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その男はその家の入り口の前に着くと、特に
「おーい、ゼウスー? 手紙に書かれてたように来たぞー?」
その男は近所迷惑にならないように配慮した声量で言うが、特に反応は無い。一応、子供1人とジジイ1人が住めるぐらいのそれなりの広さの家ではあるが、全ての部屋に声が届かないような構造ではない。ましてや、ここに呼んだ張本人がこの場にいないなどとトンチキなことは無いと信じたい。
「ったく、この俺──ヘルメスをこんな扱いをするのはゼウスくらい──いや、割と他の神達もそんなもんか〜」
男──神ヘルメスは自分で言いながら悲しくなってきていた。
さて、自分をわざわざ手紙で呼んだにも関わらず、その呼んだ
『拝啓 儂の頼れる
君がこの手紙を読んでいる頃、きっと儂はその家にはいないでしょう。この
敬具 君の偉大なる大神より
P.S.やっぱ、黒髪っていいよなー』
ヘルメスは最後まで呼んだことを後悔した。思わず手紙を握り潰して、ビリビリに破り裂いて、ゴブリンの餌にしてやろうと神にあるまじき発想をしていた。とは言え、持ち前の矜持で踏みとどまり、一先ずクソ神の事は置いておいて、近くのベッドに近づいた。
「すぅ、すぅ……」
「この子がベル・クラネルか、確かにあの双子の姉妹に良く似ている。できれば、性格の方は姉に似ないで欲しいところだけど……」
ベッドの上ですやすや寝ているのは、5歳ばかりの処女雪と見紛うほどの白い髪を持つ少年──ベル・クラネルである。髪色と同じく純真無垢そうなその寝姿に、ヘルメスはその母親とその姉の姿を想起する。
「全く、どうかしてるぜゼウス。こんな幼子を置いて女の尻を追いかけるとか、俺でもそんな畜生な真似はしないぞ」
ヘルメスはベルを起こさないようにそっと両手で抱え上げ、その家から出て、村の近くで待機してもらっている自分の
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馬車に揺られながら、一際大きい揺れに白髪の少年は目を覚ます。
「あっ! みなさん、ベル君が起きましたよ!」
「おいおい、あんまり大きい声を出すなよ、その子がびっくりするだろ?」
「何だと〜? アンタこそ、そのデカい図体は小さい子にはびっくりなんじゃ無いの!?」
「おいっ!? 地味に気にしてることを刺してくるな!?」
「ほらほら、喧嘩しないの。ベル君が怖がっちゃうよ」
「そうだぞ、2人とも仲が良いのは結構だが、子供の前でそれはみっともないぞ」
「「仲良くない!!」」
割と息ぴったりの男女2人、それを止めようとする男女2人、そしてそれを面白がる男1人、状況についていけない幼子1人が馬車に乗っていた。
「さて、そこまでだ4人とも、ベル君が起きたんだから、状況を説明しないとね」
4人の会話を面白がって聞いていた、如何にも軽薄そうな男が場を取り仕切る。
「よし、ベル君。まずは自己紹介といこうか。俺の名前はヘルメス、ただの神だ。そして、こちらの4人は俺の眷属達だ。俺も含めてみんな君の味方だから安心してほしい」
ヘルメスはベルに怖がられないように笑顔でそう言う。
「ヒソヒソ(ヘルメス様の笑顔って胡散臭さしかないよね)」
「ヒソヒソ(味方だから安心してほしいって、むしろ怪しさしかないよな)」
「そこっ! 聞こえてるぞ!」
眷属達の隠すの気のない会話がヘルメスを刺し続ける。ヘルメス自身も自分の胡散臭さを分かっているため、このような役回りが似合わないこともよく分かっている。それでも、事情を知ってるのは自分だけなのだから、自分がやらなければいけないのだ。
「コホンッ、ベル君落ち着いて聞いてほしい、君のお爺さんは──」
ボォオン!!!!
