だけど、1.2.3.4は絡みがあるけど、5.6.7は情報が足りない。
ホリー、外伝書いてくれ。
大変長らくお待たせしました。22話目になります。
拙い駄文ですが、お楽しみいただければ幸いです。
孤里板区
京都市の1区域。住宅地には日本家屋が多く並び、歴史を感じさせる古風な雰囲気が特徴的な景色が広がっている。
しかし、それはかつての話。“異能”の出現による秩序の崩壊で荒れ果て、街灯や民家の灯りが大きく減った。日が落ちると、夜空に星が見えるほど暗い。
そんな街の大通りを、大規模な車群が我が物顔で走っていた。バス、一般車、バイク、そして大型トラックの順で数が多い1団で、長蛇の列になって暗い車道を走行している。乗務員は何百人いるだろうか。
その先頭を走るジープの助手席に、角刈りで体格のいい大男が腕を組んで座っていた。大男はこの1団の指揮官を務めるヴィランで、「魔王」オール・フォー・ワンの命令により、京都まで派遣された捜査隊の1人だ。
「おい、もっとスピード出せないのか?」
イライラした様子で運転手に声をかける大男。
「これ以上は危険だ。ライトの先は真っ暗闇。勢い余って廃車にでもぶつかったら一大事だ」
運転手は大男に目を向けず、ライトの先の暗闇を睨むように見つめて運転する。
「とにかく急げ。早くヴィジランテ共の居場所を突き止めなきゃ、俺もお前もオール・フォー・ワンに殺されちまう」
運転手は大男をチラリと見る。その顔は血の気が引いていた。
オール・フォー・ワンはヴィジランテに誘拐された弟の死柄木与一を奪還すべく、1万人を超える大規模な捜査隊を結成。関東、中部、そして近畿にまで捜査線を広げるも進展はなかった。
痺れを切らしたオール・フォーワンは捜査隊の指揮官とその配下たちを20名、見せしめに殺す様を動画に撮影して送ってきたのだ。人間と呼べる状態ではない死体を見せつけられた捜査隊は捜査範囲を広げ、睡眠時間を削るほど活動を伸ばすことになった。
「京都市に入ったいくつかの部隊からの連絡が途絶えた。ヴィジランテの仕業だろう」
「・・・・・・ここ孤里板区にヴィジランテたちのアジトがあるのか?」
「可能性は高い」
大男は眉間にシワを寄せながら答えると、時計を確認する。時刻は23時16分。もうすぐ日付けが変わる。
「クソ、何でこんな時間まで他人の弟のために働かなきゃなんねぇんだよ」
深くため息をつきながら、コーヒーが入ったペットボトルを呷る。ここ数日間、探索続きで満足に眠れていない。コーヒーや栄養ドリンクで眠気と疲労を誤魔化しているが、そろそろ限界だ。
「・・・・・・ん?」
一息ついて口を拭い、ふと横目で窓を見ると窓が曇っている。前を向くと、辺り一面白い霧に包まれていた。
「こいつは・・・・・・!」
慌てて無線機を取り、受話器に向かって叫んだ。
「全員、車を止めろ!敵襲だ!車から下りて迎撃用意!」
秋から冬にかけて京都は霧が出ると聞いたことがあるが、先ほどまで晴れていたにも関わらず、これほどの濃霧が急に現れるのはおかしい。後列でも異変を感じ取ったのか、次々とブレーキをかけるのがバックミラーで見えた。
「車道の真ん中で固まれ!左右の建物に警戒しろ!」
大男は無線で連絡して車から下りた。このように冷静な判断と素早い対応ができるからこそ、指揮官に選ばれたのである。
エンジンとライトはそのまま、各々が車から下りて警戒する。濃霧に包まれたことで、闇夜の街はさらに不気味な景色となった。冬が近い時期だが、あまりにも空気が冷たく重苦しい。
まるで、霧と闇の向こうに「何か」がいるかのようだ。
「おい、あそこ、だれかがこっちに来るぞ・・・・・・」
どこか怯えた声で運転手が前方を指さす先に、ライトでも見えない霧の奥に人影がうっすら見える。大男は20人の部下たちに前へ出るように命令を下し、戦闘態勢に入った。
ゆっくりと霧の向こうから近づいてくる人影の正体は、1人の女性だった。
黒いロングコートを羽織り、胸元を開けた黒いワンピースを着た全身黒ずくめの出で立ちだ。
オレンジレッドの尖った髪、黒衣を目立たせる透き通るような白い肌、ギラギラと光る血のように赤い瞳が特徴的な、30代半ばから後半に見える妙齢の美しい女性だった。
