私情の言い訳になりますが、身内が亡くなってバタついてました。四十九日を過ぎてもアイデアが出ずスランプでした。
それと、映画館に行って『You're next』を見てきました。
アンナお嬢様とデボラおb……お姉様がすごく大きかったです。2人に触れれたジュリオが羨ましい(峰田感)。
ダークマイト共々、いつか本作でドラキュリアと絡ませてやりたいです。
大変長らくお待たせしました。19話目になります。
拙い駄文ですが、お楽しみいただければ幸いです。
こんばんは。ドラキュリアです。
新しい眷属が誕生する瞬間にワクワクしています。
あのヤロウが無理やり「個性」を渡したみたいに嫌がる与一をヴァンパイアにするのは嫌だったから、自分の意思でヴァンパイアになるよう「力が欲しいか?」作戦を実行したら想像以上にうまくいった。何事も嫌々やるより進んでやるのが1番だよな。
「「与一ッ!!!」」
廊下の曲がり角から駆藤とブルースが出てくると、こっちに向かって走ってくる。大声で呼ばれ、鬼気迫る形相で迫る2人に与一は思わず固まった。だけどもう遅い。取り上げる前に飲まれる。
「させるかァッ!!」
ブルースがポケットから食事用のナイフを取り出した。いつの間にくすねたんだ?
ブルースは走りながら腕を引くと腕に赤いオーラが浮かび上がる。オーラは心臓のように躍動すると、あっという間に残像を残すほど加速した。そして──
「ハアアァァッ!!!」
投げ放たれたナイフはまるで矢のように真っ直ぐ、凄まじい風切音を響かせながらグラスに向かって飛んだ。
パリンッ!!
ナイフはグラスに命中。あまりの威力にグラスは弾けるように割れて中身と破片が飛び散って、与一は思わず腰を抜かした。ナイフは勢いのまま、俺の右足に吸い込まれるように飛んできて──
プスッ
いって!?刺さった!?
「ドラキュリア様ッ!!」
令裡が慌てて止血しようとハンカチを手に俺の前に出てくる。いや、大げさだな、へーきへーき。
とりあえず膝を上げて足を見る。刺さってるのは太ももの少し上あたり、鼠蹊部と太ももの中間だ。右足を大胆に出したスリットが仇になったようだ。
スッとナイフが抜く。血が出るほど深く刺さってない。体がデッカい俺からしたら虫刺されのように小さい傷だ。でも、銃弾でも傷つかないこのヴァンパイア ・ボディに刺せるとかすげーなブルース。これが
ボワッ!!
ナイフを一瞬で蒸発させて見せる。限界を超えた自分の1投が無駄と知ったブルースの顔よ。すげー引きつってら。
だけど、まだまだ。
「戻れ」
なんということでしょう。あちこちに飛び散ったグラスの破片と血痕がいきなり震えたと思ったら、映像の逆再生のように動き出して俺の手のひらの上で元の形に戻ったではありませんか。
「……ウソだろう」
ハハッ、いい顔してんなブルース。
これで、だれに向かってナイフを投げたかわかったか?
すると後ろから、
「すいませんねドラキュリア様。事前に反応して止められなかったのはあたいの落ち度さね」
「いえ、小町様は何も悪うございません。本来はメイドの私が前に出て主君の盾となるべきだと言うのに、罰はこのわたしめにお与えくださいまし」
「面を上げよ」
顔を上げた2人の顔は能面のように無機質だった。そして、その目は覚悟が決まったかのような強い光を放っていた。そういうのやめろよマジで。
「今日のモーニングは昨日よりも豪勢なものを用意せよ。令裡のデザートは多めだ。それで許す」
「「え?」」
2人はキョトンとした顔になった。うん、可愛い。
「それがそなたらに与える罰だ。さあ、もう行け」
2人は互いに目を合わせると俺に一礼し、マップを広げて食堂に転移した。お咎めなしじゃ2人は納得しないだろうし、これで顔を上げて前へ進んで欲しい。さてと。
グラスを令裡に渡し、与一たちに向き直って歩み寄ると、駆藤とブルースは身構える。別に何もしないっての。
「死柄木与一よ。今度こそ私の血を取り込み、眷属となれ」
「ふざけるな!!」
駆藤が声を張り上げた。
「与一をおまえのようなバケモノにさせてたまるか!!」
臆せず俺を見上げる駆藤とブルース。おまえら、自分の立場をわかってんのか?
