私生活のほうが一段落したので、一度は消そうと思っていた黒歴史同然の本作ですが4年前よりはマシになったであろう文章力を駆使して(笑)また色々と書いていこうと思います。
ただ新しい話を書く前に、既に投稿した話に気になる部分があるのでそこを修正していきたいと思います。
それでは始まります。
第1話―憎悪の渦―
眼に映る光景がやけにゆっくりと感じる中、少年は自分の死を悟り遣り切れない思いを胸中で吐き出していた。
(何で俺が。)
何で俺が...
頭の中で呪文のように同じ言葉が繰り返される。
今まで溜め込んできた分だけ堰を切ったように溢れ出してきていた。
(俺は一体何のために生まれてきたんだ?)
ドス黒い感情が止めどなく溢れ心を沸騰させるが、それに反して体はどんどん冷たくなっていく。
そこに容赦なく女の金切り声が叩きつけられた。
「ア、アンタが悪いのよ!?私に逆らうから!そうやってあの男みたいに私を捨てるんでしょ!?」
「アイツみたいになるんだったら、私が...私が止めてあげないと!だって私は悠里のお母さんだもの!」
目の前に立つ女性はこの少年、悠里の母親だ。
血に濡れた包丁を手に持ちながら頬を涙で濡らし半狂乱で叫んでいる。
この母親は俗に言う教育ママだった。
ただ飽くまでそれは息子を思っての事であったし、度が過ぎた要求をしてくることもない。
仕事命であまり家庭を顧みない父親の影響で少し息子に対し依存していた節はあったが、普通の仲の良い親子だった。
たがある事件を境にその関係は大きく歪んでしまう。
悠里の父親が職場の女と不倫していたのだ。
それにより母親は精神を病み、父親はそんな母親を捨て家を出て行った。
それからと言うもの悠里の母は父への恨みから、男という生き物そのものに憎悪を抱くようになってしまった。
当然、それは息子である悠里にも及び、「父親のような男にならないように」という思いから彼に過剰な躾と歪んだ愛情を向けるようになる。
そして教育ママっぷりに更にも拍車がかかり、家にいる時は常に息子を机に縛り付け監視する日々。
友達と遊ぶ事も許さなかったし、通っていた格闘技の道場も辞めさせた。
息子に自由や娯楽を与えず、彼女の中の世界だけで完結させようとしたのだ。
まだ16歳である少年にこの現実は辛過ぎた。
この世界に絶望し、悠里は漫画の世界に異常にのめり込んでいった。
その中でも特に彼を惹きつけて止まなかったのはワンピースとHUNTER×HUNTERだった。
ワンピースの大海賊時代、あそこで仲間と一緒に海に繰り出し自由に冒険ができればどれだけ楽しいか。
そしてHUNTER×HUNTERの世界、あそこでハンターになって世界中を旅してみたい、修行して強くなって色んなものをハントしてみたい。
(鳥籠の鳥だった俺にはどっちも眩しすぎるよ、俺も自由に冒険がしたかった。)
もう悠里に母親の叫び声は聞こえていない、彼の心にあるのはその後悔と理不尽な環境に置かれ続けた憎しみだけ。
徐々に意識が薄れてくる。
母親に反抗するという彼にとって人生で初めての冒険は、とうとう終わりを迎えようとしていた。
その場に崩れ落ちる悠里。
もう既に意識はないが、それでも遣り場のない憎悪の炎は消えること無く、遂には悠里の魂を灼いた。
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ピチャッ、という音と共に顔に冷たい何かが掛かった。
その正体は上から垂れてきた雫のようで、悠里は驚きから目を覚ます。
緩慢な動作で上体を起こし周りを見渡せば、樹海のような場所らしく悠里はそこに寝転がっていた。
もちろんこんな所に来た記憶はない。
そもそも悠里は母親に腹を刺され、死んだはずだ。
一瞬母親が自分をここに捨てたのかとも思ったが、そもそも悠里の家があったのはアスファルト畑の都会のド真ん中であり、近くにこのような場所はない。
状況は全く理解できないがこのまま寝ているわけにはいかないだろう。
とりあえず起き上がろうと軽く身じろぎしてみて、ふと気付く。
やけに体が軽かった。
そして違和感を感じながらも立ち上がると、更におかしな事が起きていた。
何故か腹を刺されたというのに傷も残っていないし、寧ろ逞しくなった気さえするのだ。
体は死ぬ(?)前よりもすこぶる健康である。
ただ、悠里はそれを素直に喜べなかった。
助かっても明日からまたあの辛い日々を過ごすのだ、無間地獄から解放されるなら死んでしまってもよいとは思えるほどに毎日が辛かった。
暗い気持ちを抱えながら悠里は森を歩き出す。
ポジティブな気分には些かなれないが、いつまでもここにいても仕方がないからだ。
とりあえず状況を確認するために近くにある街なり人のいる場所に向かわなくてはならない。
それにいくらなんでもこんな所で夜は明かしたくはない、悠里は若干早歩きで森を抜けていくのだった。
そして森を出て少し歩いていると、一際目立つ高い建物が見えてきた。
見たことのない建築様式の建物が並ぶ、古い町並みの場所だ。
自分の生活圏にはこんな場所は無かったはずだ。
何か手がかりは無いかと思い看板や張り紙等に目をやるが、
(とりあえず街についたのは良いけど...なんだこの文字?まさか象形文字?)
