気がついたらガーネフになっていた。何を言っているのか分からねーと思うが、俺も何をされたのか分からねー、ってこのネタはいいか。
意外にも落ち着いている自分にまずビックリしたいる。
……噛んだ。まさか独白で噛むとは。少しは動揺しているのかもしれない。
100歩譲って、いや1000歩譲ってガーネフになったのはいい。だがなんでこのタイミングなんだ?
今はアカネイア歴604年。つまり暗黒戦争も終盤に入った頃だ。ガーネフ……つまり俺はカダインの最高司祭であり、支配者でもある。
街には闇のオーブの力で支配下に置いた魔導士たちが……ん? 闇のオーブ?
視線を執務机の上に向ける。そこには漆黒に輝く
……俺、正常だよな。なんで狂ってないんだろ?
そういえば闇のオーブって精神エネルギーを高める効果があるってだけで、別に邪悪なものではないって設定だった……はず。
ふむ。まあ特に変化はないし、考えても分からんからこれで良しとしよう。
一応ガーネフとしての記憶も、おぼろげながらある。暦も理解しているし、ガーネフだという自覚もある。ハッキリとしていないのは、闇のオーブのせいだろう、たぶん。
とりあえず部屋の探索だ。書棚には全ての魔導書が三冊ずつあった。几帳面かよ。
部屋の隅には剣と杖が見えた。
「ファルシオンと、オームの杖か」
ライブやリライブなんかとはエネルギーの量が違う。使えはしないが、これがとんでもない聖杖だというのは肌で感じた。
ちなみにガーネフは司祭なので、特殊なものを除いてすべての魔導書、杖が使用可能だ。
つうか暑い。見れば部屋の四隅に置いてあるタライの氷がほとんど溶けている。ブリザーを使って補充し、涼気を戻す。魔法は当たり前のように発動できた。
とりあえず今後のことを考えよう。
選択肢は大きく分けて2つ。
要するにこのまま世界征服を目指すか、マルスと和解するか、だ。ぶっちゃけガーネフが負けたのはゲーム的な都合の面が大きい。スターライトという弱点が分かっている以上、対処法はいくらでもある。マルスに勝つことは不可能ではない。
ただなあ、世界征服してどうするよ。不老不死の研究もしていたみたいだが、成果はほとんど上がっていない。この年じゃあ長生きしてもあと30年ってとこだろう。
あとメディウスな。たぶんメディウスはマフーでも勝てない。負けないだけで、勝てはしないのだ。また現在のメディウスは半覚醒状態で、完全復活した場合は、おそらくマフーの呪縛も打ち破りそうな気がする。
メディウスと仲良く世界征服ってのは、たぶん無理だ。あいつ、というか部下の竜族たちは最終的に人間を絶滅させるつもりだし、絶滅させないまでも大陸の端っこに追いやるくらいはするだろう。
今はメディウスの完全復活を待つ為に大人しくしているが、遠からず対立することになる。
そう考えると……詰んでるよなぁ。冷静に考えると和解一択の気がしてきた。なんとかマルスと和解する。その手立てを考えよう。どうせ今のメディウスはドルーア城から出てこられないんだし。
エリス王女は
だからそこまで恨まれてはいない……といいなぁ。
あっ、そういえばあの双子もいたわ。
◇
「久しぶりだね。エリス王女」
「……ガーネフ殿」
ここに至っても「殿」とつけるあたり、育ちの良さを感じる。まあ正真正銘のお姫様なんだけれども。
待遇改善をしてから一ヵ月ほどが経った。場所を地下牢から貴人用の客室へと移し、食事は一日三食、毎日の湯あみも許可した。シスター服ではあるが、着替えも毎日させている。シスター服なんて売るほどあるんだからな。
「顔色が良さそうで安心したよ」
というかちょっとふっくらしたんじゃない? まあ散歩は許可したけど、大した運動にもなってないだろうし、お姫様が部屋で腹筋やらスクワットやらするとも思えないし、仕方ないっちゃ仕方ないのかもしれんけど。
ちなみに、待遇改善してから顔を見せるのは初めてだ。久しぶりってのはそういうことね。
「……あなたは、何を考えているのですか?」
エリスの目つきが鋭くなる。どうでもいいけど、美人に睨まれるとゾクッとするよね。いやどうでもいいことだけど。
「タリスに逃れたマルス王子が挙兵し、オレルアンにいるニーナ王女と合流したそうだ」
俺がそう言うと、エリスは目を丸くした。まあここじゃ情報なんて入ってこないからね。ニーナが生存していたということも知らなかっただろう。
「オレルアンにはマケドニア軍がいる。よしんば解放できたとしても、パレスはグルニア軍が占領統治している。奪還は難しいだろうな」
エリスの表情が曇る。グルニア騎士団の精強さは彼女も知っているだろう。なにせアリティア軍の主力はカミュの黒騎士団と裏切ったグラによって挟み撃ちにされ、ほぼ全滅したのだからな。
まあそのカミュは今ドルーアに幽閉されてるんですけどね。
「だが私は、パレスが奪還されると思っている」
ていうかやってくれないと俺の計画が崩れる。マルスには原作通りに進んでもらって
「ならば何故……あなたはここにいるのですか?」
まあエリスならそう思うよな。こんなとこで油売ってていいのかよってことだ。
「エリス王女。私はあなたを国に帰しても良いと思っている」
エリスはまた驚愕の表情を浮かべた。コロコロとよく表情が変わる子だな。腹芸は出来ないタイプか?
