元バンドマンの高校生はメジャーデビューの夢を見るのか 作:ハウンド・ドッグ
11/26 9:57 誤字修正しました。
「け……結構疲れるわね……」
早朝、公園で発声練習を木馬兄妹と共に行っていた郁代は疲れを表情に出してそう言った。真の妹、姫夏も同じような状態だ。
「……まあ、普段使わない筋肉も使うワケですし」
カラオケとは訳が違うのである。
腹式呼吸を心掛けた発声、所謂『腹から声出せ』は普段から練習していないと辛いものがある。だが、それを習得出来ればボーカルとしての質が格段に上がるのだ。
「喉で歌おうとするといつか喉を潰しますからね。俺も中一の終わりに潰しかけましたし」
最悪歌えなくなるかもしれない、と補足説明する真に顔を青褪めさせて抱き合う郁代と姫夏。
この二人、出会ってから一言二言交わしただけで仲良くなっていた。互いに陽キャなのである。……姫夏が郁代に話し掛けた時に何やら黒々としたオーラを放っていたように真は感じたが、彼は気の所為であることにした。ファーストコンタクトから小声で何か話していた後、その黒いナニカが一瞬で霧散したように真は見えたのだが、彼は気にしなかった。深く聞いてはならない気もした。
(……木馬君の妹さんってとってもお兄さんのことが好きなのね)
圧を間近で感じた郁代は少しばかり怯えていたそうな。
「そろそろお開きにしましょう。遅刻するとマズイですし」
「そうね! 木馬君、発声練習に付き合ってくれてありがとう! 私、頑張るから、木馬君も復帰出来るように頑張りましょう!」
キターン、とした陽キャ特有の爽やかで向上心に満ちた陰キャ滅殺光線に晒されぐお、と呻く真。
「お兄チョーウケるんですケド」
その様子にぷぷぷ、と笑う姫夏。ギャル風の見た目の陽キャの妹がいるにも関わらず陽キャへの苦手意識を依然として克服出来ないのが面白いらしい。
今日の練習はこれで終了となった。
「……ンでェ? なーんで喜多さんがここで昼食取ってンすかね?」
昼休憩。
いつも通りのメンツで昼食を取ろうとしていると、そこに何故か郁代がしれっと参加していた。
「だって、後藤さんや木馬君、篠宮君や獅童さんとも仲良くなりたいのよ!」
キターン、という怪光線が四方八方に照射され、ヨニンがぐお、と呻く。いつも飄々としている拓也や陽キャらしき雰囲気を持つ黒羽でさえも呻いていた。どうやらこの二人も陰の者らしい。
「……さいですか」
今日は真が炊事当番なので自分で作った弁当をもしゃもしゃと食す。
そうだ、と郁代は口を開く。
「木馬君も一緒にギター練習しましょう! 三人でやったらもっと上手になれると思うの! 後藤さんもどうかしら?」
再びの
「う……あ……」
至近距離で浴びてしまったひとりはそれに気圧され……首肯した。
(どうしようどうしよう何かいきなり話が進んじゃったというか木馬君の同意も待たずに決めちゃったどうしよう殺される……!?)
俗に言う『お目々ぐるぐる』で負の思考のスパイラルへと陥っていくひとり。
(どーしよコレ……めたくそ断りにくい空気になってンですケド……)
SAN値を朝から削られている真は何かしらの断る理由を探そうと思考を巡らせる。
その間も目をキターン、とさせた郁代が笑顔で二人を見ていた。
と、その時、真の肩にぽんと手が置かれる。思わずおわっと声を出してしまい、その方向を見ると、ひとりだった。
「き、木馬君、い、一緒にギ、ギター練習、や、やりましょう!」
切羽詰まってどうかしてしまったらしいひとりがその瞳を俗に言う『お目々ぐるぐる』状態で謎の圧を放ちながらそう言った。このままだと
そして、ひとりから溢れ出んばかりの圧に押された真は……。
「……ウッス」
そう返答してしまった。
そして翌日の昼休憩。
「じゃーん、俺の愛機、YAMAHA RGXA2 JBL!」
ややヤケクソ気味にひとりと郁代の二人が校内でギターの練習スペースとして使っている机やら掃除用具やらが置かれた謎スペースにて真は自身のギターを披露した。
「このギターは航空機をイメージした物で、重さはなんと2.5kgと超軽量! しかもケーブルを差すとボリュームの所が光るっつーイカしたギターさ」
持ってみて、と二人にギターを渡す。
「あ、本当だ……」
「軽いわね……」
「これならライブのパフォーマンスでギターブン回したり出来るワケよ」
この発言は二人の脳内にステージでギターを片手で高笑いしながら振り回す真の図を完成させてしまった。
(ロ、ロックだ……)
そう思ったひとりは間違ってない。
「まあ、このギターは大事な物だから今は出来ないケド、いずれは破壊専用ギター買うつもり」
『シモキタサイコー!! 愛してるぜおまえらァァァ!!』バキグシャア!!