「女・・・・・・?」
この時世、夜中に女が1人丸腰で街を出歩くなど不用心どころか自殺行為だ。見るからに怪しい女に、大男の中で警笛が鳴り出す。
「ケッ!驚かせやがって!ビビって損したぜ!」
「全くだ!それよりよく見ろ!なかなかいい女だ」
4人のヴィランが仲間の止める声に耳を貸さず、ニヤニヤ笑いながら女に向かっていく。その視線は大胆に開けた胸元、豊満な谷間に向けられている。
オール・フォー・ワンの軍団には、“異能”と欲望を持て余したチンピラ同然のヴィランが多い。ヴィランは大きく分けて、オール・フォー・ワンに恐怖から従う者、長いものに巻かれようとする者、その力とカリスマに心酔する者と3つに分かれている。
ちなみに、指揮官の大男は前者。200人ものヴィランを束ねたグループのリーダーだったが、オール・フォー・ワンと出会い、圧倒的な力に屈服して服従を選んだ者だ。
「丁度いい!何日もずっと溜まっていたんだ!たっぷり可愛がってやろうぜ!!」
ヴィランたちは女を取り囲む。我慢の限界を迎えた1人がまずはその胸から味見してやろうと、下卑た表情を浮かべながら胸元に手を伸ばした。
ゴシャリ
硬いものが一息に潰された音が響いた。
「・・・・・・あれ?」
ヴィランの腕が、手首と肘の中間が曲がるはずない方向に折り曲げられた。女がヴィランの腕を掴み、枯れ枝を折るかのようにへし折ったのだ。
「ひっ、ぎゃああああぁぁぁッッッ!!!」
耳障りな悲鳴が上がった。ヴィランはよろめき、折れた腕を抑えてその場に膝をつく。
「テメェッ!」
「このアマ!」
「ぶっ殺せ!!」
ヴィランたちがそれぞれの“異能”を発動する。
右腕を身の丈以上のサイズに巨大化させて振り下ろし、両手に電流を発生させて掴みかかり、鋭い針のような舌をカメレオンのように伸ばす。
振り下ろしを半身でかわし、踏み込んで首に手刀を叩き込む。あまりの速さと鋭さに首は宙を舞う。
電流が流れる手に首を掴まれる直前で腕を掴み、先ほどのように一息で握り潰して悲鳴を上げる前に首を飛ばす。
伸ばされた舌を掴んで素早く手繰り寄せ、たたらを踏んで向かってくるヴィランの胸に貫手を突き出す。障子に穴を開けるように鋭い爪が生えた指先は、服、皮膚、筋肉、あばら、そして心臓を貫いて背中から飛び出た。
この間、わずか10秒足らずの動きである。
「ヒ、ヒイィィッ!!」
腕を折られたヴィランは弱々しい悲鳴を上げて、仲間たちの下へ逃げ出した。
「た、助け────えっ」
手を伸ばして助けを求めたヴィランの胸から、真っ赤な腕が飛び出した。その手には蠢く肉塊が握られている。
「お、俺、の心、ぞ」
最後まで言い終わる前に、心臓は凄まじい力で握り潰されて水風船のように弾けた。
ヴィランの体から無造作に腕を引き抜き、女は自分の手を見下ろす。手を口に運び、手首から指先にかけて血をベロリと、ゆっくり味わうように舐める。目尻を下げて恍惚とした微笑みを浮かべた。
その姿は成熟した美貌も相まって淫靡で官能的で、背徳的な悍ましさを駆り立てるものだった。
「こ、殺せッ!!今すぐあの女を殺せッ!!!」
大男が部下たちに命じる。ヴィランたちは一瞬躊躇いながらも、数はこちらが圧倒的だと自らを奮い立たせ、武器を手に、“異能”を発動させて女に向かって駆け出した。
女は顔を上げ、押し寄せるヴィランの1団を見る。その顔に迷いや恐怖はなく、あるのは歓喜。口角を吊り上げて三日月のような笑顔を見せる。その口には糸切り歯と呼ぶにはあまりに大きく、牙と言っても過言ではない鋭い歯が覗いていた。
「ぐ、おおおおォォォッッッ!!!」
女は肉食獣のように吼える。豪雨のようにその身を打ちつける音圧に、殺気立ったヴィランたちの動きが一瞬だけ硬直する。
疾走した女は目にも止まらない速度でヴィランたちへと迫った。怯んで動けなくなった先頭のヴィランを高く撥ね飛ばし、1団に突っ込んだ。
────────────────────────
頭がボンヤリする。視界は霧がかかったかのように曇っていて、自分の体くらいしか見えない。
全身を焼かれる地獄のような悪夢から目が覚めると、俺は黒い服を着ていた。黒いコートの下にヒラヒラした黒いワンピースだ。何故、俺は女物を着ている?
