ドラキュラ?いいえ、ドラキュリアです   作:花の右人

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夏バテがエグい、モチベーションが上がらねえ・・・・・・

大変長らくお待たせしました。21話目になります。
拙い駄文ですが、お楽しみいただければ幸いです。



21. メインヒロインより出番は少ないけど、人気を集めるママキャラって結構いるよね

「があああああああァァァッッッ!!!!」

 

 うわっ、うっさ。あ、こんばんは。ドラキュリアです。ただ今、駆藤に俺の血を飲ませて眷属化が始まったところです。

 

 遡ること数十分前。俺、死神(デス)、与一、駆藤、ブルースの5人、要塞屋敷にやって来た。

 出迎えたのは胴着と袴の上にプロテクターをつけた変な格好のおっさん、頭を抱えながら絶叫して悶えるおっさんによく似たショタ、そんなショタを震えながら抱きしめるエプロン姿のお手伝いのお姉さん。なんだコレ。

 

「ドラキュリア様。このちびっ子、よく見たら4代目じゃないですか?」

 

 後ろでフワリと浮かんだ死神(デス)が耳元でささやいた。

『ワン・フォー・オール』4代目継承者・四ノ森避影。

 京都のヴィジランテのリーダーが同じ苗字だからまさかと思ったが、やはり当たっていたか。

 確かこいつの“個性”は『危機感知』。悪意・敵意・殺意に反応するセンサーのような“個性”だったな。だとしたら、俺の中にある『魔王ドラキュラ』が持つ暗黒魔力・・・・・・負の感情と邪な欲望のエネルギーに反応してこうなってるのか?

 

「無意識に漏れる暗黒魔力でも、このちびっ子には強烈なんで抑えてくださいな」

 

 息が耳に当たってくすぐったい。わかったよ、抑えればいいんだろ。

 指パッチンで体を黒い霧で包むと、髪を黒く染め上げ、黒コートの下にベスト、黒いレディースパンツの出立ちにチェンジ。身長は元の半分で人並みサイズに体を縮めた。体感でザッと全ステータスを5分の1まで下げたぞ。

 

「あああぁぁぁッッッ!!!・・・・・・あれ?痛みが・・・・・・?」

 

 4代目はまだ少しつらそうだが、痛みが和らいだみたいでゆっくり顔を上げる。そして俺と目が合うと、顔を引き攣らせて「うっ」とうめく。おい、失礼だなお前。

 

「そこのメイドよ。早くこの少年に薬を与えて休ませてやれ」

 

 声をかけられてビクゥッ!と体を強張らせたお手伝いのお姉さんは、「はっ!?ははははいいいぃっ!!」と慌てて4代目を抱き抱え屋敷の中へ飛んで行った。さて。

 

「其方が四ノ森で間違いないな?」

 

 目線の高さはまだこっちが上だけど、変身したおかげでこのおっさんと話しやすくなった。

 

「・・・・・・ああ。私が、この孤里板区のヴィジランテをまとめている四ノ森だ」

 

 おっさんは警戒しながらも、怖がらずに真っ直ぐ俺を見て答えた。なかなか肝が据わっているな。

 

「早速だが、この屋敷の中庭に入れてもらう。それから駆藤の仲間たちも含め、屋敷内の者たちを集めろ。己の口で全て伝え、準備を整えてから“異能”を渡す」

 

 チラッと振り返ると駆藤はおっさんの前に出てきた。

 

「四ノ森さん・・・・・・いきなりで困惑していると思うが、今はドラキュリアの言う通りにして欲しい。中庭で俺から伝えたいこともある」

 

「・・・・・・ああ。わかった。今は言う通りにする。話は中庭でだ」

 

