原作突入までに律儀に全場面を書いているととんでもない話数になってしまうので、場面を飛ばしながら書いています。
今回は主人公の念の開発の描写のみなので、斜め読みでも次回以降に影響はないかもです。
悠里はヒソカに精孔を開かれてから偉い目に遭っていた。
まず「纏」の制御が難しく、不完全な「纏」になってしまいオーラが体から抜けていくので怪我や体力の回復が非常に遅れていた。
ゴン達が1000万人に1人の才能と言われたのが身を持って理解できた悠里である。
そして「纏」は勿論そもそもオーラの流れを感じるの自体が難しく、更に悠里はヒソカにボコられた後だったので痛みやその他諸々で余計に集中できないでいた。
そのお陰で5日間も天空闘技場の救護室に世話になる羽目になっていた。
結果的に数日分のホテル代は浮いたのかもしれないが、それを喜べるほど悠里は図太くなかった。
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ヒソカとの試合から一週間ほどが経ち、悠里は漸く「纏」が出来る様になっていた。
勿論その間は試合に負けて当然お金をもっていなかったため、悠里がこの世界で目覚めた時にいた森で野宿である。
そして今日ようやく「纏」をマスターし街に戻ってきた。
ただ天空闘技場に戻る前に、森での生活で汚れていた体を清めるために銭湯へいかねばなるまい。
汚い体でいるのはあまり好きではなく、
(!?)
瞬間、頭の隅にズキッとした痛みが走った。
次いで女の金切り声が脳内にフラッシュバックする。
『男は汚い!汚い!汚い!お願いだから悠里は汚くならないで!』
悠里の母親の声だ。
異世界という離れた場所にいても母親の呪縛は時折悠里を蝕んだ。
(未だに俺はあの女に縛られているのか...。)
次の瞬間悠里は若干母親と重なるような目の前を歩いていたショートヘアの女を素早い手刀で昏倒させ裏路地へ連れ去る。
そして「銭湯に行くにはお金がだ。」と呟きながら躊躇無く女の鞄から財布を抜き取り、首をへし折った。
転生前の悠里であればありえない行動だ、悠里の内面のドス黒い何かがそうさせるのだ。
だが当の本人はその異常性に一切気づけないでいた。
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銭湯からあがりサッパリとした悠里は天空闘技場に向かっていた。
何やかんや“纏“ができるようになったのは思わぬ成果といえよう、体を清め頭がスッキリすれば自然と思考もポジティブになってくる。
あとはとりあえず試合に出ないことには始まらない。
ヒソカに負けて40階クラスに落ちてしまったので、早く上がらなけければそれだけホームレス生活が長引いてしまうのだ。
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『ユーリ選手・マクシン選手!43階Eのリングまでおこしください!』
悠里は呼び出しに応じ軽い足取りとともにリングへ向かった。
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森から戻っての復帰戦であるが、試合結果は悠里の圧勝だった。
当然といえば当然だ。身体能力も補正を受けて強化されており、念も不完全ながら使えるのだから。
なので悠里は纏のおかげで多少は攻撃を食らっても問題ない、とある程度割り切り戦いの空気を掴むためあえて力は抑えてテクニック面で戦う試合を心がけていた。
ゴンのように力で押し出すのも悪くはないが、それだと同等かそれ以上の相手とやった時に全くの無策になってしまう。
ヒソカとの戦闘を経験した悠里は格上との戦いを非常に意識するようになっていたのだ。
ちなみにこの試合でのファイトマネーは3万ジェニーだった。
とりあえずホテル代は出たのでひと安心といえる。
それに50階でもう一度勝てばさらに5万ジェニーで合計8万ジェニーになる。
これだけあれば服などの生活必需品も買えるだろう。
達成可能な目標ができれば人は頑張れるものだ。
悠里は今日中にもう一試合組んでもらうため、足取り軽く受付に駆けていった。
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幸い悠里は50階でも楽に勝つことが出来た。
やはり念能力は「纏」だけでも防御力アップと体力増加などの効果がある。
それとウィングさんはゴンたちに「纏で攻撃力が上がるわけではない。」と言っていたが、悠里の場合は若干の攻撃力増加が見られる。
