる。何故自分が。妬ましい。許さない。消えろ。もう嫌だ

 

 

 

「何だこれは?」

 

 無数の嘆きの声と怨嗟の声が聞こえてくる。これにはオール・フォー・ワンも首を傾げる。

 オール・フォー・ワンはこれまでに数え切れないほどの人間を殺し、恨み節は何度も何度も聞いてきた。それが「魔王」へと近づく自分を讃える歌のように聞こえてとても心地よかった。

 

「止まれ」

 

 命じても声は止まない。

 

「止まれと言っている!」

 

 止まない。

 舌打ちして、オール・フォー・ワンはドラキュリアに目を向ける。“異能”を奪ったにも関わらず、生首の状態だがまだ微かに生きていた。探知系の“異能”で調べてみるとかなり弱々しいが脳波もある。だが、死ぬのは時間の問題だろう。

 

「この“異能”は一体なんなんだ?それに、君は何者なんだ?」

 

 返事は期待できないが、聞かずにはいられない。

 この止まない声は悪くない。だが、これが24時間流れ続けるとしたら?そうなるなら話は別だ。この“異能”をコントロールしようと、エネルギーや精神に関するすべての“異能”組み合わせてみるも効果なし。

 

 深いため息をついて、ドラキュリアの頭に手を置き、奪った“異能”を「与えた」。ドラキュリアの脳波が安定していく。

 

 窓を見ると、空が白けているのが見える。もう間もなく夜明けだ。

 

「……いい“異能”だと思ったのに、残念だよ」

 

 延々と声が聞こえるのはもちろん、日中に行動制限されるのは大きなデメリットだ。日光を反射させる“異能”もない。

 信奉者に与える形でストックさせようか考えもしたが、自分の手を煩わせた正体不明の強大な力をコントロールできるとも思えないし、万が一暴走することになったら面倒だ。残念だが諦めるしかない。

 屋上に上がり、日当たりが良さそうな場所に生首を置いた。バラバラにしても 穴だらけにしても大したダメージにならなかった吸血鬼でも、日光なら滅ぼせるかも知れない。

 玉座の間に戻って玉座に身体を沈めて軽い休憩を取っていると、ステンドグラスから差し込む光に照らされたバラバラの身体が燃え始めた。予想通り日光に弱いようだ。

 

 すると、大きな地震が起きた。床や壁や天井にヒビが入っていく。 正面に並ぶ大理石の柱がドミノ倒しのように倒れ、天井からシャンデリアが落ちてバラバラになった。

 

「魔王が倒されれば城も崩れるか」

 

 ゲームだとラスボスを倒した後によくあることだ。

 屋根の上に置いた頭が燃え尽きたのだろう。“異能”で創られた産物だから、創造主が死ねば維持する力の供給が途絶えて崩壊するのだろう。

 “異能”は無理でも城が手に入るのではないかと期待していた分ショックがあった。本日2度目の深いため息をついて、未だに燃えるバラバラの身体を尻目にオール・フォー・ワンは城から飛び出した。

 日の光を浴びながら空を飛び、振り返ると城が崩壊していくのが見える。あれほどの城が失われるのは口惜しい。

 

 今まで敵なしだった自分を相手に、あれほど喰らい付いてきた相手は彼女が初めてだった。

 吸血鬼の魔王を名乗り、正体不明の“異能”を持つドラキュリア。結局のところ、彼女は一体何者だったのか。

 どこからやってきたのか?そしてこの街に城を建てた目的は?

 多くの謎を残して彼女は死んだ。

 

 そう言えば、燃える身体の横を通り過ぎた時に一筋の赤い光が走っていたような気がしたが、気のせいだろうか?

 




最後まで読んで頂き、本当にありがとうございます。
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