元バンドマンの高校生はメジャーデビューの夢を見るのか 作:ハウンド・ドッグ
今回は時系列的にはアニメ3話と4話の間です。
それではどうぞ。
「お願い、木馬君! 私のボーカルの先生になって!!」
火曜日の昼下がり。
もはやいつものメンツ、略してイツメンと化しつつあった真、ひとり、拓也、黒羽の四人で昼食を取っている時、赤髪の女子、喜多郁代が来襲した。
(何怖いンですケドこの陽キャ!?)
何を隠そう、郁代は『結束バンド』の逃げたギターボーカルその人なのである。昨日、ひとりの説得により無事バンドに再加入したのだが、色々と問題を抱えており、ギターとベースの区別が付けられずお年玉と小遣い二年分を前借りして買った楽器がまさかの多弦ベースで、しかもギターのことを俗に言う『ミリ知らない』というわからないの次元が違い過ぎるという始末であった。ギターはひとりが教えることとなったが、それに手一杯で歌唱に関しては殆ど触れられず、こうして元とはいえギターボーカルだった真を訪ねて来たのだ。
陽キャの行動力は恐ろしい。
真はひとりにどうにかしてくれ、と視線で訴えるが陰キャでコミュ障な彼女にどうにか出来る問題ではなく、死んだ魚の眼で顔を伏せてしまった。
神は死んだ。
「いや……でも、なぁ……」
「この通りよ! 中学生バンド『BLACK WIND』元ボーカルギターの木馬君!」
『バンド』、そして『ギターボーカル』の言葉に拓也と黒羽はぴくり、と反応する。
「真よ。お前、中学の頃バンド組んでたのか?」
「『BLACK WIND』って……一時期SNSでバズったバンドじゃん」
「いや……まあ……そっか、言ってなかったか」
最後は喧嘩別れする形で解散した、ということは黙っておいた。
「しっかしなぁ……結構ブランクがあるからなぁ……」
「そこを何とか……!」
解散した去年以降、ギターもボーカルも基礎練習程度であり、しかもその間人前では全くと言っていい程演奏していない。はっきり言えば、あの時程上手く出来るとは真は到底思えなかった。
あの、とひとりが口を開く。
「その……これを機に、また……やってみませんか、バンド……」
その直後、気に触ったならすみません、とひとりは縮こまってしまった。
(リハビリ、か……)
最近はよく感じる。
何かが足りない、と。乾き切った喉を潤す何かが欲しい、と。
気丈に振る舞ってはいるが、突如として虚脱感に襲われることがある。それは無気力となって真を襲い、どうしようもなくやるせない気持ちになる。
まだ、抜け出せていないのだろう。
その時、ふと、とある歌の一フレーズが脳裏に浮かんだ。
───『そこから踏み出したくはないか』
(……そう、だよな)
「そうだ真よ。実は前々から思ってたんだが、バンド組まないか?」
俯き考え込む真に拓也はそう言った。
「ちょっ……この流れでそれは無神経過ぎるって」
「だが、現にギターボーカルを探していたんだ。リハビリに喜多のボーカルを教える、というのも……って痛ァ!?」
スパァァン!!
