今回は場面が変わって扇たちフジの決戦から逃げた黒の騎士団残党の殺戮から始まります。一旦扇の話はこれで終わりになり次からはまたフジの決戦に視点が戻る予定です。今回もオリキャラが登場しますがどうかよろしくお願いします。
ライがマリアンヌによって瀕死に追い込まれていた頃、戦場である富士山から逃げた扇たち黒の騎士団残党は合衆国日本の暫定首都のある黄海に浮かぶ人工島【蓬莱島】へ向かうべく残存戦力をまとめて現在、京都府長岡京市と大阪府島本町の国境をよぎる天王山上空を飛行していた。
────天王山。
京都盆地の西部となる西山山系の南端に位置し、東の男山との間で地峡を形成しその地峡には桂川・宇治川・木津川が合流して淀川となる川の流れはかつて水上交通路であった川筋をふくめて、近畿最大の大動脈である京阪間のほぼすべての交通路が含まれる。
ブリタニア・ユニオンに支配される以前の日本の京都府側では名神高速道路の大山崎JCT/ICがあり、京滋バイパスが宇治・草津方面へ、京都縦貫自動車道が綾部・宮津方面へ分岐する。
また、当地は、豊富な地下水に恵まれており、南麓の大阪府側にサントリー山崎蒸溜所が所在することでも知られる。近畿地方ではかつて名神高速道路の渋滞箇所として有名であった天王山トンネルの知名度が高い。
これらのことから京都と大阪の間に位置し、古くから東西を結ぶ交通の要衝として知られてきた土地であるここ山崎は北の天王山と南の淀川。そしてその間に広がる限られた平地のあるこの山崎は古来より、この場所を押さえることは京都へ通じる道を押さえることを意味していた。
ゆえに山崎は、幾度となく歴史の転換点となってきた。
そしてその1つである山崎は地峡を扼する地であることから戦略上の要衝であり、歴史上しばしば山城が築かれたり、争奪の対象になった。
その中でも特に有名な戦いは天正10年6月に当時最も天下に近かった戦国武将・織田信長を本能寺で討ち取った信長の側近であった明智光秀と信長の敵討ちを果たそうとした信長の家臣の1人である羽柴秀吉(後の豊臣秀吉)による山崎の戦いである。
本能寺の変と後に呼ばれる信長が光秀によって討ち取られたという報告を受けた高松城にて籠城していた毛利軍を包囲していた秀吉はその報告を受け取るなり毛利軍と和議を結び高松城の守将・清水宗治の自刃の検分を行うとすぐさま撤兵し僅か11日という短期間で尾崎へと急行した。
備中高松城から山崎まで、およそ二百キロメートル以上。
現代のように鉄道も自動車も存在せず、ましてや航空機など望むべくもない戦国時代において、数万の軍勢を率いてこれほどの距離を短期間で移動することは、容易なことではなかった。
しかし、秀吉はそれを成し遂げた。
これは後世に【中国大返し】と呼ばれることになる、戦国時代屈指の大強行軍である。
もっとも、これを単純に秀吉の驚異的な行軍速度だけで説明することはできない。
秀吉がまず行ったのは、毛利軍との講和であった。
備中高松城を水攻めにしていた秀吉は、信長の死を知ると、毛利方に対して速やかに和議を結び、城将である清水宗治の切腹を見届けることで戦闘を終結させた。
敵と戦い続けながら東へ向かうのではなく、背後に残した戦場を一旦決着させ、主力をまとめて京都方面へ向ける。
この判断が、中国大返しを可能にしたのである。
秀吉の軍勢は備中から播磨へと進み、姫路を経て摂津へと向かった。
道中では兵糧や物資の確保、諸将への連絡、さらには新たな味方との合流が進められた。単に兵士たちを休ませず歩かせたのではない。信長の死によって生じた権力の空白を誰よりも早く埋めるため、軍事行動と政治工作を同時に進めていたのである。
そして、秀吉が東へ進んでいる間、明智光秀もまた、自らが手にした勝利を確かなものにしようとしていた。
信長を討ち取った。
それは、光秀にとって天下を左右するほどの大事業であった。
だが、主君を討つことと、その後の天下を治めることは別問題である。
信長を討った直後、光秀は京都周辺の支配を固め、織田家の旧臣や周辺の大名たちに協力を求めた。しかし、彼の期待に反して、味方は思うように集まらなかった。
細川藤孝・忠興父子は光秀に与せず、筒井順慶らの動向も光秀にとって頼りになるものではなかった。
光秀には、信長を討ったという事実こそあった。
しかし、信長に代わる天下人として認められるだけの支持を、短期間で確保することはできなかったのである。
そこへ、秀吉の軍勢が迫ってきた。
光秀は京都の南西に位置する山崎周辺で迎え撃つことを決める。
天王山。淀川。そして、その間に伸びる限られた平地。
山と川に挟まれたこの地形は、軍勢が自由に展開できる場所を制限する。大軍であっても、どこからでも好きなように攻められるわけではない。街道や川の渡河地点、山裾の通路を押さえることが、軍勢の移動と戦闘の双方を左右した。
光秀は勝竜寺城周辺を拠点とし、天王山の麓から淀川沿いにかけて兵を配置した。
対する秀吉も、単に大軍を率いて正面から押し寄せたわけではなかった。
秀吉軍には、羽柴秀長、黒田官兵衛、池田恒興、高山右近、中川清秀らが加わっていた。さらに、織田信孝や丹羽長秀ら織田家の勢力も合流し、光秀軍を上回る兵力を整えつつあった。
兵数については史料や後世の記録によって差があるものの、一般には光秀軍が一万数千、秀吉軍が数万規模だったとされる。
この兵力差は、光秀にとって大きな不安材料だった。
だが、山崎の地形を利用し、敵の進撃を食い止めることができれば、勝機が完全に失われたわけではなかった。
天正十年六月十三日。
雨の気配が残る山崎周辺で、両軍はついに本格的な戦闘へと突入した。
先に重要な地点となったのが、天王山である。
山崎一帯を見下ろすこの山を押さえれば、周辺の動きを把握しやすくなり、山裾の通路を巡る戦いでも有利に立ち回れる。そのため、両軍にとって天王山は無視できない場所となった。
明智方は松田政近らを動かし、天王山周辺で秀吉方の進出を阻もうとした。
しかし、秀吉方もまた、この地点を敵に明け渡すつもりはなかった。
両軍は山とその周辺で激しくぶつかり合い、弓矢や鉄砲による攻撃が交わされた。
もっとも、山崎の戦いは天王山の争奪だけで勝敗が決したわけではない。
後世には、天下の行方を決めた場所として天王山の名が広く知られるようになったが、実際の戦闘では、山の周囲だけでなく、平地や川沿いでも各部隊が激突していた。
