下級騎士と第二皇女の帝国戦記 作:下級騎士
「──殿下こちらです! 急いで下さい!」
「……っ」
最悪だ。
「手当たり次第に探せッ……決して遠くには離れてないはずだ! 残る敵は近衛騎士じゃなく案内役の兵士一人だけだ! 取り逃がすなよ!」
「「「応ッ!」」」
正確な位置は分からない。しかし後方から刺客たちからの荒げられた声たちが聞こえてきた同時に感じ取る。
──刺客たちとの距離が近くなってきている。
「……チッ」
この明らかに切羽詰まっている状況に、つい普段から苛立っている時の癖である舌打ちが出てしまう。
それにしてもなんで近衛騎士でもなく、今日は道案内役として派遣された兵士の俺が、一国の皇女様の手を引いて逃げているんだろうか。
今まで俺は平穏な地方都市を管轄としている、帝国第三市民騎士団のしがない警備兵の一員として、日々を真っ当に生きてきたはずなのに。
──どうして今、こんな厄介事に巻き込まれているんだ。
「……このままじゃ時間の問題か」
俺がもし、皇室に見出されたほどの精鋭中の精鋭である近衛騎士であったならば、すぐそこに危機が迫っている時に限って今のような弱音を吐かなかっただろう。
皇女の警護に抜擢されるような騎士であれば、黙々と刺客たちを薙ぎ倒して、近衛騎士としての役割──護衛という任務を全うすることだろう。
しかし、生憎と今窮地に立たされている俺──シュタット•レインフォードは騎士としては平凡な実力なのだ。それに、一応は騎士爵という地位に居るものの、それらしい器量やなんて持ち合わせていないような男だった。ましてやこんな状況で活かす戦闘経験なんて皆無に近いという有様。
あと何度も言うが俺は今日、護衛ではなくあくまで案内役として皇女に付いてきていたのだ。
俺は精々、セアトという地方都市の近郊の畑荒らししていた獣や馬車強盗にきた見窄らしい盗賊相手くらいしか戦闘経験がなかった。まともな敵兵相手に剣を振るうもんなら四年前に卒業した帝立騎士学校に在学しているとき以来なのだ。
……改めて、自らの情けない騎士としての実力に悲観してしまう。追ってきている刺客に歯が立たないことは明白。
要するに。刺客たちに見つかってしまえばその時点で俺たちの命運は尽きてしまうのだ。
「……こりゃあキツいな」
ますますこの状況を切り抜けられるか不安になり、思わず小声でそんな独り言を溢してしまう。
腰くらいまで成長して生い茂った雑草を右手に持っている剣で捌けて、木々の間を縫っていきながら進んでいく。
後方から迫っている刺客たちの捜索に見つからないように直線で進まずに度々、進行方向を転換させて足跡を散らした。
さらに、足元に広がる太い木の根っこや枝葉によって転ばないように細心の注意を払いながら、剣を握っていない左手で皇女の手を引いた。
……俺は貴族ではある。騎士爵という下から2番目位の地位の家の長男なのだが、富や名声があるわけでもない家系な為、表向きは貴族だとしても立場が非常に低い。正直……今辛うじて要人である皇女を護り抜いて生き残ったとしても、寧ろその後日の方が怖いかもしれない。何せ、知らなかったとは言えども、今追ってきている刺客たちが待ち伏せしている道へ皇女ご一行を案内してしまった俺への責任追求が計り知れないことが容易に想像出来るからだ。
「……ッ!」
……くそっ!
