そして悪魔城ドラキュラは懐かしのDS3部作をまとめた『Castlevania Dominus Collection』が発売されたり、『Dead by Daylight』や『Vampire Survivors』とコラボしたり、来月には宝塚歌劇団でオリジナルストーリーの舞台化が決定されたり、『アニバーサリーコレクション』の発売が決まったり、半年ちょっとの間にすごいことになってんな(宣伝)。
KONAMI、大丈夫?無理してない?
大変長らくお待たせしました。20話目になります。
拙い駄文ですが、お楽しみいただければ幸いです。
こんばんは。ドラキュリアです。
俺は駆藤とブルースのウエストを掴んで腹に抱え、
それと、令裡とは別行動だ。あるお使いを頼んである。少し遅れてからアジトに来る予定だ。
そしてアイリは、留守番と桐先生のお世話を任せてる。万が一、あの野郎が悪魔城にやってきても時間稼ぎできるように、出発前にボス級の魔物を10体召喚して悪魔城の守りを増やしたし、緊急時の非常ボタンとして俺の髪の毛を1房渡してある。
え?何で髪の毛って?ほら、ブルースに首を切られた時に、吹き出た血を操って動かして見せただろ?あれの応用で、俺は体の1部は切り離しても遠隔で動かせるし、感覚もあるから人の気配を感知することだってできる。ホークスの“個性”『剛翼』と似たようなものと思えばわかりやすい。
それで髪にアイリの魔力が流し込まれたら、すぐに異変を感じ取ってマジカルチケットで悪魔城へ戻るってわけ。
閑話休題。
高度を少し下げる。1等地というだけあって、桐先生と出会った街よりも建物が密集していて、住宅地には和風の一軒家や豪邸がいくつも見える。その中でも一際、目を引くような大豪邸があった。
「あそこだ。あそこが、
駆藤が大豪邸を指差す。ウソはついてないようだ。
建物全体が高い塀に囲われていて、正面には立派な門がある2階建て。中心の母屋の側には池付きの庭園があり、離れには時代劇のセットのような蔵まである。原作で見た轟家も和風の豪邸だったが、それ以上に立派な大豪邸だ。建てるのにいくらかかったんだろう。
「へえ。あれがアジトねえ。前見た時より立派になったみたいだねぇ」
豪邸には結構な数の人間がいて、慌ただしく動いているのが遠目で見える。庭園の中や塀の外から屋敷全体を囲むようにテントがいくつもあり、それでも入り切れないのか、少し離れたところにある駐車場にも密集して建てられている。豪邸と駐車場の周辺道路に駐められた大量の車両から見るに少なくとも200人、下手すると300人を超える人間がここら一帯にギュウギュウに詰め込まれているようだ。
「其方らの仲間たちも含め、かなりの数だな」
「ああ。
俺の呟きに駆藤が補足する。
「離れた場所で下ろしてくれ。いきなり中に入るわけにはいかない」
言われなくてもわかってるよ。敵襲だと思われたらたまったもんじゃねぇ。
豪邸から少し離れたところに降りて駆藤とブルースを手放し、
「ちょっと飛んだくらいて情けないね。10分休憩したらさっさと行くよ」
返事をする気力すらない3人。与一もいるからスピードを出さずに飛んだが、思った以上に疲れ切ってるようだ。よくよく考えたら俺らは平気でもこいつらは普通の人間。手を放されたら終わる夜のフライトは堪えて当然か。仕方ないな。
指パッチンで熱い緑茶が入ったやかんと湯呑みを出す。俺は力の大元である悪魔城から出ても、これくらいの物質創造ならできる。
「飲め」
緑茶を注ぎながら3人の前に回る。大量に冷や汗をかいていると俺のヴァンパイア ・ノーズが言ってる。夜風で体も冷え始めているから、これくらいしてあげてもいいだろう。いやー、気遣いができる俺って優しいなー。
「……ありがとう」
与一は礼を言って、お茶をフーフーしながら口をつけた。駆藤とブルースの2人は少し困惑した様子で、「「……感謝する」」と一言礼を言ってお茶を飲んだ。
おう、火傷しないようにゆっくり飲めよ。
お茶を啜る3人を横目に、
「あのお屋敷にヴィジランテたちがいるのは、ドラキュリア様が復活する前から知ってたよ」
フェンスの前に来た俺に、
「あたいにとってこの街は悪魔城から最寄りの狩場でねぇ、ヴィラン狩りの最中にあのヴィジランテたちを見つけたのさ」