天王山を巡る戦いと並行して、秀吉軍は山崎の平地へと進出する。
前線では高山右近や中川清秀らが明智方と交戦し、淀川沿いでは池田恒興らの部隊が展開した。
限られた平地に両軍の兵が押し寄せ、部隊同士が衝突する。
明智方は防衛線を維持しようとしたものの、兵力差に加え、味方の支援を十分に得られない状況が重くのしかかった。
やがて、秀吉方の攻勢が明智軍の陣形を圧迫し始める。
前線の一部が崩れれば、その穴を塞ぐために別の部隊を動かさなければならない。だが、限られた場所で多数の兵が戦う山崎では、一度生じた混乱を立て直すことは容易ではなかった。
秀吉軍は正面から圧力をかけ続ける一方、敵の側面にも脅威を及ぼしていく。
明智方の兵たちは踏みとどまろうとしたが、戦場の各所で押し込まれ、やがて部隊間の連携が乱れ始めた。
その結果、戦闘は明智方にとって急速に不利な展開となっていく。
光秀の軍勢はついに持ちこたえられなくなり、敗走を始めた。
信長を討った男が、わずか十一日後には、自らの天下を守るための戦いに敗れたのである。
光秀は勝竜寺城へ退き、そこからさらに逃れようとした。
だが、彼を取り巻く状況はすでに絶望的だった。
かつて信長の側近として数々の戦いを経験し、近畿一帯に勢力を築いた明智光秀。
その栄華は、あまりにも短かった。
山崎の戦いによって光秀の勢力は崩壊し、彼が天下を握る可能性は失われた。光秀自身も、敗走の途中で落ち武者狩りに遭い命を落としたと伝えられている。
こうして、信長の死によって生じた天下の空白は、秀吉がその地位を大きく高める結果へとつながった。
山崎の戦い。
それは、単に二人の武将がぶつかり合った戦いではない。
主君を討った明智光秀が、その勝利を政治的な支配へと変えることに失敗し、信長の後継者を目指す羽柴秀吉が、軍事力と政治的な判断によって天下への道を切り開いた戦いだったのである。
そして、この戦いから生まれた言葉がある。
――天下分け目の天王山。
勝敗を左右する重要な局面を意味する言葉として、後世にまで語り継がれることになった。
しかし、山崎の歴史が伝えるものは、それだけではない。
信長を討った光秀は、天下を手にすることができなかった。
彼の敗因は、戦場での兵力差だけではない。勝利を得た後に味方を集め、支配を固め、次の時代を築くための時間を与えられなかったことも大きかった。
主君を討つことはできても、その後の世界を自らの思いどおりに変えられるとは限らない。
それが、山崎の戦いが歴史に残した教訓の一つだった。
そして、時代は移り変わる。
戦国の世が終わり、江戸の世が始まり、やがて近代化を経て、日本は世界規模の戦乱へと巻き込まれていった。
山崎の地形は変わらず、京都と大阪を結ぶ交通の要衝として、その役割を担い続けた。
かつての武将たちが街道や川を巡って争ったこの場所を、今では高速道路や鉄道が通り、多くの人々と物資が行き交っている。
だが、歴史がどれほど進もうとも、山と川に挟まれた地形そのものが変わるわけではない。
そして、ここが京都と大阪を結ぶ重要な地点であることも、変わらなかった。
だからこそ――。
この場所は、再び戦場となった。
◇
山崎上空。
轟音を響かせながら、複数の輸送機とナイトメアやモビルスーツたち護衛されながら扇たちの搭乗している不知火が飛行していた。
その一団こそ扇派の黒の騎士団残党。
富士山での戦闘から逃げ、合衆国日本の暫定首都である蓬莱島を目指していた扇要たちである。
「・・・くそっ、何だってこんなことに・・・!」
不知火のブリッジにあるブリッジの艦長席に腰を下ろしている扇は、苛立たしげに拳を握り締めた。
富士山での戦闘は、どの勢力と比べても数段質も数も劣っていた彼らにとってあまりにも過酷なものだった。
敵の圧倒的な戦力。
次々と失われていく仲間たち。
そして、戦場で今も必死に扇たちが見捨てた戦っている合衆国やZEXIS・ドライクロイツの兵士たち。
扇は、富士山での戦いで散った戦士たちの覚悟を侮辱していることも理解せず今はこの選択が正しいと信じて疑わないでいた。
今は生き残ることが先決だ。
蓬莱島に辿り着きさえすれば、合衆国日本の協力を得て態勢を立て直せる。
そう考えることでしか、扇は自らの行動を正当化できなかった。
彼の目の前には、山崎の山並みが広がっていた。
かつて、この地では一人の武将が主君を討ち、その十一日後に敗北した。
明智光秀。
天下を目前にしながら、味方を得られず、最後には追い詰められた男。
その名を知る者であれば、今の扇たちの姿に、ある種の皮肉を見出したかもしれない。
かつて同じ旗の下で戦った者たちを裏切り、自らの正義を掲げて離反した者たち。
扇たちは今、敗北した戦場から逃げている。
そして、その逃走の先に待っているのは、新たな勝利なのか。
それとも――。
歴史の敗者と同じ末路なのか。
「扇さん!後方に複数の機影を確認! 急速に接近しています!」
「何だと?」
今後のことを考えていた扇の耳に日向から突然の報告が届きその内容に扇は思わず顔を上げた。
「所属は!?」
「識別信号を確認できません! ですが、こちらに向けて武装を展開しています!」
次の瞬間。不知火の前方で、閃光が走った。爆音とともに空が揺れ、後方を飛行していたKMFが爆炎に包まれる。
「うわあああっ!」
「被弾した! 機体が持たない!」
「回避しろ! 散開するんだ!」
突然の出来事にブリッジは大慌てになり辺りは悲鳴と怒号が飛び交う。
扇は座席から身を乗り出し、モニターを凝視した。
そこに映し出されたのは、黒を基調とした機体群だった。その中には血のように真っ赤な赤や闇を象徴するような紫、白銀や金色などのカラーリングをした機体も混ざっていた。
だが、どの機体にも共通するものがあった。
翼を広げた堕天使の紋章。
それを目にした黒の騎士団員たちの顔から、血の気が引いていく。
「まさか・・・」
誰かが震える声で呟いた。
「【
──────それはゼロを裏切った者たちを決して許さず、皇帝ルルーシュに絶対の忠誠を誓う者たち。
かつてゼロに救われた者。
ゼロのために戦うことを選んだ者。
そして、ゼロを否定した者たちを、この世から消し去ることこそ忠誠の証だと信じる者たち。
そんな狂信者のような恐ろしき1つの軍が扇たちを追ってきたのである。
