転生したらガーネフだった件   作:乾燥海藻類

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戦後編

戦後処理というのは地味で面倒な仕事だ。それでも荒廃した国を立て直すには多くの人員が必要であり、そこに多くの雇用が生まれる。

アリティアをここまで荒らしたのは、果たしてドルーアかグラか。

 

大半は最初に実効支配することになったグラだろう。ジオル将軍はコーネリアスに色々と暗いものを抱いていたようであったし。アリティア国民に配慮するとも思えない。事実、リーザ王妃をドルーアに差し出し、エリス王女をガーネフに差し出した。まあエリスはガーネフが無理矢理攫って行ったようなものだが。

その後はモーゼスが人狩りのようなことを始めて、アリティアは荒れていった。

 

しかし戦争は終わり、マルスの帰還もあり、アリティアは急速に国力を回復していった。おそらくはアカネイアからの援助もあったのだろう。

俺は今アリティア城の一室にいる。

マルスに話しておかねばならないことがあったからだ。

しばらくして、マルスが姿を現した。その顔には疲労が見える。

 

「忙しいところすまないね。どうしても伝えねばならぬことがあってな」

「いえ、ガーネフ司祭自ら来られるということは、よほどのことなのでしょう」

 

マルスは俺の正面に腰を下ろし、テーブルの上に置かれた2つの箱をじっと見つめた。その隣では、アベルが油断なく佇んでいる。

……まだ信用されてないのだろうか。まあアベルは真面目で実直だからな。というか退役してエストと一緒になってるはずじゃないのか? 復興がひと段落してからなのかな。まあどうでもいいが。

 

「闇のオーブと命のオーブだ」

 

命のオーブは最近になってようやく商人から手に入れることができた。原作だとオレルアン王が商人から手に入れ、第2部の後半でマルスに託したのだが、今はまだ手に入れていなかったようだ。

正面から唾を呑み込む音が聞こえた。この2つはもちろん、合計5つのオーブは竜族の手で作られた逸品であり、見る者を魅了するほどの輝きがある。

 

この世界では光、星、大地のオーブはラーマン神殿に安置されたままであり、マルスの手には渡らなかった。

ガトーも融通を利かせて使わせてやればよかったのに。声を届けるなんてあいつにとっては造作もないことだろう。もしくは、オーブをラーマン神殿から動かしたくなかったのかもしれないが。

封印の盾はなくとも、オーブだけでも多少の効果はあるらしいからな。

 

「メディウスについて、ガトーからどこまで聞いているかな?」

「……メディウスは死んだわけではない。いずれ数多の地竜族と共に復活する、と。それを封じるために、5つのオーブと封印の盾が必要だと、ガトー様はおっしゃいました」

「うむ。そのオーブも、ここに2つ、ラーマン神殿に3つある。あとは封印の盾だけだが……」

「はい。ガトー様はそれを求めて旅立って行きました」

 

ああ、やっぱり気づいてなかったか。第1部の最終決戦の時にマルスの隣にいたはずなんだが。もしかして痴呆が始まっているのかもしれない。もう何千年も生きてるんだもんなぁ。

 

「マルス王子。アカネイアの至宝、ファイアーエムブレムとも呼ばれる覇者の証。それこそが封印の盾なのだ」

「それは……本当なのですか? いえ、確かにあの宝飾を外せば、オーブが収まるくらいのくぼみが5つ、あったような気がします」

 

マルスは思い出すように唸った。ああ、さすがにオーブを外したくぼみをそのままにはしておかないか。覇者の証とか炎の紋章ってくらいだから、盾としては使用されなかったのだろう。

ガトーが気づかなかった理由はそこか。

 

「私が直接アカネイアに行こうとも思ったが、私はそこまでアカネイアに信用されておらぬ。この話を信じて、アカネイアの至宝を預けるとも思えなかったのでな。王子を頼ることにしたのだ」

 

ニーナはともかく、他のアカネイア貴族が賛同するとは思えん。ハーディンもまだまだ俺を警戒しているようだし。なんでだろうなぁ、俺とハーディンって直接的な関わりはないはずなんだが。