そうだ。当初は第二皇女であるパスラ=アーネスト=グランベルデを帝国一の商業城壁都市サレントンに移送して、再び帝都に帰ってくるだけの簡易的な旅の手筈だった。
どうしてそんな旅からここまで最悪な状況に陥っているのか。理由は今現在少し後ろを走る彼女、パスラ皇女にあると思われる。十七歳という若さでありながら、既にグランベルデ帝国の政治の一端を担い、その優れた手腕を遺憾無く発揮して帝国に目に見える形で利潤をもたらしている帝国きっての才女だからだ。
名前は忘れたが、その政治力は長きに渡ってグランベルデ帝国の政治を治めていた宰相をも舌を巻くほどのものだと言われている。
事実、パスラ皇女が手綱を握った途端に、ある中小都市がそこらの大都市と同じくらいに経済の活気に溢れるようになったという。
その結果、今や将来的に大成を期待されている圧倒的な政治力を兼ね備えたパスラ皇女は、帝国内の様々な都市から引っ張りだこな訳で──こうして今日も帝国一の商業都市であるサレントンからもお呼びがかかったようだった。
そして、偶然にも彼女の目的地であるサレントンの隣に位置する地方都市セアトに拠点を置く第三市民騎士団に所属していて、且つそこの警備兵の中でそこそこ実績があった俺に案内役を任されたわけなのだ。
言っておくが、俺は確かに騎士ではあるがあくまでも、長くから市民が独自に運営してきた市民騎士団の一員ってだけだ。一応、国家機関として認められているものの、資金や人材面の殆どがその街の市民たちから捻出されている。言うなれば、自警団に近い規模の騎士団というわけだ。
もちろん、帝国一の商業都市であるサレントンには正式な騎士団が存在している。多くの貴族がパトロンとなっているサレントンはその莫大な資金力で帝国中からも指折りの騎士を集めているらしい。だがそれだけでは領地の治安維持ができないので大体の都市に領主直轄の騎士団の補助として市民騎士団が存在している。言うなれば、準軍事組織といったところだろうか。
しかし、今回の第二皇女のサレントン訪問に付いてきた護衛にはそんなサレントンの騎士団よりも、更に上澄みの実力を誇っている近衛騎士10名がいると事前に話に聞いていた。
それでいざ来てみたは良いものの、そこは皇女を狙う刺客たち溢れる森で地獄だったのが、今までのざっとした経緯だ。
勿論、今回のことで案内役に任命された朝。いつもは接待よろしく媚び諂っている上官に向かって、珍しくその時は楯突いたものだ。
──いくらなんでも第二皇女の案内役は荷が重すぎる、と。
でも、然りに人の好い笑顔で長い間市民騎士団に貢献してきた中年の上官が俺に「まあまあ。今回は帝国でも精鋭中の精鋭な近衛騎士も護衛にいることだしさ。それに、シュタットくんは帝国でも超名門な帝立騎士学校を卒業してるじゃないか。さらに首席で卒業した小隊にいたっていう実績もあるわけだしさ……ウチのような第三市民騎士団に第二皇女の案内役としての務まるような実績と爵位を持つ人はキミしかいないんだよぉ〜! 頼むよ! ね?」という風にお願いしてきたのだ。
それに対して俺は「いや、在学中に首席の小隊に入れてもらったのは運だったんですよね。それに……騎士爵なんか爵位があるだけで実態はほんとに市民と変わらないんですけどね。それでいったら貴方の方が爵位は上ですよね?」と言い返してみたら
「大丈夫だって! ほんとにお願いだよシュタットくん! キミに断られたらオレが行くことになっちゃうんだ。見ての通りほら! オレ、有事になった際に動けるか分からないんだよ!」
と、自慢げに自分の膨らんだ腹を片手で掴んで揺らす中年の上官。更に、もう片方の手で俺の肩を掴んで畳み掛けてくる。
「この通り、オレは役立たずなんだ! それにそんな一人で気負う必要はないからさ。だから、ね?」と、こう宥めてきたのだ。
その時の俺も俺でもう何言っても無理だなと諦めて「確かにあの近衛騎士さまがいるんだったら……まあ」と渋々とだが納得してしまったのだが──それが大きな間違いだった。
「っ、はあ……! これはッ……貧乏くじにも、程があるってもんだぜ!」
後ろに皇女がいるのにも関わらずに、走りながらそう愚痴ってしまう。
このまま謎の刺客たちに追いつかれたら間違いなく俺の命はあっさりと奪われるだろうし、皇女はまんまと捕らえられてしまい、国を巻き込んだ惨事になりかねず、最悪、内戦や戦争に発展することになる。
「……申し訳ありません」
「あっ……い、いやっ!」
俺がつい発してしまった愚痴に対して、後ろの皇女が少し沈んだ声で返答してきた。
普通に後で不敬罪として殺されるなぁ……と、内心で覚悟しながらも、とりあえず今は弁明の時間も惜しいのでさっきから色々と愚痴やら独り言やら無意識に漏れ出てしまっている口を噤み、前をむく。
……どのみち、このまま運良く生き残ったとしても、俺は案内役として帝国から騎士爵を与えられているのにも関わらずに皇女を危険の身に晒してしまった要因を作った無能な騎士としての烙印を押されて、その先には平穏な未来はなく、刑罰が下され獄中生活が始まってしまう可能性もあるわけなんだが。
……あれ、これさ。生き抜いたとしても俺、詰んでないか?