「どうして・・・!」
仲間達が目の前でまた死んだことで苦しみを覚えながらも扇は思わず叫んだ。
「どうして俺たちを追ってくるんだ!?」
扇の怒りと恐怖の混じった声に答えるように、通信回線が開かれた。
『旧黒の騎士団残党へ告げます』
殺戮の堕天使の旗艦である漆黒の先鋭的な戦艦【ヴァルハザード】から冷徹な女の声が響く。
『ただちに武装を解除し、降伏しなさい』
その声には、怒りすら感じられなかった。ただ、判決を読み上げる者のような冷たさがあった。
『抵抗する場合、貴方たちを皇帝陛下への反逆者として処断します』
「ふざけるな!」
扇は通信機に向かって怒鳴った。
「俺たちは反逆者なんかじゃない!俺たちは日本を守るために戦っているんだ!」
『・・・日本を守る?』
女の声が、わずかに低くなる。
『陛下を裏切り、仲間を見捨てて逃げている貴方たちが、そのような言葉を口にするのですか?』
「・・・っ!」
『山崎の歴史を知っていますか、扇要』
唐突な問いに、扇は言葉を失った。
『かつて明智光秀は、主君を討ち、天下を手にしようとしました。しかし、彼は自らの勝利を確かなものにできず、わずか十一日後には秀吉に敗れた』
女の声は、淡々と続けた。
『勝利を得ることと、その後の世界を支配することは違う。自らの正義を掲げることと、その正義に従って他者を導くことも違う』
そして、最後に告げる。
『貴方たちは、自分たちが何をしたのかさえ理解していない』
女の言葉に扇の顔が歪んだ。
「黙れ!」
『――各機、攻撃を続行しなさい』
これ以上の問答は不要と判断した女の命令とともに、再び空が閃いた。
かつて天下の行方を分けた山崎の空で、今度は黒の騎士団という組織の命運を分ける戦いが始まろうとしていた。
『各機、散開しながら敵を叩け!!』
残党の中で団員たちをまとめあげられるカリスマを唯一持っている藤堂は全員にそう指示を出しながら自身も斬月を飛ばして迫る敵軍の先頭にいる明らかにほかの機体に比べて性能が桁違いな動きをしている2機のナイトメア突撃を仕掛ける。
『────ふふっ。やっぱり最初に仕掛けてきたのは貴方でしたね。藤堂鏡志朗』
『っ!?貴様、レティシア・ローズヴェルトか!!』
斬月の振り下ろした制動刃吶喊衝角刀をMVSで受け止めたのはランスロット・アルビオンの設計データを元に指揮官専用機として開発された白銀と水色のカラーリングが特徴的な第九世代相当KMF【ランスロット・レギナ】。
そしてそのパイロットは元黒の騎士団零番隊所属のゼロの狂信者の1人であるレティシア・ローズヴェルトであることに気づいた。
『それにしてもアレだけルルーシュ様のことを侮辱しておきながら自分たちが窮地に陥ったら仲間を見捨てて逃げ出すなんて、本当にプライドも何もありませんねぇ?』
『くっ・・・!!』
レティシアは藤堂を氷のように冷たい目で見下しながらそう蔑みながらランスロット・レギナの両手に握るMVSを高速で振るい斬月を攻撃する。
藤堂は制動刃吶喊衝角刀で迫るMVSを受け流してはいるもののその全てを防ぐことができず斬月は少しずつダメージを蓄積させていく。
そして藤堂がレティシア1人に抑え込まれているということは千葉を含めたほかの黒の騎士団残党を襲う殺戮の堕天使の団員たちを止めることができなくなってしまった。
それはレティシアと同様の実力を持った狂犬の騎士────マリー・ベルセルカを止めるものがいないということでもあった。
『あぁ!ようやく、ようやくこの時が来たわ!!ルルーシュ様を裏切りのうのうと生きていたゴミ共を処分する日が!!全員血祭りのミンチにしてあげるわ!!』
マリーは狂気的な笑みを浮かべながらガウェインを元に近接戦仕様に特化するように開発された第九世代相当KMF【テウメッサ】は斧型のMVS【
『怯むな!ここさえ突破すれば蓬莱島に辿り着く!!そうすれば合衆国の援軍が駆けつけて来るはずだ!!彼らと協力すれば連中など一網打尽に────』
『そんなこと、本当にできると思ってるのかしら?』
『なっ────!?』
抵抗する暇もなく次々と同胞たちが討ち取られていくのを見せつけられながらもこの戦域を突破し超合衆国からの援軍に期待しまだ戦えると仲間たちを鼓舞する千葉の月下瑞鶴のすぐ目の前までマリーのテウメッサが迫った。
突然のことに動揺した千葉は一瞬気圧されてしまうが、目の前に迫るテウメッサのMVAに気づくと即座に月下瑞鶴の制動刃吶喊衝角刀弐式と廻転刃刀で受け流す。そして受け流したことでがら空きになったテウメッサの胴体に向けて左腕のハンドガンの銃弾を撃つが、銃弾がテウメッサに当たる前にテウメッサの背部の【エナジーマント】によって防がれ、返す刃でハンドガンを左腕ごとMVAで両断される。
『くっ!?』
『ほらほらぁ!もっと頑張れよ!!こんな手温いダンスも踊れねぇのか、四聖剣って鈍ら刀はよぉ!!』
テウメッサは持っていたMVAと腰にマウントさていた2本のMVAを肩部のサブアームにそれぞれ持たせ、さらに両腕に装備させている大型の盾【複合武装内蔵大盾】の内部に格納されているハイパーチェーンソーブレードの刃を展開させ千葉の月下瑞鶴に斬りかかる。
MVAとハイパーチェーンソーブレードによる4つの斬撃の嵐を前に片手だけで何とか捌こうとするが、マリーと千葉ではパイロットとしての実力にもかなりの差がある上に機体性能でも格差がある。
故に千葉はマリーの猛攻を前に攻撃を捌ききれず月下瑞鶴はボロボロになり武装も右腕の制動刃吶喊衝角刀弐式のみとなっていた。
『はぁ・・・。この程度の雑魚だったとは期待外れもいいとこだな。あっちの落ちぶれた厳島の奇跡もそろそろくたばりそうだしテメェもとっとと他の鈍ら刀がいるあの世に逝っちまえよ』
心底つまらなさそうにマリーは機体のあちこちから火花を散らしている右腕と胴体しか残っていない月下瑞鶴を見下しながらこれ以上遊んでもつまらないとばかりに目の前の千葉をもう敵として見ておらず、ただの玩具としてか見ていないマリーはもう飽きたと言わんばかりにMVAを月下瑞鶴に振り下ろした瞬間、テウメッサと月下瑞鶴の間に割り込んだ4機の暁直参仕様が廻転刃刀で月下瑞鶴に迫るMVAを防いだ。
『ご無事ですか千葉隊長!!』
『ここは我らが引き受けます!!隊長は藤堂中佐の援護に!!』