「……って感じでギターネックへし折ったりとかな」
その様子を想像してしまった郁代は自身に全く縁の無かった
「……私ってロックのこと全然知らなかったのね」
多分それは知らなくていいと思う、というのはひとり談である。
そして、ギター練習が始まった。
(木馬君、上手だな……)
航空機をイメージした黒のギターに張られた鉄色の弦を白いピックで弾く真に対してひとりはそう思った。
「うぅ……Fコード難しい……」
ギターあるあるとして挙げられる難しい所だ。コードを覚えることや抑えることの難しさから挫折する者も一定数いるのだとか。
「喜多さん、こんな感じでやると指が動きやすくなる」
真は一度ギターを止め、指をくっつけた状態から一本ずつ順に離していく動作(※『けいおん!』で中野梓がやってみせたヤツ)を見せる。毎日繰り返して行うと弦を抑える動作がスムーズになっていくという。また、風呂上がりにやると効果が上がるらしい。
なるほど、と郁代は早速真に倣ってやってみる。……が。
「あ、あれ……」
これ、始めの内は難しいのだ。特に小指と薬指が一緒に動いてしまうのである。
尚、ひとりはスムーズにやってみせた。
(もっと……もっと頑張らなきゃ)
自分には色々なものが足りてない、そう郁代は痛感したのであった。
そして、やって来た路上ライブ当日。
「……虹夏。何で変装を」
「だってあたしらがいるのバレたら気が散っちゃうでしょー。ね、ぼっちちゃん」
「は、はい……そうですね」
百円ショップで買ったカツラやメガネをつけて駅の近くでさも通行人のフリをして駅前でセッティングをする真と郁代の様子を伺うひとり、虹夏、リョウの三人。すると、
「貴方達、何してるンですか?」
「おわっ! えっと……誰……?」
突如後ろから声を掛けられ三人は思わず振り返る。そこには黒のジャージ上下にぴかぴかとLEDが光るサングラスをつけた明るいオレンジ色の長髪をツインテールにした少女が。
「あ、申し遅れました。あたしは木馬姫夏です。中学二年生です。兄の真がいつもお世話になっております」
ぺこり、と頭を下げる姫夏。つられて三人も会釈する。
「あ、えっと……」
「存じ上げております。伊地知虹夏先輩に山田リョウ先輩、そして後藤ひとり先輩ですよね」
「あ、どうも……むしろ、こっちがお世話になってます……」
力仕事等で誰が呼んだかリトルゴリラ振りを遺憾無く発揮する真にはSTARRYのスタッフはいつも助けられていることを虹夏は礼をした。
(この子が木馬君の妹の姫夏ちゃん……)
学校生活で時々話題にしていた真の妹その本人をまじまじと見つめるひとり。
(……どうしようギャルだ苦手な部類だ何て話せばいいんだろう!?)
もし『陰キャががイキってんじゃねぇよ』などと言われでもしたならひとりはメンタルブレイクしているだろう。
「……あの」
「は、はい……!?」
すい、と音も無く近付いてきた姫夏に涙目でビビり散らすひとり。
「……お兄とはどういう関係で?」
ハイライトが消えている。兄たる真のダークグレーの瞳よりも姫夏の瞳は明るいアッシュグレーの色をしているにも関わらず、深淵のような暗さを湛えた瞳でひとりを見ていた。
「えっ……あ……えっ、と……き、木馬君はク、クラスメイ……いや、その友人? で……」
「……友人」
(ひぃぃ!? こ、怖い! 虹夏ちゃんリョウさん助けてって……えぇぇ!?)
一瞬視線を移した先には姫夏に怯えている二人の姿が。……どうやら同じ質問をされたらしい。
「……ああ、山田
(さらっと怖いこと言ったよこの子!?)