悠里には何一つとして読めなかったのである。
本当にここは日本なのか?と、そんな疑問が浮かんでくるのも無理はないだろう。
若干焦りを覚えながらも、前を歩いていた大柄の男に声をかけた。
「すみません、少し道に迷ってしまいまして。良ければここが何処だか教えて貰えませんか?」
「ん?ここは有名どころだぜ。あの高い塔が見えるだろ?この場所こそ世に名高い天空闘技場さ!」
話しかけられた男は親切に、そして元気いっぱいに答えてくれる。
とくに嘘を付いている様子もない。
ただそれは絶対にあり得ない事だ。
何故ならその場所は悠里が好んで読んでいた漫画に登場する場所だからだ。
衝撃を受けながらも、悠里はもう一度確認のために質問した。
「それはもしかして、バトルオリンピアという格闘技の祭典が開催される場所ですか?」
「よく知ってんじゃねえか!まぁ当然か、俺も格闘技には目が無くてよ、よく見に行くんだ。」
やはり間違いないらしい、あまりの驚きから悠里は吃り気味に返事をしてしまう。
「そ、そうですか。ありがとうございます。」
それを聞くと男は「じゃあな!」と言って去っていった。
とりあえず親切に教えてくれたあの男に感謝するも、悠里の頭を占めているのは別のことだ。
もしあの男が言っていることが正しいとすると、ここはHUNTER×HUNTERの世界ということになってしまう。
よく見てみればあの象形文字も作中によく出てくるハンター文字という奴に似ている気がした。
そして何故かじっと眺めていると頭に意味が入ってくる、あり得ない現象だ。
悠里は途方に暮れていた。
確かに悠里は生前、というか転生前にこういった世界に憧れはしたが、身一つで、しかもこんな子供の姿―先ほど気付いたのだが年齢が11、2歳くらいに若返っていた―で放り出されるのは流石に堪える。
着の身着のままで何も持っておらず、このままでは孤児として物乞いで生きていく他ない。
戸籍さえあるか不明なので、ちゃんとした仕事を見つけられるかどうかも怪しかった。
状況は分かったところで良くなってはいないが、まずは生きるために仕事や住居を見つけなくてはならない。
憧れの冒険や何だの前に野垂れ死んでしまえば意味が無いのだ。
(せめて生活基盤くらいはしっかりした所に転生させて欲しかったな。)
そう心の中で愚痴りながら、気持ちを切り替えこれからの事を冷静に考える。
HUNTER×HUNTERの世界で生きていくならばまず身体能力と戦闘能力が一番大事だ。
それを確認するために悠里はまた森へと引き返していった。
人目につかないように森の奥まで入り少し動き回ってみれば、やはり初めに思った通り動きは軽く、肉体は少し強靭になっている。
見た目こそ筋骨隆々というわけではないが、悠里は自分の体の秘めたる力を感じていた。
この分ならゾルディック家の試しの門も1の門くらいは開くかもしれない、と大木を持ち上げながら独り言ちる。
こうなると進路はもはや決定したも同然だ。
幸い近くには天空闘技場、肉体も調子が良いし何より格闘技で培った動きも体に染み付いておりそのままだ。
(確か100階以上で個室が与えられたはず。修行にもなるし住居も手に入る、正に一石二鳥じゃないか!)
そうと決まれば善は急げと、悠里は颯爽と天空闘技場に向かっていった。
先ほどよりもだいぶ明るくなった心境を反映するように、足取りは大分軽かった。
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「それにしても凄い行列だ...」
天空闘技場に着いて早々思わず呆れてしまう。漫画で読んだ光景もそうだった気がするが、この夥しい人の数はそれ以上のように感じられた。
「それは当然だよ♦︎ここはこの辺りじゃ一番お金が集まるといわれている場所だしね。身一つで一攫千金が狙えるんだ、こういう雑魚が群がるのも無理はない・・・まあ僕はそんなことよりも戦うことに興味があるけどね♥」
悠里がその光景に呆れながらも少しボーっとしていれば、なにやら男が話しかけてきていた。
(うん、気のせいだろう。恐らく幻聴だ。そしてこの変態ルックなピエロは幻だ、蜃気楼だ、幻覚だ。)
「ねぇ...どうして無視するんだい?君から話しかけてきたのに♣︎」
(...お前に話しかけてねぇよ!)