元日本解放戦線の兵士にして藤堂直属の精鋭である彼らはそう言いながら千葉を守るように廻転刃刀を構える暁直参仕様を並べ、さらに彼らと同じ志を持つ日本解放戦線時代か藤堂や四聖剣を慕ってきた黒の騎士団の兵士たちの乗る暁や雪華飛翔式、フラッグやイナクト、ティエレンなどがマリーを囲むように戦力をかき集めていた。
『ふざけるな!!お前たちであの女を何とかできると本当に思っているのか!?』
千葉は痛む身体を無視して部下たちを叱責する。戦っていた千葉だからこそ否応でもわかってしまっていた。マリーの実力は自分や藤堂よりも高く今この場にいる部下たち全員が束になって挑んだところで無駄死にもいい所だ。
『倒すのは無理でしょうな。ですが、隊長が中佐の元に行くまでの時間は稼げます!!』
『中佐が死ねば黒の騎士団は終わりです!!何としてもお2人には生きてもらわねばなりません!!』
だが元日本解放戦線の兵士たちも譲れないとばかりに叫ぶ。現状の黒の騎士団は扇をリーダーにしているがゼロを追放してから失態が続いていることとフジの決戦での失態そして仲間を見捨てての撤退から団員たちの信頼を失わせていた。
それでも黒の騎士団が崩壊していないのは藤堂の存在があるからにほかにない。
かつてブリタニア・ユニオンによる侵略で当時の日本軍はろくな抵抗もできず次々と一方的に蹂躙されその命を散らしていった。
そんな中で藤堂鏡志朗の起こした【厳島の奇跡】は当時の日本人だけでなくその後ブリタニアに支配された旧日本・エリア11で反抗するレジスタンスたちの希望となった。
そんな藤堂という敗北を重ねてもなお日本解放という理想を捨てず、戦い続ける姿を示してくれた指揮官としての姿に彼らは憧れ彼のためにその命を散らすことになんの憂いもなかった。
『我らとて死ぬ気はありません。ですが、藤堂中佐を失えば黒の騎士団は崩壊してしまいます!!』
『日本を解放するためにもあの方は生きねばなりません!!』
兵士たちの覚悟の籠った姿を前に千葉はこれ以上彼らに何を言っても無駄であると理解してしまい、自身の不甲斐なさで彼らを死地に向かわせることに操縦桿を握る手に力が入り口端から血が垂れるほど唇を噛んでしまう。
『お前たち、すまない・・・!!』
千葉はマリーの相手をすることになった部下たちに謝罪しながら藤堂を助けるべく月下瑞鶴を飛ばす。部下たちは千葉が 藤堂の元にたどり着くまでの時間を稼ぐべくマリーの足止めをするべく全員が武装を構えてマリーを睨む。
100近くの敵に囲まれているというのにマリーは余裕の表情を浮かべているどころか千葉とその部下たちのやり取りを見てくだらない三文芝居を見せられて実に不快だとばかりに舌打ちを鳴らす。
『くだらない。テメェら三下のつまんねぇ三文芝居なんざ見せてんじゃねえよゴミ共』
『貴様・・・!!』
『落ち着け!!やつの挑発に乗るな!!我らは千葉隊長が藤堂中佐の元にたどり着くまで何としても奴を足止めせねばならんのだ!!』
マリーの見下すような発言を前に一部の兵士が激号して今にも斬りかかりそうになるが、連携を取らずに攻撃を仕掛けてしまえば瞬く間に殲滅されてしまうことを理解している彼らは兵士たちの暴走を止める。
マリーはそんな彼らの無駄な努力を貶すように嘲笑いながらMVAとハイパーチェーンソーブレードを構えるだけでなくバックパックと腰部のリア部分にある9つのハドロンビットを展開させる。
『テメェら三下如きが足止め?ハッ!寝言は死んでから言えよカス共!!』
マリーはそう言いながら手始めとばかりに目の前にいる暁直参仕様2機をハイパーチェーンソーブレードで両断され、さらに背後から襲撃を仕掛けようとしたイナクトの四肢を先端をルミナスコーンで覆わせたハドロンビットで砕きながらコックピットブロックを貫いて爆散させた。
いきなり行動を起こしたマリーに動揺しながらも数で圧倒的優位を誇る元日本解放戦線の兵士たちは臆さずに刺し違えてでも殺してやると殺気立ちながらマリーへと雪崩込むように襲いかかる。しかし、いくら気持ちがあろうとも圧倒的な実力差を覆せる訳もなくマリーが攻撃する度に1人、また1人とその命を無惨に散らしていく。
(すまない・・・っ!!)
千葉は後ろで仲間たちの命が散っていくのを感じながら振り返りそうになる気持ちを抑えて藤堂の元へと月下瑞鶴を飛ばす。
ここで振り向いてしまえば彼らの犠牲が無駄になり彼らの覚悟を汚すものだと理解しているからこそ千葉は苦渋の決断で彼らを見捨てた。
そして千葉にとって運のいいことに藤堂の元へ向かう道中に襲ってくる敵はおらず千葉はそれ以上の手傷を負わずに藤堂の元にたどり着き、斬月を切り裂こうとするランスロットレギナのMVSを捨て身覚悟の突進を仕掛けた月下瑞鶴の制動刃吶喊衝角刀弐式でMVSを弾き飛ばす。
『千葉・・・!?』
『藤堂さん!ここは撤退しましょう!!今の我らの戦力では奴らに敵いません!!蓬莱島の予備戦力と協力して奴らを迎撃すべきです!!』
藤堂は千葉の説得に反論しようとしたが、千葉の参戦により多少の余裕が生まれ周囲を見渡すとレティシアたちの配下によって既に残存部隊は四割が壊滅。生き残っているものたちもこれ以上戦闘が長引いてしまえば何時壊滅してしまうかも分からないほどボロボロだった。
それを見てしまえばこれ以上ここにいる戦力だけで抵抗することは不可能だと藤堂は判断せざるを得ず、レティシアがすぐ追って来れないようにある程度のダメージを与えてから撤退すべく千葉と共に攻撃を仕掛けるべく斬月と月下瑞鶴を飛ばす。
『『ハァァァァっ!!』』
気迫のこもった藤堂と千葉の意識がこもっているかのように斬月と月下瑞鶴の攻撃は激しくなりランスロットレギナを責める。
それに対してレティシアは余裕の表情を浮かべながら2人の攻撃をMVSで受け流している。というよりもレティシアは藤堂や千葉なんかよりもみすみす千葉を逃したマリーのことを冷笑していた。
『まったく、この程度の雑魚すら仕留められないとはあの化石女も使えないわね』
レティシアはみすみす千葉を逃がしてしまったマリーのことを小馬鹿にしながら自分が目の前のふたりを始末すればルルーシュからのお褒めのお言葉を独り占めにできると邪な考えが浮かんでしまい口角を上げる。
それによりレティシアは攻める手をより激しくし藤堂たちを追い詰めるのだった。
ヴァルハザードの艦長であるセレナ・ホールズは順調に黒の騎士団残党を処理している報告を聞きながら各部隊に指示を出していた。