「……邪魔をするなら、死ぬぞ」
暗黒魔力を少し放出して威圧する。一瞬2人は体を固まらせたが、それでも俺から真っ直ぐ睨んで目をそらさない。人を悪者みたいに見やがって。
「今日のモーニングは新鮮で豪勢になりそうだな」
ヴァンパイアの主食が何か言わなくてもわかるよな?
ドミトレスク夫人のように爪を伸ばして見せても、2人はまるで怯まない。流石は未来のワン・フォー・オールの継承者たちだ。イカれてる。
「もういいよ」
「与一……?」
「どうしたんだ?」
すると、今までだまっていた与一が口を開いた。とりあえず、爪を縮めて話を聞いてみる。
「僕は、自分の意思でヴァンパイアになって兄さんを倒すと決めたんだ。だから止めないでくれ」
与一は俺の前に出る。慌ててブルースがその手を掴んだ。
「やめろ!!自分が何をしようとしてるのかわかってるのか!?」
「わかってるよ!!!」
与一はまた、その体から想像つかないくらい大きな声を出した。ブルースも思わず手を放した。
「……僕は弱い。マイヒーローとブルースに救けられてばかりで1人じゃ何もできない。ドラキュリアの言う通り、弱い。そんな自分がもう、嫌なんだよ」
うつむいてグッと拳を握る与一。駆藤とブルースはそんな与一に何て声をかけていいのかわからず言葉を詰まらせる。
いいぞいいぞ〜。自分が弱いことを理解してる。力への渇望が強まっていくのが伝わる。もう一押しいくか。
「「魔王」オール・フォー・ワンは弟である死柄木与一に対し、異常な執着を持っている。あれは、他者の手に渡るくらいなら殺そうとする」
この世界が原作通りに動くなら、2ヶ月後に与一は殺される。独占欲を拗らせすぎてほんとキッショいよあいつ。早く殺さなきゃ。
「バカな。与一は実の弟なんだろう?あり得ん」
否定するブルース。だけど、与一の表情は暗い。
「…………いや、兄さんは僕を殺すはず。手元から離れて戻らないと思ったら殺すと、思う。兄さんは、昔から僕の行動を全部把握しないと気が済まなかったから」
うわぁ、弟にここまで言わせるのか。本当に度し難い。そして──
「それで?そなたらは死柄木与一をそんなやつの魔の手から守り切り、滅ぼすことはできるか?」
「それは……」
「……何が言いたい?」
即答しないブルース。疑問を疑問で返す駆藤。
──おまえらも度し難いよ。
2人の前に出て頭を掴み、腕力に物を言わせて床に叩きつけた。
「ぐあぁっ!!」
「かはっ……!!」
床かそれとも頭蓋骨か、ビキッとヒビが入る音がした。
「やめろっ!!」
与一が俺に向かって手を伸ばすがその間に令裡が割って入り、片手で与一の手首を掴んでハンマーロックをかけた。ちなみに、もう片方の手にあるグラスから血は一滴も溢れてない。見事なバランス。
「ぐううぅっ!」
「いい加減になさい。私ももう限界よ?」
うわ、顔怖っ。まあ、俺も令裡のようにイラついてるんだけどね。
「あの男は1度、この私を殺した。やつに劣るこの私に、こうして容易く捩じ伏せられたそなたらに、勝ち目があるとは到底思えぬ」
「あああぁぁっ!!!」
「うううぅぅぅっ!!!」
ジワジワと力を入れていく。どうだ、何もできないだろう?