「人数も増えて、もう立派なコロニーだねぇ。まあ、あの野郎が部下を率いてやってきたら蹂躙されて無駄に終わるんだけどねぇ。これぞ知らぬが仏ってやつかい?」
目を向けると
「内情も把握しているのか?」
そこが気になる。というか、何で今までこの街に連中がいることを教えてくれなかったんだよ。
「ええ、一応、軽く把握してますよ。取るに足らない相手だし、すぐに全滅すると思って関わるつもりはなかったんですよね。あの野郎と戦うギリギリまであたいらのことを世間に知られたくなかったし」
……ええ。お前、見捨てる気満々だったのかよ。まあ、俺も下手に関わりたくないし、今はだれかに知られたくないからわかるけどさ。
「駆藤たちが連中と繋がっていたのを知った時は、やらかしたと思いましたよ。屋敷にネズミを潜らせてもっと詳しく情報をゲットすればよかったってね」
その前に俺にも言って欲しかったよ。
「そこはごめんなさいね。ドラキュリア様には復活後の回復、さらに後の修行に集中してもらいたかったんでさぁ。こういう裏方はあたいで何とかして余計な負担をかけさせたくなかったんですよ」
うーむ、確かにあいつを殺すための修行で余裕なんてなかったし、あのヴィジランテたちのことを頭の片隅に入れてたら、余計に思考を割いていたかもな。
「ええ、ないですよ」
なんとも言えない顔から、いつもの笑顔を見せて答える
「まあ、連中はドラキュリア様の眷属に、仲間になるかも知れないんですから。今はどうすればいい印象を与えられるか考えましょうよ」
「……できるのか?」
いい印象ねぇ。カルマ値がマイナスの極悪まで行ってる俺らにいい印象なんてあるのかな?こんな荒れ果てた世界で駆藤たちに進んで協力している時点で善人なのは間違いない。そんなヴィジランテたちからしたら、俺らは人喰いのバケモノだ。仲良くできんのかな?
「人間、追いつめられたら藁にも縋る」
一変して真顔で答える
「もう、忘れたんですか?与一たちの前で言ったじゃないですか。「力こそ唯一の正義」ってね。混沌に満ちたこの世界、最後に物を言うのは純粋な「力」。「力=個性」のこの世界、ドラキュリア様は与える力があると理解すれば、みんなあなたに跪く」
「人間、力を得るためなら悪魔と手を繋ぐ」
「NO」とは言わせない凄みを出す
「…………ああ。其方の言う通りだ」
まあ、うん。そうだよな。強けりゃ生きれる。弱けりゃ死ぬ。俺自身が経験したことだ。そして、生きるためには力がいる。機関銃があっても身を守るのに心許ないこの世の中、俺の血は“個性”という「力」を得られるなら、一生日の目を拝めないバケモノになってでも飲む価値があるはずだ。
「お金に換算したら、ドラキュリア様の血はコップ1杯200mlでも10億は下らない値打ち物ですよ?もっと自信持ちましょうよ」
真顔からいつものように明るくニカッと笑う
それと、ありがとうな。
「さて!そろそろあいつらのところに戻りましょうか」
切り替えるように手をパンと叩いて
「「力こそ唯一の正義」……」
求めよ、さらば与えられん。
キリストはそう言っていた。生きるには力がいる。それをわかってもらうには、堂々とした態度で言うしかないよな。
「行くか」
フェンスを飛び越えてビルから身を踊らせた。
頑張れ俺。「魔王ドラキュリア」として自分を通せ。
────────────────────────
京都市・孤里板区。
大豪邸を中心に要塞と化したこの一帯。正門から正面を開けるように家屋や大型車両を利用して作られたバリケードで囲われた前線に、1人の男がだれかを待つように立っていた。
上半身は紺色の胴着の上から胸、肘、手をカバーしたプロテクターを装着し、その上に黒い羽織。そして黒い袴を履いた、なんともアンバランスな出立ちをした男だ。
首元まで伸びたボサボサの灰色がかかった薄い金髪、「一」の字を描くように固く閉ざした口元にはしわがあり、40を超えて50代に迫る容貌。しかし、その薄緑の瞳は年齢を感じさせないほど力強く、ギラギラと光り輝いていた。
男の名は四ノ森日良。この孤里板区に古くから存在し、財を成した旧家・四ノ森家の現当主。そして、この一帯を拠点としたヴィジランテたちを束ねるリーダーである。
「そろそろだな……」
腕時計を見ると時刻は18時54分。冬が近い時期だ。とっくに日は沈んでる。