「A1からD7はそのまま戦艦を中心に攻撃を続けなさい。E4からM9は東のモビルスーツ部隊を狩りながらそのまま中央に敵を追い詰めて。G8からZ1はそのまま母艦周辺で待機。敵は弱兵の集まりですが油断せずこのまま一兵たりとも残らず殲滅しなさい」
『『『『『『『イエス・マイロード!!』』』』』』』
セレナはとことん冷徹になって撃墜されていく黒の騎士団残党を道端の蟻を踏みにじるような目で見るように見下しながらも周囲への指示を怠らずしっかりとやっていた。
彼女もまた元ブリタニア軍人でありながらその才能と美貌を妬まれたことで無実の罪で功績を全て奪われただけでなく腐敗貴族の妾という体の性奴隷として売られそうになっていたところをルルーシュに救われて以来ルルーシュの狂信者となったものであるが、普段は軍人としてしっかりとした態度を取っているため他の狂信者たちに比べれば扱いやすく付き合いやすい。
レティシアとマリーが暴れまくっているのもそうだがセレナの指示もあるからこそ一方的に黒の騎士団残党を狩ることができており、この調子で順調に進めば一時間もかからないうちに殲滅は確実であり逆転の目など微塵も残っていなかった。
(呆気ない・・・。これがルルーシュ様が創り上げた黒の騎士団の末路ですか・・・)
ルルーシュがゼロから創り上げた組織がこうも呆気なく崩壊していくのをセレナは冷めた目で見ていた。かつては自分も所属し
とっとと扇たちを皆殺しにして自分たちも富士山へと向かうかとセレナが考え始めたところでどこか焦った様子のオペレーターが報告を上げに来た。
「か、艦長!!トウキョウ租界に待機している防衛部隊から緊急報告です!!現在アオモリゲットー上空を通過し富士山に向けて3個師団の戦力が向かってるとの報告です!!」
「なんですって?」
オペレーターからの報告にセレナは片眉を上げる。シュナイゼル側の援軍と考えるにしてはあまりにも参戦が遅すぎる。事実、今さっきルルーシュたちがダモクレス内部に侵入していることから考えれば約6万の軍勢が参戦したところで逆転を狙うには心許なさすぎる。
「その師団を引き連れているものの所属は分かりますか?」
「旗艦にある紋章からリューネブルク家の物と判断できます!!」
「あの先代ナイトオブファイブ、ノーランド・リューネブルクですって・・・?」
オペレーターからの報告によって突如現れた勢力が先代ナイトオブファイブのノーランド・リューネブルクが率いているものであると判明したセレナだが、それが余計に怪しさを感じさせられた。
ブリタニアの腐敗した旧貴族を多く抱えているリューネブルク家は当然ルルーシュたちからしてみれば粛清対象であるが、連中はルルーシュが皇帝に即位してからこの日までその消息がずっと掴めずにいた。
また、ノーランドはシュナイゼル側と特に繋がりを持ったという情報も掴めていなかったために今この時の参戦に強い疑念を抱かせるには十分であった。
「現在アオモリを通過している部隊は各地に待機している防衛部隊を蹂躙しながらまっすぐ富士山へ進行しています。この調子ならば数時間もしないうちに富士山に到着すると推測されます」
オペレーターからの報告にセレナは真剣な表情を浮かべながらどう対処すべきかを考える。
後顧の憂いや個人的な感情を優先するならば今目の前にいる黒の騎士団残党を殲滅するのが最優先である。
現状扇たち黒の騎士団の評価は地の底にまで落ちぶれてはいるがそれでも黒の騎士団というネームバリューはまだ使えるし追い詰められすぎた扇たちが自滅覚悟で何かやらかさないとは言いきれないため早急に連中を殲滅したいというのがセレナの考えである
だが、6万の戦力を何もせず富士山に向かわせてしまえばあちら側の戦場に混乱を巻き起こすのは確実である。いくら富士山の戦場にルルーシュ皇帝軍の主力が勢揃いしているといっても元とはいえナイトオブファイブの用意した戦力では苦戦を強いられる可能性が少なからずあるし、今このタイミングで出たことも含めて何らかの策があるのではないかと考えてしまう。
故にセレナはどうするのが1番ルルーシュにとって害の少ないことになるのか考えた結果、モニターに映っている扇たちの乗る不知火を忌々しげに睨み舌打ちしながら全部隊に通達を始める。
「総員、攻撃を中断しそれぞれの母艦に帰還しなさい!!全員が帰還したのを確認した後に我々は推定ノーランド・リューネブルク率いる戦力の足止めを行います!!」
セレナの指示に誰もが驚き中には噛み付こうとする者もいたが、セレナはそれらに対して有無を言わさず矢継ぎ早に各部隊に指示を出すために誰もそれ以上のことを言えないでいた。
セレナは団員たちが自分の指示に従って動いているのを確認してからレティシアとマリーに個人通信を送る。
「という訳ですのでおふたりは早々に始末をつけてから帰還してくださいね」
『えぇわかりました。不甲斐ない化石女の代わりに藤堂と千葉を始末してからすぐに戻りましょう』
『あ゛ぁ゛っ!!何ふざけたこと言ってんだミンチ女!!私が殺るからテメェはとっとと帰れや!!』
セレナは通信越しに汚い言葉で罵り合うような喧嘩を始めたレティシアとマリーに頭を痛めながらこれ以上聞いてたら頭痛がより酷くなりそうなので最低限のことを伝えてから通信を切った。
はぁ・・・とため息を着いてからセレナは気持ちを入れ替えて各員に指示を出し始める。
今はこれが最善の手だと考え行動に移すセレナであるが、なにか言いようのない不安が拭えずなにか見落としているのではないか?と疑心暗鬼になりながら指示を出し続ける。
────その後、富士山にて部隊を展開しているレジーナからもダモクレス内部に侵入しているルルーシュたちと通信が取れないことが報告されより不安は高まり、その不安が的中してしまった時、セレナたちはとてつもなく深い絶望に叩き落とされてしまうのだった。
『──────そういうわけですのでそろそろ始末させてもらいますね』
『舐めるな小娘・・・ッ!!』
『そう容易く我らの首を取れると思うな・・・ッ!!』
マリーとの口汚い喧嘩を終えたレティシアは先程までの乱暴な口調とは打って変わって静かな口調で藤堂と千葉に対して死刑宣告する。
その言葉を藤堂と千葉は切り捨てながら斬月と月下瑞鶴の制動刃吶喊衝角弐式でランスロットレギナに斬りかかる。