それに、胸がキツくて重い。何か重いものが2つぶら下がってるようだ。肩が凝りそうだ。
ワンピースのせいか足、いや、股がスースーする。強い麻酔でも打たれたのか?あるべきものがないような不思議な感覚だ。
「駆動、駆動よ・・・・・・」
「・・・・・・ん?」
霧の向こうから声が聞こえてきた。視界が少しずつクリアになっていき、大きな影が見えてきた。ドラキュリアだ。
ドラキュリアは俺の前で止まると、前屈みになって目線を近づけてきた。前まで見下ろしていたのになぜだろう?
「駆動よ。オール・フォー・ワンの手勢がこちらに向かってる」
体が強張る。オール・フォー・ワンに感づかれたのか?
「駆動よ。戦え。あの男の犬共を全て殺してしまえ。そなた1人でな」
元よりそのつもりだが、無茶を言ってくれる。
「案ずるな。今のそなたは『ヴァンパイア』だ。以前とは比べ物にならぬ力を手に入れたのだ。成り立てであっても圧倒的な身体能力がある。有象無象が束になろうと蹴散らせるであろう」
そう言われても、現実味がない。胸が重くて体の一部の感覚が麻痺したような、「なくなった」ような感覚で調子が悪いんだ。
ドラキュリアはため息をついた。顔は能面のようにピクリともしないが、「仕方ない」と思ってるのがなんとなく伝わってくる。
「では、私の目を見よ」
視線を上げると、2つの赤い光が見えた。意識がまた霧に包まれていく。
「私について来い・・・・・・」
恐ろしいほど甘く魅力的な言葉だった。山彦のように頭の中で何度も何度も反響する。
やがて小さくなる言葉に返事をしたのを最後に、眠気に襲われて俺の意識は闇の中へ落ちていった。
「本能のままに殺せ。喰らい尽くせ」
2つの赤い光と甘い声に目が覚めた。
ドラキュリアはいなくなっていた。霧の中で俺は道路の上を歩いている。まだ頭がボンヤリしていて、自分の意思とは関係なく体が動いている。感覚はあるのに勝手に動く。
どうやら、俺は夢の中にいるみたいだ。
なんだか、いい匂いがする。匂いの先で無数の光が見えた。車だ。中から大勢の男たちが下りてくる。
ボンヤリ見ていると、4人がこっちに向かってくる。何か言って1人が俺に手を伸ばしてきた。
鬱陶しくて腕を掴むと、ゴシャリと音を立てて折れた。大した力は入れてない。それなのに、泥団子を握り潰したかのようにあっさりと骨が砕けた。
なんだか、おもしろい。
残る3人が“異能”を使って襲ってきた。見るからにどれも殺傷力がありそうな“異能”だが、俺の目には止まってるように見える。
軽く避けて腕を振ると、ポーンと首が飛んだ。
もう一度腕を掴むとまた簡単にグシャリと潰れ、首も簡単に飛ぶ。
伸びてきた舌を掴んで引っ張ると、100kg以上はありそうな巨体が簡単にこっちへ飛んでくる。いつの間にか爪が伸びて女のように細くなった指を突き出すと、障子紙に穴を開けるかのように簡単に貫いた。
すごくおもしろい。
ものすごい力に驚いていると、最初に腕を折ったやつがいつの間にか離れていた。全力で仲間たちのところへ向かっている。背中を狙って踏み出すと、あっという間に目の前だ。
試しに左半身に指を突っ込む。体の中で何かに触れた。それを素早く掴んで腕をさらに押し、軽く握るとそれは水風船のように簡単に破裂した。
ああ、これもおもしろい。
腕を引き抜いて手を見る。赤く塗れた手からとてもいい匂いがする。自然にその手を舐めると、とても甘い。まるで、完熟したフルーツのように甘くておいしい。
もっと、欲しい。