普通に考えればオーラを垂れ流しでいるよりは、うっすらとではあるが体表に纏っている「纏」の方が僅かにその分攻撃力も上がる。
あの言葉にはゴンやキルアを増長させない戒めの意味もあったのだろう。
(この調子で明日からは100階に行くまでノンストップでやっていこう。)
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そして順調に勝ち進んだ悠里は今日やっと100階クラスに昇格した。
100階クラスへ進むと個室とある程度の戦闘準備期間が用意される。
悠里はキチンと相手との打ち合いをし、割と長丁場の試合をするタイプなので戦闘準備期間も長い方だ。
それを最大限利用しながら修行を行い、悠里は「纏」を取得してから一週間、やっと「練」の修行に入ることが出来た。
これも試合の中で実際に「纏」を使い体にオーラというものを馴染ませてきた結果だ。
いきなり「練」ができたゴンやキルアはやはり普通ではない。
(それにしても俺の「練」の記録...1分30秒。)
G・Iの初期のゴンも3分程度だったのでそこまで落ち込む必要はないだろうが、やはりへこんでしまう。
「纏」の時から薄々気づいてはいたが悠里に特別な才能は無いらしい。
2週間で「纏」と「練」をマスターした悠里もそれなりに凄いのだが、比較対象があの二人だったので本人はその事に気づけないでいた。
ただそのことが幸いして悠里は念の基礎修行により一層力を入れるようになる。
それから悠里は100階から150階を適当に行き来しつつ暫くは纏・練・絶の基礎修行をひたすら行っていった。
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そして月日は流れ、漸く悠里は「練」が10分出来るようになっていた。
蟻編でビスケの助けが合ったとはいえ10日間で3時間練ができるまでオーラを増やしていたゴンとキルアはやはり普通ではない。
(それにしてもビスケか...。俺がお願いしても修行はつけてくれ無さそうだ。)
(なんせダイヤの原石じゃないからね。)
そう心中で諦めにも似た思いを吐き出し苦笑しながら、纏→絶→練の修行ルーチンを終える。
悠里は未だ180階にいる。
正直に言ってしまえばこの段階でも200階に上がるのは不可能ではない。
ただもし初戦で強い相手に当たってしまえば、ギド戦のゴンの二の舞になる可能性もある。
主人公補生のない悠里ではそれで再起不能、下手すれば死もあり得る。
現に150階くらいの相手はかなり良い修行の練習台になっていた。
「弱くはないが、決して悠里が負けることは無い相手」というのは中々役に立つ。
特に「流」の修行にはもってこいだった。
部屋でいくら攻防力移動の訓練をしても、実戦での感覚がつかめなければ意味がない。
相手の動きを読みながらの流は、オーラの移動以外にも意識を集中しなければならないので難しいが、いずれは戦いの中で自然と行わなければならないので初めから難易度を上げておいても損はないはずだ。
悠里は「賢い臆病さ」を発揮しながら慎重に修行に臨んでいった。
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そして実に1年半もの時間が経った。
悠里がこの世界に来てからもう大分時間が経っていた。
悠里はこの期間弛まず基礎修行を続けた事により、“練“を約3時間は維持できるようになっていた。
他の応用技も一通りはこなしている。
ほぼ毎日戦いながらの訓練だったので、体に馴染むのも早かった。
そして今日はとうとう水見式を行う日。
少し遅いのではないかと思うかもしれないが、基礎修行中は余計な事を考えたくなかったし、各応用技の修行時にも自分の系統を知った事による妥協が生まれかねないと思ったので悠里はあえてやらないでいた。
「周」が苦手で「流」などは得意なので恐らく強化系から離れた具現化系あたりだろうとは内心で何となくわかってはいるが、やはり強化系であってほしいとは思っていた。
悠里は早速コップに水を汲んで葉を浮かべた。
「“練“!」
オーラを込めてコップに手をかざせば、もの凄い勢いで葉が揺れ始めた。
「凄く葉っぱが揺れているけど、これは強化系の水位上昇に伴い揺れているだけだ。」
うんうん、と大げさに首を振りながら独り言ちて一人納得する。
明らかに操作系であるのだが悠里は現実を受け入れられないでいた。
しかしさりげなく目線は斜め下へ。
何度見てもすごい勢いで葉っぱが揺れていた。
「諦めよう、操作系だ...。」
これは悠里が一番なりたくなかった系統である。