このまま先程と同じように斬り合いが再開されるかと思ったが、これ以上無駄な時間をかける気はないとでも言いたげにレティシアはランスロットレギナの握るMVSを高速に振るい、斬月と月下瑞鶴の機体に無数の切り傷を作り機体のあちこちから火花が散る。
『なっ・・・!?』
『は、速すぎる・・・!?』
藤堂と千葉は気づいたら斬られていたと言うほどあまりにも速すぎるレティシアとランスロットレギナの攻撃に戦慄し背中に冷や汗を流してしまう。
なんとか対応すべくランスロットレギナの一挙手一投足に集中するが、この時の2人はレティシアの動きに動揺してしまいレティシアだけに集中しすぎてしまった。
──故に2人はすぐそこまで迫っていた敵に気づくことができず、その結果その命を無惨に散らす結果となってしまった。
『────死ね。ゴミクズ風情が』
『なっ──────』
その声が聞こえた千葉は思わず振り向くが時すでに遅し。千葉がその声に反応するよりも先に月下瑞鶴の背後に回っていたテウメッサのハイパーチェーンソーブレードによって機体ごと十字に切り裂かれ、千葉は断末魔も藤堂への懺悔を言う暇もなく身体を切断され機体の爆発に飲み込まれ肉塊となった千葉は爆炎に飲み込まれ肉片の1つも残さず完全にこの世から消え去ってしまった。
『千葉ァァァァっ!?』
『余所見とは、随分と余裕ですね』
『っ!?しまっ────』
『遅い』
一瞬にして長年の戦友である千葉が無惨に殺されたのを目の前で見せられた藤堂は怒りによって頭に血が登りマリーを倒すべく斬月をテウメッサに向けて飛ばそうとしたが、そんなことを先程まで戦っていたレティシアが許す訳もなく、斬月がテウメッサに機体を向け背中を無防備に見せた瞬間、ランスロットレギナは斬月のコックピットブロックにMVSを突き刺し、藤堂の身体を切り裂いた。
「がはぁっ!?(すまない扇・・・。後のことは頼む・・・)」
藤堂は薄れゆく意識の中でまだ生き残っている黒の騎士団団員たちのことを心配しながら後のことを扇に押し付けてしまったことに深く謝罪しながら機体の爆発に巻き込まれその命を落とした。
【厳島の奇跡】として長年日本人の希望として戦い続けてきた侍だが、その命は無惨に散ってしまった上に誤った道を進み続けて来たことで落ちぶれてしまった彼の死を尊ぶものはいなかった・・・。
その後、逃げる残党をある程度始末しながらレティシアとマリーは互いに罵り合うような喧嘩を続けながらヴァルハザードへと帰還しノーランドたちの対応をするべくキリング・ルシフェルは黒の騎士団の残党狩りを中断しアオモリゲットーへと向かう。
レティシアたちが撤退したことにより扇たちはなんとか生き延びることができたが、下手に生き残ってしまったからこそ彼らは絶望に暮れていた。
(黒の騎士団はもうダメかもしれない・・・)
悲観に暮れている中で唯一現状を把握できている南佳高は暗い顔でそう結論づけていた。
山崎でのキリング・ルシフェルとの戦闘でただでさえ少なかった戦力を失ってしまい残っている戦力は今扇たちが旗艦として不知火を含めた戦艦3隻とナイトメアとモビルスーツが合わせて20機程度で小規模のレジスタンス程度しか残っていなかった。
それもどの機体もどこかしら破損していて満足に運用できる状態では無いし戦艦もまたエナジーが尽きかけな上に輻射波動障壁発生機構やフロートユニットも破損しているためまともな運用は期待できない。
仮に扇たちにとって都合のいいことに超合衆国がルルーシュたちと戦えるだけの戦力を貸し出してくれたとしてもそれを率いるだけの力を持たない扇たちではそれらの戦力を有効活用することも出来ずにまた無駄にその命を散らしてしまうのが関の山であると南は考えてしまう。
(カレンが正しかったな・・・)
今更になって自分たちが間違っていることに気づきそんな自分たちを助けようとしてくれた妹分であるカレンに対して申し訳なさと後悔を抱くが今更遅いということもわかっている南は口には出せないでいた。
これから自分たちがどうなってしまうのかという不安を胸に秘めている南にオペレーターからの報告が届いた。
「まもなく蓬莱島に到着します!!各員、着陸準備をしてください!!」
その内容を聞いたものたちの殆どが安全な場所に辿り着けた安堵から表情を和らげ中にはその場にへたり込むものもいた。それは扇も同じであり、先程の戦闘で藤堂と千葉を失ってしまったことで幹部が南だけとなってしまい心身追い詰められていた扇にとってようやく落ち着ける場所にたどり着けたと思ってしまうのも仕方がないことであろう。
──────だが、世界は彼らの都合のいいように動いたりなど決してない。彼らがこれまで無知ゆえに行ってきた行動の結果がこうして今彼らに返ってくるだけだった。
『────止まれ』
不知火たちが蓬莱島に近づこうとした瞬間、オープンチャンネルで殺意のこもった声が響いたのと同時に不知火に向けて威嚇射撃が行われた。
突然の砲撃に扇たちは動揺してしまい何故・・・と問いかけるよりも先に攻撃を行った集団────超合衆国の防衛部隊から警告が発せされた。
『────黒の騎士団に告げる。直ちに武装を解除して投降せよ。こちらは妙な素振りを少しでも見せた瞬間撃墜する許可を評議会から得ている。繰り返し告げる、武装を解除し直ちに投降せよ』
機体越しでもはっきりとわかるほど強い殺意を向けながら蓬莱島の防衛部隊のナイトメア・モビルスーツ部隊は扇たちに向けて銃口を向けており、きっかけさえあれば引き金をすぐにでも引いてしまいそうなほど彼らは限界まで理性を保っていた。
────元々超合衆国全体としてシュナイゼルに協力するのに反対する意見が大多数だった。
超合衆国は中華連邦を母体にして地球連邦に恭順することを拒んだ小国や亡命政権を中心に加盟していることもあり地球連邦の中心となっているブリタニア・ユニオンに対して敵意を持つのは当然であり、加盟した国の中にはシュナイゼルによって戦争に負け多くの犠牲を出された国も少なからずあるためそういう意見が出るのは当然である。
しかし、フレイヤという殺戮兵器による恐怖と悪逆皇帝ルルーシュの脅威を前にこのフジの決戦だけシュナイゼル側に付いてルルーシュを打倒した後は戦力の低下したシュナイゼル連合軍を倒すという考えからなんとかそれらの反対意見にも納得してもらった。