「今は」か。こっちの動き次第ってことか。もっとごねるかと思ったけど、意外とあっさり事は進んだ。

 中庭に向かって屋敷内の人間が集まるまでの間は、戦闘向きの“異能”持ちや銃や刃物で武装したヴィジランテたちが20人、俺たちを取り囲んだ状態で待機することになった。もし、おかしな動きを見せたり敵意があると判断した場合、その場で殺すとのこと。まあ、大幅に弱体化してる今の状態でも殺ろうと思えば、死神(デス)の力を借りずに1人で全滅できるんだけどね。

 

「リーダー!!ブルース!!」

 

 襖が勢いよく開けられ、おっさんが後ろに大勢のヴィジランテたちを引き連れてやってきた。ヴィジランテたちは靴も履かずに縁側を飛び降り、駆藤たちの前に駆け寄って来た。テンション高っ。

 

「よかった!心配したんだぞ!!」

 

「無事でよかったよリーダー!ブルース!」

 

「いくつものチームが「魔王」たちに襲われて連絡がつかなくなったと思ったら、ドラキュリア?とかいう変な女に捕まったと聞いて、どうなることかと思ったぞ!!」

 

 あっという間に囲まれ、わちゃわちゃもみくちゃにされる駆藤とブルース。仲間たちとの関係は良好そうだ。

 

「その「変な女」とは、私のことだ」

 

 駆藤とブルースとヴィジランテたちの前に出ると、一気に静まり返った。ギョッとしたやつ、敵意あるやつ、顔を少し赤くして俺を見るやつと反応は様々だ。

 

「駆藤、改めて己の口でこの者らに伝えよ」

 

「わかってる。みんな、聞いてくれ。俺は────」

 

 そこから俺が話したこと、無線でおっさんと話したことを一通り語っていった。

 AFOを倒すために俺の手を取ったこと。

 今のままでは仲良く共倒れになること。

 そして、無力感を痛感し、力を求めていることを。

 

「そんな・・・・・・!リーダー!考え直してくれ!!」

 

「いや、もう決めた。今のままではダメなんだ」

 

 駆藤は首を横に振って俺を指差した。

 

「ドラキュリアの力は本物だ。「魔王」と戦い、打ち勝つには協力が不可欠。だから俺は、ドラキュリアに自分の全て明け渡すことを条件に、“異能”を受け取ると決めたんだ」

 

 これは、俺と駆藤が交わした契約だ。

 オール・フォー・ワンに歪な愛情を向けられる弟、与一。

 オール・フォー・ワンに涙を流させたた男、駆藤。

 字に羅列してみると、とんでもない2人だ。

『ワン・フォー・オール』の継承者であるこの2人は、デクやオールマイトほどじゃないにしても、十分にイカれている「本物」のヒーローだ。俺はこの2人に足りない「力」を、『ヴァンパイア』を与えて眷属に変えればあの野郎に精神的な隙を作れるんじゃないかと考えた。

 

 無力感と力への渇望が強まるように追い込み、自分から俺に求めてくるようにする。無理やり血を飲ませて『ヴァンパイア』を付与するのは簡単だ。だけど、それじゃ意味がない。あくまで、自分の意思で受け取ることが重要なんだ。

 考えてみて欲しい。あのヤロウは与一に『力をストックする個性』を与えた際に激しく拒絶された。俺の場合、与一は自分から『ヴァンパイア』を求めてきた。この事実をあのヤロウが知ったら、間違いなく嫉妬で怒り狂うだろう。

 そして、溺愛する弟を攫って毒した要因を作ったのが『ヴァンパイア』の「女」である駆藤。

 原作ではアレだった与一、駆藤、オール・フォー・ワンの三角関係に、与一と駆藤の背後に立つ形で俺が加わって四角の人間関係を作り、さらにあのヤロウの感情を逆撫でして冷静さを奪う作戦だ。

 

 え?火に油?怒らせて負けるフラグって?ナメんなよ。俺は『魔王』ドラキュリアだ。転生してすぐ初戦敗退したが、人間の負の感情と邪な欲望の扱いはあのヤロウより上だ。

 

 閑話休題。

 