おまえらワン・フォー・オールの継承者を突き動かすのは、狂気的な正義感と自己犠牲精神だと原作で知ってる。だけどな、力がないやつは正義を語れないんだ。弱いやつはあっという間に蹂躙されて終わる。ソースは俺。わかる?
「何故、私がこの城に踏み入れたそなたらをわざわざ生かしてるかわかるか?それは、あの男に屈しない強固な精神を持ち、眷属足り得ると判断したからだ。しかし、そなたらは頑なに私を拒む。今までとは比べ物にならぬほど強大な力が得られると言ってるのにな!!」
2人を持ち上げて顔を見る。駆藤は割れた額からダラダラ血を流し、ブルースは骨が砕けたのか、顔の右側が赤く腫れ上がっている。
「本気で「魔王」オール・フォー・ワンを滅ぼしたいのであれば悪魔と手を繋ぎ、全てを捧げる覚悟で力を求めよ。できないのであれば我らの血肉となれッッッ!!!」
2人を軽く放り投げて壁に叩きつける。壁に亀裂を入れてドサリと床に倒れた。
「マイヒーロー……ブルース……」
与一は力なく2人を呼んだが返事はない。気絶したようだ。
「現実はコミックとは違う。何の犠牲もなしに都合よく力を得られる展開などない。身の丈以上の大義を成し遂げるなら、それ相応の何かを差し出す覚悟と決断をしなければならぬ」
悪魔城ドラキュラにおいてドラキュラの宿敵、ベルモンド一族のレオン・ベルモンドは、夜の一族を滅ぼすヴァンパイアキラーを得るために、身を切る思いで愛する女性を犠牲にしてる。対してこいつらはどうだ?
オール・フォー・ワンを倒したい。与一をヴァンパイアにしたくない。自分らもヴァンパイアになりたくないと。大した力もない、そのくせ何かを失う覚悟もないのに一丁前に求めすぎだ。
少し落ち着いてからパチンと指を鳴らし、スケルトン・ボーイを4体召喚する。
「この者らを医務室に運べ。ポーションを飲ませて治療しろ」
スケルトン・ボーイたちは恭しく一礼すると、気絶した2人に肩を貸して足を引きずりながら運んでいった。
「……それで?そなたはヴァンパイアになると言ったな?本当になるのか?」
未だ令裡にロックされている与一を見下ろして問いかける。
「今のまま悪魔城を出て京都にいる仲間たちとやらの元に身を寄せても、そなたらはいずれやつに為す術もなく蹂躙されるのみ」
そもそも相手は“個性”を奪って自由に使えるチートだ。そんなやつとどうやって戦って、どうやって勝つんだよ。
「蛮勇は真の勇気にあらず」
やろうとしてることはただの自殺。さらに相手に“個性”を与えることになるから余計にタチが悪い。
「令裡。放してやれ」
「…………かしこまりました」
不穏な間を置いて、令裡は与一を俺の前に突き飛ばして解放した。
「あの2人が目を覚ましたら、改めて今後のことを伝える。それまで医務室で待機せよ」
床に這いつくばった与一にそれだけ言って、令裡とその場を離れた。
俺って何で躊躇ってるんだろう?