「……い、いやいや。うん……」
脳裏によぎってしまった夢も希望もない悟りは忘れてしまおう……今は状況を整理だ。
追ってきている敵は凡そ20人ほど。咄嗟に数えられたのはそのくらいだった。対してこちらは絶望的だった。
第二皇女が乗った馬車の周りを同じく軍馬に乗った近衛騎士たちで護るように目的地へ向けて進んでいた。
サレントンまでもう少しと言ったところで突然、周囲の木の上や茂みから刺客たちが現れ、近衛騎士たちは不意を突かれたようだった。襲撃を受けている中でも彼らは懸命に皇女の乗る馬車を護りながら戦っていたが、そんな帝国でも上澄みな精鋭であるはずの彼ら相手に、刺客たちは一人、また一人と確実に無力化していった。
俺はそんな徐々に劣勢になっていく近衛騎士たちの姿を後方で呆然と眺めることしかできなかった。
そんな俺に、徒歩じゃ辛いだろうとここまで馬に相乗りさせてくれた近衛騎士から「俺たちであいつらの時間を稼ぐ。お前は姫様を連れて逃げろ!」と、その言葉で意識を引き戻された俺は、瞬時に馬から飛び降りて一心不乱に戦場の真っ只中にある馬車へと駆け抜けて、皇女を抱えてその場から逃げ去った。
馬車から皇女を抱えて逃げていく俺を逃すものかと刺客たちも躍起になって追いかけてくるが、近衛騎士たちが行かせやしないと立ち塞がってくれて時間を稼いでくれたおかげで、俺たちは九死に一生を得て今生きながらえているのだ。
時間稼ぎをしてくれていた近衛騎士たちと戦っていたはずの刺客たちが続々と捜索に参加していることからするに……彼らは全滅させられた様子だった。今や残っているのは、戦力的に不安しかない平凡な騎士爵と温室育ちの姫さまだけの状況だ。
あの近衛騎士たちを数で押しきったとはいえ全滅させたような刺客たちだ。余程の手練れの部類に入るのだろう。
だが近衛騎士たちと戦ったあとなので襲撃当初の20人よりは数を減らしているはずだ。しかし、それでも約10人ほどの刺客たちを相手に俺は姫さまを護りながら逃げ延びなくてはならない。
どうやら敵はまだ俺たちが逃げた方向も定まってない様子だが、着実な近付いてはきていた。
察するに、あの刺客たちはあまり森林での襲撃や追撃の経験が浅いと見える。この分ならこの森の中で俺たちを探し出すまでに時間がかかりそうだ。
時間的な猶予はまだある。
少しここら辺で一旦息を潜めて隠れながら息を整えて、足を休めることにした。俺はまだ平気だが、手を引いていた皇女の方を見ると相当疲弊してる様子だ。
正直、皇族が普段から着る物ではないような質素な服装であった。彼女の好みなのだろうが、動き易さ、機能性を重視したその地味な民服のような紺色のドレスをも美しく着こなしているが、木々を縫ってここまで走って来たせいか傷だらけだ。
「……あ」
俺は瞬時に不味いと思い、獣道ばかりを進んでいた時に無意識に掴んでいた皇女の華奢な手を離す。というか手汗もすごかったから本当に今度こそ処刑されるかもしれない。
だが、どうやら皇女もそれどころじゃないみたいで、俺に手を掴まれていたことも気付かれてなかったみたいだ。
その証拠に彼女は息も上がっているし、立ち止まった今、側の木の幹にもう片方の手を突いて呼吸を整えているようだった。
「……殿下。どうやら敵は今見当違いなところを探しているみたいです。少しここで休憩していきましょう」
そんな皇女の様子を見て提案すると、そこには俺が勝手に抱いていた印象であった走ることに疲れて息を切らしている温室育ちの皇女はおらず、既に荒々しくはあるものの息を整え始めている少女の姿があった。
……皇族なのに普段から運動でもしていたのか? 息を整えるのが早すぎる気がするが
すると、いつの間にか鋭くもその清廉な蒼い瞳で俺を射抜きながら、静かに否を呈するパスラという強かな皇女に彼女は変わっていた。
「……案内役。いえ、私に気遣いは無用です。それよりも一刻も早くあの賊たちから何処かの街へ逃げ延び、応援を呼んだのちに討たなければなりません」
この状況であれば、先ず真っ先に逃げ延びることが先決だろうに、まさかその先のことまで考えているみたいだった。そんな皇女をみて少々生き急いで混乱しているのでは、とここで思った。
「で、ですが──」
「──恐らく、彼らは西に位置する隣国のペシャーナ王国から送られてきた刺客でしょう」
「……えっ」
突拍子もなく彼女が言った言葉に、俺は思わず聞き返してしまう。疲れておかしくなったのだろうか。
しかし、そんなことは無かった。この皇女は誰よりもこの場で冷静だった。
「……あ、の?」
「遠目からですが、姿を隠すように着ていたあの外套……あれは確かに自国から西に位置する国家……ペシャーナ王国が同盟を組んでいる共和国製のものでした。共和国深緑と白の紋様を基調にしているのが特徴的なんです。それに……あの刺客たちが持っていた武器。あれも恐らく共和国が好んで配備させているサーベルでした」
