元バンドマンの高校生はメジャーデビューの夢を見るのか 作:ハウンド・ドッグ
拝啓、天国におわせます爺ちゃん。俺は元気です。
今日は貴方の命日ですね。なので、こうして昼食中に祈りを捧げているわけなのです。
最近、俺はライブハウスでバイトを始めました。バイト先の店長さんやPAさん、先輩達はとても優しく、困った時はフォローして下さいます。本当、感謝しています。
さてさて爺ちゃん。貴方は漁師でしたね。天国でも魚を釣っているのでしょうか。それともナンパばかりしているのでしょうか。貴方の
晩年はボケて『おっぱい、おっぱい』とばかり呟いていましたね。はっきり言って引きました。
今際の際で俺に残した遺言を憶えていますか?『お前はおっぱいに囲まれて死ね』、でしたね。もうドン引きでした。
俺は貧乳派なので、巨乳派の貴方とはわかり合える気がしません。
ですが、今日は聞かなかったことにしてあげます。こんな日に仕返したくありませんから。
しかし、孫に、特に妹の姫夏ちゃんの教育に悪影響でしたので、そういった発言はやはり控えて欲しかったです。
もし、もし反省している、というのであれば……
「よう真! 花など差してどうした? 華道に目覚めたか!」
「……あはは。いつも拓也がゴメンね?」
……願わくばこのうるさい奴をどかして下さい。
「何しに来やがった拓也ァ……このリア充が」
「フハハハ、褒め言葉だな!」
「皮肉だよ」
「気にしてばかりいるとまた身長が縮むぞ」
「
「二人共落ち着け」
「「ふご!?」」
いつものように高飛車な物言いが目立つ篠宮拓哉とその
獅童さんは黒髪ストレートに耳ピアス、そしてパンキッシュなパーカーと結構パンクな見た目をしている。拓也は眼鏡の高身長でアスコット・タイを何故か巻いている。
拓也の父親は音楽関係の仕事をしており、ガッキョクのプロデュース等を手掛けているという。また、獅童さんは会社の令嬢なのだとか。
獅童さんから聞いた話によると、中学までは金目当てすり寄ってくる人間ばかりで孤独を深め、友人がいなかったらしい。よって人付き合い、特に会話がド下手で高飛車な物言いになってしまうらしい。ようするに、構ってちゃん……男だから構って君か。とにかくそれなのである。人生で初めて出来た友人が俺らしい。……何か悲しい。
「……今日が父方の祖父の命日なンだよ。だから花を添えてたんだ」
「ああ……なるほど。祖父はどんな人だったの?」
「それは俺も気になるな!」
「あー……一言で表すとプレイボーイ。魚も女も両方釣って来て、しょっちゅう祖母にシバかれてた」
「Oh……」
いや、本当に凄かった。婆ちゃんは合気道の有段者で爺ちゃんが浮気する度に放り投げていた。それはもう、見事なものだった。
そのことを二人に話すと引いていた。そりゃそうだ。
もきゅもきゅと姫夏ちゃんが作ってくれた弁当を食べながら、最近よく一緒に食べるこの二人と駄弁る。
さて、問題は……。
(さっきから凄いこっち凝視してくンだけど……)
後藤さんである。
伊地知先輩に頼まれて、今日話し掛けようと意気込んだのはいいものの……やはり怖い。何というか、視線による圧が怖い。多分に悪感情は抱かれていない……ハズ。そう信じたい。
「どうした真よ。顔が百面相してるぞ」
「うるせ。こっちは真剣に悩んでンだよ」
覚悟を決めろ。頑張れ俺。
意を決して振り返る。
「えーと……後藤さんも、一緒に食べる……?」
「あっ……え……」
「……後藤さーん? どうしたー?」
後ろの席の後藤さんに話し掛けたが……後藤さんはその途端にガッチガチにフリーズしてしまった。
そして……。
「ぴちゅん」
「爆発したァ!?」
「すすすすみません! 私のようなミジンコがぁ……!」
「いや、大丈夫だから!? ゴメン本当無理させたよな!?」
……何だかこの展開見たことあるぞ。
その後、逃げるように後藤さんは弁当箱を持って教室から出て行った。……コミュ障具合を舐めていたかもしれない。
「ふっふっふっ……」
「何だ拓也テメェ、キモい笑い方しやがって」
拓也はぽん、と俺の肩に手を載せ、それはもう満面の、ムカつく笑みを浮かべこう言うのである。
「……フラれたな!」
「はっ倒すぞテメェ。そもそも始まってすらいねェよ」
俺は貧乳派なんだよ。絶対に口にはしないけども。
「わかんないよー。真君、貧乳派っぽいケド、もしかしたらその性癖が粉微塵に破壊されるかもだし」
「不吉なこと言わないで獅童さん」
というか何でバレてんの。普通に怖っ……というか女の勘って本当に怖い。
放課後。
今日はバイト前に伊地知先輩、山田先輩、後藤さんの結束バンドはメンバーミーティングを行うらしい。今後の活動について話し合うのだとか。
それはとても良いことだと思う。メンバー同士、意見をぶつけ合うことは大切だと思うし。
「ただいまー」
「あ、お兄。おかえり」
先に帰っていたのか姫夏ちゃんが出迎えてくれた。お兄ちゃん的にそれ、ポイント高いです。
「お父さんとお母さん、今日も遅くなるんだって」
「うわマジか。最近残業多いなー……」
「夕ご飯、冷蔵庫に入れとくから。バイトから帰って来たらそれ食べて」
「了解」
会話しながら廊下を歩き、俺は自室に入る。
カバンを放り、クローゼットを開け放つ。……今日はミリタリー系でいこう。制服を脱ぎ、クローゼットから取り出した服に着替える。
原付免許を少し前に取ってから遠出であまり使わなくなったものの、バイトや買い出しに行く時によく使うことになった折りたたみ式自転車を入れたザックを背負い、壁にかけている誕生日に姫夏ちゃんから貰った黒いハットを被った。
「んじゃ、お兄ちゃんバイト行ってくるから。何かあったらすぐ電話して」
「ん。わかった」
スニーカーを履き、玄関の扉を開ける。
「……行ってらっしゃい」
「行ってきます」
気恥ずかしそうにそう言う姫夏ちゃんは手を小さく振っていた。俺はそれに手を振り返し、埋め立てた自転車に跨りSTARRYへと漕ぎ出すのであった。
STARRYに着いた時、階段の一番上で伊地知先輩と山田先輩が立ち止まっているのが見えた。
「ありゃ、先輩達どうしたン──」
「静かに」
自転車を畳んでザックに入れながら問おうとすると、山田先輩にそれを制される。アレ、と指差すのでそちらを見てみると、STARRYの入口の前でウロウロと歩き回って奇怪な仕草をしている後藤さんの姿が。
「……何やってンすか本当に」
「鑑賞してる」
「ええ……」
伊地知先輩は呆れた表情で、リョウだから、と言った。……確かに山田先輩らしい。
ふと、後藤さんがこちらを見た。
「「「「あっ」」」」
目が合った俺達の口からは、そんな間の抜けた音が溢れた。
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