男たちが叫びながら向かってくる。いい匂いが突風のように押し寄せてくる。うれしくて思わず笑って、声を上げて走り出した。
楽しくておもしろくて、甘くておいしいものがこんなにたくさん。
目が綺麗な真っ赤に染まっていく。耳に無数の心地よい音が流れる。鼻にクラクラするほど濃厚な香りが広がる。口はいろんな食感の肉と甘い汁で満たされる。
爪を突き出すとグチャリと柔らかいものが切リ裂かれ、掴んで引っ張るとブチブチと千切れ、蹴りを繰り出すとバキバキとクセになるような折れ砕ける感触が伝わる。
目も耳も鼻も半分効かない。それでもどこに足を進めればいいのか、どこに向けて爪を突き出せばいいのかクリアにわかる。頭の中にいろんな色の光が現れ、人型のシルエットになって浮かび上がった。まるでレーダーのようだ。
どれほど動いたかわからない。1分か、10分か、30分か、あるいは1時間か。周りに反応がなくなって、残念に思いながら食事をしていると、今までとは比べ物にならないほど大きな「だれか」が近づいてくる。
「フフフ・・・・・・」
うれしくて思わず笑い声が出た。自分の声が妙に高い気がしたが、どうでもいい。
新しい大きな獲物に向かって駆け出し、飛び上がって首目がけて爪を突き出した。鋭い爪で首を穿ち、人外の腕力で千切れ飛ぶ────
「な・・・・・・ッッッ!!」
ことはなかった。
俺の爪は、大きな手に腕を掴まれて止まった。手首から二の腕の半ばまで余裕で包み込めるほど大きい。とっさに振りほどこうと片腕を振るうが、また掴まれて宙ぶらりんにされ、空中を蹴ることしかできない。ヴァンパイアになった自分の力ですらビクともしない、恐ろしい力だ。
「私だ。目を覚ませ」
あのとき聞いた甘い声だ。
頭の中の霧が晴れていく。視界が、意識がクリアになっていく。
見えたのはドラキュリアの白い顔。そして、対照的に赤く変わり果てた自分の体だった。
────────────────────────
こんばんは。ドラキュリアです。
駆藤の実戦デビュー見守りの最中です。
戦わせると言った手前、肝心の駆藤は10分経ってもまだボンヤリしていた。声をかけても揺すっても叩いても、返事はどれも上の空だ。目を開けて寝てんのか?
令裡がヴァンパイアになった時は、意識がハッキリしていて受け答えもハキハキできたのにな。性別か、それとも根本的に蝙蝠と人間じゃ親和性がまるで違うのか。
まあ、令裡は1年も俺のそばにいて、暗黒魔力をもろに浴び続けてきた末に強力な魔物へ突然変異した特殊個体だからな。その辺の下地も関係あるかも。
閑話休題
「駆動よ。オール・フォー・ワンの手勢がこちらに向かってる」
オール・フォー・ワンと聞いて一瞬だけビクッと体が強張った。
「駆動よ。戦え。あの男の犬共を全て殺してしまえ。そなた1人でな」
駆藤は何とも言えない顔をした。めっちゃ不安そうだ。
「案ずるな。今のそなたは『ヴァンパイア』だ。以前とは比べ物にならぬ力を手に入れたのだ。成り立てであっても圧倒的な身体能力がある。有象無象が束になろうと蹴散らせるであろう」
令裡なんて『ヴァンパイア』を与えた次の日の腕試しで、バロール*1を倒せるくらい強くなったぞ。1回食われて無傷とはいかなかったけど、少なくともトップヒーローを相手にできるくらい強い。駆藤もそこまでとは思わないけど、充分に強くなったはずだ。
「・・・・・・・・・そうか」
こいつ・・・・・・まさか、失敗じゃないよな?成功したのは見た目だけじゃないよな?
