元バンドマンの高校生はメジャーデビューの夢を見るのか   作:ハウンド・ドッグ

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「また明日」 Ⅱ

「はい! と、いうことで第一回結束バンドメンバーミーティング&真君とぼっちちゃんの親睦会を開催しまーす! 拍手!!」

 

 ぱちぱちぱち、とSTARRYの店内に拍手が響く。

 その時、今まさに店内の掃除をしようとモップをその手に持った真はぴたり、と動きを止めた。

 

「え……親睦会……? 聞いてないンすけど……」

 

「あれ? 昨日LOINEで送ったよー?」

 

 虹夏にそう言われた真は慌てて自身のスマートフォンを操作し、昨日のLOINEを確認する。

 

『明日は営業前にバンドミーティングをやるよ! 後、ぼっちちゃんをバイトに誘おうと思ってるから、先輩として仲良くしてあげてね!』

 

 真は最後の文言を凝視する。

 

『仲良くしてあげてね!』

 

(って、コレェ!? わかりにく!?)

 

 LOINEに込められた本当の意味を理解した真。

 

「伊地知先輩……こういうのはもう少しわかりやすく書いてくれないと困りますって……」

 

「あっはは……ごめん」

 

 まあ構いませんけど、と真は呟きモップを元あった場所に立てかけておき、用意された椅子に座る。

 

「それじゃあ、えーと……思えば全然仲良くないから何話せばいいのかわかんないや……」

 

「身も蓋も無い!?」

 

 ひとりは思わず突っ込む。

 

「……そんな時の為に、こんなものを」

 

 リョウはおもむろに、それぞれの面に議題が書かれた大型のサイコロを取り出す。

 

「いいね!」

 

「なーんかどっかで見たような……」

 

 サムズアップする虹夏とその見た目に怪訝そうな視線を向ける真。ひとりは結構、いやかなり過激なものが議題に混ざっていることに戦々恐々とする。

 虹夏はサイコロを手に取り、放った。

 

「何が出るかな? 何が出るかな?」

 

「でででんでん……でででんでんでん……」

 

「昼の番組で見たことあるノリっすね……」

 

 節を付けながらサイコロが止まるのを待つ虹夏とリョウ。そのノリにやはりどこかで見たことあるぞ、とでも言いたげな視線を真は向けた。

 サイコロが止まった。

 

「『学校の話』。略してガコバナー!」

 

「はい、どうぞ」

 

「えぇ……」

 

 リョウの促しについそう漏らしてしまうひとり。

 

「えぇと……あ……そういえば二人共同じ学校で……」

 

「そう。下北沢高校(シモコー)

 

「二人共家が近いから選んだ」

 

 ひとりの問いに答える二人。

 

「ああ……下北沢にお住まいで」

 

「……って、後藤さん。秀華高なのに、この辺じゃねェのか?」

 

 ふと、ひとりの発言に疑問を持った真が彼女に尋ねる。

 

「あ、いや、圏外で片道二時間です……」

 

「二時間!?」

 

「遠くね……?」

 

「えっ何で!?」

 

 片道二時間、という予期せぬひとりの返答に三人共それぞれの反応で驚く。

 ひとりは暗く、それはもうとても暗い調子でこう答えた。

 

「高校は……誰も自分の過去を知らない所に行きたくて……」

 

「はい、ガコバナ終了ぉぉ!」

 

 堪らず虹夏はこの議題についての会話の打ち切りを宣言。どうやら思いも依らぬ形で傷を抉ってしまったらしい。

 

「だ、大丈夫、大丈夫! リョウもね。そんな友達いないし」

 

「うん。虹夏だけ」

 

(えっ……トクン……)

 

 リョウのその一言に親近感を覚え、ときめくひとり。

 

「休みの日は一人で廃墟探索したり、古着屋さんに行ったり……」

 

 その言葉にひとりは違和感を覚えた。

 そう、リョウは一人ぼっちなのではない。一人でいることが好きなのだ。第一、コミュ障は一人で服屋に入れない。一人ぼっち(コミュ障)と一人好きの間には決して埋めることの出来ない深い溝があるのだ。

 そして、ひとりは異性と会話する程メンタルも強くない。空気に流されるままその事実に気付けなかったひとりは……。

 

