元バンドマンの高校生はメジャーデビューの夢を見るのか 作:ハウンド・ドッグ
(うーん……)
最近、というか、ほぼ毎日である。
入学以降、真は後ろの席に座っている後藤ひとりから凄まじい眼力で凝視されるているのだ。
(えー……俺何かした? 気に障るようなことしたぁ!?)
これまでの記憶を逆再生してみるが、思い当たる節はない。本当に無さすぎる。
(あれか!? あれなのか!? 自己紹介で失敗したことか!?)
いやそれはない、と頭を振ってその考えを吹き飛ばす。
(聞いてみるか……? 訳を聞いてみるか……? いやでもそんなことしたら……)
ゲンドウポーズで考え込む真の脳内では二つのパターンが再生された。
・パターン①
真「俺のことよく見てるけど、どうしたの?」
後藤「え、自意識過剰ですか? 気持ち悪いです」
・パターン②
真「俺のことよく見てるけど、どうしたの?」
後藤「いや、自己紹介で失敗した貴方みたいにはなりたくないな、と」
(ダメだどのパターンも有り得る上にそんなこと言われたら一生立ち直れねぇ!?)
というか、それ以前にそんなことを聞く男子はこの高校生活三年間、いや下手したら一生「キモ男」「変質者」といった蔑称をつけられる事態になりかねない。それだけは……それだけは何としても避けなければならない。
考えに考え抜いた結果、真が行き着いた結論は……
(…………よし。放っとこう)
放置である。
触らぬ神に祟りなし、を根拠として真は現状維持を選択したのである。
高校生活が始まってもう一ヶ月が経とうとしており、何人か、本当に少ないものの何人かの友人が出来たのだ。自己紹介で失敗した悲しい人、というレッテルも気にせず話し掛けてくれる人がいたのである。これ以上欲張ってはいけない。いけないったらいけないのだ。
ほら、こうしている時に話しかけてくれる友達が……
「ふははははは! 今日もまた辛気臭い顔をしているな真よ! 幸せが逃げてしまうぞ」
友達が……
「おうコラ拓也。朝っぱらから喧嘩売ってんのか表出ろや」
友人……?
彼は木馬真の友人、篠宮拓也。実家が裕福らしく、やや言動が横柄になってはいるが優しい男子生徒である。何故かアスコット・タイを巻いてはいるが。
「そんなことをしてしまったらただでさえ平均身長にもいかない君の背が更に縮んでしまうじゃないか! 辞め給え、そんな不毛な争いは!」
友人とは(哲学)。
「ひ……低くねぇし! お、俺は成長期なんだよ!! これから……そう、これから伸びるんだ!!」
身長───それは真に出すにはNGな話題である。クラスの中で161cmと最も低い真はそれはもう相当なコンプレックスを抱えており、バイト先、STARRYでの先輩にそれを弄られ小一時間程凹んでしまい、仕事が手に付かなくなる程なのだから。
そのコンプレックスを拓也に弄られた真は動転しながら抗議する。が、しかし、178cmとクラスで最も身長が高い拓也はハッハッハと笑い、それはもう清々しい程の笑みを浮かべながらこう言った。
「ぬかしおる」
「───っていうことがあったンすよ店長ォォ!! 酷くないスか!?」
「そいつを友達って言っていいのか!? あたしはそれが疑問なんだけど!?」
「確かに……コンプレックスを刺激するのはちょっと良くありませんよねぇ……」
放課後、STARRYにて一番先に到着した高校生バイト、木馬真はモップで床掃除をしながら星歌とPAさんに今日の一連の事態に対する愚痴を溢していた。
ちなみに真の現在の装いは所謂ヴィジュアル系と呼ばれる服装となっている。陰キャに近い彼が何故このような陽キャに近い服装をしているかというと、『少しでも影のオーラを消す為』という理由を建前とした『妹の隣を歩いても恥ずかしくない兄でありたい』という願いから来ている。
はああ、と重苦しい溜息を吐き、真は項垂れた。