監視用に召喚したスケルトン・マウスとクロウからの情報を見るに、あと30分もすればオール・フォー・ワンの手下共がここに来る。のんびり目を覚ますのを待ってる時間はない。
しょうがないな。あまりやりたくないけど、やるっきゃないか。
「では、私の目を見よ」
駆藤の顔を覗き込むように目を合わせる。
「テンプテーション」
駆藤の目が赤く光る。寝ぼけた顔から、どこかウットリした夢見心地な顔になった。
「私について来い・・・・・・」
「はい・・・・・・」
今までとは違う、従順な反応だ。
テンプテーションは読んで字の如く、「魅了」だ。
ヴァンパイアは魔眼を持ち、目を見た人間を魅了するのはいろんな作品で見られる。同じく、悪魔城ドラキュラの魔王ドラキュラも、人を魅了して操ることができる。仲間同士で殺し合わせることすら可能だ。
駆藤を連れて屋敷の中庭に出る。待っていたかのように、
「行くんですね?」
「ああ。すぐに戻る」
短く答えて駆藤をお姫様抱っこする。おお、柔らけえ。こうして見下ろすと、谷間エッッッロ。
今の駆藤の見た目は色違いの爆豪ママ。実際にこの目で見ると美人だな。女子大生くらいの
「ドラキュリア」
谷間をじっくり鑑賞してると、ブルースと与一が声をかけてきた。何だよ邪魔すんなよな。
「リーダーを戦わせると言ったが、本当にやるのか?」
「無論だ」
はい、終わり。それじゃあ行ってきまーす。
「待ってくれ」
今度は与一が声をかけてきた。なんだよ。
「マイヒーローは、大丈夫なのかい?」
与一の質問に
「だれに言ってんだい。ドラキュリア様は付き添いだよ。万が一、死なせたりしないように遠くから見守るのさ」
「・・・・・・とても戦えるようには見えないよ」
そう見えるよな。だけど無問題。
「案ずるな。駆藤はすでに我が眷属。その力をこれから見せよう」
「デモンストレーションだよ。だまって見てな」
指パッチンでスケルトンクロウを召喚し、
「では、行ってくる」
「はーい、行ってらっしゃーい」
2人はまだ何か言いたそうだったけど、時間が押してるからもう行く。スケルトンクロウを肩に乗せた
手下共の居場所は上空ですぐ見つけた。暗い町中を走る1団は明るくてよく目立つ。
先回りして車道に駆藤を下ろし、もう1度目を合わせる。
「本能のままに殺せ。喰らい尽くせ」
駆藤は命令にうなずくと、光に吸い寄せられる虫のように、車のライトに向かって歩いて行った。
(よし、後は)
ビルの屋上に飛び移り、大きく息を吸う。
「グレイテストミスト」
口から白い霧を吹き出す。霧は瞬く間に辺り一帯を包み込んだ。
ヴァンパイアは蝙蝠、狼、霧に変身することができる。この技はその応用で血=肉体の一部と解釈を広げ、血を霧に変換したものだ。相手の視界を制限できるし、やろうと思えば余裕で街1つ覆い尽くせる優れものである。
霧に包まれて手下共は警戒してその場で停車する。すぐにスケルトンクロウとスケルトンマウスを大量に召喚して放ち、撮影準備に入らせる。屋敷にいるヴィジランテたちによく見えるように霧の中でも視界良好に調整っと。
・・・・・・よし、舞台は整った。後は主役がどう動くか。
そして主役に気がついた手下共のうち4人が、ヘラヘラ笑いながら駆藤に近づいていく。バカな連中はあっという間に殺された。魅了されてる上に初めてにしてはいい動きだ。
そこから戦いが、いや、虐殺が始まった。
長く鋭い爪で首や胴を斬り飛ばし、残像が見えるほどの蹴りで手足や臓物が舞い上がり、掴みかかっては牙で喉を食い千切るワイルドっぷり。ヴァンパイアというより、
手下共も負けじと刃物で斬りつけるが刃は折れ、至近距離から鉛弾を撃ち込んでもせいぜい薄皮を傷つけるだけで、すぐに再生する。銀製なら危なかったかも。
持ち上げた車で殴られてビルの壁に叩きつけられたり、火炎放射器のような炎を浴びせられて燃やされたりと、“個性”で大ダメージを受けてもアスファルトに転がる死体に齧りつき、血肉を取り込んで回復する。本能的に『ヴァンパイア』の特性を理解しているみたいだ。
人体をサクッと簡単に切り裂くパワー、生半可な攻撃では怯まないタフネス、銃弾すらかわせるスピード、そして血肉で回復・バフを得る能力。
半数近くが殺されたところど手下共は散り散りになって逃げ出した。中には逃げずに抵抗するやつもいたけど、あっと言う間にバラバラにされた。
いや、強っよ。
