転生したらガーネフだった件   作:乾燥海藻類

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暗躍編

グルニアの南にある小高い山を進んでいくと、ポツンと存在する一軒家がある。良く言えばログハウス風の、悪く言えばこじんまりとした家。

まあ男の1人暮らしと考えれば普通か。

 

「こんな山奥までご苦労なことだ」

 

金髪の偉丈夫は小さく笑いながら、茶の入った椀を置いた。

 

「陶芸の才もあったとはな。多才なことだ」

「若い時分に試したことがあった。老後の趣味と考えていたが、人生どうなるか分からぬものだ」

 

カミュの作った焼き物は、それなりに売れているようだ。物自体は悪くないし、なにより製作者がかの黒騎士ということで、ある種のブランドのような扱いにもなっている。

 

「さて、何用かな。よもや物見遊山でこんなところまできたわけではあるまい、ガーネフ卿」

「うむ。アカネイアの現状についてはご存知かな?」

「……多少は。商人と話すこともあるのでな」

 

カミュは少しだけ眉根を寄せた。戦争終結からそれなりの時間が経ち、アカネイアの復興も進んでいるが、ニーナの結婚話はまだ聞こえてこない。

原作だとボアは貴族たちに王家の権威を誇示するため、ニーナの結婚をかなり急いだはずだ。

しかしこの世界では、その噂すら聞こえてこない。原因はやはり、カミュの存在だろう。ニーナが未練を断ち切れていないのだ。

 

「アカネイア王家のことを考えれば、ニーナ姫には一刻も早く身を固めてもらいたいはずだが、一向にその気配はない。なぜであろうな」

 

カミュは黙したまま静かに聞いている。

 

「貴公への想いを断ち切れぬようだ。大陸の安寧のため、貴公の処遇について、ルイ王と相談していた」

「……そうか。ルイ王がご決断されたのならば、私は喜んで毒杯を煽ろう」

 

カミュは身じろぎもせずに、そう答えた。ちなみに、ルイ王も戦争責任を取ってミシェイルと同様に退位することとなったが、後継ぎが幼いという理由で1年間の猶予を許されている。

 

「そうするのは簡単なのだがな、貴公の処遇はニーナ姫が決められたことだ。それを覆し、ルイ王が処刑するというのは、さすがに不敬であり、ニーナ姫もお心を痛めるであろう」

 

まあ不幸な事故や病気になってもらうということにもできるが、タイミングがな。ニーナも察するだろう。そうなると疑心暗鬼になり、精神を病む可能性も出てくる。

 

「そこでだ、貴公にはバレンシア大陸に行ってもらう」

「島流しということか」

「そうなる」

 

微妙に近い場所にいるから忘れられないんだ。隣の大陸まで行けば、さすがに断ち切れるだろう。

 

「最後に手紙でも書いてやってくれ。未練が断ち切れるような内容の、な」

「……了解した。しかし、貴公がそこまでアカネイアのことを考えているとはな。変わったというのは、本当のようだ」

 

余計なお世話だ。俺だってこんなの性分じゃあない。全部マルスが悪い。きっかけは、ニーナの了解を得て、封印の盾をラーマン神殿に安置したという報告を受けた時だった。

マルスは自らカダインまで足を運び、俺のもとに報告しにきた。今はまだ引っ越しの準備でカダインにいるのだ。

その時に、ニーナがふさぎ込んでいるとか、婚姻の話を振られたとか言っていたのだ。

 

なんか、マルスをアカネイアに迎えて、アリティアはエリスにアカネイア貴族を婿にとらせるとか言ってきたようだ。

どうも話が拗れているというか、迷走しているように感じたらしい。そういえば原作では、ニーナがハーディンを選んだのだ。

ニーナがハーディンを選んだというのが重要なところで、ハーディンは選ばれた事を大いに喜んだと。

やはりカミュの存在がニーナを惑わせているのだろう。思い出は美化されるものだからな。ロミジュリ効果ってのもあるし。

 

そこで、マルスに頼まれて俺が動くことになった。俺には国というしがらみがないから、動きやすいと思ったのだろう。

もしかしたらお節介焼きのじいさんとでも思われているのかもしれない。

俺が元魔王だってこと忘れてるんじゃないのか?

