転生したらガーネフだった件   作:乾燥海藻類

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後編

俺は今カダインの訓練場にいる。

目の前には栗色の髪の少女が、親の仇でも見るような鋭い目つきを俺を睨み据えていた。

ようなっていうか、間違いなく親の仇なんですけどね。だが俺は悪くねぇ!

 

「ガーネフ! 父から受け継いだこのオーラの魔法で、あんたをちりぢりに引き裂いてあげるわ!」

 

可憐な少女が鬼のような形相で俺を睨み付ける。

(こわ)っ! 可愛い顔が台無しだよ、と言ってやりたいが、軽口が利けるような雰囲気でもない。

少し離れた場所には立会人としてウェンデル、マリク、エルレーンがいる。そして何故かユベロもいた。エルレーンが連れてきたのか?

 

「私とミロアは魔導の在り方によって対立した。それが殺し合いにまで発展したのは悲劇と言うほかない。とはいえ、キミから父を奪ったのは事実」

 

未だに分からねぇんだが、なんでガトーは止めに来なかったんだろうか。あんだけドッタンバッタン大騒ぎしてたんだから、気付かないってことはないと思う。

いやまあ、マフーに対抗できないってのはあると思うけど、ミロアやリンダを救出するくらいのことはできたと思うんだが。

もしかしたら、やはり人間は愚かだ……とでも思っていたのだろうか。

ガトー、おまえそういうトコだぞ。

 

「何を今さら……命乞いでもするつもり!?」

「それも考えた。私が悪かった許してくれと頭を下げれば、キミは私を許すのか? 父の命を奪ったこの私を!」

 

別に威圧したわけではないが、リンダは圧されたように一歩下がった。

 

「……リンダ。もういいじゃないか。ガーネフ司祭だって改心して……」

「黙って!」

 

割って入ったマリクをリンダが一喝する。

 

「そうだなマリク。当事者でもないキミが利いたふうに口を挟むべきではない。復讐とは自分の心を納得させることだ。遂行するにせよ、許すにせよな」

「……私はあんたを許せない。絶対に!」

「ならばそれでいい。だが私も黙って殺されるわけにはいかぬ。抵抗させてもらうぞ」

 

こうして、一騎打ちが始まった。

先手を取ったのはリンダ。胸に抱えた魔導書に魔力が集積されていく。

 

「――オーラ!」

 

1%くらいは、撃てませぇん! に期待していたんだが、そんなことはなかった。

輝きが訓練場に溢れる。そして、燦然たる光の柱が俺の身体を包み込んだ。

 

「……かなり、やる。だがまだまだ、だな」

「そんな!? 無傷!?」

 

この訓練場には特殊な魔石が設置してある。魔力を抑制し、抵抗力を上げる装置だ。ゲーム的に言うなら魔力を下げ、魔防を上げる地形効果のようなものだな。

これは事故防止のための処置だ。知っているのは司祭のみ。つまりウェンデルは知っているが、マリクやエルレーンは知らない。

それに加えて、俺は決戦前に聖水で魔防を強化している。戦いとは戦う前から始まっているのだよ。

まあ聖水を使っているのは向こうも同じかもしれんが。

 

それにしても、オーラを使ってはいるが、使いこなしているとは言い難いな。ただぶっ放しているだけだ。

収束率が甘い。力が分散しすぎている。気持ちが逸っているのか? 集中しきれていない。やはり荒んだ心ではダメだな。

明鏡止水だ。もっとこう、レールガンみたいに一点集中して撃ち出さないと。まあそれだとちりぢりにはできんがな。

まだそこまでの技量はなさそうだ。そういう発想がないだけかもしれんが。

 

「まだよ」

 

再びリンダの魔力が高まっていく。

 

「至高の光よ、天を貫け! オーラ!」

 

先ほどよりも強烈な光が瞳を焼く。溢れ出た光の奔流が螺旋を描き、破壊の力となって俺を包み込んだ。

 

「……これでも……ダメなの……」

 

光は俺の肌を多少焼いた程度。さしたるダメージは入っていない。ように見えただろうが、結構効いたわ。バフデバフがなかったら危なかったかもしれない。しかしここで情けない姿を見せるわけにはいかない。

 