日良が待ってる者の名は駆藤。関東で組織を立ち上げ、ヴィランと呼ばれるようになり始めた犯罪者たちと戦う、自身と同じヴィジランテ組織のリーダーだ。
2人がコンタクトを取ったのは今から2年以上も前だ。風の噂で、組織を率いてヴィランと戦っている男がいる。それを関東にいる知人たちから聞いた日影は、部下に探し出すように命じる。そしてその姿が確認されたと報告を受け、戦闘の一部始終を映した撮影映像を見て確信した。「この男とは同志になれる」と。
すぐにコンタクトを取るも、初めは疑念に満ちた反応だった。立場上、京都を離れることができずノートパソコン越しに顔を合わせたのだ。今を思うと信頼されないのは無理もない。なんなら、ヴィランだと思われて攻撃されなかっただけ温情的だったと言える。
何度もコンタクトを続け、食料や武器などの物資を送り届けたり、京都までのルートにいくつもの中継拠点を用意して遂に信頼を勝ち取り、同盟関係を結ぶことができた。出費は大きかったが、信頼を得るためなら安いものだ。
信頼を勝ち取ってから1年が経った。この1年、何故かわからないが、拠点周辺地域のヴィランが大きく減り、戦いで傷つくことはあっても命が奪われることはなくなった。大地震が起きたりもしたが、軽傷者と建物の損害だけで済んだ。そして、駆藤たちが「魔王」の拠点を襲撃し、その後の受け入れをすることになった。遂に彼らを迎え入れる時が来たのだ。
だが、被害も少なく順風満帆な時は1本の連絡で終わりを告げた。
「ドラキュリアだと……!?」
『……ああ。今、俺たちはやつの元にいる』
駆藤たちからの連絡は耳を疑うものだった。
「魔王」を自称するドラキュリアと名乗る女ヴィランの存在。裏切ったのかと問いかけようとした時だ。
『……わたしだ』
ノイズが走った直後、駆藤とは別人の声が響いた。凛とした女の声だ。
「まさか、お前が?」
『そうだ。わたしが、ドラキュリアだ』
その声を聞いた瞬間、無線機越しだと言うのに全身の毛が逆立つような悪寒が走った。人間らしい感情を感じさせない、ゾッとするほど冷たい声だった。
『先ほど聞いた通り、駆藤たちの身柄は我らが預かっている』
「……一体、何が目的だ?」
『「魔王』オール・フォー・ワンの死。それだけだ』
ほんの僅かだが、女の声は低く聞こえた。
『其方らは駆藤たちと同じく、やつを滅ぼすべく組織を率いているのは知っている。我らに協力しろ』
「貴様のような狂った悪党とは手を組まんぞ……」
強気な態度で拒絶する。こう言った輩に弱みを見せるのは悪手だ。
『「魔王」が京都に向かっているのは、駆藤から聞いたのではないのか?自分たちの力でどうにかできるとでも?』
「ぬう……」
痛いところを突き刺してくるドラキュリアに思わずうめいてしまう。
『私の手を取るのであれば、其方らが最も欲するものを差し出すと約束しよう』
「ヴィランから施しなど受け取れん……!」
無線機の向こうからため息が聞こえた。
『施し?違う。これは、等価交換だ。我らはあの男を葬るために動ける人員を欲している。そして其方らはあの男を葬るために力を欲している。我らは利害が一致しているとは思わぬか?』
「だとしてもだ!貴様と手を組む気はない!!」
今度はさらに深いため息。
『理解に苦しむ。「魔王」と戦うのに手段を選り好みするほどの余裕があるのか?己の信念を通すためなら自身の命だけでは飽き足らず、仲間たちの命も危険に晒すのか?其方はそれでも一団の長か?」
淡々とした声だが、呆れと侮蔑の感情が伝わってくる。どんな顔をして言っているのだろうか。お前に私の何がわかると言ってやりたいが、ドラキュリアの正論に返す言葉は出なかった。
『私の手を取らなければ、其方らは京都に押し寄せてくる「魔王」の軍勢に蹂躙されるのみ。やつが弟を見つけ出そうと西へ向かっているのは駆藤から聞いたであろう?万を超える軍勢に対抗できるのか?』
先ほどと変わって、今度は聞き分けのない子供を諭すような口調。余計に腹が立ってくるが、ここは冷静に考えをまとめる。
確かに、数日前に駆藤から拠点の襲撃を終えてこちらに向かう最中に「魔王」がもう迫ってきたと連絡を受けた。この時すでに駆藤たちはドラキュリアに捕まって、脅されて無理やりつかされたウソの可能性もある。しかし、もしもドラキュリアの言葉が、駆藤の言葉が真実であったら?