廊下を歩きながら俺は内心、与一たちよりも自分の考えの甘さと計画性のなさにイライラした。立場を理解してないあいつらもバカだけど、さっさとあいつらをヴァンパイアにすればいいのに踏ん切りがつかない自分はもっとバカだ。
俺はヒーローなんかじゃない。綺麗事を並べて命を賭けるなんてバカなマネはできない。そもそも、オール・フォー・ワンと戦うのに手段を選り好みする余裕なんてない。
「あの、ドラキュリア様」
後ろから令裡の声が聞こえてきた。
「気を取り直して、連れてきた妊婦さんのお見舞いに行きませんか?」
振り返るとどこか心配そうに、緊張したように俺を見上げる令裡。ヤベッ、怒りが魔力になって出てたみたいだ。
「……ああ。新たな眷属たちの様子を見に行こう」
マップを開いて令裡と客室前にワープ。1度深呼吸をしてから静かに入室した。
ドアを潜ると、天蓋付きのベッドにゆったりしたワンピースの寝巻きを着た妊婦が眠っていた。最初に出会った時と違い、俺と令裡と同じく肌は色白で耳が尖っている。
「……やはり、まだ意識は戻らぬか」
あれほどの重体だったから仕方ない。でも、俺の血とポーションのおかげで命を繋ぎ止めることはできた。ついでに、額の裂傷と下腹部の刺し傷は痕も残らず綺麗に治してある。
ちらりとベッドの脇にあるナイトテーブルを見るとその上に、乾いた血がついた名札が置いてある。彼女の持ち物だ。
京都府医学研究所附属病院
血液内科・
これが彼女の名前だ。血液に関する医者を見つけられてラッキーだ。俺の『魔王ドラキュラ』はまだまだ謎が多いから、血を調べてもらいたい。
「おなかの赤ちゃんたちはどうですか?」
「問題ない」
刺されていたおなかは膨らんで、臨月に近い大きさになっている。ヴァンパイア ・アイを発動すると、胎内の赤ちゃんたちの傷は無事に癒えて容態は安定しているのが魂でわかる。あとは健康な体で生まれて来るのを待つだけだ。
ぶっちゃけ、桐さんと胎児のヴァンパイア化は一か八かの賭けだった。ヴィランを使ったヴァンパイア化の実験は野郎しか使ってなかったから、普通の女どころか妊婦なんて初めてだった。
どれだけの量の血を与えればいいのかわからず、治療とヴァンパイア化の並行はゆっくり少しずつ血を与えていった。桐さんと胎児たちの生命力が尽きる前に急ぎ、変異に耐え切れずに死なないよう慎重にやる眷属化は戦闘以上に集中したよ。
そして無事に成功した。並のヤロウをヴァンパイアにするのと同じくらいの量の血で眷属化した。まあ、これはすごく特殊なケースかも知れないし、俺個人の心情的に気軽にやりたくないんだけどね。
閑話休題。
指先で毛布越しに桐さんのおなかに触れると、トクントクンと胎動が伝わってくる。
「……蹴った」
「私にも触らせてください」
令裡も興味津々で桐さんのおなかに触れると、「蹴りました!」とうれしそうに笑った。可愛い。
「桐さんと赤ちゃんたちが、私に次ぐ眷属なのですね」
令裡はおなかを優しく撫でながらしみじみと言う。
令裡が最初の眷属なら桐さんは2番目、胎内の双子たちは3〜4番目の眷属になる。血縁関係で言うと俺が母親で令裡は長女、そして望月親子は年子の妹のようなものだ。まあ、俺も令裡も生まれて3年も経ってないから、桐さんが悪魔城で最年長になるんだけどね。
「彼女たちもいずれ、オール・フォー・ワンとの戦いに参加させるのですか?」
おなかに手を置いたまま、令裡は真剣な目で俺を見上げた。
「…………後方支援に回す。元より医者をこの城に入れる予定だったのだ。矢面には立たせぬ。それに、双子はまだ生まれてすらいない。ある程度成長して戦闘に適正があるか確かめ、本人らの希望を聞いてからだ」
「……そうですわね。気が早すぎましたわ」
少しホッとしたような笑顔を浮かべ、令裡は優しくおなかを撫でた。