「……!」
「ですが、私が乗っていた馬車の周りで近衛騎士たちと戦っていた時に彼らが先程叫んでいたのは私たちグランベルデ帝国と西のペシャーナ王国……更に自国の東に位置するレジーナ聖王国でしか使われてないルイン言語……それに王国訛りが若干混ざったようなものでした。憶測ですが彼らは王国から送られてきた暗殺部隊です……何故かは知りませんが、あの刺客たちはタノア共和国からの刺客に扮して私を捕縛しようと企てたのでしょう」
あの乱戦状態の戦場の真ん中に位置していた馬車の中から、突然襲撃してきたにも関わらずに、あの時近衛騎士と戦っていた刺客たちの服装や武器をこの第二皇女は冷静に見極めていたのだと、今の話は言外に俺へそう告げていた。
俺はその時、ただ茫然と戦っていたのを恐怖で体を硬直させて眺めていただけだというのに……彼女は目の前で自分のために死んでいく近衛騎士たちの命をただ悲観するだけではなく、繋いでくれた命を無駄にさせないために必死に観て、聴いて、頭を働かせていたのだ。
目の前の皇女は……彼女は異常だ。俺よりも年下とは思えないほど、彼女の膨大な知識による凄まじい知略なのだ。
間違いなく、彼女は皇帝の器だ。
そんな第二皇女に恐れ慄きながら、俺は話を続けるために質問する。
「……共和国というと帝国の北に位置する隣国であるタノア共和国ですよね。たしかグランベルデ帝国とタノア共和国は同盟関係ではありませんでした? その国に扮して……ってことは」
「はい……これは仮説ですが、先ず彼らの思惑としては私を攫ったのち、本来は穏和な政策を行っていて、且つ帝国と同盟国である共和国から帝国内に侵入して第二皇女を襲撃した刺客が現れた—という風に、同盟国でありながら共和国側から不可侵を破ったと帝国へ見せかけて、これ見よがしに共和国との戦争を始めさせます」
「……」
仮説、というより普通に彼女の言う予想が今日の第二皇女を襲撃してきた刺客を送り込んできた奴らの真意なのではないかと思ってしまうほど、それは理路整然としていた。
「そして、共和国側も帝国の”第二皇女を拐かそうとした”という身に覚えのないことで宣戦布告してきたので強い不信感を抱いて、20年来築き上げてきた同盟関係は容易く決壊することでしょう。更にあくまでも追随する形で、共和国の同盟国であり以前から領土拡張に乗り気で好戦的だった王国にも帝国への宣戦布告としての大義名分が生じるので、戦争に嬉々として参戦し、結果的に王国と共和国連合に対して帝国という二対一の構図を作り上げてしまおう……と言ったところでしょうか」
タノア共和国は20年前からグランベルデ帝国と同盟を結んでいる程度のことは一国民として俺も知っていた。
同時に、グランベルデ帝国とペシャーナ王国が共にタノア共和国との同盟関係を結んでいるにも関わらずに、帝国と王国は昔から何回も戦争を行なってきた理由で、互いに折り合いが付かずに同盟関係を結べないでいることも知っている。
しかし、まさか帝国と共和国の同盟関係を逆手に取り、共和国と同盟を結んでいるペシャーナ王国がグランベルデ帝国に対して宣戦布告する大義名分を作ってしまおう、という彼女が提唱するペシャーナ王国側が仕掛けてきた『偽旗作戦説』は妙に現実的だった。
「……」
「中々に巧妙ですが……その分、目的自体は大義名分の下で戦争を始めてあくまでも正式に領土を得たいというもので単純でもありますね」
内心、とても驚いていた。これまでは正直いくら良い噂があれど、第二皇女は所詮は温室育ちの皇女と思っていたのだから。
だが蓋を開けてみれば、先刻の襲撃されている最中に彼女は刺客たちが身につけていた装備品が共和国製であることを特定し、奴らが戦闘中に喋っていた言語の訛りでさえも冷静に分析し聞き分けてしまった。
そんな多くの地域で商売や取り引きの経験を積んできた経験と知識に富んだ商人としての能力に思わず舌を巻いてしまう。
それに、刺客たちの装備や言語の訛りだけという少ない要素で国家間の謀略を見破る智略に富んだ主君としての顔も兼ね備えていたのだ。
恐らく、彼女はこれまでに幾度も他国との外交や貿易を経験して研鑽を積んできた。ここまで鋭い推測出来るのも単に彼女の才能だけではなく、これまで積んできた膨大な知識と外交経験あってのものだ。
若くして、彼女には為政者としての才能の片鱗があることを思い知られる。
「……もし既に帝国内に多くの王国からの諜報員が居るのだとしたら、大国である帝国と共和国が築いている周辺国家との安寧もそろそろ崩れ去ってしまうかもしれません」
「……確かに」