「駆藤。ギャラリーが集まる。眷属となる儀式の準備をするぞ」

 

「ああ・・・・・・」

 

 そうこう話しているうちに、あちこちの襖が開けられてぞろぞろと屋敷の中から大勢の人間たちが中庭に集まってきた。入り切れなかった者たちは縁側から、2階から俺たちを見守っている。中庭のギャラリーの間を縫うように、おっさんが俺たちの前にやって来た。

 

「言われた通り、今集められる者たちを集めたぞ」

 

「ご苦労、四ノ森。では、始める前に改め────」

 

 池に向かって数歩下がり、指パッチンして黒い霧に身を包む。ギャラリーの驚きとざわめきの声を聞きながら本来の姿に戻り、霧を消し飛ばしてお披露目した。

 

「我は魔王ドラキュリア。今から暗黒の儀式を行う」

 

 俺の本当の姿を見たギャラリーはいろんな反応だった。ギョッとした顔でその場に膝から崩れ落ちたり、ビビって腰を抜かしたり、棒立ちのまま顔を引き攣らせて固まったり、目を見開いてあっけに取られたり、中にはどこか恍惚とした目で俺を見たりと、与一たちと初めて出会った時と似た反応もあれば違う反応あって、とても新鮮な気分だ。

 

「マイヒーロー・・・・・・」

 

「リーダー・・・・・・」

 

「・・・・・・・・・・・・」

 

 そんな中、与一とブルースとおっさんは俺より駆藤を見つめていた。俺のヴァンパイア・アイには心配、不安、不満と言ったグレーな感情が魂の色に現れて見える。

 

「来たれ、駆藤よ!」

 

「ああ」

 

 少しテンションが上がった俺の声に答え、駆藤は前にやって来る。池の前で向かい合うと、池を指差す。

 

「覗いて見ろ」

 

 駆藤は言われた通り、池を覗く。屋敷の明かりに照らされて、水面に駆藤の顔が映る。改めてよく見ると、不安と恐怖によるプレッシャーとストレスで満足に寝つけなかったのか、うっすらと目の下に隈ができている。本人は気づいていないが、さらに細かく見ると髪や肌も荒れているのがわかる。前世だったら無頓着で気づかなかったけど、こんな感想が出る俺ってとても美容に気遣う女になったんだな。死神(デス)の教育の賜物だ。

 

「儀式が終わった時、お前は人間から『ヴァンパイア』へと生まれ変わり、全くの別人になる。最後に見る己の姿をその目に焼き付けておけ」

 

 駆藤の魂に、不安と恐怖の色がじわりと滲んでいるのが見える。覚悟はしているが、それでも完全に振り切ることはできないんだろう。

「お前、今から全身整形手術な。完全な別人になろうな」って言われてすぐ受け入れられるやつはいない。顔と声と体は大きなアイデンティティだ。それが別物になると聞いたら不安になって当然だ。転生してヴァンパイアの女になって驚いたけど、すぐによろこんで受け入れた俺とは訳が違うからな。

 今の自分との最後の別れと心の整理を済ませて、決意を固めるための時間くらい与えてやってもいいだろう。

 

「もういい。覚悟はできている」

 

 思ったより早く、1分くらいで駆藤は顔を上げて俺を見た。

 

「ならば始めるとしよう」

 

 駆藤に右手を伸ばすと体を鷲掴みにして持ち上げ、首にガブリと噛みついて血を吸い上げた。

 

「「「リーダー!!!」」」

 

 ギャラリーの中から、駆藤の仲間たちが声を上げて飛び出してきた。2階からも、他のヴィジランテたちがピストルやライフルを、遠距離型の“個性”を発動して俺に向けて放った。

 

ザンッッッ!!!