なぜなら悠里はインファイター、強化系の習得率が60%というのはかなり厳しい。
その点に関しては”発”で補うしかないのだろうが、操作系の能力に対する明確なビジョンなどある訳がなかった。
操作系の難しい所は、一重に「操作」といってもまず「何を操作するか」だろう。
相手の肉体・自分の肉体、どちらを操作するにしても、根っからのインファイターである悠里にはシャルナークのような戦い方は合わない。
故に自分の接近戦をいかに有利に展開できるか―「強化が苦手」という操作系の短所を如何に補えるか―に焦点を絞って考えるしかないだろう。
悠里が最初に思い付いたのはFate/Zeroの切嗣の固有時制制御だった。
しかし確かに使い勝手は良さそうだが、まず何を操作すれば良いのか分からないし、どういった制約や誓約をつければいいのかも分からない。
自分が仕組みを理解していなければ念能力は発現しない、これでは駄目なのだ。
それに極論スピードが早くなった所で同格以上の強化系が相手ではダメージを与えられないだろうし、強化にまわせるオーラが少なく相手との顕在オーラ量で差が出来てしまうという欠点も補えていない。
「次だ。」と呟きながら悠里は必死に方を回転させる。
(ならば...相手を弱くする操作、つまり“相手のオーラの操作“。)
それにより相手を弱体化させ相対的に自分が強くなる。
これが可能ならば対念能力者ではハマればどのタイプにも対処可能だろうし、無能力者相手では簡単に死に追い込むことも出来る。
だがまたしてもどういう行程を経て相手のオーラを操作するかというところで非常に悩む。
しばらく考えこみ少し原作での念の修行シーンを思い返せば、精神とオーラの結びつきについて思いが至った。
そういえばビスケがキルアに本人の悪癖を説明する時に、能力者をA、B、C、Dと用意し、その時の精神状態や体調で強さは大きく変わると説明していた。
確か一番格上であるAも不調時には、二つ格下のCの最高頂時に負けるといったものだ。
つまり、敵の精神状態や体調を操作できれば結果的に相手のオーラを操ることにも繋がるということ。
(キルアは敵のMAXを想像し、勝手に勝てないという幻想を作り出していた。)
これを意図的に起こさせることができれば完璧。
悠里の中で大分ビジョンが固まってきていた。
(脳の扁桃体や前頭前野、人間の感情を司る部分を操作できれば完璧だ。)
(直接相手を操作する一撃必殺的なものではないので割と軽い条件で可能なはず。)
(次は発動条件・・・”俺のオーラに触れさせる”ここは単純にこれでいいだろう。触れたオーラが多ければ多いほど相手に与える影響も大きくする。)
(そうすれば自身のオーラの操作が得意な長所も生かせるし、相手にオーラを触れさせるために広く展開する必要が出てくので、オーラ消費を促すそれがそのまま制約にもなり得る。)
一度方向性が決まってしまえば頭からどんどん考えが浮かんで来る、転生前に漫画の世界にのめり込んでいた事がここで活かされていた。
後はどういう影響を相手の精神に与えるか・与えられるかだが、自由に相手の精神を操作できるような能力にしてしまってはメモリを大量に食い制約が厳しくなってしまう。
「これは追い追い犯罪者などを使い実験していく必要があるだろう」と心に留め置いた。
悠里はサラサラと紙に考えを書き出していく。
最初は悩んだが大枠が出来てくれば案外すらすらと思いつくものだ。
あとはそれを固めていく修行や実験だが、それにはある程度纏まった時間が必要である。
(それならとりあえずすぐに試合に登録して200階クラスに上がってしまおう。)
200階クラスは戦闘準備期間が90日もあるので、発の開発にはもってこいだからだ。
悠里は急ぎ足で試合登録をしに行った。
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『ユーリ様・ルーン様!193階Aのリングまでおこしください!』
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『ポイント11対0!ユーリ選手圧勝!やはり強い!これで晴れて200階クラスへ昇格です!』
結果は当然圧勝だった。
念能力者が一般人に負けることはありえない、少しオーラを込めて鳩尾を小突けばそれで終わりだ。
200階に登録しに行くために悠里は倒れた相手を尻目に早々にリングを後にした。
(そういえばあの200階の登録所のタレ目の物憂けなお姉さんとは会えるかな?)
詮無いことを考えながらも、この日悠里はとうとう200階クラスへ上がったのだった。