 

まあそんなわけで、俺はわざわざグルニアまで足を運んだわけだ。

とはいえグルニア城まではワープで、そこから先はシェイバーを改良した飛行魔法で飛んできたから、移動にはそこまで苦労はしていない。

ともかく、これでカミュはいなくなった。ニーナも覚悟を決めるだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

テーベにはフリアという港がある。

アカネイア大陸最北の港であり、唯一お隣のバレンシア大陸との航路を持っている。位置的にグルニアからでも行けそうであるが、海流や風の関係で難しいそうだ。

 

だがこの航路にも問題がある。そう、海賊だ。あいつらはどこにでもいるな。

大陸間の航路だけあって、基本的に船は満載だ。海賊にとっても危険を冒すだけの価値はある。

そこでカダインの魔導傭兵団の出番だ。アウトレンジからの一方的な攻撃は強い。船体に穴でも開ければ、もう勝利確定だ。

 

熟練の魔導士ほど射程が伸び、命中精度も増す。特に俺の改良したメティオは魔導士たちから好評だ。船体にダメージを与えるのが目的だから、それほど威力は必要ない。出力を落とし、その分扱いやすくし、命中精度を高める。

この簡易版メティオによって、海賊被害は劇的に抑えられた。

 

しかし相手も策を弄するもので、夜間に小舟で近づき、鉤付きロープで乗り込んできたらしい。

まあこの程度は予測済みだ。あいつら基本的に頭は悪いが、戦闘経験は豊富で悪知恵だけは働くからな。

魔導士が接近戦に弱いことを知っている。ま、だから剣士や戦士などの白兵戦をこなせる傭兵も用意しておいたんだけどな。

彼らの活躍で、また海から海賊が減った。

 

カミュには、好きに生きろと言ってある。禁じているのはアカネイア大陸への帰還だけだ。ジークではないカミュがバレンシアでどう生きるか、興味がないといえば噓になる。まああれほどの腕だ。戦乱には巻き込まれるだろうな。性格的に、弱者を見捨てることはできなさそうだし。

そんなことを考えていると、執務室の扉がノックされた。

 

「失礼します。エルレーン、ただいま戻りました」

「うむ」

 

金髪の青年が慇懃に挨拶する。戻ってくるとは聞いていたが、なんで戻ってきたんだ? てっきりそのままグルニアに滞在するものと思っていたが。

 

「ユベロ王子はどうか?」

「はい。なかなかの才を秘めております。しかし、今は王として学ぶことが多く、魔導の訓練は中断することになりました。申し訳ありません。私の勝手な判断で切り上げてしまいました」

「いや、そういう事情なら仕方なかろう」

 

とはいえ、別にクビになったわけではあるまい。何か理由があって帰ってきたのだと思うが。そう思っていると、エルレーンは申し訳なさそうに口を開いた。

 

「ガーネフ先生のお力を貸していただきたいのです。ノルダの奴隷解放のために」

「……ノルダか」

 

ノルダとはアカネイアの王城パレスに最も近い街だ。交易が盛んで、最古の闘技場も存在することから、身分を問わず多くの腕自慢や流れ者が集まってくる。

巨大な池の周辺は無駄に民家が並んでいるが、これは下級貴族の邸宅である。彼らの一部は奴隷商人と結託し、非合法な手段をもって各地から奴隷を運び込んでいた。

奴隷制度はマルスとハーディンによって表向き廃止されたものの、まだ怠惰な貴族達からの需要があり、奴隷市場が出ているとエルレーンは語った。

 

「ニーナ姫はどう考えているのか、分かるか?」

「はい。ニーナ様は奴隷を解放したいようですが、難航していると聞いています」

「聞いているといったな。誰が音頭を取っている?」

 

そもそもエルレーンって義憤に駆られて奴隷解放するという性格でもない気がする。そんなにリーダー気質でもないし。

 

「シスターレナです。協力しているのは、マリク、リンダ、ジュリアン、カシム、ナバールです。ご存じない名前もあるかもしれませんが」

 

いや、知ってるよ。有名どころばっかりじゃねぇか。つーか発案者レナかよ。メンバーもほぼ"正義の盗賊団"じゃねぇか。リカードがジュリアンに変わってるけど。

しかしレナとエルレーンってあんまり繋がりがなかったような。同盟軍に同行している時に仲良くなったのか? それともレナ → リンダ → マリク → エルレーンと話が繋がった感じか?