 

 突然、青白い光の波に石畳が切り裂かれ、砂利が舞い上がる。線を引くように大きな光が庭園を横断しヴィジランテたちを阻んだ。ヴィジランテたちの足を止めるどころか、飛んできた銃弾と“個性”すら消し飛ばす。踏み込んでいたら命はなかったろうな。

 

「は〜い、ストップ」

 

 光が消えると気の抜けた声が上空から響く。ギャラリーが顔を上げた先には、大鎌を肩に担いだ死神(デス)がフワフワと浮かんでいた。

 

「あんたたち、儀式の邪魔しちゃダメだよ」

 

 綿毛のようにゆっくりフワリと、俺たちの側の降り立つ死神(デス)。いつものようにニヘラと笑っているが、目は笑っていない。

 

「2階のあんたたちも、ヤジは禁止だよ」

 

 死神(デス)が見上げた先にいるヴィジランテたちの首に、宙を浮かぶ小鎌がかけられていた。下手に動けば首が落ちるだろう。

 

 そんなやり取りを横目に、駆藤の血をある程度飲んで地面に下ろす。顔面蒼白になった駆藤は力なく崩れ落ちたが、まだ意識は残っている。俺を見上げるとすぐに体を起こし、膝を震わせながら何とか立ち上がって見せた。

 

「おー、なかなかガッツあるねぇ」

 

 ヘラヘラ笑いながら横に立つと、死神(デス)はその耳元で囁いた。

 

「よかったね。ドラキュリア様が牙を突き立てて血を飲んだ男は、あんたが初めて。ファーストドレインってやつだよ」

 

「余計なことを言うな」

 

 何だよファーストドレインって。ファーストキスみたいに言うなよ気持ち悪い。

 

「・・・・・・・・・・・・どうでもいい。次は、与一が飲もうとした、あの黒い血を飲めばいいのか?」

 

 息苦しそうに掠れかけた声で駆藤が問いかける。

 すごいなこいつ。体感で1.5lくらい血を吸い取ったのに、意識があるし喋ってる。並の人間より鍛えてあるにしても、出血性ショックで死ぬ手前の状態だってのに精神力だけで立っている。流石は未来の2代目継承者と言ったところか。

 

 ポンッと白い煙を出してワイングラスを創造。100均に売ってありそうな、飾り気のないシンプルなデザインのグラスだ。

 次に爪でスッとリストカット。傷口から溢れ出る黒い血に、駆藤がヴァンパイアになった姿のイメージを乗せながらグラスに注ぐ。分量はざっと100mlくらいだ。

 

「飲め」

 

 グラスを駆藤に差し出す。駆藤は震えた手で受け取り、注がれた黒い血を見下ろす。

 

「改めて言うが、これを飲めば其方に第2の“異能”『ヴァンパイア』が付与され、強大な力を得て私の眷属となる」

 

「その代わり、あんたは人間に戻れない。人間の生き血を啜る鬼になってこの先一生、お天道様に顔向けできなくなる」

 

 死神(デス)がそう補足すると、駆藤は眉間に皺を寄せる。改めて説明を聞いて、その魂にわずかな迷いが滲み出てきた。しかし────

 

「舐めるな」

 

 顔を上げる駆藤。その顔は死人のように青白く、冷や汗に濡れている。呼吸は不安定で体は震え、立っているのもやっとだ。棺桶に片足を入れたような状態にも関わらず、その目は、その魂は、覚悟の光をギラギラと放っていた。

 

「もう、覚悟はできている」

 

「人間の生き血を飲み続ける業を背負うことになるのだぞ?」

 

「今さらだ。俺は武器を手に取った時点で、地獄に堕ちると、決まっていた。ヴィランとはいえ何人も殺した。共に戦った仲間たちを何人も犠牲にし、その死体で道を作り、ここまでやって来た。それでも俺は、やつを、「魔王」を殺す力が欲しい」

 

 憤怒、憎悪、悲哀、絶望。4つの負の感情が混ざり合い、その魂をドス黒く染めて迷いと恐怖を塗り潰していく。

 ・・・・・・・・・・・・いいね。こいつは「鬼」だ。ヴァンパイアになる前から「鬼」らしい顔になった。

 

