元バンドマンの高校生はメジャーデビューの夢を見るのか   作:ハウンド・ドッグ

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 アンケートは9/14(木)の午前9時を以て締め切らせて頂きます!


転がる岩 Ⅲ

 合わせでの演奏が終わり、虹夏とリョウは互いに顔を見合わせ、静かに頷く。次に出た言葉は……

 

「ド下手だ……!」

 

「ぷふっ」

 

「えぇぇぇぇぇ……」

 

 ひとりはソロ弾きではとても上手い。しかし、バンドというものはメンバーと息を合わせて演奏するものである。人まともに目を合わせることが出来ない彼女は一人で突っ走る演奏をしてしまうのだ。その事実に打ちのめされたひとりは可燃ごみの箱に入り込み、膝を抱えて俯いてしまった。

 

「ねぇ出て来てぇ……! 本番始まっちゃうよ!!」

 

「やややっぱり出来ません……!」

 

「しょうがないよ即席バンドなんだし……あたしだってそんな上手くないし」

 

「私は上手い」

 

 必死にゴミ箱の外に出るように説得する虹夏と何の慰めにもならないことを得意気に言うリョウ。

 ひとりは俯きながら不気味な笑い声を上げる。

 

「取り敢えずこっち向いてー! 現実逃避しないで!」

 

「……MCでも全くお役に立てないですし……」

 

 あははは、と乾いた笑みを浮かべるひとり。

 

「わ、私の命を以てハラキリショーでも……!! バ、バンド名くらいは覚えて帰ってくれるハズ……」

 

「ロック過ぎる!?」

 

 突拍子も無い、というか大分過激なひとりの発言に堪らず虹夏はツッコんだ。

 

「大丈夫。ひとりが野次られたら私がベースでポムッてするから」

 

 こちらも過激な発言をする山田リョウ高校二年生。

 

「ベ、ベースってそんなファンシーな音しますかね……」

 

「流血沙汰もロックだから……」

 

「ロックだから」

 

「ロック免罪符過ぎる!?」

 

 ひとりがツッコむのも無理は無い。

 

 

 

 

 一方その頃、接客に精を出す真。

 

「カシオレ一つ下さい」

 

「かしこまりました。少々お待ち下さいっと……」

 

 ライブハウス『STARRY』で催されるブッキングライブを見に来た客に慣れた手付きでドリンクを注ぎ、差し出す。そろそろ客足も落ち着いてきたのか、それ以降の注文は無くなった。

 

(うーむ……伊地知先輩達大丈夫かねぇ……)

 

 不安だ、と真は内心で独り言ちる。関わりはほとんど無いがクラスメイトであるひとりの心配もあった。

 

(……様子、見に行くか)

 

 カウンターから出た真はその足でスタジオへと向かった。

 

「皆さーん……もうすぐ出番っスけど大丈夫っスか……って」

 

 扉を開けた真の眼前に飛び込んできたのはゴミ箱に入っている(処分されている?)ひとりとそこから出そうとする虹夏、そしてリョウ。

 

「……何スかこのカオスな光景」

 

 まさしく、混沌。

 

「あ、真君! これには事情があって……」

 

カクカクシカジカまるまるうまうま(虹夏事情説明中)

 

「なるほど理解しました。……そりゃ、誰だって怖いっスよね」

 

 中学時代、真自身も通った道であるからか、ひとりの気持ちは何となく理解出来た。真はバンドを組んでいた頃の初ライブ前に緊張でトイレで盛大に嘔吐していたことを懐かしそうに思い出す。

 

「大丈夫だから! ウチのバンド見に来るの、あたしの友達くらいだしさ!」

 

「私、友達虹夏だけだから」

 

「普通の女子高生に演奏の良し悪しとか、わかんかいって」

 

「炎上しそうなんで、そういうのSNSに上げるの控えて下さいよ?」

 

「あ……そっか、ゴメン。今のは失言だったかも……」

 

「まあ、オフレコなら問題無いでしょう。山田先輩はやりそうで怖いっスけども」

 

「やらないし」

 

「本当か?」

 

 断言するリョウに虹夏は怪訝そうな視線を向けた。

 

「……ごめんなさい」

 

「……けど!」

 

「無理強いするものじゃない」

 

「……だよね。無理なお願いして、ゴメンね?」

 

「……伊地知先輩に後藤さんのこと教えたのは俺だから……迷惑だったら本当スマン」

 

 申し訳無さそうに謝罪する虹夏と真。

 

「い、いや、そこは……!」

 

 そうじゃない、そういう訳じゃない。

 ひとりはぽつり、ぽつりと語り始める。

 バンドはずっと組みたかったこと。だから、声を掛けてくれて、バンドに誘ってくれて本当に嬉しかったこと。引っ込み思案な性格が災いしてメンバーが中々集まらなかったこと。それ故に、普段はネットにカバー曲を投稿したりしていること。

 

「……普段は何弾くの?」

 

「結成した時、すぐに対応出来るようにここ数年の売れ線バンドの曲は大体……」

 

「えっすご!?」

 

「マジかよ」

 

 リョウの問いに答えたひとり。その内容に虹夏と真は驚く。しかし、ひとりはそれを否定した。

 

「いや、全然……結局こんな感じになって……やっぱり私には誰かとバンド組むだなんて……」

 

 虹夏は先程のひとりの発言からとあることを思い出す。

 

「売れ線のカバーばかり……なんか『ギターヒーロー』さんみたいだね。……って知ってる? 多分あたしらとそんな歳変わらないんだけど……」

 

(……え!? 私!?)