「いい加減にしろ!!」
「えぇ……獅童さんそのハリセンどこから……」
どこからともなくハリセンを取り出し拓也に振り下ろした黒羽に怯える郁代。
「あ、あの……木馬君……気が乗らないなら……」
ひとりはおどおどとした口調で真に気を遣う。
真はふぅ、と息を吐きこう答えた。
「……わかった。喜多さん、その話、受けようと思う」
この言葉を聞いた瞬間、郁代はぱぁぁ、と眩しい笑みを浮かべた。
「……本当!? ありがとう木馬君! これで私も結束バンド役に立てるわ!!」
キターン、とした俗に言う『陰キャ滅殺光線』の直撃を受けた真はぬぉ、と眩しそうに目を塞ぎ、仰け反った。
(……それ、ちょっとわかるなぁ)
その様子にひとりは独り共感していた。彼女もまた、
「それと、バンドの話だが……」
考えさせろ、と真は言うつもりだった。だが、真の口から出た言葉は……。
「いいぜ、やろう」
……正反対と言っていい肯定の言葉であった。
放課後。真はドアを開け放ち、ドタドタと駆け足気味で自室へと向かう。今日はまだ姫夏は帰って来ていない。
(えっと……確かここにスコアを入れてたハズ……)
引き出しを上から順繰りに開けていき、バンドスコアを収納したファイルを探す。
(お……見つけた)
ファイルを取り出した真はそれに収納されてあるスコアを流し見していく。
(今の喜多さん実力とかを考えると……二曲程度か)
昼食時、真にボーカルの教導を依頼した郁代を路上ライブに誘ったのだ。必要な許可証も所持しているので、警察のご厄介になることも無い。
(……なーんであの時OKしちゃったかな)
元は断るつもりでいた。
なぜなら、今の自分ではバンドが出来る程の力を持っていないから。
聞いた所によると、拓也と黒羽が立ち上げようとしているバンドはそのバンド名こそ未定ではあるが、結束バンドと同じようにメジャーデビューを狙っているのだとか。
現状、もうすぐ一年ともなるブランクと、作詞作曲が一向に進まないスランプから抜け出せていない以上、尚更賛同すべきではない、と真は考えていた。それは夢を追う人間に対して失礼だ、と思ったから。
だが、心のどこかでもう一度バンドがやりたい、と。夢を追ってみたい、と思っていたのだろう。故に、あの時あの返答をしてしまった。
『また、やってみませんか』──思えばその言葉に背中を押されたのだろう。
ほんの少しだけ真は後悔していた。しかし、心臓を動かすこの、何とも言えぬ昂りがそれらを吹き飛ばした。
最近、かつて彼が所属していたバンド、BLACK WINDが新たにメンバーを迎えて再始動したらしい。
立ち止まっていたのは真だけで、取り残されていたように感じていた時のバンド勧誘だ。きっと、そういったことも理由の一つとしてあるのだろう。
(……この二曲でいいか)
ファイルからスコアを抜き取った真はそれらをコピー機でコピーする。渡すのは今日のバイトが終わってからでもいいだろう、と真は思案した。
翌日の早朝からは郁代と共に近くの公園で発声練習を始める。最初は奇異な物を見るような視線に晒されるだろうが、そのうち彼女も慣れるだろう、と踏んでいた。まあ、見ようによっては朝から公園で大声を挙げる危ない人に見えなくもないからである。……彼自身も通った道である。
コピー機から最後の一枚が排出され、それを取ってクリアファイルに収納しカバンの中に入れる。
あまり時間も無いので今日は制服のままSTARRYへと自転車を走らせた。
「お疲れ様でした!!」
バイトが終わり帰り支度をしている最中、真は郁代を呼び止める。
「はいコレ。昼に言った、路上ライブでやる曲です。時間は今週末こ日曜午後五時半から。場所は後で送ります」
やや敬語気味というのは未だに真が郁代へ苦手意識を持っているからである。
「ありがとう木馬君! これで私も……」
真が渡した二曲分のスコアを笑顔で受け取る郁代。