「ぴちゅん」

 

「爆発したァァ!? ……ってまたァ!?」

 

 

しばらくお待ち下さい(「どうしてこうなったァ!?」)

 

 

「すすすすみません……!」

 

「そ、そうだよね! ぼっちちゃん、そういうの慣れてないもんね!」

 

 免疫をある程度付けさせるのが今後の課題だ、と虹夏は考える。

 そして割と、というかかなり凹んでいる真。

 

「……本当スミマセン」

 

「真がぼっち泣かせた」

 

「リョウ。誤解を招く発言しないで」

 

 気を取り直して、と虹夏はサイコロを振る。

 出た議題は……

 

「次は『好きな音楽の話』ー! 略して……」

 

「オトバナー」

 

「オトバナー……」

 

「オ、オトバナー」

 

「あたしはね、メロコアとか、所謂ジャパニーズパンクかな」

 

 まずは虹夏が答えた。

 

「私はテクノ歌謡とか。最近はサウジアラビアのヒットチャートを」

 

「そこウソつかないー」

 

「本当だもん」

 

 真偽が定かでないリョウの発言に虹夏はツッコミを入れる。

 

「俺はハードロックとヘヴィメタルですかね。邦洋問わず聴くカンジです」

 

 真も答えた。

 

「ぼっちちゃんは?」

 

 虹夏がひとりに尋ねる。

 

「あ……その……」

 

 すると再び暗い様子でこう答えた。

 

「……青春コンプレックスを刺激する歌以外なら……何でも」

 

「青春コンプレックス?」

 

「何スかソレ……」

 

 青春コンプレックスを刺激する歌とは、『夏』や『青い海』、『花火』、『淡い恋』といったひとりの学校生活に縁の無いワードが多様されたキラキラと輝きを持つようコーティングされた爽やかな歌のことである。……ひとりの眼前に現れたイマジナリーフレンドはそう言った。勿論他三人には見えていない。

 反対に、青春時代の鬱憤を歌詞に叩きつけたバンドは大好物である。……と、眼前のイマジナリーフレンドは言った。

 

「うんうん。ケド、好きなバンドが学生時代に人気者、なんて言ったら急に遠い存在に……」

 

「おおーい……お願ーい。一人の世界に入らないでー……」

 

 現在ひとりは一人の世界に入ってしまっていた。図らずも傷を抉ってしまったらしい。

 

「ロックとは負け犬が歌うから響くのであって成功者が歌うとそれはもう」

 

「おーい! おーい!」

 

 虹夏は必死で呼び掛けるがひとりは帰還してこない。

 

「皆、結束してよぉ〜」

 

「結束バンドだけに」

 

 

立ち直るまでしばらくお待ち下さい(「何も上手いこと言ってないスよ」)

 

 

 次の議題は『ライブの話』。

 

「えーっと、初ライブはインストだったけど、次はボーカル入れたいんだー」

 

「あ、……そうなんですか?」

 

 虹夏の発言にそう返すひとり。

 

「元々はギターがやるハズだったンだけど……逃げちまって」

 

「な、なるほど」

 

 真の補足に状況をある程度理解するひとり。

 

(……逃げたギターの子。私と同じコミュ障だったのかな……)

 

 そう考えて、ひとりはいや違う、と否定する。

 

(真のコミュ障は逃げることも出来ない……!!)

 

 それはひとりが行き着いた真理(答え)であった。

 

「ボーカルまた探さなきゃ……あたしは歌下手だし、ぼっちちゃんは……」

 

「うぅ……」

 

 ひとりは視線を落とす。

 

「……あはは。だよねー……」

 

「あ、あの……リョウさんは……」

 

 するとリョウはしくしくと涙を流しながらこういった。

 

「フロントマンまでしたら、私のワンマンになってバンドを潰してしまう……」

 

「その湧き出る自身はなに?」

 

「本当それっスね」

 

 リョウの自信過剰とも取れる発言にジト目を向ける虹夏と真。一方のひとりは羨ましそうにリョウを見ていた。人見知りでコミュ障な彼女にとって、その自信を自分自身にも分けてほしい、と思ったからだ。

 