確かにリョウの怯えようは尋常ではない。そして今然りげ無く『パイセン』呼びをした。……兄妹そっくりだと思ったひとりは悪くないはずだ。
尚も能面のような無表情でひとりを見る姫夏。心做しか、ドス黒いオーラが出ている気もする。
「……というか、人と話す時は目を合わせるものですよね」
「え……あ……」
失礼します、と姫夏は素早く、そして顔に傷を付けないように優しくひとりの前髪をその空色の瞳が見えるように分けた。
と、その時。
「こ、これは……一体……!?」
顔を急に晒されたことによる急激なストレスの上昇に身体が耐え切れずひとりは爆散した。
「す、すみません!! 真逆そんなに嫌だったなんて……!」
復活したひとりに対して全力で頭を下げ謝る姫夏。
「い、いえ……わ、私こそとんだ御無礼をを……!!」
謝罪の応酬となった姫夏とひとり。だがこの様子からひとりもまた、他二人(一人は要注意)と同じように真に害なす者ではない、と姫夏は判断した。そもそもひとりにそんな度胸など有るはずが無い。彼女が悪女になれる可能性は月の兎が餅を搗くのを辞めコサックダンスをヘッドスピンしながらし始めることと同じ位不可能に近いのだ。
「これから路上ライブやりまーす。無料なんでどうぞー」
真の声だ。
四人がバレないように隠れて一悶着している内にセッティングを済ませていたらしい。アンプやその他機材、小型バッテリー等が置かれていた。
「これどうぞ〜! 観に来て下さーい!」
いつの間にか作ったのか、路上ライブの宣伝チラシを配り始める郁代。
「……始まるようですね」
「は、はい」
「そ、そう……だね」
姫夏の声にやはり怯えた様子のひとりと虹夏。リョウは虹夏にしがみついていた。
観客は数人……中学生や高校生と思しき少年少女、後はサラリーマンといった具合だ。
(……気分悪)
一瞬の目眩と胃から昇ってくる不快感に表情を僅かに歪める真。しかし、それが見えないようにハットを深く被り直す。まだ本調子でないのもあるし、人前で弾くことが久々であることもあった。
一度深呼吸し、郁代に視線を送る。すると、郁代はやや緊張した表情で頷いた。
「それじゃ……一曲目。MAN WITH A MISSIONで『your way』」
拍を取る為にギターのボディを軽く叩き、ピックが弦を弾く。一曲目は真が歌うこととなっていた。
およそ二十秒の前奏の後、歌い始める。
この曲はMAN WITH A MISSIONが発売したシングル『database feat.TAKUMA(10-FEET)』に収録された楽曲だ。真が好きな曲の一つでもあり、歌詞が心に刺さったこと、そして間奏部がとても格好良かったこと等を理由として上げている。
(……お兄)
姫夏は不安気に真を見る。
緊張からか、一瞬だけ音程が外れた。
そこからだ。少しずつミスが目立ち始めたのは。
真自身のメンタルはあまり強くない。故に、一度ミスすると動揺からその後に引き摺ってしまうという悪癖があった。
ギターの腕そのものは上級者に匹敵するが、それは約一年前の話。ギターテクの練習等ロクにしてなかった期間が祟り、間奏部のギターソロも少しもたついてしまっていた。
やがて、一曲目が終わった。
(あれ……俺、こんな出来なかったか……?)
真は俯いてしまった。
ブランクがあったとはいえ、ここまで弾けなかったことは、歌えなかったことは彼としては想定外だったのだ。
思うような演奏が出来なかった。
そして、口の中が酸っぱかった。
「え、えっと……! 一曲目MAN WITH A MISSIONの『your way』でした!」
俯き黙ってしまった真の異常を察知した郁代は路上ライブの進行を代わる。
「……木馬君、二曲目、いけそう?」
小声で心配そうに尋ねる郁代に真は僅かに首肯する。
(……頑張らなきゃ)
まだ上手くギターは弾けない。腹式発声もまだ完全に習得出来ていない。それでも、窮地を救う為に郁代はやらなければならなかった。なぜなら、郁代自身は真を既に友人である、と考えているから。
郁代は緊張でうるさく鳴り響く心臓を鎮める為に一度深く深呼吸する。
「それでは二曲目……WANIMAで『Faker』、聴いて下さい!」
現実とは往々にして上手くいかないものである。
書いてて気付いたんだけど、真君はひとりの父親と話が合いそうだな、と思ってしまいました。
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