 

「力を貸してほしいと言ったが、具体的には?」

「まずはノルダの奴隷市場を仕切っている会頭の館を制圧しようと思っています。しかし今の戦力では心もとなく、先生のお力を貸していただけませんか?」

 

いや、むしろ過剰戦力だろ。ナバールだけでお釣りがくるんじゃない? これは過大評価なのかな。もしかしたらこの世界はハードかルナティックかもしれないし。

まあリンダに恩を売れるのはいいか。このまま良い人ムーブして、復讐は諦めてもらおう。

 

「まずは、その者たちと話をしてみよう」

「ありがとうございます」

 

エルレーンは深々と頭を下げた。その後、いつの間にか司祭に昇格(クラスチェンジ)していたエルレーンのワープでアカネイアに飛んだ。

他人のワープで飛ぶのは初めてだな。酔うというか、軽いめまいを感じた。やっぱりまだ慣れていないんだな。ワープって結構扱いの難しい杖だし。いや、アカネイアまで飛べることを評価してやるべきか。

 

飛んだ先は室内だった。そこには見知った顔もいるし、初対面の人間もいた。俺が来ることは予告されていたのか、驚きの声は上がらなかった。

リンダは複雑な表情を浮かべていた。

 

「お待ちしていました。ガーネフ司祭」

 

純白のローブを纏ったレナがにこやかに右手を差し出してくる。

俺はその手を握り返し、問う。

 

「おおよそのことはエルレーンから聞いている。シスターレナ、あなたは奴隷を解放した後、彼らをどうするつもりかな?」

「あの、どうする……とは?」

 

俺の手を握ったまま、レナはこてんと小首をかしげた。困惑しつつも愛嬌のある顔だ。こりゃ、あのナバールだって(ほだ)されるわな。

いや、あいつってシーダとかフィーナとか、大体女に絆されてたわ。

 

「奴隷は虐げられていてかわいそう、かね? 確かにそうだが、奴隷から解放されれば幸せとは限らぬ。奴隷として働いていれば、待遇はともかく食べ物と働き口には困らない。奴隷でなくなれば、自分で職を探して食べていかねばならない。そのあたりのアテはあるのかと聞いている」

「……それ……は……」

 

レナは目を伏せて押し黙った。代わりに答えたのはリンダだ。

 

「あんたは奴隷の境遇を知らないのよ。あんなところにいるくらいなら死んだ方がマシよ。奴隷から解放されれば、やりようなんていくらでもあるでしょ!」

 

リンダが声を荒げる。さすが、元奴隷が言うと説得力がある。だがリンダは奴隷商人の下にいただけだから、それほど劣悪な環境ではなかっただろう。基本的に商人は商品を雑には扱わない。彼女は良家のお嬢さんだから、環境の落差が大きかっただけだ。

 

たぶんオグマの方が過酷だったと思うぞ。あいつはアカネイア貴族に買われて、奴隷剣闘士として闘技場で戦わされていた。

そんな日々に耐え切れなくなって脱走を試みたんだが、失敗に終わった。一緒に逃走した奴隷たちを助けるために身代わりとなって捕まったのだ。

 

シーダがそのアカネイア貴族から買い取らなければ、そのまま処刑されていただろう。しかもシーダはただ助けただけじゃない。オグマを自由の身にした後、母親の形見であるティアラを、生活の足しにするようにと手渡したのだ。

聖女かな? そりゃオグマも心酔するわな。

 

「楽観的な発想だな。みんなキミのように強くはない。それに、キミの置かれた環境は劣悪だったのかもしれないが、中には温厚な主の下で穏やかに暮らしている奴隷もいる。奴隷制度自体がなくなれば、彼らはどうなる? 賃金をもらってそのまま働けるのならばいいが、放逐される可能性もある。彼らに他の職が見つかれば良いが、なければ賊になるしかない。そうなればいずれは死ぬ」

「くっ、ああ言えばこう言う。口の減らないじいさんね!」

 

リンダがイラッとした様子で地団駄を踏む。その隣で、マリクが小さく手を挙げた。

 

「あの、アリティアは復興で人手が足りていません。受け入れることは可能だと思いますが……」

「それは何人までかね? マルス王子の許可は取っているのかね?」

「いえ、それは……」

 

マリクの声が小さくなる。まあアリティアがアカネイアの事情に介入するのは色々とマズいからな。ニーナはともかく、アカネイア貴族が抗議するかもしれん。平和になってからあいつらの声が大きくなったと商人たちも言ってたし。