反射的に声のする方に顔を傾け、悠里は固まってしまった。
そしてそのまま無視を決め込んでいれば、またもしつこく話しかけてくる変態ピエロ。
思わず心の中で毒づいてしまう。
最悪な展開である。
悠里は確かにこういった世界で生きるのを望んだが、決してこのような変態との邂逅は望んでいなかった。
無視してこのまま離れたいが、目の前のピエロのこちらに興味ありげな視線を見てしまうと、どうもそれは無理そうである。
出会ってしまったものは仕方がないと強引に自分を納得させ、悠里は嫌々ながらも適当に相槌をうった。
「すいません雰囲気に圧倒されてて。あなたも登録希望者のようですが先程の口ぶりだと腕に自身があるんですか?」
「うん、僕は強いよ。でもそれを差し引いてもここにいる殆どの連中は不合格かな♦︎」
「でも君は...うん、合格。いいねぇ青い果実って♥︎」
そして何やら勝手に納得してニヤリとした表情を浮かべるピエロ。
なんとフラグがたってしまった。”青い果実フラグ”。
ヒソカの視線から逃れるように少し体を傾け、まずいことになったと肝を冷やす。
体には冷や汗が滴っていた。
転生してから早々に命の危機とはまったくもって笑えない冗談だ。
カストロのようにボロきれ同然に殺されるのは御免である、なんとか強くなって生き延びなければならない。
然もなければ勝手に失望され、勝手に命を奪われる。
しばらく天空闘技場で戦うしか道の無い悠里としては、彼に目をつけられるのは本当に不味い事態だった。
(下手に相槌なんか打たなきゃ良かった...)
「まあ、お互い頑張りましょう...」
「うんそうだね、頑張ろう♦︎」
後悔先に立たず、謎の合格発言には触れず変態の笑顔に対しなんとか気合で愛想笑いを浮かべた。
どのみち修行はしなければならないし、こうなれば背水の陣に追い込まれたと思って頑張るしかなさそうだ。
変態ピエロを前に、悠里は現実から逃げるようにポジティブシンキング(?)をするのだった。
そして変態との会話もそこそこに、しばらく待っていると唐突に前方から悠里に声がかかった。
「天空闘技場へようこそ!こちらに必要事項をお書きください。」
受付のお姉さんを見てまばたき数秒、
(え...もう?そういえばさっきの行列が無くなってる...)
極度の緊張感の中変態と居た事で、時間をまともに感じられる間もなかったようだ。
これは正しく”コインの時のゴトーさん効果”ではあるのだが、全く嬉しくは無かった。
そんな詮無いことを考えながらざっと登録用紙に目を通してみれば、やはり原作でゴン達が書いたものと形式はあまり変わらない。
となればさっさと記入してしまうに限る。
(名前は、稲葉悠里っと。)
真っ先に一番上にあった名前の欄に書き込むが、そこで唐突に思い至る。
このHUNTER×HUNTERの世界でガチガチの日本名は明らかに浮きそうだった。
ただでさえ戸籍も無い身だ、悪目立ちはしたくない。
この世界に馴染むためにもこちらに合わせた名前に改名した方が良いかもしれない。
(名前は悠里をそのままユーリでいいとして...)
問題は名字だ。
悠里はもともと稲葉という苗字という名字は稲に葉っぱでまるで農民代表のようで好きではなかったし、カタカナ表記でのイナバは某倉庫業者のようでしっくりこない。
(どうせなら大空寺とかかっこいい苗字にしよう、ただそのままだと変だし...)