「だが今はダメだ。今のアリティアはグルニア軍が占領し、ドルーアの兵も駐留している。もうしばらくは我慢していただきたい」
表情が驚愕から消沈に変わる。だんだん面白くなってきたぞ。
「いずれマルス王子がここにやって来るだろう。その時に、共に帰るが良い」
そう言って、俺はエリスの部屋をあとにした。
さて、次はあの双子だな。
◇
「久しぶりだね。ユベロ王子、ユミナ王女」
「――ガーネフッ!!」
呼び捨てかよ。育ちの悪さを感じるな。正真正銘のお姫様のはずなんだが。ユベロはユミナに隠れるようにこちらを見つめている。
別々の部屋の方がいいかとも思ったのだが、本人たちの希望により一緒の部屋になった。まああの頃は一人でいる不安の方が大きかったのかもしれない。だが今になっても個室を要求しないあたり、仲は良いのだろう。
「顔色が良さそうで安心したよ」
というかようやく普通になったってところか。最初は酷かったからなぁ。ガリガリにやせ細って、欠食児童の見本みたいな感じだったし。
というかユベロはもう少し鍛えた方が良いね。魔導士だって体力が必要だよ。
「しかしユベロ王子。その態度は良くない。男の子ならば、女の子を護ってあげないとな」
俺がそう言うと、ユベロはハッとなってユミナを庇うように前に出た。うん、素直なのは良いことだ。
「またそうやってユベロを虐めてっ!」
またってなんだまたって。虐待してるみたいに言うんじゃないよ。虐待してたのは俺だけど俺じゃないんだよ。
「弟を護りたいという気持ちは分かるがね。このひと月で私の誠意は感じられたと思うのだが?」
「わたしたちを懐柔して、何が狙いなの!?」
ツン成分が強いな。まあ気丈にならねばおかしくなりそうなのだろう。ストレスってのはバカにできないものだ。現代人だってストレスでおかしくなることもあるからな。
「まあ落ち着きたまえ。落ち着いて、話をしようじゃないか」
そう言って椅子に腰かける。そのまましばらく待っていると、おずおずと二人は対面の椅子に腰かけた。
「私はキミたちを国に帰しても良いと思っている」
「――ッ!? 本気で言ってるの?」
訝しむユミナに、俺はエリスに話した内容を告げた。
「キミたちはマルス王子に同行し、グルニアのルイ王を説得してもらいたい」
「……あなたはドルーアの味方でしょう。何を考えているの?」
猜疑心の強い子だな。いや、これが普通か。ここは敵地で俺は敵だ。敵の言うことを鵜呑みにするバカはいない。確証バイアスよりもストレスの方が勝ったか。
ああ、確証バイアスってのは簡単に言うと、自分に都合の良い情報だけを信じてしまう心理のことだ。
「ユミナ王女。覚えておくといい。戦争というのは、始めるよりも終わらせることの方が難しいのだ。どこで終わりにすればいい? 敵であるものをすべて滅ぼして……かね?」
「――ッ!? そんなのは……間違ってるわ!」
「そう。間違っている。そんなことを続けていけば、いずれ人は滅ぶ。戦争を始めたのが私なら、終わらせるのも私の責任だ。それはなるべく、穏便な形にしたいと思っている」
ユベロが一言も発していないのが気になるが、さすがに何も考えていないとは思いたくない。
「まあマルス王子が来るまでしばらくかかる。考えておくといい」
そう言って、俺は双子の部屋をあとにした。
よく分からないものを書いてしまった。
全3話予定。