500人もいたのに無双しちゃったよ。パッと見で半数以上は武装した“無個性”だったけど、令裡ほどじゃないけど成り立てにしてはすごい。
ただ、頭が働かずにボンヤリしてる状態で魅了したからか、逃げるやつには目もくれず、目先の抵抗するやつらだけを殺して、今は残った死体に齧りついてる。命令の仕方が悪かったな。
「来たれ、スケルトンブレイズ」
指パッチンでちょっと大きめの魔法陣を展開。胸当てと脛当てと鉄靴を装着し、2本の剣を携えた200体の骸骨が跪いた状態で出てきた。
「逃げ出したヴィラン共を追え。全員の首を取って来るのだ」
スケルトンブレイズたちは立ち上がり、助走もつけずにその場で何mも高くジャンプした。半分は建物の屋上から屋上へ飛び移り、残りはビルから飛び降りて着地するや、走ってヴィラン共を追った。まるで忍者のように軽やかな動きだ。さて、残党処理ははこれでいいしもう帰るか。
ビルから飛び降りて辺りを見回す。車道はひっくり返ったり、派手に大破したり、炎上する車両だらけ。アスファルトの地面は砕けたりヒビだらけ、周囲のビルは窓が割れ、コンクリートの壁は崩れたりクレーター状にへこんでいる。弾痕や空薬莢、銃器、刃や物や鈍器が転がり、戦いの凄まじさを物語っている。
そしてそれより目につくのは血の海と死体の山。首や手足や臓物が血溜まりの上でプカプカと浮かび、血の臭いに混じって死体から漏れ出た糞尿のアンモニア臭がする。
そんな地獄絵図の中、食事に夢中の駆藤に近づく。攻撃を受けまくったせいで、布を少し残して上半身はほぼ裸。下半身は黒のレースパンツ1丁だけ。エッッッ。
「フフフ・・・・・・」
え?なに?急に笑いながら立つと、ゆっくり振り返る駆藤。丸出しの前は真っ赤に染まっていた。
ベロベロに酔ったようなエッッッな顔でこっちを見ると、目をカッと見開いて爪と牙を剥き出して、いきなり俺に飛びかかってきた。でも、俺の目にはスローモーションに見える。空中でデカパイがプルンと波打つように揺れるのが見える。眼福眼福。
「な・・・・・・ッッッ!!」
鋭い爪が首に届く前に両手を掴んで宙ぶらりん。当たると疑ってなかったのか、ギョッと驚いてる。
「私だ。目を覚ませ」
もう1度目を合わせ、テンプテーションを解除。駆藤の目に理性の光が戻る。その時の状態や命令によっては主人にまで牙を剥くとか、使い方には気をつけないとなテンプテーション。
「酔いから覚めたな」
「え、あ・・・・・・!?」
正気に戻ると駆藤は赤く染まった自分の手を、体を見て震える。フラフラと車にもたれて、窓に反射して移る自分の姿を再確認すると目を見開く。
「俺、俺・・・・・・!」
血で濡れた自分の体に触れてワナワナと震える駆藤。
あー、やっぱりショック受けてんな。周りは地獄絵図。そして血まみれの自分。目が覚めて早々、これほどの惨劇を引き起こしたのが自分だと知ったら、だれだって混乱するよな。
駆藤は豊満で張りのある胸に触り、恐る恐る黒のレースパンツ越しに股間に触れて一言。
「女になってる・・・・・・!!??」
そっちかよ!
魔物図鑑
・スケルトンブレイズ
2刀を操る優秀なスケルトン兵士。
主であるドラキュリア同様、人間が持つ敵意・悪意・殺意に強く反応し、魂が放つ負の感情と邪な欲望の波長を感知して人間を探すことができる。
スケルトン系の上位種で、機械のように命令に従うだけの下位のスケルトンと違い、ある程度は自分で判断して行動することができ、味方と連携を取って敵を仕留める知能を持つ。
身体能力はステインの半分ほどしかない。
・ドラキュリア
今回はヴァンパイアらしい技を2つ披露した魔王。
スケルトンマウスとスケルトンクロウでちゃっかり自分の一部始終も撮影して、その力をヴィジランテたちに見せつけた目立ちたがり。
・駆藤
派手に初陣を飾ったTSヴァンパイア。
『ヴァンパイア』の個性因子の適合率は高く、第5世代のトップヒーロークラスに匹敵するポテンシャルを秘める。
しかし、それと同時に精神にも大きく影響が出ている。
ドラキュリア「ヤベー、このままじゃ使い物にならねえ。仕方ない。オラ!魅了!」
駆藤「最高に『ハイ!』ってやつだアアアアアア」
ドラキュリア「ええ・・・・・・」
ホント、無計画で行き当たりばったりすぎだよこの魔王。まあ、次に活かせるならいいけどさ(どの口)。
最後まで読んでいただきありがとうございました。
誤字報告や感想をいただけると大変励みになります。
それではまたお会いしましょう。