だが、その結果ルルーシュ皇帝軍に被害を与えるどころか扇たち黒の騎士団の突然の撤退によって戦線は崩壊し黒の騎士団を中心に部隊を展開させていた場所ではルルーシュ皇帝軍とシュナイゼル連合軍による攻撃に対処できず無意味に多くの命を失う結果となってしまった。その中には防衛部隊として蓬莱島に待機することとなった者たちの友人や同僚、家族などの親しい存在もいたために防衛部隊の黒の騎士団への殺意はとてつもないものになっていた。
「なんで・・・どうして仲間の俺たちに武器を・・・」
自分のやってしまった罪にも気づかず見当違いなことを考える青ざめた表情を浮かべ今にも倒れそうになっている扇の姿を見た南はこれまでか・・・と諦めの表情を浮かべながら呆然としている扇に代わって返答を返す。
「そちらの指示に大人しく従う。ただ、責任は幹部である俺と扇にある。部下たちには情状酌量の余地を与えて欲しい。それと監視役の周香凛と洪古が富士山での戦いの時に負傷して気絶している。そちらに投降後は彼女らの治療もお願いしたい」
「なっ!?」
南の突然の投降を受け入れる姿を見てしまった扇は限界まで目を見開きながら南を睨み、思わずその胸ぐらを掴んでしまう。
「何を言っているんだ南!?ゼロを倒すためにも俺たちは戦わなきゃいけないんだね!!こんな理不尽に屈していいわけが────」
「もう無理だ!!玉城や杉山だげじゃなく藤堂さんと千葉さんもみんな死んだ!!俺たちの力じゃもう何もできないんだ!!」
「だ、だからこうして超合衆国に協力を・・・」
「現実を見ろ!俺たちは彼らを見捨てて逃げてここまで来てしまった!!そんな俺たちに誰が力を貸すって言うんだ!!」
「そ、それは・・・」
扇はまだ戦えると口ではそう言うがそんなことは不可能だと南は現実を扇に突きつける。現に今この場にいる扇や南以外の団員たちの顔は仲間であったはずの超合衆国から武器を向けられた時点で絶望に暮れてしまいとてもではないが戦う気力は微塵も残っていなかった・・・。
南は扇の胸ぐらを掴んでいた手を振り払い、深く息を吐いた。
「扇、俺たちはもう戦えないんだ。ここで無理に抵抗すれば、残っている仲間まで死なせることになる。今までどれだけの人間を失ってきたと思っているんだ・・・!」
「だからこそだ!!」
扇は南の言葉を遮るように叫んだ。
「ここで投降したら、今まで死んでいった仲間たちはどうなる!? 玉城も、杉山も、藤堂さんも千葉さんも・・・みんな、何のために戦ってきたんだ!?」
「・・・っ」
「俺たちはゼロを倒すために戦ってきたんだ! 日本を取り戻すために、あいつの支配から解放するために!それなのに、ここで投降してしまったら、今までの戦いは全部無駄になってしまうじゃないか!!」
扇の声は次第に大きくなっていく。
その顔には怒りだけでなく、恐怖や焦燥、そして自分自身でも整理できないほどの感情が入り混じっていた。
彼はまだ理解していなかった。自分たちが何を失い、何を裏切り、そして何を犠牲にしてきたのか。
いや、理解したくなかったのかもしれない。
「扇・・・もうやめてくれ。俺だって、仲間たちを無駄死にさせたくない。だからこそ、ここで終わりにするんだ。これ以上、誰かが死ぬ必要なんてないだろう」
「黙れ・・・」
「俺たちは負けたんだ。ゼロを倒すどころか、仲間を守ることさえできなかった。だったら、せめて残った連中だけでも生き延びさせるべきだ」
「黙れと言っているだろう!!」
扇は南の胸元を再び掴み、激しく揺さぶった。
「お前まで俺を否定するのか!?俺たちが間違っていたと言うのか!?」
「・・・ああ。少なくとも、今の俺たちは間違っていたと思う」
南は扇の目を真っ直ぐに見つめながら答えた。
「カレンも言っていたじゃないか。ゼロを追放することが本当に正しいのか、もう一度考え直すべきだって。それなのに俺たちはアイツの言葉に耳を貸さず、結局ここまで来てしまった・・・」
「カレンの話はするな!!」
「扇・・・」
「俺たちは間違ってなんかいない!ゼロが悪いんだ!あいつがギアスなんかを使って、俺たちを騙していたから・・・!」
「もういい加減にしてくれ!!」
南の怒声がブリッジに響き渡った。
普段は穏やかな南がここまで声を荒らげることは珍しい。その場にいた団員たちも思わず二人の方へ視線を向ける。
「何もかもゼロのせいにするな!!確かに、あいつが俺たちに色々なことを隠してきたのは事実だ。だけど、それを理由に俺たちがしてきたことまで正当化できるわけじゃないだろう!!」
「・・・っ!」
「俺たちは自分たちの意思でゼロを追放した。自分たちの意思でカレンたちを見捨てた。そして、自分たちの意思で富士山から逃げ出したんだ!!」
「やめろ・・・」
「それなのに、今になって全部ゼロのせいにするのか!?それで本当に日本を守るために戦ってきたと言えるのか!?」
「やめろと言っているだろうがぁぁぁ!!」
扇の叫びが響く。
彼の手は震えていた。
南の言葉が正しいことは、心のどこかで理解していたのだろう。
だが、それを認めてしまえば、自分がこれまで積み重ねてきた選択のすべてが間違いだったと認めることになる。
ゼロを追放したことも。
カレンたちと決別したことも。
そして、富士山で仲間たちを見捨てて逃げ出したことも。
すべてが自分の責任だったと認めなければならない。
そんな現実を受け入れることなど、今の扇にはできなかった。
「俺は・・・俺は間違ってなんかいない・・・!」
「扇、落ち着け。もういいんだ。武器を捨てて、俺たちと一緒に投降しよう」
「近寄るな・・・!」
明らかに正気を失っている扇を南がなだめるように一歩近づいた瞬間だった。
扇は腰に差していた拳銃を抜き、南に向けて突きつけた。
「扇さん!?」
「銃を下ろしてください!!」
扇の突然の凶行を前にして周囲の団員たちが驚きの声を上げる。だが、扇の耳には届いていなかった。
「俺は・・・俺はまだ戦えるんだ・・・!ここで終わるわけにはいかないんだよ・・・!」
「扇・・・銃を下ろしてくれ」
南は両手をゆっくりと上げながら、扇を刺激しないように語りかける。
「俺たちは仲間だろう?こんなことをする必要はない。もう誰も殺さなくていいんだ」
「黙れ・・・黙れ黙れ黙れ!!」
「頼むから・・・」
扇を落ち着かせようと刺激しないようにゆっくりと南がさらに一歩踏み出した、その時。
「うるさいんだよぉぉぉ!!」
――ドンッ!!