「魔王」が大規模なヴィランの一団を率いて、関東一帯の表社会と裏社会の両方を支配してるという噂を関東にいる知人から聞いた。その総数は数千から数万。それが一気に京都に押し寄せて来るとしたら?たった1人の弟を連れ戻すために「魔王」も直々にやってくるとしたら?
ドラキュリアの言う通り蹂躙されておしまいだ。一応、万が一を想定して別の拠点も用意してあるが最悪、たどり着く前に追いつかれて全滅もあり得る。なんとか逃げ切れても、よくて半数以上は犠牲になるだろう。
『私はあの「魔王」の力に屈することなく、反発するほどの気概を持つ其方らが欲しい。私の手を取り、共に戦え。さすれば、其方らが求めるものを与えよう』
ただし、私が与えられるものに限るがなと補足するドラキュリア。
女性に認められて強く求められるのは1人の男としてうれしい話だが、相手が相手だから素直によろこべない。
『四ノ森さん……』
すると、一瞬だけ無線にノイズが走り、駆藤の声が響いた。
『これまでの会話でわかった通り、ドラキュリアは恐ろしい女だ』
どの口がと怒鳴りたい気持ちをグッと堪える四ノ森。ここは抑えて声に耳を傾ける。
『「魔王」が他人から“異能”を奪い、与える“異能”を持っているのは知っているな?』
「……ああ。それがどうした?」
頭に手を置けば、“異能”を奪うも与えるも思いのまま。さらに、奪った“異能”を自由に使うこともできる無法の力。駆藤から送られて来た映像資料で確認済みだ。
『ドラキュリアもまた、“異能”を与える“異能”を持っている』
「なんだと……?」
思わず目を見開いた四ノ森。駆藤は話を続ける。
『与える“異能”の名は『ヴァンパイア』。ドラキュリアはその名の通り、他者を人の生き血を啜る鬼へと変貌させることができる』
創作におけるヴァンパイア、メジャーなものでドラキュラを思い浮かべる。白い肌と鋭い牙、蝙蝠のように夜空を舞う吸血鬼。今の世の中、想像が現実になり行く世界だと理解しているが、ここまで来ると頭が痛くなりそうだ。
『「魔王」は、強力な“異能”を持ったヴィラン共を率いている。対する俺たちは“異能”を持たない者も抱えていて、数も質も圧倒的に下だ。対抗するにはドラキュリアの力が必要だ』
「バカな!仮にその話が真実であっても、その女の手を取ることはできん!」
『……四ノ森さん』
声を荒げた後に、わずかな間を置いて駆藤はこちらを呼んだ。
『あなたは、一体何のために「魔王」と戦おうとしているんだ?』
静かだが、確かな重みのある駆藤の問いに四ノ森は思わず息を飲んだ。下手な答えは許されない、そんな問いかけに答えるため、すぐに冷静さを取り戻す。
「……次代の子供たちが平和に暮らせる世を築くためだ」
「……次代?」
「ああ。駆藤、私は、“異能”が存在しない時代で生まれ育った世代の人間だ。君たちが第1世代と呼べるなら、私は第0世代と言ったところか」
あの時代は本当に良かった。毎日争いが起きて死傷者が出るようなことはなかった。時折、胸が痛くなるような事故やトラブルのニュースを見ることはあったが、それでも今と比べて遥かに平和と言える時代だった。
病死した父の跡を引き継ぎ、大学卒業後に弱冠22歳で四ノ森家の当主となった若かりし頃、中国で“光る赤子”が生まれたというニュースを耳にしたのが始まりだった。
それから各地で“異能”を持つ子供が次々と生まれ、比例するように偏見、差別、迫害による殺傷など悪いニュースばかり聞くようになった。