それにリンダもいるしな。今は落ち着いているようだが、俺の顔を見たら復讐の炎が再燃するかもしれん。

 

「お話は承知しました。ですが、なぜガーネフ司祭がそれを知っているのですか?」

「魔導とは先人たちの残した知識を紡いでいくことだ。それは歴史の編纂でもある。確証はないが、可能性は高い」

「……なるほど」

 

もちろんこれはテキトーなごまかしだ。人間に魔導を教えたのはガトーなので、魔導の歴史って実は浅いのである。本当は原作知識なんだが、それを言うわけにもいかん。

 

「万全を期すなら、ガトーに確認を取った方が良いだろう。だが私はガトーへの連絡手段を持っておらぬ。それも王子に頼みたい」

「……残念ですが、私もガトー様への連絡手段は持っておりません」

 

ホント他人を頼らねぇやつだなあいつ。人間のためとか言ってるが、人間を信用しているとは思えん。組織的に探した方が絶対に早いだろうに。信用はしているが信頼はしてないってやつか?

ガトー、おまえそういうトコだぞ。

 

「そうか。となると、私を信用してもらえるかどうか、だな。その証……というわけではないが、この2つのオーブは預けておこう」

「承知しました。期待に応えられるかは分かりませんが、ニーナ様に話してみましょう」

「頼む。ああ、王子なら大丈夫だとは思うが、闇のオーブには直接触れない方がよい。囚われてしまうやもしれぬのでな」

 

繰り返しになるが、闇のオーブは決して邪悪なものではない。手にした者に勇気を与え、悩みや苦しみから解放する。しかし、人間にはその影響が強すぎるのだ。心が肥大化し、野心や欲望を大きくする。妬みや嫉妬などにも強く反応し、それを増幅させ、最終的にはその者の人格を破壊して悪魔に変えてしまう。

俺がそう説明すると、マルスはまたゴクリと唾を呑み込んだ。

 

「……気をつけておきましょう」

「うむ。私の要件はこれで終わりだ。そちらからは何かないかな? 私が力になれることがあれば協力しよう」

 

魔導書や杖の融通、魔導士の派遣くらいならできるぞ。

そう思ったのだが、マルスの口から出てきたのは、俺が予想もしていない言葉だった。

 

「ではお言葉に甘えて。グラの統治について、助言を頂けませんか?」

「マルス様、それは……」

「いいんだアベル。ガーネフ司祭の意見も聞いておきたい」

 

アベルの制止を振り切って、マルスは俺に真摯なまなざしを投げかけてきた。

おいおい、これって政治的な問題じゃないのか。ああ、そういえばアリティアって文官がほぼやられて、上の人間が不足しているのだったか。アカネイアの手を借りようにも、アカネイアも現状手が足りてないだろうし、アカネイアの役人って基本アレだからなぁ。

 

「モロドフ殿はなんと?」

「多少強引でも併合してしまった方が良い、と」

 

まあ元々はひとつの国だったのだから、それが自然ではあるのだが、事はそう簡単ではない。前世の世界だってひとつの国が東西や南北に分かれて独立した事例はある。その後に統一された国もあれば、それぞれが別の国として発展したケースもある。重要なのは、国民がそれを望んでいるかどうかだ。

 

「ならばこうも言ったのではないかな? シーマ王女を王妃として迎えるべきだと」

 

俺がそう言うと、マルスは渋面を作った。モロドフの立場ではそう言うしかないのだろうな。マルスがシーダを想っているのはモロドフだって承知のはずだが、王族が自由恋愛なんて普通はできない。

シーマを正妃として迎えるのならば、グラ国民も一応の納得はするだろう。それからは時間をかけてコツコツとやっていけばいい。

 

シーダは妾妃になるだろうが、事情を説明すれば本人もモスティン王も納得してくれるだろう。タリスの国民感情は分からんが。

まあとにかく、誠実なマルスとしては、シーダを2番目にするということが納得できないのかもしれない。

 