「そうだ! ボーカル見つけたら曲も作ろうよ! リョウは作曲出来るし、歌詞に禁句が多いなら、ぼっちちゃんが書けばいいよ!」

 

「へ……?」

 

 虹夏の提案にぽかんとするひとり。

 

「どう? 名案じゃない?」

 

 ひとりは思った。

 小・中九年間の休み時間を図書室で過ごしたのはこの為の布石なのか、と。

 

「……虹夏は何するの?」

 

 リョウは問う。そして、一瞬の静寂の後……

 

「……えい。次は『ノルマの話』ー」

 

 サイコロを振った。

 

「堂々と流された」

 

「尺ですけど山田先輩と同意見ッス」

 

「あ、あの……ノルマというのは」

 

 ひとりはおずおずと尋ねる。ライブハウス初心者の彼女にとって知らないことばかりだ。

 

「えーっとね…、そだ。真君、説明お願いしていい?」

 

「えっ俺っスか?」

 

「仮にもバンドマン。出来るでしょ」

 

 ひとりはまだ知らないが、虹夏は彼女をバイトに誘おうとしていた。その為にバイトの先輩となる彼女のクラスメイトたる真との関わりを少しでも増やすべく、真に説明を頼んだのだ。意図を察したリョウも説明を促す。

 

「まぁ、いいですケド……」

 

 こほん、と咳払いをした真はどこからともなくメガネを取り出す。

 

「それどこから出したの」

 

 リョウのツッコミはこの際無視した。

 

「後藤さん、バンドにはライブをするにあたって、ライブハウス側から集客を保証する為のチケットノルマ──つまりは元が取れる最低限の売上が課せられるワケ。それで、そのノルマ以上に売れた場合、ライブハウスとバンドで売上を分け合うンだ」

 

 ここまでいいか、と確認する真にひとりはおずおずと頷く。真は説明を続ける。

 

「まあでも、駆け出しのバンドはそう上手くいかないもので。……チケットノルマを達成出来なかった場合、その分をバンド側がジバラで払わないとならんのよ、コレが」

 

 どこか遠い目でそう話す真。かつて彼自身も通った道である。

 

「まあ、つまり……」

 

「売れるまで滅茶苦茶お金要る」

 

「山田先輩、美味しいトコだけ持ってかんで下さい」

 

 ざっくりまとめた、とひとりは内申でそう思った。

 

「昨日のライブはあたしの友達が結構来てくれたからチケット捌けたんだけど……」

 

「あの出来じゃ二回目は来ない」

 

「だよねぇ……」

 

 リョウの言葉に虹夏は溜息を吐く。

 

「リョウは友達いないからアテに出来ないし……ぼっちちゃんは……」

 

 ひとりは目を伏せた。

 

「……うん、ゴメン! 大丈夫だから、死んだ魚の眼やめて?」

 

 空想上の、イマジナリーフレンドなら沢山いるのだが、このことは伏せたひとり。賢明である。

 というわけで、と虹夏は言ったあと続ける。

 

「当分ライブの為に数万円必要だから、ノルマ代・機材代諸々稼ぐ為にバイトしよう!」

 

「……はい」

 

 その直後。

 

「バイトォォ!?」

 

 『バイト』のワードに大きな声で反応するひとり。

 

「今日一声出たな……」

 

 真は冷静に突っ込む。

 

(絶対嫌だ……働きたくない、怖い……社会が怖い……!)

 

 すると、ひとりはおもむろにテーブルの上に豚の貯金箱を置いた。

 

「……ぶたさん?」

 

 虹夏は小首を傾げる。

 

「お、お母さんが私の結婚費用に貯めてくれてて……これで、どうかバイトだけは……!」

 

「あたし達を鬼にする気!?」

 

 というかどれだけ働きたくないんだ、と真は内心でドン引く。その側でリョウはそれらの様子を一顧だにせず、その貯金箱に手を伸ばす。

 

「ありがとう。大事に使わせて」

 

 スパコンッ!

 

「貴女何やってンすか。正気っスか!?」

 

 真はどこからともなく取り出したハリセンでリョウの頭を叩く。

 

「痛い……というかそれどこから……」

 

「真君。それ、貸して」

 

「あ、はい」

 

 抗議の目を向けるリョウに、虹夏は真から受け取ったハリセンを握り、振り被る。

 

「これは……こう!!」

 

 スパァァァ──ンッ!!