「あと、発声練習は早朝六時半から。場所は近くの……この公園で」
地図アプリで場所を指し示す真。郁代は頑張るわ、と首肯する。
その様子を興味深そうにひとりや虹夏、リョウは眺めていた。
「二人共、路上ライブやるんだ」
「ええ、まあ、はい、山田
この際先輩呼びしてくれない後輩の言動をスルーしたリョウ。しかし、そこに物申す者が一人。
「ちょっと木馬君! リョウ先輩のことをちゃんと『先輩』呼びしないとダメでしょう!?」
虹夏曰く『リョウ狂い』の喜多郁代だ。
「えぇぇ……確かにベースの腕は純粋に尊敬してますケド……人としては、なぁ……」
前にバイトをサボって押し付けられたり貸した金を返してもらえなかったりと、それらをキッカケとして好感度にマイナス補正がかかってしまっているのだ。真曰く、貸した五百円早く返せ、である。
「何言ってるのよ! リョウ先輩は木馬君を出来る後輩にする為に自らその汚れ役を買って出たのよ!?」
「喜多さーん……? 多分、山田パイセンにその意図は無いと思うぞー?」
「真……」
ぽん、とリョウに肩に手を置かれ振り返る真。するとリョウはドヤ顔で、こう言った。
「君を育てたのは、私だ」
「いやデタラメ言わないでー?」
リョウの発言を虹夏は即座に打ち消した。
「本当だもん」
「いや、それは無いッス」
どちらかと言うとバイトとして育てたのは伊地知先輩だ、とも付け加えた。
「いやぁ、そんな風に尊敬されると嬉しいなぁ〜」
アホ毛をぴょこぴょこと蠢かしながら照れる虹夏。
「虹夏ばかりズルい。真はもっと私を敬うべき」
「原因は鏡を見てどうぞ」
「……っ! 鏡の中に私を尊敬させない犯人がいるということか……!!」
「あくまで自覚無しッスかそうですか」
そのコントとも思しきやり取りを羨ましそうにひとりは眺めていた。
(私もコミュ力があったらああいう会話が……)
と、ここで気付く。
そもそもコミュ力が上がったとして、会話で人を楽しませられるのか、と。
(……うん。私には無理だ)
人を楽しませられるコミュ力お化けとそうでないコミュ力お化け──ひとりは例えコミュ力が上昇しても後者にしかならないだろう、と内心で独り言ちる。
(路上ライブかぁ……)
とても自分には出来ない、とひとりはその目を伏せる。コミュ障で極度の人見知りたる自分では人前で、それも不特定多数の人が観に来る中で演奏するなんて自分には出来ない、と。もし笑われたりしたら立ち直れなくなるかもしれない。
(リョウさんや木馬君はそういうのを乗り越えたんだよね……凄いなぁ)
ひとりは純粋にそう感じた。
バイトが終わり、店長たる星歌の言いつけで遠方から来ているひとりを駅まで送った後、真は帰宅した。今日も残業らしく、両親はまだ帰って来ていない。
冷蔵庫に入れてあった姫夏が作ってくれた夕食をレンジで暖め食した後、真はリビングのソファーでゾンビ映画を見ながら寛いでいた。
風呂に入る順番で少し揉め、じゃんけんで勝って先に風呂を済ませたので現在湯上がりの状態である。暫くの間は癖毛のオレンジ色の頭髪はストレートのままだ。……と、数秒後には癖毛に戻った。
真は映画やドラマ、アニメは基本どのジャンルでも見るが、特に好きな物はゾンビ物だ。往年の作品から最新作まで、テレビで放送した物はディスクに焼き付け、そうでない物は小遣いの範疇で買い揃える觧には好きだ。ゾンビ映画で重要な物は『音』と『カメラワーク』である、と真は考えている。
その時、姫夏が風呂から出て来た。
彼女は真よりも明るい、やや癖掛かったオレンジ色の夏長髪をゆらゆらと揺らしながらてくてくと歩き、ソファに寝転んだ。そのままスマホをぽちぽちと弄り始める。
「ねぇ姫夏ちゃん」
「……なーに、お兄」
姫夏は気怠げに真の方へ視線を移す。
「お兄ちゃん、バンド始めることにしたから」
「……ふーん」
興味の無さそうな生返事をする姫夏。
だが数秒の沈黙の後、がばっとその身を起こす。