ちなみにシーマは現在アカネイアに保護(という名の軟禁)されている。原作ではハーディンの意向で王位に就くことになったが、要するにその時点までマルスはグラをまとめきれなかったということになる。

これはマルスの優柔不断と取るべきか。のらりくらりとかわしている内にハーディンがおかしくなってしまったのだろう。

 

「グラの支配権を放棄するという手もある。シーマ王女を国主として認め、統治を任せる。まあそれが、グラにとって良いと言えるかどうかは微妙だがね」

「それはどういう……」

 

マルスはピンときていないようだ。まあこれまで戦い続きで、政治を学ぶ時間もなかったのだろう。タリスに(ひそ)んでいた頃も、兵の動かし方や自己鍛錬が主だっただろうからな。

 

グラはアリティアを裏切り、アカネイアに弓を引いた国だ。マケドニアはミネルバの活躍が大きく、グルニアはドルーア戦で獅子奮迅の活躍をしたと聞いている。またカミュはミシェイルの説得にも一役買っている。

原作のことを考えれば、ミシェイルの離反はカミュの存在が大きく関係しているだろう。

対してグラは? 何もしていない。同盟軍に敗れた後、戦後の沙汰を下されるまで代官を置かれて放置され、今もアリティア預かりとなっている。

 

アリティアに併合されればグラという国はなくなるため、処罰の対象もなくなる。そんな簡単なものではないが、マルスの功績を考えれば、この程度はどうとでもなる。

だがグラという国が残れば、アカネイアも厳しい態度を取らざるを得ない。これはニーナの力添えがあっても少々難しいだろう。

原作ではハーディンの後押しがあったため、そこまで酷い処罰はなかったようだが。

 

モロドフの言うように、併合してしまった方がグラにとっても良いのだ。モロドフがそこまで説明しなかったのは、マルスが自分で考え、成長することを期待していたのかもしれない。

だとすれば、余計なことを言ったかもな。でもまあ今さら言葉を噤んだり、濁したりするのも変だよな。

 

マッチポンプという手もある。一度グラの支配権を放棄し、困窮させる。その後に手を差し伸べれば、グラ国民の反発も弱まるはずだ。メリットはシーダを正妃にできて、グラの統治がしやすくなることだな。

だがこんな献策をしても、マルスの性格上受け入れはしないだろう。

 

だからこの策はマルスを噛ませずに、モロドフ主導でやった方がいいんだよな。マルスの心も痛まないし。

だがマルスを除いて策を弄するのは、モロドフには躊躇があったのだろう。彼は老練な政治家で策略家でもあるが、心底にはマルスを慮る心がある。

 

と言っておこう。モロドフのフォローをしておいた方が俺の心象も良くなるだろうし。

いやぁ、他人事(ひとごと)だと思うと好き勝手に喋れるものだな。よく考えてみたら俺の言葉が正しい保証なんてないし、長年仕えたモロドフや他の家臣に比べれば軽いものだろう。たぶん明日には忘れられているんじゃないかな。

 

「正妃も妾妃も、ただの言葉にすぎぬ。マルス王子、あなたが2人を差別なく愛してやれば良いのだ。そして、1日も早く戴冠式を行いなさい。王子と国王では、言葉の重みが違う」

 

まあ政治的に言うならば、正妃と妾妃じゃ全然違うんだけどな。シーマも今はまだサムソンと出会ってないし、マルスにも好意的だと思うんだよ。シーダも立場にこだわるような性格じゃなさそうだし、上手くいくような気はする。

 

「自分自身に対する誠実さと、他人に対する優しさ。それを失わぬ限り、あなたは大丈夫だよ」

 

言うべきことも言ったし、そろそろお(いとま)しよう。こんな怪しい暗黒司祭が長居しては要らぬ誤解を与えてしまうかもしれないからな。

グッバイ、アリティア。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

唐突だが、最近ギムレーについて考えるようになった。戦争が終わって大陸も落ち着いてきたので、思考に余裕ができたのだろう。

そういえばハーディンとニーナは結ばれるのだろうか。原作だとカミュが死んでいた(死んでいたとは言ってない)のでニーナも諦めがついたのだろうが、この世界ではカミュはしっかりと生きている。