 

「うぐ……」

 

 先程よりもよく響く音と共にリョウはテーブルに轟沈する。ドラマーの筋力恐るべし。

 

「……流石ッス伊地知先輩」

 

「それ褒めてるの?」

 

 ジト目を向けてくる虹夏に真は表情を引き攣らせながらブンブンと首を縦に振る。一部始終を目撃したひとりもそれにつられるように首を何度も縦に振る。

 

「……ったく。いい、リョウ? そんな大事なお金は使っちゃダメ。わかった?」

 

 腕を組みながらそう強く言う虹夏にリョウは渋々といった様子で頷いた。

 

「こほん……さて、話を戻して。ぼっちちゃん、バイトの話なんだけどさ」

 

「え……あ……」

 

 『バイト』──再びこのフレーズを聞いた瞬間、ひとりの脳内に映像が映し出された。

 

 

①『え、あ……いらっしゃいま、せあた、たたた……』店員としてのバイトで吃りまくる。

 

②『この店員まったく目合わなくてワロタww』その様子がSNSで拡散。

 

③『お客様に不快感を与えたで賞で、死刑を求刑する!』訴訟に発展し、裁判。

 

④『えー……それでは、判決。死刑』死刑執行。

 

 後藤ひとりは灰になったのであった……。

 

 

「……っちちゃん。ぼっちちゃん!」

 

「へぁ?」

 

 再び一人の世界に入っていたひとりは虹夏の呼び掛けにより我に返る。

 

「今の話、聞いてなかったでしょ」

 

「また一人の世界に入ってたぞ……」

 

「……へ? ご、ごめんなさい何の話を……」

 

「ぼっちもここでバイトする」

 

「……ここで」

 

「そう。ここで」

 

「……って、えぇ!?」

 

 虹夏とリョウ、真のその言葉に素っ頓狂な声を上げるひとり。

 

「あたしもリョウも、真君もいるから怖くないよ」

 

「アットホームで和気藹々とした職場です」

 

「バイトしながらタダで他のバンドも見られて良い所」

 

 ひとりのフィルターを介して見た時、三人はとても大きく、壁のように見えていた。

 

「そうそう。ドリンクスタッフとか、掃除とか……フォローも出来るし、どうかな?」

 

「え、と……あぅ……」

 

(断れ、自分……断れ……)

 

 働きたくない。その一心で。

 

(断るんだぁぁ……!!)

 

 社会が怖い。

 しかし、その口から出た言葉は意に反し、

 

「が、がんばりましゅ……」

 

「本当? ありがとう!」

 

 断れなかった。

 

(ごめんね自分……)

 

 断る勇気があるならひとりは最初からコミュ障等やってないのだ。

 

「あ、それと。バンドの経費はあたしが管理するね」

 

「え、……あの……リョウさんに預けた方がいいんじゃ……」

 

「どういう意味じゃ」

 

 ひとりの言葉にテーブルを叩く虹夏。

 

「あのね、ぼっちちゃん。リョウはこう見えて滅茶苦茶金遣い荒いの」

 

「えっ」

 

 意外だ、といった声音のひとり。

 

「お金持ちでお小遣い沢山貰ってるけど、楽器に注ぎ込むから常に金欠だよ」

 

 その虹夏の言葉にリョウは頬を赤らめてこう呟く。

 

「てれっ」

 

「山田()()()()、今のは褒めてないです」

 

「先輩呼びされなくなった!?」

 

 軽い『パイセン』呼びに軽くショックを受けるリョウ。

 

「じゃ、近い内にまたライブ出来るように頑張ろう! そして、高校生でメジャーデビュー!!」

 

 虹夏は拳を突き上げ、そう元気に言った。

 

 

 

 ミーティングが終わり、ひとりは今日は帰宅することになる。

 

「バイト、来週からね。学校が終わったらウチに直行で」

 

「後藤さん、それじゃまた」

 

「ぼっち、バイバイ」

 

「あっ……ハイ」

 

 STARRYのドアから身を乗り出しながら三人はそう言ってひとりを見送った。

 

 

 

 

 

 そして、一週間後。

 

 ひとりのバイト初日となる。




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