正直に言うと、眷属にした時点でこの親子に愛着が湧いている。繋がりができたことで情が芽生えたのか、戦いに巻き込みたくないと思っている。でも、悪魔城は近い内に戦場になって巻き込んでしまう。
望月親子だけじゃない。生まれてまだ1年ちょっとの令裡、1週間足らずのアイリもいる。大人として、親として戦わせたくない。
「腹を括るか」
悪人とは言え、人間を殺したり拷問したり食ってきた手前、手段を選り好みするなんて今さらすぎる。
いい子ちゃんぶってなあなあにするのはもう終わりだ。
あ、そう言えば令裡。まだグラス持ってるよな?それ、飲んでいいから。戦いに備えてそれ飲んでレベルアップしといて。
──────────────────────────
目を開けると、知らない天井が見えた。慌てて起き上って自分の体を見ると、服装が清潔なパジャマに変わっていた。
「病室……?」
部屋の奥で壁際の中心に鎮座したチクタクと一定のリズムを刻み続ける柱時計、電灯と違う暖かさを持つ燭台の蝋燭の灯り、ゴシックな雰囲気と清潔感のある部屋だ。この城の主がヴァンパイアだからか、窓は1つもなく消毒液や薬品の匂いで満ちている。
「マイ、ヒーロー……?」
となりで声が聞こえた。横を見ると、ベッドにもたれかかった与一が寝ぼけ眼で俺を見上げていた。その後ろのベッドにはブルースが眠っていて、穏やかな寝息を立てている。
「与一、無事だったのか?」
「うん。でも、マイヒーローの方こそ大丈夫かい?」
与一は俺の額を指差す。そっと触れてみてもザラつきや痛みはない。
「ああ。問題ない」
与一は胸を撫で下ろし、ホッとした表情を見せた。
俺たちは確か、ドラキュリアに頭を鷲掴みにされて恐ろしい力で床に叩きつけられた。頭蓋骨が割れる音、赤く染まって歪む視界、そしてドラキュリアの怒鳴り声を最後に気を失った。そして目が覚めて今に至る。
「ブルース、起きろ」
ベッドから下りてブルースの布団を剥がす。ブルースは「うーん」と唸りながらのっそり体を起こす。顔に怪我はなく、特に問題なさそうに見える。
「あれからどれくらい経ったかわかるか?」
「……うん。半日は経ってるよ」
与一はちらりと柱時計を見て答えた。
壁の柱時計を見ると、時刻は12時前だった。窓がないから今は昼か夜かわからない。この城で過ごすと城主たちにつられて昼夜逆転しそうだ。
(本気で「魔王」オール・フォー・ワンを滅ぼしたいのであれば悪魔と手を繋ぎ、全てを捧げる覚悟で力を求めよ。できないのであれば我らの血肉となれッッッ!!!)
意識を失う前に聞こえたドラキュリアの言葉が不思議なくらい耳に、頭に残っていた。一字一句全て焼きつくように。もしかしたら、最後の警告かも知れない。
俺たちは生かされてる。これ以上ヴァンパイアになることを拒めば、今度はやつらの食卓に並ぶだろう。
「ドラキュリア……」
「呼んだか?」
部屋の奥から聞こえたあの女の声に思わず顔を上げる。部屋の角にいつの間にかドラキュリアが立っていた。蝋燭の灯りに照らされ、黒いマントに身を包んだその姿は巨大な影のようにも見えた。
「ブルース!!」
与一の前に出て盾となる。ブルースもベッドから素早く飛び起きて身構えた。
ドラキュリアは燃えるような真っ赤な目でじっとこっちを見つめながら、ゆっくりと俺たちの前までやってくる。そして、口を開いた。
「あの男が来るぞ」
「あの男」。だれを示しているのかすぐにわかった。
「偵察に放った使い魔から情報が入った。あの男が京都府に向かっているとな」
ドラキュリアは右手を差し出すと、手のひらの上でポンと白い煙と共に白骨のネズミとカラスが姿を現した。こいつらが使い魔か。
「私が蘇ったことに気づいたのか、それともそなたらがここにいることに気づいたのか定かではないがな」