そして、妻との間に生まれた待望の息子が4歳を過ぎてから、よく頭痛を起こすようになった。ヴィランが襲って来る前触れのように、人間の悪意などの危険が迫った時は決まって耳元で叫ばれたかのような耳鳴り、頭に針が突き刺さったような鋭い痛み、あるいは雷に打たれたかのようなビリビリと痺れ、胃の中のものを吐き出して泣きながら訴えて来たのを今でもよく覚えている。
そう。我が子にも“異能”が宿っていたのだ。
発覚してから必死に隠し通した。重度の偏頭痛と偽りの診断書も用意した。この時から“異能”を奪う“異能”を持つ「魔王」がいると、他の名家の者たちの噂で聞いたのだ。何が起きてもおかしくない混沌の世界へ向かっていくこの時勢、せめて妻と息子だけでも守ろうと誓った。“異能”がなかった頃の時代とまでとは言わずとも、堂々と日の下を歩いていける世を目指して戦おうと誓った。平和のために、「魔王」を倒そうと誓ったのだ。
これが、四ノ森日良が武器を手に立ち上がる
『…………あなたの言い分はわかった。だが、あなたも俺ももう手遅れだ。もう他に道は残されていない』
駆藤に日良の言葉は響かなかった。
『今からドラキュリアたちと共にそちらへ伺う。そこで、あなたと仲間たちに彼女を紹介する。そして、その力を見せよう』
「待て!一体、何をするつもりなんだ!?」
『時刻は19時頃。そこで俺は皆の前でドラキュリアから“異能”を、『ヴァンパイア』を受け取る。言い出しっぺというやつだ」
「気は確かか!?本当に、そこにいる得体の知れない女の言葉を鵜呑みにするつもりか!?」
無線機からため息が聞こえた。
『さっきも言ったはずだぞ四ノ森さん。俺たちにはもう、道は残されてない。進むも地獄。退くも地獄。今の俺たちはその中心にいる。それならばいっそ、地獄へ突き進んで行くべきだ』
「ぬう……」
淡々と静かだが、力強いその声に思わず気圧されそうになった。
『そう言うことだ。時間前にそちらへ行く。ではな』
ノイズが走ってドラキュリアの声が響き、簡潔に言いたいことだけ言ってブツリと通信は切れた。
そして時は遡り現在に至る。
駆藤の仲間たちも含めて、拠点にいるすべての者たちに事を説明すると、当然疑問視する声が挙がった。中には「裏切って魔王に着いたのでは?」と疑う者もいれば、「迎え打つべきた」と武器を出す者、数は少ないが「強力な味方を連れて来る!」と希望的観測を持つ者と、意見が別れて激しい論争が起きる寸前だった。なんとか落ち着かせ、敵意があるか怪しいと判断した場合は銃器の発砲と、“異能”による攻撃を許可することでなんとか妥協させた。
日良は心底自分が嫌になった。仲間たちを落ち着かせたところで何になる。悪魔を招き入れるようなものだ。
もう一度、腕時計に目をやると時刻は18時58分。もう来てもいい頃合いだ。
その時だった。
「ぐぅあああぁぁ……!!!」
子供のうめき声が背後から聞こえてきた。慌てて振り返ると、屋敷の使用人に支えられながらフラフラとこっちへ近づいて来る少年の姿があった。
「避影……!?」
思わず息子の名を読んで駆け寄る。自分とよく似た髪色と癖と顔立ちの我が子は頭を、こめかみを片手で抑えながら息苦しそうに顔を上げた。
「と、父さん……!怖い……!!」
「怖いだと……?」
思わずオウム返しで声に出す。避影は顔面蒼白で、玉のような大粒の汗を流して苦しそうに短い呼吸を繰り返す。
「旦那様……いつもの頭痛です」
使用人は心配そうに避影を見ながら報告してきた。
「避影坊っちゃまはご覧の通りいつものとは比べ物にならないほどの頭痛で、鎮痛剤を飲ませて休ませようとしましたが、それより先に旦那様の下へ行って伝えなければならないことがあると言って、お連れしたのでございます」