「はァ……!? バ、バンドォ!? お兄が!?」
「……大袈裟だな。お兄ちゃんがバンド組むのそんな驚くことなの姫夏ちゃん」
「驚くも何も……」
表には決して出さなかったが、バンド解散後から真は性格をかなり荒ませていた。妹として間近で見ていた姫夏も心を痛めていた。好きだった兄の演奏がもう聴けなくなる、そう考えただけで心に来るものがあった。
高校に上がってライブハウスでバイトを始めた時も姫夏は不安だった。兄の傷に触れてしまうのではないか、といつもそう考えていた。
しかし、それらは杞憂だったらしい。こうしてまた、バンドを始めたのだから。最近の家での様子も以前と比べて明るくなっていた。
「まあでも良かった……また聴けるんだ。お兄の演奏好きだし」
「よせやい照れるだろうが」
「演奏は、ね。ていうか演奏がね」
「……それ、お兄ちゃんのことは好きじゃないみたいに聞こえるンだケド」
「まーね」
「姫夏ちゃーん? お兄ちゃん泣いちゃうぞー?」
「ウケる」
ははは、と二人の間二笑いが溢れる。
「あ、そうそう。その件でなンだケドさ」
なーに、と姫夏は問うた。
「姫夏ちゃんさ……ギターやってくンない?」
「……はぁ?」
「ガチトーンやめて。フツーに怖いから」
姫夏への突然のオファー。
確かに彼女はギターを持っており、真に教えてもらっているが為に人並み以上には弾けるという自負はある。だが……
「いや……いやいやいや……あたしはお兄程ギター弾けないしそもそも人前で弾くとか無理なンですケド」
一つのバンドにギターが二人いれば音の厚みが増し、演奏のレパートリーも増える。でもそれは自分じゃなくてもいいハズだ、と姫夏は思ったのだ。
「そこを何とか……」
曰く、ベースは黒羽が担当することとなるらしい。拓也に関しては『見て驚け』と言っていた為にスタジオを使って練習するまで使用楽器は不明だが、真は彼が使う楽器をドラムであると予想している。真は姫夏にギター、更に詳しく聞くとギターコーラスを務めてほしい、と言うのだ。
お願いお願い、と両手を合わせて懇願する真。えぇぇ、と姫夏はその様子に引くが、ふと、思う。
(……そういえば。お兄からどこともしれない『馬の骨』の匂いがするな)
それを言うなら『泥棒猫』である。
最近の真からは幾つもの香水やシャンプー、更には防虫剤の匂いがした。正確には他人が使った香水やシャンプー、防虫剤から移った微かな匂いだ。常人では嗅ぎ分けられない程の、微細な。
姫夏ら兄たる真に事有るごとに『シスコンキモい』と言うが、その実彼女も真に勝るとも劣らないレベルのブラコンなのである。
(……バイト先の女をちゃんと見極めなきゃ。お兄を傷付ける奴はあたしの敵だ)
そして、もしかしたら将来的には自身の義理の姉になるのかもしれない。故に、自身の目でしっかりと見極めねば、と姫夏は意気込む。
「……わかった。やるよ、ギターコーラス」
「ありがとう姫夏ちゃんマジ大好き」
「ちょっ……くっつくなバカ兄!」
明日の朝から急遽、姫夏が発声練習に加わることとなった。
キャラクター紹介
名前∶
性別∶女性
年齢∶13歳(今年で14歳)
誕生日∶7月7日
趣味∶カラオケ
身長∶155cm
体重∶データ無し
共働きの両親と2つ歳の離れた兄と暮らしている。兄の真よりも明るいオレンジ色の癖掛かった長髪をポニーテールにしている。
本人は否定するが兄と同レベルのブラコン。スマホの暗証番号、性癖、交友関係の全てを兄の知らない内に把握している。執念深さも持つ。
小六の夏からギターを始めた。その頃バンドをしていた兄の影響が大きい。
好きな音楽は特に拘り無し。良いな、と思ったのは何でも聴く。
使用楽器はYAMAHA PACIFICA611 HFM TPP。
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