そして、確かに今は戦後の復興でどこも人手は足りていないだろう。しかし奴隷の受け入れ、いやもう奴隷ではなくなっているのだから、移民の受け入れに近いか。

それにもメリットとデメリットがある。

 

一番のメリットは労働力の確保。そして人口増加による経済の活性化。

デメリットは治安の悪化や犯罪率の増加。移民が必ず犯罪を犯すわけではないが、生活に困窮したり、環境変化のストレスなどで犯罪が増えることが多い。また労働力人口が増えれば確率的に犯罪発生率も高まるのだ。

移民を差別しない社会の仕組み作りも重要となってくる。

 

「だからこそ、ニーナ姫も苦慮しているのだ。奴隷を解放するのは容易い。王家の権限を持って奴隷を禁止すると言えばいいだけなのだからな。しかし解放された奴隷をどうするかという問題がある。安っぽい正義感を振りかざすだけでは何も解決しない。その先を見越して行動することが必要なのだ」

 

場がシンとする。10人、20人程度ならどうとでもなるんだが、そんな数ではあるまい。

当然だが、この世界に社会保障制度なんてものはない。基本的に失業=死なのだ。蓄えがあればまだ耐えられるが、奴隷にそんなものはない。

解放されたところで、犯罪者になるか餓死するかの2択が待っているだけだ。

 

「あなたの言うことは分かります。ですが、今泣いている方々を放っておくわけにはいきません」

 

レナは真っ直ぐな瞳で俺を見据えた。下手を打てばマケドニアにも被害が及ぶ可能性もあるが、その辺分かっているのかな。ミネルバが切り捨てるとも思えないし、レナの実家にも影響が出るだろう。

そういえばマチスがいないな。まあどうでもいいが。しかし理屈で納得しそうでもないし、はいさよならというのも後味が悪い。

くっ、マルスの時といい、俺って結構押しに弱いな。

 

「意志は固いようだな。では、その泣いている奴隷たちを救いに行こうか」

「……よろしいのですか?」

「アリティアが多少は引き受けてくれるようだしな。魔導の才がある者はカダインが引き受けよう。残りはテーベに連れて行く。あそこもこれから人手が必要になるからな」

「話はまとまったようだな。で、具体的にはどう動く?」

 

部屋の隅で、壁に身体を預けていたナバールがこちらに鋭い視線を向けてきた。

 

「大きく動くのは得策ではない。今回助けるのは、劣悪な環境で酷使されている奴隷だけだ。ジュリアン、場所を選別してくれ」

「あ、ああ」

 

テーブルの上に広げられた地図を眺めて、ジュリアンは3つの印を置いた。

 

「この3つだな。あと会頭の館がここだ」

「うむ。会頭の館は私が引き受けよう。残りの3ヵ所をキミたちで叩いてくれ。深更(しんこう)に作戦開始だ。同時に動き、一気に終わらせる。スピード勝負だ。人員の割り振りはそちらに任せる」

「分かりました。ですが、会頭の館はかなり警備が厳しいと思われますが、おひとりで大丈夫でしょうか?」

 

レナが心配そうに視線を向けてくる。

 

「問題ない。救助した奴隷はカダインの大聖堂に送ってくれ。ワープは使えるね。そちらの2人はどうかな?」

 

マリクとリンダに視線を向ける。リンダはコクンと頷いたが、マリクはそっと目を逸らした。まあ、向き不向きはあるしな。

 

「ですが、ワープの杖は1本しかありません」

「では私が用意しよう。一度カダインに戻り、手筈を整えておく。そちらも準備をしておいてくれ」

 

そう言い残して、ワープでカダインへと戻った。司祭たちに事情を話し、回復の杖や食料、薬などを準備させる。

回復の杖は外傷を治すだけで、病気には効かないし、腹が膨れるわけではないからな。

準備を終えて、俺は再びアカネイアへと飛んだ。

 

レナはいつものような白いローブではなく、動きやすい服装に着替えていた。この格好は新鮮だな。さながら義賊スタイルというべきか。

最後の確認を終え、全員が仮面で顔を隠し、新生正義の盗賊団は各所に散開した。

 

俺の目的地、会頭の館は池のほとりにあった。後背は池で、出入口は3ヵ所。ジュリアンの調査では、船での出入り口もあるため、合計で4ヵ所か。まあ逃げる分には構わん。目的は奴隷の救出だからな。まさか奴隷を連れて逃げるとも思えんし。

 