「それを踏まえて、今成すべきことはこの窮地乗り越えて、先ずはここ一帯を安全にするために直に騎士団へ応援を要請し、刺客たちを討つことなのです。今私が疲れなどで立ち止まり、彼らを取り逃してしまえば帝国一の商業都市へと行く多くの商人たちや市民たちが私の情報を聞き出すために危険に晒されてしまいます。なればこそ、帝国臣民に支えられている皇女としての義務を果たすべく、ここは無理をしてでも駆け抜けるべきなのです」
「……殿下」
見誤っていた。まさか自分の国にこんな皇女がいるなんて。
彼女から発せられる言葉とその気迫に圧倒されている内に、当の本人は既に逃げることへの意識を向けるように、すこし丈が長かったドレスを大胆にその手で千切り、走りやすいように準備を黙々と進めていた。
しかしだ。彼女は無意識にやっていることにせよ、その瑞々しいうら若き長い脚が曝け出されるのだ。未だにそういう経験に疎い俺は思わず目を逸らしてしまう。それまで感嘆していた感情が少し不埒なものに変わってしまう俺が、男として恥ずかしくて仕方がない。
「……案内役。ここ一帯はどこまで把握していますか」
「は、はい! 大方の地形は把握しています。数年間は良くここには魔獣退治などで騎士団に随伴していましたから……」
「なるほど。確かサレントンの隣の街であるセアトから来たのでしたね………………何処見てるんですか?」
「いえ、あ、その……警戒を!」
あと少しで首を刎ねられるところだった。ジト目で見られているが誤魔化せそうだ。生足、素敵です。
「そうですか。ではここから一番近くの街は?」
「……ここからだと南東の方に中規模なサリアという街がありますが」
そう。俺は優秀ではないが今も今までもそれなりに考えながらここまで逃げている。ここらの地理に関しては詳しいので、方角さえわかってしまえば街に辿り着ける自信があった。だから今現状、ここから一番近い街を目指している。
「サリア……なるほど。ではその更に南の方には確か……アレット、という街があると記憶しています。違いますか?」
「……い、いえ。仰る通りです」
え、凄すぎないかこの皇女様。まさか毎回色んな街に訪れる度に、こういう不測の事態に備えて周辺の大まかな街の情報とかも頭に入れているのか。
「……ふふ。驚きましたか? まあ、流石に細かな位置までは分かりません。あくまでも大体の位置は地図を一目見ればすぐに把握出来ますから」
俺の呆然とした顔に、ドレスの丈を短くし終え、動きやすそうなミニスカートの格好にしたパスラ皇女は、後ろで一つに結えた綺麗な銀髪をまた結び直しながら小さく微笑んだ。
「あ、いえ。パスラ皇女なら当然のことかと感心を──」
「──付け焼き刃の嘘は吐かない方が良いですよ?」
「……」
「私、そのような薄っぺらい褒め言葉はもう散々聞き飽きたんですよ」
こっわ。何でそんな満面の笑みからそこまで冷え込んだ低い声出せるんだ。
「このような事態ですし……隠し事はなし、ということでっ」
声のトーンが戻っただけでここまで安堵するものなのだろうか。温度差で逆に怖いのだが
「…………正直に、ですか?」
「はい」
「──ホントにアンタはただのお姫さんなのか? ……あ」
やばい。騎士学校卒業してから五年は経つからすっかり礼儀作法とかも忘れてしまったので、敬語の使い方も曖昧だ。すっかりと地方都市セアトの長閑で穏やかな空気に浸ってしまっていた弊害だ。
俺が国や王家に仕える帝国騎士であれば今のようなポロッと本音を出すことも、素が出ることもなかっただろう。しかし、俺がいま所属しているのは市民騎士団だ。主に地方都市など地域密着型で警護と治安維持を担当していて、どちらかというと国より国民に仕えている形式を取っている騎士団である。そのため普段から接する相手も殆どが市民相手が常の為、せっかく騎士学校で会得した礼儀作法もそのまま腐ってしまうことがあるくらいには貴族との関わりは少なくなる。
皇女もそんな市民騎士団の所属の騎士たちの事情は織り込み済みなのか、必死に敬語で取り繕う俺に「構いませんよ。多少の無礼も今は不問としますから」と笑顔で許してくれるようだ。
「あ、あの殿下……」
「…………やはり不敬罪に」
「えっ……」
「ふふ、冗談です」
「っ……」
皇女が不穏な言葉をボヤいたお蔭で俺の肝っ玉は冷え冷えだ。冗談でも言わないで下さいお願いします。
……にしても、よく考えればこんな状況だと言うのにここまで落ち着いているのも流石パスラ第二皇女と言うしかない。本当に今更だが。
「あなたは結構、表情や態度に出てしまう人なんですね」
「……い、いやーどうでしょうか? はは」
「今だってほら……私にここまで近づかれて、実は照れてしまってますよね」
こ、この女……怖いというかなんというか。さっきの為政者としての一面と今の揶揄ってくる一面と言いどっちが本当の彼女なのか分からないのが怖すぎる!