ここに来たことを責めているのか?それに気を失う前に聞いた怒鳴り声から、淡々とした口調に戻って不気味だ。
「多くの部下を率いて、捜査線を広げながら向かってるらしい。この悪魔城がある山々も捜査に含まれるなら、見つかるのも時間の問題だ」
すると、手のひら上の使い魔たちが壁に顔を向けた次の瞬間、2匹の眼孔から4本の光線が放たれた。光線は空中で1本の束になって壁に当たると、壁の半分を埋めるほど広がった。色を変えて蠢き、映像に変わる。まるで映写機だ。
ネズミが地面から見上げる低い視点で、街の路地裏らしき光景が映し出された。ネズミが走り出し、映像が小刻みに揺れながら路地裏から大通りへと進む。
窓が割れ壁も崩れた建物、ひっくり返された車両、折れ曲がった街灯やガードレール、クレーターができたアスファルトと、災害が起きた後のように荒れ果てた街並みが映し出された。そんな大通りの車道で人影が近づいてくる。
黒いスーツ、癖のある白髪、ギラギラした赤い目、一度見たら忘れられない恐ろしい顔の大男。
「兄さん……!」
与一がうなるように声を上げた。
「魔王」とネズミの距離が近づく。表情がハッキリ見える距離だ。しかし、ネズミに気づかずその前を早足で通り過ぎて行く魔王。その顔には以前見た不気味な笑みはなく、余裕のカケラもない鬼気迫る表情だ。ブツブツと独り言を言ってるのか、その唇は何か同じ言葉を繰り返し紡ぎながら去って行った。
「やつは何て言ってるんだ?」
「巻き戻せ」
ドラキュリアの声と共に映像は逆再生すると、オール・フォー・ワンが通り過ぎる前の場面へと戻った。
「顔を拡大、音声を出せ」
オール・フォー・ワンの顔が拡大されると、スイッチが入ったかのようにカラスが「カー」と鳴いた。
「再生」
巻き戻った映像が動き出した。
『与一……与一……どこへ行った?』
唇の動きに合わせ、ゾッとするような声がカラスの嘴から出てきた。アップで映された「魔王」のギラギラした目も合わさって、悍ましいシーンだ。
「うわぁ、キッショいねぇ」
部屋の隅から聞き覚えのある声が聞こえた。
先ほどドラキュリアがいた部屋の隅に、腕を組んだ
「ドラキュリア様、この映像は昨日のものでさぁ」
げんなりとした表情でドラキュリアのとなりへ歩み寄る
「こいつは部下の大半をそこにいる弟の捜査に駆り立ててるよ」
「……数は?」
ドラキュリアの問いに
「だいたい2万人だねぇ」
思わず息が止まった。「バカな……」とブルースがつぶやく声が聞こえたが、それどころじゃない。
「魔王」は数万人もの部下がいるのは知っていた。それでも、与一1人のために万単位で人間を動かすとは信じられなかった。しかし、ドラキュリアの言う通りだとしたら、与一に対する異常な執着は本当のことなのかも知れない。
「さらに増えると予想されるね。対するあたいら悪魔城側の兵力は
「やはり、召喚する魔物だけでは質も量も心許ない。有象無象を蹴散らせる兵を……それもまとまった数の兵をすぐにでも用意しなければならぬ」
少し間を置いて、ドラキュリアは俺に顔を向けた。思わず身構える俺をじっと見つめ、何を思いついたのか口を開いた。
「駆藤よ」
名前を呼ばれただけで猛烈に嫌な予感がした。
「私をそなたらの仲間の元ヘ案内しろ」
的中した。
「…………仲間たちを売れと言うのか?」
「売れだと?まるで仲間を物のように言うのだな」
「質問に答えろッ!!」
呆れたような口ぶりに思わず声を荒げてしまった。ドラキュリアはそんな俺を見下ろしながら「ふん」と鼻を鳴らして答えた。
「そなたらはあの男を滅ぼすべく、
背中に冷たい汗が伝う。もうそこまで調べられていたのか。