「自己紹介は失敗したし、後ろの女子からは睨まれるし、背は伸びないしむしろ1ミリ縮んだしというか背伸びバレたし、弄られるし……俺の高校生活って一体……」
「……まあ、ほら。元気出しな」
「そうですよ。身長が全てっていう訳でもないですもんね」
「そうですかねぇ……」
星歌とPAさんの慰めの声に真は以前SNSで見た心無い言葉が
『身長170も無い男とかないわーww』
「ふごごご……フラッシュバックが……トラウマががが」
「あちゃー……またトラウマスイッチが……」
頭を抱えて悶え苦しむ真。
彼のこの状態はSTARRY内では『トラウマスイッチON』と呼ばれているのである。本当に、身長に関する話題はNGであり、その愚痴も薄氷の上を渡るように
「ほら、今日は虹夏がライブに立つ日なんだから、しっかりしろ」
「……そっか。今日はブッキングライブでしたね。山田先輩が思いっ切りふざけてつけた『結束バンド』っていうバンド名……本当に使うんですね」
伊地知先輩は本当苦労ばかりしてるなぁ、と復活した真は独り言ちる。今度何か奢ってあげよう、とも。
「ま、店長さんも妹さんの晴れ姿は誇らしいですもんね」
「なっ……! そんなこと……」
「店長は……アレですね。シスコンですよねぇ〜」
「お、お前ら……! 今度言ったらクビな!」
「はいはい」
「そ、んな……『シスコン同盟』の絆はこんなものだったんですか店長さぁぁん!!」
「ちょ、お前……!」
「……シスコン同盟?」
聞き慣れない言葉にPAさんは首を傾げる。
「シスコン同盟とはですね。妹を愛してやまない兄や姉によるシンパシーからなる同盟のことですよ、PAさん。初日から俺は店長さんにシンパシーを感じてたンす。営業後にもそのことで意気投合して……」
「そこまで! そこまでにしろぉぉ!!」
「へぇぇ〜そうだったんですねぇ店長」
ニマニマと笑う二人と顔を赤らめうがぁぁ、と唸る星歌。
と、そんな時、ドアが開く。
「おはようございまーす。ってあれ? お姉ちゃん達、何やってるの?」
「ええとですね、店長が……」
「そこまでってば! 本当いい加減にしろ!」
虹夏とリョウが入ってきた。
「そ、そうだ身長! 真の身長についての愚痴を……」
「ふぎゃあ!?」
「あらら」
星歌の言葉で忘れかけていたトラウマを
「あ……やべ。なんか……すまん」
その様子に思わずリョウはぷふっと吹き出した。
「もしかして……縮んだ、とか」
「むぎゅぅあ!?」
「ちょっ!? リョウやめてあげて!? 真君再起不能になっちゃうから!!」
「だって反応が面白いから」
「ゴフッ!?」
「全く……よしよし。いつもリョウがごめんね? 悪気は無いハズだから……」
死にかけた台所の黒いアイツの如くピクピクと痙攣する真を介抱する虹夏。
「伊地知先輩優しい……しゅき……」
「ちょっ……そういうことは言わんでよろしい!!」
「本当に尊敬してるんスよ? この世界で一番尊敬してる人は誰かって聞かれたら、伊地知先輩って即答出来ますし……」
「あーもう、恥ずかしいからやめてー!!」
脳天に軽いチョップをくらい頭を押さえる真。
ピロリン……!
LOINEの通知である。
虹夏のスマートフォン、そしてリョウのスマートフォンだ。
アプリを立ち上げ、二人はその内容を見る。すると、虹夏の表情が凍り、普段無表情のリョウにもやや動揺が浮かんでいるように真には見えた。
「どうしたんスか……?」
「ど、どうしよう……」
恐る恐る、といった様子で聞く真に虹夏は声を震わせながら答える。
「ギターボーカルが……辞めちゃった……」
一瞬の沈黙。
頭が一度真っ白になった真は正気に戻り、そして、こう叫んだ。
「は、はあああぁぁぁぁぁ!?」
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