大 空 寺=ビッグ スカイ テンプル
(ビッグスカイテンプルを...ビステム)
小学生並みの頭脳をフル回転させついに悠里はこの世界での名前を決めた。
次に格闘技歴の項目。
そこには8年と書いた。これには嘘は無い、悠里は8才から空手とムエタイをやっていた。
そして他の項目もスラスラと埋めていくが、何故かニヤつきながらヒソカがこちらを覗き込んできていた。
正直言って非常に気持ちが悪かった。
「ユーリっていうんだ...ヨロシクね、ちなみに僕はヒソカ◆」
聞いてもいないのに自己紹介してくるヒソカ。
さっさとこの変態から離れよう、と思い悠里は書くスピードを上げていく。
気のせいかもしれないが、ヒソカの股間が膨らんでるようにも見えたからだ。
「そうですか、じゃあ俺はこれで...」
書類を書き終えれば、若干引き気味の愛想笑いを受けべながらもさっさと変態と距離を取る悠里であった。
――――――――――――――――――――――――――――――――――
変態を振り切って天空闘技場の待合室に座り一息ついていると、隣に無造作に置かれていた新聞が目に入った。
転生やらヒソカやらの衝撃ですっかり忘れていたが、他にも確認しなければならない事は沢山ある。
戸籍がないので身分証明のためにハンターライセンスを取らなければならないが、ハンター試験はかなりの難易度。
受けるのであれば内容を知っているゴン達がうけた1999年の第287期の試験が望ましい、というかそれ以外では不可能かもしれない。
色々とこれからの事を考えながら悠里は新聞に手を伸ばした。
“第284期ハンター試験締め切り間近!登録をしていない方はお早めに!“
(やっぱりすごいな、新聞の第一面がこれだ。)
ハンターがこの世界でどれだけ大きな存在か再確認させられた。
原作開始まであと3年あるが、念の修行のことを考えればゆっくりとはしていられない日数である。
やはり急ピッチで修行を進める必要があるか、と決意を新たに新聞の他の記事に目を通していると、
『1611番・1907番の方!Dのリングへどうぞ!』
スピーカーから悠里の番号を呼ぶ声が聞こえた、出番のようだ。
間違っても失格になどならないように素早くリングに移動する。
あの行列をもう一回並ぶのは勘弁願いたい。
そうしてリングに着けば相手は既に開始位置に立っており、悠里を待っていたようだ。
悠里は審判が簡単なルール説明をしているのを聞きながら軽く体をほぐして戦闘態勢に入った。
「ここ一階のリングでは入場者のレベルを判断します。制限時間の三分以内に実力を出しきってください・・・それでは、始め!」
開始の合図に反応してお互いに構える。
見たところ相手はパワータイプのようで、原作でゴンが1階で戦った奴とそっくりだ。
だから慌てず、とりあえずは待つ悠里。
(でかい奴は動いた後の隙がでかい、そこを付く。)
一瞬の膠着の後に、まずは相手が動いた。
ゴォッという鈍い音で風を切りながら、凄まじい勢いで張り手を繰り出してくる。
纏も使えない今の悠里でまともに喰らえば重症は免れない。
だがカウンターを狙っていた悠里は軽々と避けることに成功する。
そして避けた後はそれに合わせて相手の手首に鉄槌にをくらわせた。
「グッ!」と呻き声を発し相手がひるんだ隙に、更に外側から肘にミドルキックを浴びせた。
(効いてる。ガードが下がってきた、もう一発!)
動きの止まった相手に全体重を載せてもう一度蹴り上げる。
「ギャァ!」
叫び声を上げながらボキッという小気味のいい音と共に相手の肘が折れた。
それに「よし。」と内心ガッツポーズをしながら懐に飛び込む悠里。
飛び込んだ勢いを殺さずに、すかさず後回し蹴りを放つ。
ゴキィッ、と鈍い音が響きガードの下がった相手のアゴに思い切り踵がめり込んだ。
「勝者!1611番!...君はかなりいい動きをしているね。50階まで進みなさい。」
そこで試合終了、審判が相手の意識を確認した後勝敗を宣言する。
ゴン達と同じペースという自分が意外に高い評価を受けたことに喜びながら「どうも。」とお礼を返し渡された紙を受け取った。
一階のファイトマネーは勝っても負けても152ジェニーで缶ジュース一杯分だが、50階は勝てば5万ジェニーだ。
なんとかもう一試合組めれば今日のホテル代が確保できるだろう。
試合が終わり引き返そうとするが、そこで会場がやけにザワついているのに気づいた。
発生源は斜め前のリングだろうか。
(あれはヒソカ...?)
「し、勝者!1612番!50階に行きなさい...」
そこに目を向ければヒソカが血だまりの中で立ち尽くし、恍惚とした表情で自身の血塗れの両手を見つめていた。
さながら猟奇殺人の現場だ、審判も顔が引きつっている。
あまりの光景にドン引きし、改めてヒソカの異常性を確認した悠里は軽く念仏を唱えながらヒソカに見つからないようにそそくさとその場を去った。
(しかし原作の重要人物とのファーストコンタクがまさかヒソカとは...)
早々から心が折れそうな悠里であった。
初めまして、オガルフィンと申します。
早速ですが自分では脳内補完しながら読むので感じないのですが、客観的に見ると描写不足になっている箇所が結構にあるようです。
そうならないように努力してはいるのですが、もしそのような箇所があれば報告してくださるととても助かります。
それ以外にも違和感を感じるところや誤字脱字など、変な所があればどんどん言ってください。
皆さんの力もお借りしながら、良い二次創作にしていこうと思っているのでよろしくお願いします。