俺たちはあの男と戦いながら民間人を救けてきた。その中には俺たちの意思に賛同し、共に戦う仲間も出てきた。しかし、“異能”を戦いやそのサポートに活かせる者は俺とブルースを含め半分ほどしかいない。残りは武装しただけの一般市民で、中には“異能”を持たない者もいる。
銃火器を取り扱える自衛隊と警察官。護身術を身につけてる警備員と武道家など、戦いの心得がある者たちも中にはいるが、組織全体の1割ほどしかいない上に“異能”の前では心許ない。
「弱者らに我が血を与えて眷属に、万の軍勢すら打ち破る一騎当千のヴァンパイアの兵に変える」
「なんだと……!?」
ブルースの顔が引き攣った。今の俺も同じ顔をしてるかも知れない。
「安心しな、全員にはやらないよ。説明した後で、自分の意思でなると志願するやつだけヴァンパイアにするのさ。もちろん、メリットとデメリットも前もって説明するからね」
「これ以外に現状を変える手段はないぞ」
俺の考えを読んだのか、ピシャリとドラキュリアは言う。
「そんな、僕だけでいい!他の人たちに手を出すな!!」
声を上げる与一に
「駄々をこねるのもいい加減にしな。ガキが」
「あんたたちは殺されるリスクも覚悟の上で、こいつを殺せる可能性に賭けてここに来たんだろ?」
背後の壁に映る「魔王」を親指で指しながら
「本当ならあんたたちとお仲間たちをまとめて殺すか、ヴァンパイアにせずバケモノに変えて使い潰してやってもよかったんだよ?あたいはもちろん、ここにいない令裡やアイリもあんたたちをそうしようと本気で考えていた。だけど、ドラキュリア様はそれをヨシとしなかった」
「あんたたちには利用価値がある。だから今まで譲歩してきたんだ。それなのに調子に乗りやがって、あれは嫌だこれは嫌だなんてよくもまぁ言えたもんだよ」
壁に追い詰められ、与一は背中を壁に押しつけられながら持ち上げられ!た。
「命懸けで戦うってんなら、綺麗事を抜かして手段の選り好みするんじゃないよ。腹を括りな!」
足元に転がったのは、恐ろしい力で変形して引きちぎられたドアノブだった。
「バケモノが……!」
ブルースの声に反応して顔を上げると、
「さあ、今ここでYESかNOか答えを言いな」
威嚇するように石突で床をガツンと打ち鳴らし、身の丈を超える大鎌を軽々と振る。
「10、9、8」
カウントを始めながら死が1歩ずつ迫ってくる。後ろを振り返ると、ドラキュリアもじりじりと近いてきた。その指先から爪が刃物のように伸びる。まるで日本刀だ。
「……6、5、4」
こちらもカウントを始めた。2m近くある長い足で一息に目の前まで来れるのに性格が悪い。
「3!2!!1ッ!!!」
部屋の中心、柱時計の前へ追い詰められた。前からは俺たちの命をを刈り取らんと大鎌を振り上げた死神。後ろからは金属と石材が擦れる嫌な音を立てながら、長い爪を床に引き摺った悪鬼。両者との距離はもう3mもない。
「…………わかった!」
「……1つ質問がある。本当に全員をヴァンパイアにする気はないんだろうな?」
「ないよ。今の悪魔城には安定して昼間に行動できるやつが1人もいないからね。活動制限がかからないやつは最低でも10人は欲しいところさ」
大鎌を下ろして
「……次の質問だ。改めて聞くが『ヴァンパイア』という“異能”の主なメリットとデメリットはなんだ?」
「メリットは超人的な生命力、再生力、身体能力。そして魔術の素質の獲得。デメリットは日光、銀製品、十字架、聖書、流水、ニンニクが命に関わる危険物となる。吸血が不可欠な体質になり、殺人と食人への忌避感が低下する。さらに付け加えると、容姿が別人に変容し元に戻れなくなる」
2つ目の質問に伸ばした爪を縮めながらドラキュリアが答えた。要は創作物に登場するヴァンパイアっぽくなるということか。メリットがデカいが、デメリットがそれ以上にデカすぎる。完全なバケモノになる“異能”だぞ。