『!?!?』
何処からか飛んできた炎の弾丸が馬車の前に着弾する。
その影響で馬車は横転し、馬も逃げ出した。
馬車が完全に横転しきる前に、眷属達は無事にヘルメスとベルを抱えて、馬車から飛び出した。
「何者だ!」
「適当に旅商人を襲ってみようと思ったら、予想外の大物が釣れたじゃねぇか、えぇ? なんで、カミサマがこんな所にいらっしゃるのかねぇ?」
眷属の1人が炎の弾丸が飛び出してきた所に呼びかけると、そこから、1人の男が現れた。その男は白いローブを纏っていて、かなり大きい剣を背負っている。その纏う雰囲気はとても良いものとは言えなかった。
「貴様、まさか
「おいおい、俺が他のなんに見えるってんだよぉ? そんなん当たり前じゃねぇか! しっかし、神がいる、それもそれなりに大きい、あの【ヘルメス・ファミリア】とは俺も運が良いねぇ。見た限り、高くてもレベル3まで、それに足手纏いの神1人とガキ1人。なんだよ、簡単な仕事じゃねぇか」
「……マズイな、あの男の余裕さからして、最低でもレベル3、もしかしたら4まであるかもしれない。それに、元々旅商人を狙っていたなら、きっと──」
「流石はカミサマ! そのとおぉり! 俺のレベルは4! その上、ここにいるのは俺1人じゃああない」
男が指を鳴らすと、ヘルメス達の周りに数十人の白ローブを纏った
「折角だからな、テメェら、女どもは生かして男どもは殺せ、久しぶりの上玉だからな、楽しみ甲斐があるだろ?」
『ウォオオオ!』
男の言葉で
最悪な展開だ!
今はオラリオの方がヤバいからって、戦力を都市に置いてきたのはマズかった! まさか、こんな所でレベル4とかち合うなんて!
マジで恨むぞゼウス! あの手紙がなければ、そもそもこんな時にまでお前が欲望を優先しなければ、こんな事にはならなかったはずなのに!
考えろ、考えろ、考えろ! どうすれば、この状況を打破できる? 相手の最高戦力はレベル4の上に、数も
ヘルメスがその神らしい思考速度でどうすべきか考えているが、それでも、この状況は絶望だった。
そう、この場にいる、1人の少年がいなければ。
ダンッ!
『はっ?』
その場にいる全ての人が同じ声を出した。いや、正確には、レベル4の男を冷徹な
「えっ、ベル君!?」
「っは、この、テメッ、クソガキがッ、いつの間にッ、くそっ、なんで動けねぇんだ!? おい、テメェら、さっさとこのガキを殺せぇ!!!」
「はっ、ベル君の元へ行かせるな! あの子がアイツを押さえつけている間に、早く!」
『りょ、了解!』
眷属達は素早く動き出し、未だに混乱している
「クソッ、なんでだ! 俺はレベル4だぞ!? なんで、こんなガキの力を振り解けねぇんだ!?」
「極東には第一級冒険者すらも倒せる神様だっている。
「そんなわけあるかァ!? お前、別に神じゃねぇだろ! むしろ、それならなんでお前はそんな『技』を会得してんだよ!?」
「この『器』は知らなくても、『魂』が覚えてる。この身体でやった事はなくても、『知識』から『技』は捻り出せる」
「何言ってッ!?」
ゴッ! ゴッ! ゴキッ!
まるで骨が折れたような音が響きわたる。
「この場には貴方を押さえていられる人がいない。だから、まず四肢の関節を全て脱臼させてもらった。これで貴方は手にも足にも力を入れられない。【ステイタス】を十分に発揮できなくさせた──って、痛みで気絶した? まぁ、初めての経験なら仕方ないか。とは言え、ちゃんと拘束しないと万が一があるから、おじいちゃんを拘束するためのロープを使って──これで良し」
そこには、まるで海老反りのように身体を曲げられた状態で、四肢をしっかり一纏めにして固定された哀れな男の姿と、一仕事終えてどこかスッキリした顔で額の汗を腕で拭う少年の姿があった。
『えぇ……』
ドン引きである。漏れなく全員ドン引きであった。
後に、ヘルメスはこう語る。
ベル君のお仕置きって、どこかアルフィアを彷彿とさせるなー