乾いた銃声が、不知火のブリッジに響き渡った。
「・・・・・・え?」
一瞬、何が起きたのか誰にも理解できなかった。
扇の目の前にいた南の身体が、ゆっくりと後方へ傾いていく。
その胸元から赤い染みが広がり、やがて彼の身体は力なく床へと崩れ落ちた。
「み、南・・・?」
扇は自分の手に握られた拳銃を見つめた。
銃口からは、まだ薄い煙が立ち上っている。
そして、その先には血を流して倒れている南の姿があった。
「な・・・何で・・・?」
自分が何をしたのか。それを理解した瞬間、扇の顔から血の気が引いていく。
「俺は・・・そんなつもりじゃ・・・」
「南さん!!」
言い訳をする扇を無視して南の近くにいた団員の一人が慌てて駆け寄り、南の身体を抱き起こす。
「しっかりしてください!!南さん!!」
「医療班を呼べ!!早く!!」
「誰か止血を!!」
ブリッジ内は一瞬にして騒然となった。
南は薄れゆく意識の中で、自分を呼ぶ仲間たちの声を聞いていた。身体がひどく重い。胸の辺りから熱が広がり、呼吸をすることさえ苦しくなっていく。
(・・・ああ、俺は・・・ここで終わりか)
ぼんやりとした意識の中で、南は目の前にいる仲間たちの顔を見た。
そして、その中に呆然と立ち尽くしている扇の姿を見つける。
(扇・・・)
彼と共に戦ってきた日々が、脳裏をよぎった。
レジスタンスとして亡き仲間である玉城や杉山たちと必死にブリタニアに抗った日々。ゼロが率いる黒の騎士団に加わり、日本解放という理想を掲げて戦ってきた日々。
仲間たちと笑い合い、時には衝突し、それでも同じ目標に向かって歩いてきた。
扇は決して優秀な指揮官ではなかった。
それでも、仲間たちのことを考え、誰かを守ろうとする気持ちは持っていたはずだった。
だからこそ、南は彼を支えてきた。
彼が迷えば助言し、失敗すればフォローし、時には彼の代わりに責任を負ってきた。
しかし、それは本当に彼のためになっていたのだろうか。
(俺たちは・・・扇に頼りすぎていたのかもしれないな・・・)
彼にリーダーという重荷を背負わせ、その判断を疑うことなく従い続けた。
間違いを指摘するべき時に、誰も本気で止めようとしなかった。その結果が、今の有様なのかもしれない。
(もっと早く・・・誰かが止めていれば・・・)
悔いは尽きない。だが、もう何もかも遅かった。南はかすかに唇を動かした。
「・・・お、ぎ・・・」
「南!?南、しっかりしろ!!」
扇が我に返ったように駆け寄ろうとする。
南はそんな扇を見つめながら、最後に何かを伝えようとした。しかし、声にならなかった。
(・・・すまないな、扇)
最後まで彼を支えることができなかった。
もっと早く、彼の過ちを正すことができていれば。
あるいは、彼にすべてを背負わせずに済んでいれば。
そんな後悔を胸に抱きながら、南の瞳から光が失われていく。
「南・・・?おい、南・・・!」
扇が肩を揺さぶる。だが、南が再び目を開くことはなかった。
「・・・・・・」
「南さん・・・?」
「嘘だろ・・・南さん・・・」
南の死を理解した団員たちの間に、重苦しい沈黙が広がった。
そして、その沈黙を破ったのは、誰かの震える声だった。
「・・・扇さんが、撃ったのか?」
その言葉に、誰も答えなかった。答える必要などなかった。彼らは全員、目の前で何が起きたのかを見ていたのだから。
「そんな・・・南さんを・・・」
「仲間を・・・撃ったのか・・・?」
団員たちの視線が、一斉に扇へと向けられる。
そこにあったのは、もはや以前のような信頼ではなかった。
失望。
怒り。
恐怖。
そして、深い絶望。
扇はそれらの視線を受けながら、ただ呆然と立ち尽くしていた。
「ち、違う・・・俺は・・・」
言い訳をしようと口を開く。しかし、何を言えばいいのか分からなかった。南を撃ったのは自分だ。
その事実だけは、どうやっても変えられない。
「俺は・・・そんなつもりじゃ・・・なかったんだ・・・」
その時だった。
「もうやめてください!!」
一人の団員が叫び、扇に向かって飛びかかった。
「うわっ!?」
扇が反応するよりも早く、その腕が押さえ込まれる。
さらに別の団員たちが駆け寄り、拳銃を取り上げると同時に彼の身体を床へと押さえつけた。
「離せ!!何をするんだ、お前たち!!」
「もう黙ってください!!」
「南さんまで殺しておいて、まだ指揮を執るつもりですか!?」
「俺たちはもう、あなたには従えない!!」
「違う!!俺は日本のために・・・!!」
「日本のためだと!?これ以上、何人の仲間を犠牲にすれば気が済むんですか!!」
団員たちの怒声が次々と扇に浴びせられる。
しかし、扇はそれにまともに反論することもできなかった。
彼を押さえつける団員たちの手には、怒りだけでなく、悲しみと恐怖も込められていた。
南を失った悲しみ。
そして、自分たちの指導者が仲間に銃を向けたという恐怖。
それらが、彼らを動かしていた。
扇は床に押さえつけられたまま呆然としてしまっていた。
先ほどまで自分の命令に従っていた仲間たちが、今や誰一人として自分を見ようとはしない。
藤堂も千葉も、南もいない。
そして、残された仲間たちからも見放されようとしている。
「・・・どうしてだ」
扇の口から、かすれた声が漏れた。
「どうして・・・こんなことになったんだ・・・?」
誰も答えなかった。
その問いに答えられる者は、もうこの場にはいなかった。
いや、本当は扇自身が一番よく理解していたはずだった。
それでも彼は、その答えを認めようとはしなかった。
こうして、黒の騎士団残党の最後の幹部であった南佳高は、かつての仲間であり、支えてきた指導者の手によって命を落とした。
そして、扇要は自らの手で最後に残された仲間からの信頼さえも失ったのである。
その後、扇たちは蓬莱島の防衛部隊によって連行されていく。その道中で蓬莱島の住人たちによる怒りや罵声を浴びせられ続ける扇だが放心状態の扇にそれらの言葉は届かず扇は言われるがままに地下牢へと連行された。
一般団員はそれなりの処罰を受けることになるが責任の大多数は扇たち幹部陣にあるため多少の減刑がされる可能性が高い。
ラクシャータら研究者らは扇たちに脅されていたことも団員たちからの報告で判明したためこれといった罪に問われることはない。
幹部陣も全員死亡したことによってすべての責任は扇1人が背負うこととなりそれ相応の処罰を与えるために後日超合衆国で裁判が行われることが決定した。
また、それに合わせて扇に尋問が行われたが、南を殺し仲間たちにも見捨てられてしまったことで放心状態となっている扇は『ゼロのせいだ・・・』『俺は悪くない・・・』『アイツが俺たちを騙していたんだ・・・』『全部ギアスのせいだ・・・』などと言い訳ばかりしているため一向に進まないでいた。
このまま扇は死刑の道を辿りこれまでの行いの結果地獄に行くだろうと誰もが思っていた。
だが、そんな彼らの考えを覆すかのように扇はとある存在によって利用されその罪を更に重ねることとなる。しかもそれはこれまで以上の犠牲を広げるものとなり皇帝ズールやDr.ヘルなどの悪たちに匹敵するほどの凶悪な行いであることを・・・。
それが判明するのはまだ先の話である・・・。
あとがき
扇たち黒の騎士団残党はこれで完全崩壊しましたが扇にはまだまだ生き地獄を味わってもらうので生かしております。フジの決戦内での出番はもうありませんがこのフジの決戦が終わったあとにやる予定の新章にて新たな敵の駒として暴れてもらいます。え?もうやめて欲しいだって?何を言っているんだ扇要・・・。これは、お前が始めた物語だろう?
今回登場したレティシアの元ネタは異星間国家の悪徳領主のクリスティアナ・レタ・ローズブレイア。マリーは同じく異星間国家の悪徳領主のマリー・セラ・マリアン。セレナ・ホールズは目覚めたら最強装備と宇宙船持ちだったので、一戸建て目指して傭兵として自由に生きていきたいからの参戦になります。上記のキャラたちを含めてキリング・ルシフェルの設定はいつか作成して投稿させてもらいます。
さて、原作と異なる展開を見せているフジの決戦ですがあと数話以内に終わらせて新章に向けての準備に入りたいなと思ってます。マリアンヌの復活に奪還のロゼからノーランド・リューネブルクの参戦。他にも登場予定のキャラはいますので最後まで暴れに暴れまくりながらフジの決戦を綺麗に終わらせて新章に入りたいですね。それではまた次回よろしくお願いします!!