「名乗り出る者だけに我が力を与える。嫌がる者に与える気はない」
戦力にならなくても、戦闘以外の用途で日光に当たっても平気な人員も欲しているなら納得がいく理由だ。だが、まだ何か隠している気がしてならない。
すると突然、
「俺の荷物……?」
「ほら、受け取りな」
雑に放り投げられたリュックを受け取って中身をいくつか出して見る。水や食料や通信機など、サバイバルに必要な物資が入っている。全て俺がこの手で入れた物。どれも本物だ。
「その通信機でお仲間たちに伝えな。「今日の日が落ちる頃にそっちに着く。「魔王」と戦える強力な助っ人も見つけた」ってね。今すぐだよ」
大鎌を強く握りながら
「わかった」
無線機の電源を入れる。ブルースが「やめろ」と、与一が「本気か?」と言わんばかりの顔で俺を見る。言いたいことはわかるが、もうこれしか道はない。
「…………もしあの世が存在するとしたら、俺とお前たちは確実に地獄へ堕ちるだろうな」
周波数を調整しながらせめての抵抗でそう言う。今から俺は、仲間たちを悪魔の生贄に捧げようとしている。これくらい言わせて欲しい。
「地獄に堕ちるだと?そなたは何を言っている」
思わず顔を上げ、ドラキュリアの目を見ると思わず後ずさった。
その目は猫のように瞳孔が大きく開いていた。ポッカリ空いた空洞のようにも見えるその目は、底が見えない暗闇だった。
「既に堕ちているではないか」
「異論は認めない」。そう言わんばかりの迫力と説得力がその声と目に宿っていた。
すぐ目を逸らす。言い返すことができない弱い自分への腹立たしさがあった。そしてそれ以上に、この女のブラックホールのように深く恐ろしい目を1秒でも長く見ていると、引きずり込まれて戻れなくなるような気がした。
恐ろしくも腹立たしい。だが、悪魔の言葉は一理ある。
確かに、目の前の悪魔の言う通り今の世は混沌に満ちた地獄だ。強ければ生き、弱ければ死ぬ、そんな情けも容赦もない弱肉強食の世界で最後に物を言うのは己の力だ。しかし、人は生まれながらに平等じゃない。無常にも生まれ持った“異能”に左右される。
こんな世界で生き抜き、大義を成し遂げるのには力が必要だ。
力を得られるなら悪魔になってもいいんじゃないか?
魅力的な甘い声が頭に響く。
俺は送信ボタンを押しながら無線機を口元に近づけた。
ヒロアカ風プロフィール
Birthday:5/9
Height:168cm
好きなもの:娘たち、わらび餅
THE・裏話
・令裡に続く2人目の眷属。ドカ食いはしない。
“異能”の謎を解明すべく、“異能”を持つ人間から採血した血液から後に“個性因子”と呼ばれる因子を発見する。
しかし、その研究成果を欲に目が眩んだ上司と同僚たちに狙われ、上司たちが雇ったヴィランに襲われて夫を殺される。
夫が襲われている隙になんとか逃げ出すも身重の体ですぐに追いつかれ、刺されて研究資料を奪われる。そして死にかけのところをドラキュリアに救われておなかの子供たち共々ヴァンパイア化、眷属となった。
ちなみに夫とは政略結婚。お互いに愛情はなく夫婦関係は冷め切っていたが、生まれてくる娘たちには愛情を持っている。
結婚時の新姓は氷叢。
THE・補足
・元は作者が読んだヴァンパイアものの百合マンガ(R-18)の脇役キャラで、メインヒロインの母親。
えっ?宣伝乙?知る人は知るようなマイナー作品(R-18)のキャラを出すなって?
そこは本当に、ごめんなさい。作者のリサーチ不足です。メジャーなヴァンパイアもので、ステラとロレッタ以外に双子の女の子が出る作品を見つけられなかったのと、出してみたい欲を抑え切れませんでした。
最後まで読んでいただきありがとうございました。
誤字報告や感想をいただけると大変励みになります。
それではまたお会いしましょう。