 

処罰としてはミシェイルと似たようなもので、将軍職を引退し、国政には関わらないことで落ち着いた。

今はグルニアの田舎に引き籠って陶芸家をやっているらしい。

じゃあカミュを次のアカネイア王にすればいいじゃん。相思相愛なんだし。と思うかもしれないが、それは絶対にない。というか無理。貴族たちはもちろん、たぶんニーナ派のミディアやジョルジュすら顔を顰めるだろう。

なんか色々面倒なんだよ。う~ん、ハーディンが原作以上に病みそう。

 

ああ、話をギムレーに戻そうか。

ギムレーというのは、今の時代から1000年後に復活する邪竜である。

その時はマルスの末裔である若者が、神剣ファルシオンと封印の盾(ファイアーエムブレム)を装備して立ち向かい、激闘の末にギムレーに勝利し封印に成功した。

 

またギムレーを封印した後、その若者は『イーリス聖王国』を建国し、初代聖王になり、ファイアーエムブレムについている5つの宝玉の力を、人の身に余るものとして外したという。

紋章の設定ではそんな事をすれば地竜族の封印が弱まるが、覚醒本編では特に何も起きていない。

 

この件については色々と考察されている。1000年の間に地竜族の封印が完璧になったとか、封印されている地竜族を全滅させたとか。

まあそれについてはどうでもいい。問題はギムレー復活に、アルムがちょっかいをかけたことが関係あるかどうかだ。

 

アルムがテーベの遺跡でギムレーを中途半端につついてしまったことが、ギムレーの復活を早めたと聞いたことがある。

しかしこれが公式設定なのか、ユーザーの考察なのかを覚えていないんだよな。

 

触らぬ神に祟りなしという言葉もあるし、やはりテーベの遺跡はしばらく立入禁止にした方がいいか。カダインも無難に治まっているし、あとは他の司祭たちに任せて俺は活動拠点をテーベに移そう。

10年後くらいにアルムとマルスのダブルファルシオンで、さらに封印の盾も使って完全に封印してもいいな。

ちょっと癪だがガトーに頼ってもいいし。

 

そういえばなんで俺はこんなにガトーを嫌っているんだ? 別に好きなキャラではないが、嫌いなキャラでもなかったはずだが。ガーネフの感情の残滓みたいなものだろうか。

いや、ちょっとまて。ギムレーってたしか自殺でしか殺せない設定だったような……完全封印は無理筋か? やっぱり触れない方がいいのかもしれない。

 

遺跡の宝を漁って生活している者たちからは抗議が来るかもしれないが、そいつらは傭兵として雇ってやろう。

アカネイア大陸の北部、テーベより先は蛮族やはぐれ飛竜が住まう無法の地だ。

だがそこにはまだ見ぬ資源が眠っているかもしれない。開拓する価値は十分にある。

 

この地域は原作でもほとんど語られなかった不明の地だ。

世に無法あらばそれを殲滅し、世が無法ならばそこに法を作る。

新たな国を作り、蛮族たちを国民とする。それもまた面白い。

 

いや、国を作るとまた面倒事が増えそうだな。遊牧民的なものでもいいかもしれない。遊牧できるかどうかは分からないが。

まあその辺りは追い追い考えていけばいいか。

 

大事なのは一歩踏み出すことだ。

踏み出せばその一足が道となり、その一足が道となる。

踏み出した先の明日は、きっと楽しいものになるだろう。

 

 

 




主人公は1000年後のことを考えるような暇人だったようです。
ティータは犠牲になったのだ?
ニーナとカミュが一緒になる方法を考えていたんですが、思いつきませんでした。正確には現実味がないというか、ニーナやカミュの性格を考慮すると、こんな行動はとらないだろうとか、この展開は受け入れないだろうとか考えてしまいますね。
それにオレルアンからずっと支えてきたハーディンの立場もあるし。
なかなか難しいですね。やはりラスト・プリンセスという立場が重い。
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