「エルレーン、そしてユベロ王子よ。いかに強大な魔法を身につけても、術者が未熟ではその真の力を引き出すことはできぬ」

「私を未熟者扱いするつもり!?」

「精進せよ。今のキミでは、私に傷ひとつ負わせることも叶わぬ。さて、今度は私の番だな」

 

右手を掲げる。それを見てリンダが身構えた。おいおい、避けずに受け止めるつもりか? 身構えている時でも死神はやってくるぞ。この魔法はいくら魔防が高くても関係ないんだ。

 

「――闇に呑まれよ(ドゥラーム)

 

ドゥラームは暗黒魔法の一つで、命中すれば問答無用でHPを1にするという凶悪な魔法だ。この魔法の優れているところは、殺してしまうことがほぼない、というところだ。

 

「ああああぁぁぁっ!?」

 

闇の中でリンダの悲鳴が響き渡る。しばらくして、リンダはうめき声を上げて倒れ込んだ。

 

「……ぐ、うぅ……」

「リンダ!」

 

マリクがリンダの介抱に向かう。

 

「精進せよ。私を殺せるくらいにな」

 

そう言い残して、俺は訓練場をあとにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「随分と厳しい指導じゃの」

 

ウェンデル!? いつの間に背後に……年寄りは気配が薄いから困る。

別にそんなたいそうな理由じゃない。いきなり襲撃されるのも嫌だから場を設けただけだ。奇襲されても撃退できる自信はあるが、街中でオーラをぶっ放されたり、執務室を吹き飛ばされるのは勘弁だ。

 

「復讐というのは難しいからな」

 

現代だって遺族感情については色々と言われているからな。人権なんて意識の薄いこの世界じゃなおさらだ。かたき討ちが禁止されたのはいつ頃だったか。まあ禁止される前にもかたき討ちにはルールがあったが、どうもこの世界にはなさそうだ。だがさすがに殺されてはやれん。俺がやったわけじゃないんだし。

 

「せめて敗北と怒りを糧に成長してくれることを期待するよ」

 

確かマリクより成長率は良かった気がするんだよな。まあゲームでもないこの世界で成長率なんてものがあるのかどうかは分からないが、伸びしろはあるのだろう。まだ若いし。

それにしばらくは会わないだろうしな。戦争が終わった後もニーナ付きの女官になるだろうから、カダインに来る暇もなくなるだろう。その時までに考え直してくれることに期待しよう。

 

「……変わったの」

 

ウェンデルがぼそりとつぶやく。まあ実際変わったんだが。

 

「いや、元に戻ったというべきかの」

 

元のガーネフってこんなんだったの!?

確かに若い頃は真面目で正義感に溢れる男だったという設定はあったけど。

そういえばマルスを通じてニーナにラングを殺すように助言したが、ちょっと早まったかもしれん。ラングが悪役としてキャラが立っていたのは、1度でも紋章の謎をプレイした人間ならもはや常識だろう。

だが他のアカネイア貴族についてはほとんど描写されていなかった。何が言いたいかっていうと、ラングの代わりが出てくる可能性もあるってことだ。

 

第1部でアカネイアを裏切ったラングが、第2部でしれっと出てきたのは、手練手管で生き残ったってことだろう。

5大侯爵家は独自の軍を持っている。つまり強硬手段に出れば内乱が起こる可能性もあるってことだ。

 

内乱になったらどうなる? 基本的に内乱には他国は介入しない。だがアカネイア王家の藩屏であるアリティアは、要請さえあれば王家の味方をするだろう。

オレルアンも王家につくだろうな。ハーディンはニーナに懸想しているし、なによりアカネイア貴族を嫌っている。

グルニア、マケドニアがどちらにつくかは分からない。まあ王家につくとは思うが。

……考えたところでどうにもならんか。1度口にした言葉をなかったことにするわけにはいかないからな。なるようになるだろうし、なるようにしかならん。

 

ともあれ、騒がしい日々は終わり、マルス一行は双子を連れてアリティアへと向かった。

ヨシ、これで戦後は適当にカダインを運営していけばいい。なんならウェンデルに任せてもいいし。

ガーネフになった時はどうするかと思ったけど、やればできるものだな。

 

ちなみにエルレーンはユベロについて行った。ここで金脈を手放すほどエルレーンは愚かではない。このままグルニアまで同行して、そのまま教師を続けるつもりだろう。あわよくばグルニア貴族になれると思っているのかもしれない。