「……………………黙秘権を行使しても」
「はい許可します」
「……黙秘します」
そう言うと、彼女は「仕方ありませんね。そろそろいい頃合でしょうし」と今までずいっと近づけてきた端麗な顔を引っ込めて微笑した。
「とにかく、今は逃げ延びることです。行きましょう」
「……では俺が先導します」
「ええ、お願いします」
ということでここからだと最も近い街のサリアがある方向である南東の方へ歩き出そうとすると──
「あ、待ってください。案内役」
「え、あの……」
と、皇女に裾を掴まれて引き留められる。
あの、早く行きたいんですけど。俺だって死にたくはないし。
「誰がここから一番近い街のサリアに行くと言ったのですか?」
「……あー」
どうやら何かまずいらしい。
「はあ。良いですか。このまま近い街に行けばそれこそ敵の思う壺です。日没までに見つからなければ、流石にここには見切りを付けて、私たちが一番逃げ込みやすいと思われる近い街に真っ先に見当を付けてきます。今日は一夜を越せるとしても、明日以降はこの森と比べれば小さな範囲。つまり街という限定的な範囲に絞って捜索しに来ます。最悪、既にサリアの街には少人数が潜伏している可能性だってあります。そうなってしまえば、私たちは完全な詰みです」
確かに、言われてみれば森の中で目標を探すよりも街に入ったところでその街を囲い込み隅々まで探せば見つけやすい。しかし、いくらなんでも街には巡回している衛兵たちもいて、明らかに外套に身を包んだ不審者が街で変な行動をしていたら早々に捕縛されると思うのだが。
「……なるほど。ですが殿下」
「お、質問でしょうか。良いですよ案内役」
と、俺が質問しようとすると、皇女は何処か嬉しそうに頬を緩める。大概、貴族や王族に対して何かを質問、進言するときは多少の小言を言われるのはお約束なのだが、彼女の対応は全くの逆なのだ。寧ろ質問してくる生徒に嬉しそうにする教師のような反応をしてくる。予想外の対応に驚きながら促されるがままに話を続けた。
「……サリアは中規模の街で多くの兵士たちが駐在していますし、警備も辺境の村に比べれば厳重かと思います。その中で先程の襲撃者たちが不審な動きでもすれば直ぐに捕まるなりすると思うのですが」
地方の街や村には市民騎士団もそうだが、傭兵団という団体も存在している。騎士とはまた違うが、治安を守るという面で利害関係がなされていて、単純に帝国の人手が多いのだ。だから衛兵や傭兵の巡回ルートには抜け目がないように配置できる。
「良い質問ですよ案内役。たしかに普段の野盗や山賊相手には事足りるかもしれません……が、今回は彼らの練度に問題があるんです」
「練度…………そうか。たしかに10人の近衛騎士たちも突破してきて……」
襲われる前は屈強な身体を白銀の重装に身を包んだ精鋭中の精鋭である近衛騎士の10人が皇女の馬車を囲むように馬で進行していた。
彼らは血筋も家柄も関係なく、国中から戦闘の実力と国に対する忠誠心のみで選りすぐられた強者たちだ。そんな彼らが10人もいるなら、普通は50人という数で雑兵に圧倒されたとしても個々の強さと、普段から培って来た互いを徹底的にカバーし合う手堅い連携で軽々と跳ね除けられたはずだ。そんな彼らがたった20人ほどの刺客たちに負けてしまった。
それは決して近衛騎士たちが弱かったわけではなく、相手の20人ほどの刺客たちのほうが練度では劣らなかったかもしれないが数や部隊としての連携の面で上だったということを単的に示していた。
「そうです。現にわたしたちを逃すために殿を務めた10人の近衛騎士たちがそれほど時間を稼げませんでした。であれば、それを圧倒した襲撃者たちの練度も計り知れないということです。サリアは中規模の街で兵士たちが大勢いるということですが、近衛騎士をも出し抜いた練度の高い彼らのことです。今日行われた襲撃はずっと前から計画されていたのだと考えるべきでしょう。事前にもうその街の市民騎士団の衣服や装備を調達もしているとも考えられます。街の兵士たちに紛れ込めば市民たちも疑いはすれど口に出すこともない。何せ、元より駐在している兵士の数が多いのですから、一人二人、ましてや十人増えたところで変わりません」
「なるほど……」
ただ数が多ければ良い訳ではないのが今の話で痛感できた。
「つまり巧妙な彼らを出し抜くには多少なりとも遠回りしないといけません。……そして、残念ながら近衛騎士たちの彼らが死を以て稼いだ時間は……正直、そこまでと言ったところでしょう。彼らが真っ当に戦えていれば勝利するかもっと時間を稼げたはずです。近衛騎士たちを出し抜くほどの何かを有している彼らには正攻法では勝てません」
彼女の言葉を冷徹だとは思えなかった。事実、残酷なことを言うが護衛役の近衛騎士たちがもっと時間を稼げていれば、もう俺たちはサリアに着いている頃だ。現状、俺たちが追い詰められており、近くの街に行く方が危険な現状を鑑みればそうだからだった。彼女は冷静に今の状況を見据えた上で発した言葉だ。皇女としての彼女がそう言わせた。しかし、表情の方はまだ年相応の少女としての彼女のままであった。