 

 ひとりはネット上では『ギターヒーロー』という名義でカバー動画を投稿していた。彼女は自身の投稿動画を見てくれていたことに、表には出さなかったが内心で驚く。

 

「知らないなら後でURL送るよ! もう、最高に上手いから聴いてみて!」

 

(最……高……?)

 

 ゴミ箱の中で蹲っていてわかりにくいが、その言葉に側頭部のアホ毛をぴこぴこさせながら喜ぶひとり。

 

「私もおすすめに何度も上がってくるから見たことあるけど、凄く美味かった」

 

「俺はギター歴は今年で8年になりますケド、ギターヒーローさんの演奏は参考になることばかりで。俺自身まだまだだなーって感じさせられるんスよね」

 

「ね!? ……ネーミングセンスはちょっと痛いケド……」

 

(痛いの!?)

 

 ひとり自身は『ギターヒーロー』という名前を格好良いと思っていたらしいが、どうやら違ったことにショックを受ける。

 

「あたし、フォローして新着通知もオンにしてるんだ〜。いつか一緒に演奏してみたいな〜」

 

(今したんですけどね)

 

 三人は気付いていない、というか現時点で気付く余地すら無いが、ちょうど目の前のゴミ箱の中で蹲っている後藤ひとりこそ、ギターヒーローその人なのである。

 

「……えっとね。何が言いたいかっていうと、上手くて話題の人もね、あたし達が見てない所でたっくさん、たっくさんギターを弾いてきたんだろうなって。後で見てみて? 動画観てると伝わってくるから!」

 

(現実世界の人達は誰も私なんか興味無いと思ってた)

 

「今日がダメだからってバンド諦めるのは早いって! あたし達がアレなだけかもしれないし……」

 

「……"アレ"?」

 

(けど、こんな優しい人達がずっと見ていてくれて、私なんかに声を掛けてくれた……!)

 

「あっ」

 

「立った」

 

「後藤さんが立った」

 

 このような奇跡は多分一生起こらない。絶対に無駄にしてはいけない、そう思ったひとりは顔を上げ、立ち上がる。

 

「わ……私……その……」

 

「もしかして……出てくれる気になった、とか……?」

 

「うっ……」

 

「ひとりちゃん……?」

 

(頭ではわかってる……でもやっぱり怖い……。お客さんの目線も耐えられるワケが……!)

 

 襲い来る恐怖で身体が強張り、再びゴミ箱へと戻ってしまうひとり。

 見かねた真は口を開く。

 

「……後藤さん。ちょっと手ェ貸して」

 

「え……あ……はい」

 

 恐る恐る、といった様子でひとりは手を差し出す。

 

「ンじゃ、ちょいと失礼して……、これは父さんから教えて貰ったンだけどさ、掌のこの辺りに『労宮』っていうメンタルを落ち着けるツボがあるワケ。よく、緊張したら人って書けって言うだろ? その時にここを刺激してンのよ」

 

 言っちゃ難だが、そこさえ刺激出来れば良い訳なので『人』と書いても飲み込む必要はあまり無い、と真は付け足す。

 

「……って聞いてるか?」

 

「あ……う……あ……」

 

 こうやって誰かに、それも異性に手を触られたことすら無いひとりは全身を小刻みにバイブレーションさせ、しまいには……

 

「ぴちゅん」

 

「爆発したァ!?」

 

 

閑話休題(暫くお待ち下さい)

 

 

「すすすすみません……! ミジンコ如きが不快な思いをさせてぇ……!」

 

「いや、大丈夫だから!? 気にしてねェし、寧ろ謝るのは俺だから! だから土下座辞めて!?」

 

 復活したひとりは先の一件で真に不快感を抱かせてしまったのでは、と必死で頭を下げ土下座する。真は気にしていない、というかひとりのコミュ障具合を甘く見ていたこともあり、わたわたとしながら土下座を辞めさせようとする。

 その時、リョウはふむ、と呟き何かを持ってきた。

 

「……怖いならコレに入って演奏したら?」

 

 それは……

 

「い、いつも弾いてる環境と同じです……!」

 

 マンゴーの箱だった。

 どこからどう見てもマンゴーの箱だった。

 

「どんな所に住んでるの……?」

 

 虹夏の発言は是非も無いものだろう。

 

「皆さーん! シモキタ盛り上げていきましょう!!」

 

「少し気が大きくなった」

 

「……なんかもう最高に格好ワル……いやこれとロックなのか!?」

 

 いつも弾いている環境の中ににる為か気が大きくなったひとりは一人陽気にMCワークを行う。

 この時のひとりは最高にロックだった、と後の真は振り返るのであった(大嘘)。

 