「死線を前にして人は本質を現す」。原作でヒーロー殺し・ステインが言っていたセリフだ。駆藤の言葉に嘘偽りないのは、魂でわかる。

 死ぬ寸前まで血を吸い、生存欲、負の感情、力への渇望を引き出し、その魂を黒く染め上げる。俺の血との親和性を高め、眷属となるための下地は完成した。

 

 ふと、駆藤は与一たちへ向き直る。心配そうに見つめる与一たちに「大丈夫」と言うかのよう薄く微笑むと、真剣な表情へ戻ってグラスを顔に近づける。

 

「俺は、今から、修羅に入るッッッ!!!」

 

 グラスの黒い血を一息に飲み干した。

 

 

 

 ────────────────────────

 

 

 

 黒い血を口の中に流し込む。直後、口内を切った時とは比べ物にならないほど濃厚な鉄の味と臭いが広がる。それを追いかけるかのように、果物の濃厚な甘味と仄かな酸味が出てきて鉄の味と臭いを中和した。

 血を飲み込む。ドロドロしたイメージだったが、血とは思えないほど滑らかで水のような喉越しだった。

 

「・・・・・・いちご?」

 

 思わずつぶやくと、となりで死神(デス)が何かを思い出したかのように「あー」と声を出した。

 

「そう言えばドラキュリア様、日が沈む前にいちごをデカいボウル1杯たらふくドカ食いしてましたよね?」

 

「そのまま飲ませて吐かれたら困るのでな。甘味を取り込んだのだ」

 

「はいはいなるほど、血中に浸透させて子供向けのシロップみたいに飲みやすくしたんだ」

 

「私としても、丁度いいデザートだった」

 

「今日は特別だからいいですけど、明日も夜明け前にドカ食いしたらダメですよ?」

 

「・・・・・・・・・・・・わかってる」

 

「ダメですよ?」

 

「ああ・・・・・・」

 

 2人の呑気なやり取りを聞いて、頭が痛くなりそうだった。

 糖尿病患者の血液はブドウ糖が多く、ドロドロしていると聞いたことがある。なのに、ドラキュリアのドス黒い血は見た目とは裏腹に水のようにサラサラしていて、死神(デス)の言う通り、子供向けシロップのように飲みやすいいちご味だった。

 注射で血管に直接注入したと言われたらまだ納得できるが、口にした物の味を血中に浸透できるなんて、ヴァンパイアとは一体どんな人体構造をしているんだ?

「“異能”だから」と言えばそれまでだが、それを踏まえてもこの女は常識が通じないバケモノだと、改めて実感できた。

 

「それよりあんた。何か変わってないかい?」

 

 死神《デス》が問いかけてきた。

 ・・・・・・?何も起きない?

 

「令裡の時はすぐだったのにねぇ。モルモットのヴィランと違って、正式な眷属化は性別か何かでタイムラグが出るんだろうか?」

 

「タイムラグは望月親子にも言えることだ。それに彼女は胎児たち共々、令裡のような発火は見られなかった。双子を抱えた重体の妊婦という、非常時の特例中の特例であるから今後の参考にはなるかどうか怪しい」

 

 俺のことはそっちのけで考察を始める2人。ん?ちょっと待て。

 

「おい!ドラキュリア!今、何て言った!?」

 

「・・・・・・?非常時の特例中の特例であるから・・・・・・」

 

「違う。その前に発火────」

 

 ドクン!!と心臓が大きく跳ねた。口から飛び出てきたのかと錯覚するほどの爆音が体内から響いた。

 全身の血流が猛スピードで加速していく。体内の臓器、骨、神経、そして血管と、皮の下にある肉体の全てに行き渡っていく。黒い血が広がっていく。

 

 

 

「があああああああァァァッッッ!!!!」

 

 

 

 痛い、痛い、痛い、痛い、痛い、痛い、痛い、痛い、痛い!痛い!!痛い!!!痛いッッッ!!!!