……眉間に少し皺が寄っている。
「……彼ら以外にも、今まで私を守るために亡くなっていった人たちがいます。そしてそんな彼らの死を活かすも殺すも……私次第なんです」
「……」
「だから私は死に物狂いで生き抜かなければならないのです。たとえ敵に捕まり、酷い拷問を受けたとしても。辱めを受けて、純潔を散らされたとしても……私はこの業を背負い、彼らが散っていった勇姿の生き証人として生き続けなければなりません」
それには重みがあった。到底、成人前の温室育ちの皇女さまとは思えないほどの重さがあったのだ。
「……話がそれましたが、あくまで仮定ですが、簡単に敵地の街に紛れ込むことができてしまうような高い練度の刺客たちが相手です。だからこそ、今日の一日を使ってでもサリアよりも遠い位置にあるアレットの街へ行く必要があります。そうすれば、敵は一日か最悪半日はサリアの捜索で時間を潰してくれます。その分余裕が出来ますし、その余裕があればアレットの街から一挙に当初の目的地だった商業都市へ行き、更に練度の高い部隊を編成出来ます」
「確かに……」
「常に考えることです。このような状況だからこそ、相手の心理も理解しなければならないんです」
「……は、はい」
いくら皇女とはいえ、恐らく自分より二つか三つは年下な女の子からここまで差を見せつけられると心が落ち込んでくる。
「えーではその。アレットに向かいます」
「道案内、お願いします。流石にそこまでは分からないので」
「……むしろそこまで分かってたらもはや俺なんて要らねえじゃねえか」
「何か言いました?」
あ、首刎ねられる。
「なんでもございません!」
「……そうですか」
よし。俺も板についてきたな。返答は早めにすれば上辺だけの誠意が伝わるのだ。
そう考えていたら、後ろからボソッと何かが聞こえてきた。
「……不要な人間なんて居ませんよ」
「え?」
「……急ぎましょう」
早急に取り繕おうとしたら何か姫さまの気に障ったのだろうか。少し声のトーンが下がった気がする。だが彼女の言葉の通り、ここからさらに南の方にある街のアレットに着くには急がなければならない。実際、日没が刻一刻と近付いてきているし、暗い中での森を抜けるのには危険がある。
俺は「はい」と頷き、姫さまの走る速度に合わせるように小走りで先導していった。
◆
「先程のように私の手を引いてはくれないんですか?」
「そ、それは! あれは非常事態だったからで」
二人とも、暫く無言でアレットの方へ向かっていたのだが、急に皇女がそんなことを言い出した。
「え、あの。もしかして刎ねられますか。あ、ああ……」
確かに状況が状況だったこともあって無断で一国の皇女の手を引きながら逃げていた。あのときは逃げるのに必死でそこまで考え付かなかったのだ。
「安心してください。刎ねられはしません……けど、場合によっては爵位が落とされるかもしれませんね」
「え、あの、騎士爵なんですが」
「なら騎士爵の爵位が落とされて……民爵になっちゃいますね」
「軽くそんなこと言わないでくださいよ!」
心臓がいくつあっても足りない。このまま無事に逃げれられたとしてもこの皇女さまに目をつけられでもしたら人生終わりだ。
因みに民爵とは一応爵位ではあるものの、没落貴族に与えられる蔑称みたいなもので、貴族からだけでなく市民たちからも嘲られる存在だ。
俺の今の爵位である騎士爵はその民爵の一つ上の爵位だが、こちらは市民たちからちゃんと貴族として扱われる。対して貴族たちからすれば、市民から成り上がってきた輩が多い爵位であり、やっかみも多いので一概に良い爵位とは言えない。ちなみに俺は帝立騎士学校を首席の小隊の一員として卒業した為に、爵位が与えられた成り上がりだ。だから尚更上澄みの貴族から悪い印象を持たれている。
それに、騎士爵があまり良い爵位と呼べないのは戦争になれば真っ先に駆り出される爵位でもあるからだ。
そんな話をしながらも、俺と彼女は足を止めずに獣道を歩き続けていた。
「冗談ですよ。私もそこまで気にしてませんし、致し方がない部分もありましたから」
表情に出過ぎてたのか、皇女も苦笑してしまっている。
「……良かった」
「というか、私がそこまでする人に見えますか? これでも優しい方だとは思うのですけどね」
「……えっ」
優しい……というより、なんか賢いからその優しさも打算的に感じてしまうのが本音だ。何せ既に為政者としての側面が話していてすごい滲み出ているのだ。なんと言うか……腹黒そう
「なんですかその顔はっ」
微妙な反応しているとそんな俺が気に入らないのかそっぽ向かれてしまう。なんかそれも演技に見えてしまう。俺は既に彼女のことを十七歳の温室育ちの皇女様ではなく、帝国を支える為政者の一人だとしか見れない。
「……最近、妹たちから怖いと言われてしまったのです」
「……」
「友人であるマリアからは腹黒くなったわね……と」
「…………」
すまん……俺からはなんとも言えねぇよ皇女さま! こんな状況なのに突然何を言い出すかと思えば身近な人間関係の相談はまっぴらごめんだぜ!