使用人はハンカチを取り出して避影の汗を拭う。それでも汗は止まらない。
「あの時と同じです。1年以上前、大地震が起きた時のように……」
「避影!一体何が怖いと言うんだ!?何かが来るのか!?」
使用人の声を半分以上聞き流し、「怖い」と繰り返す避影に問い詰める。
過去に同じようなことは何度かあった。
避影は、危険が迫る時には決まって頭痛を訴えてきた。主にヴィランと対峙した時や襲撃など決まって頭痛を引き起こす。ナマズが地震を予知するように強烈な悪意や敵意や殺意に反応する“異能”で、そのまま「危機感知」と名付けた。
使用人の言う通り、今のように尋常ではない頭痛に苛まれたのは1年以上前、大地震が起きた日だ。ここ、孤里板区から10km以上離れた先にある山々の方角を指差していた。
『あそこに、「何か」が、いる……!!!』
それを最後に避影は意識を失った。
幸い、避影は命に関わることはなく、次の日に目を覚ました。念のため脳の検査を受けて見たが異常はなかった。そして拠点は死者や重傷者が出たり屋敷が倒壊することはなかったが、負傷者の完治や拠点修復に数ヶ月もかかった。
大地震発生後も時折、数週間か月に1度のペースで避影は山々の方角から強い殺意を感じて頭痛を起こすようになった。気を失うほどの痛みでないにしても、10km以上遠く離れた方向から殺意を感じるなんてことは今までになかったし、明らかに異常事態だ。
原因を調べようと山に入ろうとしたが、山の麓は土砂崩れが起きていて迂闊に近づけない状態だった。慎重に安全なルートを探すために周辺をグルリと回りながら探すはめになり、やっと登山できてもハイキングコースなどなく、倒木も数え切れないほどあり、取り除きながら進むのに時間と手間がかかって難航した。さらに、拠点の人数が減った隙を狙っていたかのようにヴィランの襲撃が相次いで中断。
結局のところ、人員を派遣する余裕がなく、往復するのに距離が遠すぎる上にリスクが大きすぎるため、山の調査は断念したのだ。人命には変えられない。
自然に阻まれ、今まで入ることができなかった山々にいる「何か」が、この拠点に近づいて来ている。
「旦那様!!」
頭上から声が降って来た。顔を上げると門の傍らに建てられた、高さ15mを越す足場で作られた物見櫓の見張りだ。
「駆藤様とブルース様と死柄木様がお見えになりました!!」
双眼鏡を持った見張りがサーチライトで照らした先を目で追うと、3人の男たちが真っ直ぐこちらに向かって来るのが見えた。薄暗く曲がり角がいくつもあるとはいえ、こちらから200mほどの距離だ。いつの間に姿を現したのだろうか。
遂に来たかと思うところだが、タイミングが悪すぎる。
「うう、あああッッッ!!!」
「避影坊っちゃま!どうかお気を確かに!!」
突然、避影は頭を両手で抑えながら悲鳴を上げてその場に蹲った。使用人は慌てて、薬と水が入ったペットボトルをウエストポーチから取り出して飲ませようとする。
「避影!!あの3人……!!」
いいや、違う。駆藤たちではない。
突然、大きな影が駆藤たちを照らす真っ直ぐ伸びたサーチライトの光を横切った。一瞬だけ見えた影は鳥にしてはあまりに大きく、コウモリのような形に見えた。
「まさか……!?」
影はふたたび光に現れると、カーブを描いて日良たちへ方向転換した。
「上を照らせ!!」
日良の命令でサーチライトが上空に向けられた。光の先に見えたのは人型のシルエット。ハンググライダーのように滑空しながら日良たちに迫って来る。
「頭が、割れる……!!ああぁぁぁッッッ!!!」
距離に比例するように、避影は激痛に悶え声を上げる。そして、その姿は徐々にハッキリと見えてきた。