 大きな叫び声が聞こえた。それが自分の声だとわかった時には、俺は地面に倒れ込んでいた。

 

「おっ?始まった始まった!」

 

「うむ。ここは令裡と同じか。さて、どうなるだろうか?」

 

 死神《デス》は花が開いたような笑顔で俺を見下ろし、ドラキュリアが何か考え込むように顎に触れる。自分の叫び声にかき消され、何を言ってるのかまるで聞こえない。

 

「マイヒーローッ!!」

 

「リーダーッ!!」

 

 ぐにゃぐにゃと歪んでいく視界に与一が、ブルースが、仲間たちが映る。みんな心配そうに俺を見下ろし、慌てた様子で俺を呼んでいるのが見える。

 

「おい!どうなっているんだこれは!?」

 

「駆藤の肉体に『ヴァンパイア』が付与されようとしている。今は肉体が内部から作り変わろうとしている最中だ」

 

 ブルースがドラキュリアに向かって何かを叫び、ドラキュリアは淡々とした様子で返している。

 今はそれより腹の奥が熱い。胃腸が、喉が、肺が、口内が燃えるように熱を帯びている。まるで体内から燃やされているようだ。激痛のあまり、煙の幻覚すら見える。

 

「そろそろだね。どきな、あんたたち!ここから最高潮だよ!!」

 

 視界の中で火の手が上がった。火元は自分自身だ。内部から全身が燃え出した。ブチブチと、全身の筋繊維が千切れる音がする。バキバキと、薪が爆ぜるように全身の骨が悲鳴を上げる。

 

「バケツを持ってこい!!消火しろ!!」

 

 全身に火が回り、激しく燃え盛る音の中で微かに四ノ森さんの声が聞こえた気がした。最早声を出すことすらできない。

 

 

ブツリ

 

 

 俺の中で嫌な音を聞こえた。糸が切れたように全身の力が抜けていく。何も聞こえない。何も見えない。痛みすら感じない。

 俺の意識は闇に堕ちていった。

 

 

 

 ────────────────────────

 

 

 

「マイ、ヒーロー・・・・・・?」

 

 与一はフラフラと駆藤に、いや、「駆藤だったもの」に近づく。煙が上がる黒焦げの焼死体にしか見えないそれに震えた手で触れると、表面がボロボロと崩れていく。

 

「おい、リーダー!ウソだろう!?ウソだと言ってくれ!!」

 

 ブルースは声を張り上げるが返事はない。

 

「ドラキュリア・・・・・・これは一体どういうことだ!」

 

 四ノ森はドラキュリアを睨みつける。四ノ森に続くように、周囲のヴィジランテたち、駆藤の仲間たちはドラキュリアを取り囲み、武器や“異能”を向ける。

 

「・・・・・・・・・・・・眷属化で発火するのは、これで2度目だ。我ながら私の血には不明瞭な部分が多い。これから先も、眷属を増やしてデータを集める必要がある」

 

「そんなことは聞いていない!!」

 

 四ノ森の怒声にドラキュリアは「フン」と鼻を鳴らす。

 

「案ずるな。駆藤は生きている」

 

 ドラキュリアは黒焦げになった駆藤を指差した。

 

「え?マイヒーロー・・・・・・!?」

 

「これは・・・・・・!?」

 

 駆藤の傍にいた与一とブルースがギョッと目を見開く。

 焼死体の体表が、与一が触れた箇所からヒビ割れ、全身に広がって崩壊していく。ゆで卵の殻を剥いたかのようにその下から現れたのは極上の女体だった。

 色はそのままに耳が隠れるほど伸びた尖った髪。透き通るように白い柔肌。細くしなやかな腕。健康的な太もも。丸みのある臀部。くびれたウエスト。

 そして、大きなお椀型の頂点に桜色の────

 