このくらい(したた)かでないと、この乱世では出世できないのだ。

 

まあエルレーンには連絡係になってもらおう。スパイのようにこそこそやる必要はない。近況報告のようなものだ。別に検閲されてもかまわないと伝えてある。

事実をありのままに伝えてくるだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

マルスは無事にアリティアを奪還したようだ。

エルレーンはマリクと仲直りしたらしい。いや別に喧嘩していたわけじゃなかっただろ。カダインで一緒にいる時はちょっと距離感があったようだが。

将来の展望が見えて余裕が出てきたのか。

 

アリティア奪還を祝したパーティーでマリクとワインを飲み交わしたらしい。マリクは酒に弱く3杯で酔いつぶれたのだとか。

知らんがな。マリクのことはどうでもいい。近況報告とは言ったが、どうでもいいことを書くんじゃない。何かの暗号かと思ったわ。

 

その後はカシミア大橋でグルニア軍と会敵。

ルイ王の性格ならメディウス怖さに徹底抗戦する可能性もあったのだが、双子の説得は上手くいったようだ。

そこでカミュも合流したらしい。ああ、そういえばカミュって確かグラの村でトロンくれたよな。いつドルーアから解放されたのだろうか。まあ、合流できたのならいいか。

 

そしてなんと、マケドニアも降伏したらしい。何かの間違いかと思って3回読み直してしまった。あのミシェイルが膝を折るとは。

だがよくよく考えてみたら、ミシェイルは元からカミュと組んでメディウスを裏切るつもりだったんだよな。

たぶん最終的にドルーアが人間を絶滅させるということに気づいていたのだろう。そういうところの勘は鋭い男だし。

 

このまま戦い続けてマケドニアの国力を低下させるよりは、ここで反旗を翻した方が国は救われると判断したのだ。

ミシェイルはメディウスを討伐した後に首を差し出すと言ったようだが、ミネルバとマリアの懇願もあって、ニーナは退位するという条件に緩和したらしい。

そういえば原作では同盟軍にも気付かれずマリアがミシェイルを助けたらしいが、ミネルバならともかくなんでマリア? どんなアクロバティックな方法を使ったんだろ。謎だ。

 

その後はドルーアに攻め込み、見事メディウスを討伐したようだ。

戦後エルレーンはそのままグルニアに移り、ユベロの教師を続けることになった。ていうかユベロはグルニアに残らず同盟軍に同行したのかよ。意外とアグレッシブだな。

 

戦争が終わって従軍していたカダインの魔導士たちも帰って来た。

こういう言い方は失礼かもしれんが、随分と残ったな。名簿を確認してみると9割くらいが帰ってきている。まあ魔導士は後方にいることが多いし、当たり前っちゃあ当たり前かもしれないが。

 

直接話を聞いてみたかったが、俺を前にすると緊張してしどろもどろになるやつが多いので、部下に聞き取りを任せた。

大体エルレーンの報告通りだな。意外だったのは、弔慰金が支払われていないところだ。これはカダインの魔導士だからか? アカネイア兵とかには普通に支払われているのだろうか。

 

ニーナを小1時間ほど問い詰めたいが、変に揉めて拗れるのも面倒だな。カダインの運営費から払っておくか。自治会のやつらも文句は言わんだろう。

というか、意見具申はともかく、反発とか文句とかが一切ないんだよな。俺だって間違わないわけじゃないんだから、もっとぶつかってきてほしい。

 

思えば対等なやつがいないんだよ。最高司祭は何人かいるし、立場の上ではそいつらも対等なんだが、なんか遠慮されてる気がする。恐れられているともいえるが。

ガトーが拗れたのもこの辺が理由なんじゃねぇのか?

対等に会話できるやつがいねぇつーか、まああいつにとっては『人間』ってだけで対等にはなりえねぇのかもしれないが。

 

そういえばガトーが戻ってきたらどうしようか。

オメーの席ねぇから! と言ってやりたいが、たぶんカダインの連中は全員がガトーにつくだろう。マフーで蹴散らすってのもなぁ。なんか後味悪いし。せっかく整備したカダインもぶっ壊したくはない。

そうなったらテーベの別荘に退くしかないな。

 

色々と不安は残るが、とりあえずはめでたしめでたしだろ。

それでいいよな?

はい、お疲れさん!

 

 

 




というわけで完結です。
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