館の見取り図を脳内に展開し、飛行魔法で池側にある会頭の寝室に回り込む。まだ灯りはついていたが、関係ない。アンロックの魔法で窓の錠を解除し、室内へと潜り込んだ。

 

「マフー」

「――ッ!? か、身体が……」

 

突入と同時に、手加減したマフーを放つ。

 

「身体が動かないだろう。しかし声は出せるはずだ。静かに話せ。大声を出せば殺す」

「あ、ああ」

 

会頭は恐怖に引きつった表情で言葉を絞り出した。

 

「か、金か? 金ならそこの金庫にある。鍵は引き出しの一番下、二重底になっている」

 

金か。まあ持ってて困るものじゃないし、せっかくだから貰っておこう。とはいえ、第一目的はそこじゃない。優先順位を間違えてはいけない。

 

「ど、奴隷か? 地下に遊び用の奴隷がいる。好きなだけ、いや全員持って行くがいい」

 

地下に奴隷がいることは分かっている。こいつを盾にして見張りを退けようと思ったが、よく考えてみたら必要ないわ。

俺の反応に不安を覚えたのか、会頭は聞いてもいないことをベラベラと喋り続けている。しばらく聞いていたが、いいかげん不愉快になってきた。

うん、コイツは殺してもいい人間だ。新しく作った魔法の実験台になってもらおう。

 

「ヒ、ヒィ!」

 

気配の変化を感じ取ったのか、会頭が小さく悲鳴を上げた。

 

「ま、待ってくれ。すまぬ、許してくれ。わしは貴族たちの言う通りにしてきただけなのだ。わしもイヤだったのだが、仕方なかったのだ。なっ、だから、たっ、助けてくれ。何でも言うことを聞く。だから命だけは……」

「だがおまえは、奴隷たちで楽しんでいたのだろう」

「ち、ちが、それは違う!」

「もういい。嘘に(まみ)れた懺悔など、いささかも俺の心には響かない」

 

指先を会頭に向ける。

 

「――闇に沈め(ナイトメア)

 

会頭の瞳がグルンと裏返る。

 

「悪夢の中で、死ぬまで生き続けるがいい」

 

部屋を出て地下を目指す。向かってくるヤツはマフーで黙らせた。地下の惨状は、まあ語らないでおこう。衰弱が酷かったので、まずは範囲回復魔法(リザーブ)をかけた。その後に、ワープでカダインへと送る。

 

奴隷を送った後は、金目のものを回収した。泥棒みたいでイヤだが、奴隷たちのためにも必要なものだ。それに盗賊が押し入ったようにも偽装できる。まあ4ヵ所同時に押し入った時点であんまり意味のないことかもしれんが。

すべてを終わらせて、外に出る。

 

「――燃え散れ(ボルガノン)

 

燃え落ちる館を尻目に、俺はワープを発動させてあの部屋(アジト)へと戻った。

どうやら他の連中も上手くいったようだ。なんか、女の子が1人増えている。レナに訊ねると、救出した奴隷の中にカシムの妹がいたらしい。ああ、そういえばそんな設定もあったような気がする。あんまり覚えてないけど。

 

みんなの顔は晴れやかだった。ナバールは無表情だったが。

たまにはこういうのも、悪くはないな。

だが強硬策はこれで終わりだ。あとはニーナを支持しながら、世論を味方につけていけばいい。そもそも政治的な問題だからな、これ。

そう説明すると、レナは渋々ながら納得した。

 

 

 




カシムの妹(リーン)は犠牲にならなかったのだ。
まああの設定も結構な後付けっぽいですが。
カシムにセリフを作れなかったのは残念ですが、前に出るような性格でもないし、これはこれでアリかなと。
レナは求婚を断って国を出たり、王城パレスに忍び込んだりと、かなり勢いで生きている印象です。まあパレスに忍び込んだのはリカードにそそのかされたっぽいですけど。

なかなか難しい奴隷問題。奴隷にも色々あります。犯罪奴隷や戦争奴隷、一番イメージするのは奴隷貿易による黒人奴隷でしょう。ですがこの世界には奴隷貿易はないので、奴隷の扱いは比較的緩いような気がしないでもない。まあ結局は主人次第でしょうけど。
ファンタジーでよくある隷属魔法とかはないので、反乱を防止するためにも扱いは慎重だったのではないでしょうか。
ちなみにリメイク版ではリンダの奴隷落ち設定がなくなっています。時代の流れですかねぇ。
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