「そういえば、ライブで何て紹介すればいい? 『ひとりちゃん』? 本名でいいかな?」

 

「い、いや……それは……」

 

「じゃあ、あだ名とかは無いの?」

 

「中学では『あの』とか『おい』とか……」

 

「それあだ名って言わねェよな!?」

 

「あ、あだ名で呼び合う程親しい交友関係は持ったことが……」

 

 どうやら色々とマズい部分に触れてしまったらしい。

 

「ひとり……独りぼっち……ぼっちちゃんは?」

 

「またデリケートな所を!?」

 

「それもうイジメじゃあ……」

 

「ぼぼぼ、ぼっちです……!」

 

「喜んでるし」

 

「いいのかそれで……」

 

「あだ名とか初めてで……」

 

「なんか涙出て来た……。真君」

 

「あ、はい」

 

「同じクラスでしょ? ……話し掛けたげてね」

 

「ウッス」

 

 虹夏の瞳が憐れみを宿してしまったのは無理も無い。真は虹夏の頼みに応じ、明日からは話し掛けるようにしよう、と決意する。

 

「あ、まだバンド名聞いてなかったです」

 

 マンゴーのダンボール箱を組み合わせた大箱からひょこりと顔を覗かせていたひとりが問う。

 

「『結束バンド』、だよ」

 

 リョウの答え。

 ひとりは頭の中を俗に言う宇宙猫状態にしながらその名を反芻する。

 

「ぷふっ……傑作」

 

「サムイし! 絶対変えるから!!」

 

 このバンド名は虹夏の了承を得た訳では無いらしい。

 

「何で? 可愛いよね?」

 

「あ、はい」

 

「うぁぁぁ……バンド名は後回しで! そろそろ出番だよ!」

 

「あ、うぅぅ……」

 

 またも段ボールの箱の中に閉じ籠もってしまうひとり。

 

「大丈夫! 下手でも楽しく弾くことだけは心掛けよう? 音って物凄く感情が現れやすいから」

 

「は、はい」

 

「技術を求めていくのは次からで全然いいよ!」

 

「うん」

 

(……次)

 

「そうそう。……それでは俺はバイト戻るんで、頑張って下さい! ……後藤さんも、今出来るベストを!」

 

「……はい!」

 

 サムズアップしながら去っていく真を見送る三人。

 

「ひとりちゃん、行こう!」

 

「は、はい!」

 

(……私、次もいていいんだ)

 

 ひとりはとても暖かなものをその胸に感じながらステージへと上がった。

 

 

 

 

 

「おーい……遅いぞ真」

 

「スンマセン。……ちょっと様子見に行ってたモンで……」

 

「ああ……なるほど」

 

 代わってくれていた星歌の小言に申し訳無さそうに謝罪しながらカウンターへと戻る真。その視線の先にはステージの上で準備を終えた結束バンドの三人がいた。

 

「はじめまして! 結束バンドでーす! 今日は皆も多分知ってる曲を何曲かやるので、聴いて下さい!」

 

 虹夏による元気なMCにも関わらず、観客は静寂に包まれていた。

 星歌は右側の大きな段ボール箱にぎょっとした目を向け、思わず何だアレ、と呟く。

 虹夏のドラムから演奏が始まる。

 

(……うーむ、ビミョー……)

 

 真や星歌、そして観客の感想はこれに尽きていた。

 メンバーに力量差があること、ミスが結構多いこと、そしてギターがベースとドラムに微妙にあっておらずズレていること等が要因として挙げられた。

 はっきり言ってバンドとしては上手くない。だが、真はとても懐かしい思いに囚われれていた。

 

(中学からバンド活動始めたケド、俺も最初はあんな感じだったなぁ)

 

 STARRYでバイトを始めてから一ヶ月。その間に聴いたステージでのライブ演奏の中で結束バンドの現在のクオリティはやはり低い。バンド結成間も無いならば、致し方無いことである。

 その様子が、バンドを始めた過去の自分自身と重なって見えた。

 二年程活動し、価値観や方針の違いからやがて軋轢が生まれ、中三の夏に喧嘩別れする形で解散し、それ以降はソロで活動を試みるも作詞も作曲も上手くいかず、スランプに陥ってもう半年以上が経った。

 最近は情熱すら冷めかけていた。

 だが、この演奏が、彼自身を郷愁へと導いた。

 消えかけていた炎が再び燻り始めた。

 

 

 あの時のように、いやそれ以上に燃え盛るのも、そう遠くない……のかもしれない。

 

 

 

 

 

 

 

 ライブが終わり、営業が終了する。掃除をしていると、ピンク色の髪の少女がスタジオから出て来る。

 

「うーい……おつかれー……」

 

「お、お疲れ様でした!!」

 

 ばびゅん、という音でも出そうな程の速度で去っていく後藤ひとり。

 

「えー……速……」

 

 後で聞いたが、この後歓迎会を兼ねたライブの反省会を催す予定だったらしい。それを聞いた時、思わず出た言葉は間違ってはいないだろう。

 

「……結束感無さ過ぎでしょコレ……」

 

 




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