コウモリの翼を彷彿とさせる裏地が真っ赤な黒マント。
白魚のような腕と黒いロングブーツを履いた、長くしなやかで魅力的な足。
両肩と右半身の鼠蹊部と太ももを大胆に露出した、煽情的な濃紺色のホルターネック・スリットドレス。
雪のように白い髪と肌、血のように真っ赤で燃えるような光を宿した目。
同じ人間とは思えないほど整いすぎている妖艶な美貌。
常人の10倍の質量があろう圧倒的巨体。
サーチライトの光に照らされ、夜空から音もなく美しい巨人がゆっくりと舞い降りてくる光景は、どこか神秘的で恐ろしい光景だった。
白い巨人は羽のようにフワリと、日良たちの前に片手と片膝から着地する。膝をついた低姿勢にも関わらず、見上げてしまうほど大きい。
ゆっくりと顔を上げる巨人。年は30代半ばから後半、シミ1つない白く艶やかな肌、瞳の色彩は赤く燃えるように光り輝いているのに対し、瞳孔は本物の空洞のように底が見えない黒。絶世の美女と言う言葉すら薄っぺらく感じてしまう美貌だった。
ゆっくりと背筋を真っ直ぐ伸ばして立ち上がる。とにかく、大きい。日良の2倍以上、4m近い身長。単純な縦長ではなく、バランスよく横幅と厚みもあり、美女をそのまま巨大化させたような姿だ。
グラビアアイドルが子供に見えるほどの豊満さ、1流モデルも霞んでしまう脚線美、それでいて現役女子アスリートのように無駄なく引き締まった筋肉がある手足とくびれは、男なら思わず唸ってしまうほど魅力的だった。
そして何より、その身から漂う人間とは思えない不気味な気配。水中にいるかのように全身が重苦しく、思うように息ができなくなる。日良のように鋼鉄の精神力がある者ならともかく、常人なら悪寒と震えが止まらずその場で動けなくなるだろう。堂々とした立ち姿も合わさって、跪いてしまうような威厳すら感じる。
「まさか、お前が……?」
日良は冷や汗をかきながらも何とか平静を保ち、目を閉じて震えながら避影を抱きしめる使用人の盾になるように、巨人の前に出て問いかける。
巨人は日良を見下ろす。
「我か名はドラキュリア。其方らの中から我が血を受け入れる者がおるか見定めるべく、山々の悪魔城から参った」
鋭い牙が覗く整った赤い唇から、脳内に直接響くような抑揚のない声が響いた。
日良(こいつが……ドラキュリア!!)ゴクリ
避影「頭が割れるウゥゥッッッ!!!」危機感知ビンビン
ドラキュリア(よし!カッコよく決まった……!!)
ヒロアカ風プロフィール
Birthday:1/4
Height:181cm
好きなもの:妻子、八ツ橋
THE・裏話
・本作のオリキャラ。空手4段の達人。黒帯。
後のワン・フォー・オール4代目継承者・避影の実父。
武器を手に取りヴィジランテになったのは、混沌に満ちた世界を息子が安心して日の下を歩いて生きていける平和な世の中にするため。
ヴィランから息子を庇って命を落とした最愛の妻・
・
日良たちが拠点を置いている京都市の地区。
平安時代に山から鬼が下りて来て人々の前に現れ、災いを齎したという伝説が残っている。
そして今宵、伝説が再現された。
由来はSTAR WARSのシス発祥の惑星コリバンから。
はい、また遅れて来ました花の佑人です。
20話になってまだ超常黎明期から抜け出せない。この調子だと原作開始時が何話になるか。と言うかホリー。歴代継承者たちが主役の外伝を出して欲しい。無理なら、引き出しちょっと開けて設定資料を出してくれ!
最後まで読んでいただきありがとうございました。
誤字報告や感想をいただけると大変励みになります。
それではまたお会いしましょう。