「最近、皇女として成長してきていると実感することが多くなりました。自分で言うのもなんですが、国政にも関わらせてくれることが多くなり、私の為政者としての才を認めてくれる声が多いと感じています」
「……俺も先ほどの会話から実感しましたよ。殿下より長く生きているはずの俺が惨めに感じるほど」
「なんでそこであなたが落ち込むのですか……」
呆れたと言った感じで、彼女は嘆息するが先を話し始める
「いいですか? この話で重要なのは私の能力や実績ではなく、最近それらが弊害となって親密な人たちとの距離が遠くなった気がしてならないという点です。決してあなたが落ち込むようなことはありませんっ」
「……はい」
なんか聞いてる限り、こう言う相談事を普段から誰にも話せずに溜め込んでいたんだろうな、と。不器用なんだなぁ……この人も。というかさっきから俺が自虐的なこと言うと明らかに不機嫌になるなぁ
「人と自らを比べるのは勝手ですが、そこで悲観して立ち止まってはダメです」
「は、はぁ」
「自分の価値を自分で下げようとする人は見ていて苛々してきますっ……先ず自分を愛せないで他人を愛することなんて出来ないというのに」
「……自分を愛する」
……自分を愛す、か。確かに昔から周囲と自分を比べるばかりで考えたことすらなかったな
「そうです。いわゆる自信、でしょうか。自分を信じることが、生きる上での第一歩だと私は思います。何事も自信を持って取り組めば、結果がどうであれそれは必ず財産になりますから」
「……ですが、殿下」
「はい」
「自信を持って取り組んで、その結果が振るわなくて失敗した場合、とても……辛くは、ないでしょうか」
誰だって失敗を恐れている。今だって、俺も失敗を恐れながら死ぬ気で皇女を安全な地へ逃そうと努力している。相対したら絶対に負けてしまうような実力差がある敵に追われている恐怖と戦いながら。
自信を持って彼女を送り届けられるとは余りにも思えない──失敗した時がとても怖いから。
そんな質問に対して、彼女は
「……つらい、ですよ」
そう言って、微笑んだ。
「え?」
意外にも、彼女は肯定したのだ。今までならば俺の質問は悉く彼女なりの理由で訂正されてきた。そのどれもが納得できるものだった。今回の俺の質問も彼女の皇女なりの価値観で返答で返してくるのだろうと思っていた。しかし、今回の俺の質問に対しての彼女の返答は、皇女としてではなく、一人の人間としての率直な返答にも思えた。
「……失敗した時は辛いものです。誰だって失敗したくて物事に取り組んでるわけじゃないですから」
「……」
「誰だって成功したくて努力しますよね? でも、その努力が必ず実るなんて保証はどこにもないんです。根本的に努力する箇所を間違えていたのかもしれない。運や周りの環境が要因かもしれない。時間をかけすぎたのかもしれない……色々な失敗してしまった要因が正しく重なり合って、初めて成功になるのだとしたらすごい確率だと思いませんか?」
「……はい」
確かに、そう言われてみれば失敗することは些細なことだと思えてしまう。でも、だからって失敗を許容できるとは到底思えなかった。
笑われるのが怖い。
嘲られるのが怖い。
自分という一人の人間という価値に低い評価をつけられるのが怖い。
色々な怖いが重なり合ってしまう、だから俺は今回も失敗を恐れ──
「──でも生きてる内は、次がある。違いますか?」
「──!」
……そう、か。
「あなたは私を無事に送り届けられるのか不安で仕方がないと思います。そして、私もあなたに命を預けられるかと言われたら正直言って少し頼りないと思っています」
「……!」
「ですが今、私たちは二人で『生き延びる』という成功を勝ち取るために、刺客たちの追跡を撒きながら街を目指すという二人で生き延びる努力をしています」
そうか……彼女はこう言いたいのだ。
「生きてれば次があります……何度だって失敗しても成功するまで試行錯誤して何事にも挑めることができる絶対的な権利が命です。ですが私たちはその絶対的な権利である命が狙われて奪われようとしています──ならば、今私たちがしているこの生き延びるという努力は決して無駄な努力ではないと自信を持って言えるはずです。そして、次に繋げるために必要な努力だと胸を張って言えるはずです」
失敗は恐れても良い。誰だって怖いものだ。だが、何度でも挑めるのなら挑め。そして、次に繋げるための努力は怠るな、と……彼女はそう告げている。
「──なんか……ありがとう、ございます。勇気づけてくれて」
「……はい。生き延びましょう。一緒に」
「はい……」
そうだ。次に繋げるために。生き延びるために、俺は決して諦めない