「見るんじゃないよ男共!!!」

 

「あふんっ!」

 

「ぐおっ!」

 

 死神(デス)が2人と女性の間に割って入り、与一とブルースの頭にチョップを叩き込んで乱暴にどける。そしていつの間にか用意した大きなバスタオルを女性の体に巻きつけて隠した。周囲の男性陣は一部、残念そうだ。

 

「立てるかい?」

 

 死神(デス)は手を差し伸べると、女性はボンヤリとした顔で頷き、その手を取ってゆっくりと立ち上がった。

 

「ドラキュリア様。どうですかね」

 

 死神(デス)に声をかけられたドラキュリアは女性の前へ歩み寄ると、屈んで女性の顎を指先で持ち上げて寝ぼけ眼を覗き込む。顎クイである。

 次に指先で側面の髪を持ち上げて尖った耳を見ると、どこか満足そうに頷いた。

 

「瞳は赤い。耳もヴァンパイアのものだ。外見はもちろん、魂の色と形も我らと同じ。無事に眷属化は完了した」

 

 ドラキュリアは女性の背を優しく押し、ギャラリーたちの前に進める。

 

「皆の者、刮目せよッ!!!今宵、ヴィジランテの駆藤は新たな“異能”『ヴァンパイア』を得て、我が眷属に生まれ変わった!!」

 

 その巨体に見合うほどの声量でドラキュリアは告げた。すると、死神(デス)が女性────駆藤の前へ出てきて両手を広げた。

 

「さあさあ皆さん、寄ってらっしゃい見てらっしゃい!!あの逞しかった男がこんな美女へ生まれ変わった!!もちろんただの美女じゃないよ?ゴシック・ホラーの金字塔、ヴァンパイア!!コウモリと夜空を舞い、人間の生き血を吸って永き夜を生きる美しき悪鬼、ヴァンパイア!!」

 

 死神(デス)はセールストークのように、大声てまくし立てながら駆藤をアピールする。ギャラリーに戸惑い、感心、疑念と、様々な反応が出てくる。

 

「ヴァンパイアはすごいよ!ヴァンパイアの力は────」

 

「旦那様!!大変ですッッッ!!!」

 

 バンッ!!と死神(デス)の解説を遮るように襖が乱暴に開けられた。息を切らした使用人が庭に飛び降りて四ノ森の下へ駆け寄る。

 

「大規模なヴィランの1団がこの拠点に向かって来ているとの報告が入りました!!」

 

「・・・・・・数はどれほどだ?」

 

 四ノ森は静かに問う。

 

「およそ500!!こちらより上ですッ!!」

 

 ギャラリーの間に動揺が起きる。「魔王」が攻めて来たのではないかと不安が生じるが、それを振り払うかのように四ノ森は声を上げた。

 

「総員、迎撃用意!!」

 

「その必要はない」

 

 この場にいた者全てが声がした方向を────ドラキュリアを見た。

 

「この戦い、我らが引き受ける」

 

「一体、何をするつもりだ?」

 

 ドラキュリアは駆藤を指さした。死神(デス)が後ろから駆藤の両肩を掴んで、四ノ森の前に押し進める。

 

「戦わせる」

 

「ヴァンパイアの力、実戦でご覧あれ!!」

 

 ドラキュリアの簡潔な一言に引き続き、駆藤の肩から死神(デス)が顔を出して笑顔で補足した。

 




・駆藤敏次

男からTSヴァンパイアになった最初の眷属。
髪と目と肌の色と耳の形以外、後の世に生まれてくる爆豪ママこと爆豪光己とそっくり。
さようなら、マイヒーロー。こんばんは、マイヒロイン。
桐先生が目を覚ました時に、外見だけでも同年代の同性がいた方がお互い安心するという、ドラキュリアなりの配慮もある。
精神世界でのデクとの邂逅が楽しみである。

最後まで読んでいただきありがとうございました。
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それではまたお会いしましょう。
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